要旨
色消しレンズは「色収差を消したレンズ」と呼ばれる。本稿が問うのはどこまで消えるかである。答えは二つの波長でだけであり、三色目は残る。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、単レンズの色による焦点のずれは、焦点距離をアッベ数で割った $\mathbf{1.558361}$ mm である(第2節)。
第二に、色消しの条件から $f_1=43.322425$ mm、$f_2=-76.436624$ mm が出る(第3節)。
第三に、二枚目は負のレンズ、すなわち発散レンズでなければならない(第3節)。
第四に、これが本稿の芯である。二枚で消しても $\mathbf{0.044604}$ mm が残る(第4節)。
第五に、改善は $\mathbf{34.9374}$ 倍だが、残った量の原因は部分分散の差という一つの数で名指しできる(第4節)。
第六に、分離子は「一次の分散か、二次の分散か」であって、枚数ではない(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。アッベ数・色消し条件・二次スペクトルはすべて既知である。光学設計を作らない。アポクロマートの設計法や、異常分散ガラスの選定には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。他の収差を扱わない。球面収差・コマ・非点収差は主題ではない。薄肉レンズの近軸近似で計算する。ガラスを測らない。アッベ数と部分分散は文献の目安を用いる。特定の製品の値ではない。製造を扱わない。接合や公差は主題ではない。回折を扱わない。回折限界との比較は主題ではない。既刊との関係:論文370 は一層の反射防止膜が一つの波長でしか消せないことを示した。そこでは一層で一波長、ここでは二枚で二波長。同じ数え方である。論文363 は「芯」が三つあることを示した。そこでも条件の数と点の数が対応していた。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。一次の分散と二次の分散は、その基準で別根である。論文368 は代数的に等しい式が別の桁を返すことを示した。そこでも残った量の原因を一つの数で名指しできた。加えたのは、単レンズのずれを数に出したこと、色消し条件から二枚の焦点距離を解いたこと、合成焦点距離が戻ることを確かめたこと、二次スペクトルが $34.9374$ 分の $1$ に減るが $0$ にならないことを示したこと、分離子を「一次か二次か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:アッベ数 $V$ のガラス二枚で、合成焦点距離 $f=100$ mm の色消しレンズを組む。
$$\frac{1}{f}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2},\qquad
\frac{1}{f_1V_1}+\frac{1}{f_2V_2}=0$$
クラウン $V_1=64.17$、フリント $V_2=36.37$ とする。
観察 1.1 アッベ数は分散の逆数のような量である。大きいほど色が分かれにくい。単レンズの色による焦点のずれは $f/V$ で表される。
観察 1.2 二式あるので、二つの未知数が決まる。$f_1$ と $f_2$、方程式の数が、合わせられる波長の数を決めている。
観察 1.3 三色目のための式が無い。条件を二つしか課していないから、本稿はその残りを数で出す。
問い:色消しレンズは、どこまで色収差を消すか。
2. 単レンズのずれは $1.558361$ mm である
計算 2.1:クラウン単レンズの色による焦点のずれ(本稿で計算・$f=100$ mm)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| アッベ数 $V$ | $64.17$ |
| 焦点のずれ $f/V$ | $\mathbf{1.558361}$ mm |
| 焦点距離に対する割合 | $\mathbf{1.5584}$ パーセント |
観察 2.2 $1.5584$ パーセントは小さくない。$100$ mm のレンズで $1.5$ mm、青と赤で焦点が $1.5$ mm ずれる。写真では明瞭な色の縁になる。
観察 2.3 ずれは焦点距離に比例する。$f/V$ だから、望遠ほど絶対量が大きくなる。歴史的に望遠鏡で先に問題になったのはこのためである。
3. 二枚目は発散レンズでなければならない
計算 3.1:色消し条件から解いた二枚の焦点距離(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| クラウン $f_1$ | $\mathbf{43.322425}$ mm |
| フリント $f_2$ | $\mathbf{-76.436624}$ mm |
| 合成の検算 $1/f_1+1/f_2$ | $0.0100000000$($1/f=0.0100000000$) |
| 色消し条件の残差 | $0.000\times10^{0}$ |
観察 3.2 二枚目が負である。$-76.436624$ mm、発散レンズを足さなければ色が消えない。
観察 3.3 だから一枚目は目標より強くなる。$43.322425$ mm は $100$ mm より短い。発散レンズで打ち消されるぶん、余分に曲げておく必要がある。
観察 3.4 式が閉じている。合成すると $0.0100000000$、色消し条件の残差は厳密に $0$、計算の誤りではない。
観察 3.5 アッベ数の差が分母に入る。$64.17-36.37=27.80$、差が小さいと $f_1$ も $f_2$ も極端に短くなる。二枚は分散の違うガラスでなければならない。
4. 二次スペクトルは $0.044604$ mm 残る
計算 4.1:部分分散の差から出る残留収差(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| クラウンの部分分散 $P_1$ | $0.3076$ |
| フリントの部分分散 $P_2$ | $0.2952$ |
| 二次スペクトル $f(P_1-P_2)/(V_1-V_2)$ | $\mathbf{0.044604}$ mm |
| 単レンズに対する比 | $\mathbf{34.9374}$ 分の $1$ |
| $P_1=P_2$ とした場合 | $0.000\times10^{0}$ mm |
観察 4.2 これが本稿の芯である。$34.9374$ 分の $1$ に減るが、$0$ にはならない。$0.044604$ mm が残る。
観察 4.3 原因は一つの数で名指しできる。部分分散の差 $P_1-P_2=0.0124$、これを $0$ にすると二次スペクトルは厳密に $0$ になる。残った量の出所が特定されている。
観察 4.4 つまり「二枚では足りない」のではない。二枚で二つの条件は満たされている。足りないのは、部分分散が一致するガラスの組である。
観察 4.5 論文370 と同じ形である。論文370 では、一層膜が理想の屈折率をもつ材料を要求した。ここでは、色消しが部分分散の一致する組を要求する。どちらも、条件を満たす材料が存在するかという問題に帰着する。
観察 4.6 正直に言えば、本稿は異常分散ガラスを扱っていない。蛍石などを使えば二次スペクトルはさらに小さくなる。文献として挙げるにとどめる。本稿が計算したのは、普通の二枚組の場合である。
5. 分離子:一次の分散か、二次の分散か
観察 5.1 分離子、アッベ数の差(一次)を打ち消したか、部分分散の差(二次)を打ち消したかであって、レンズの枚数ではない。
| 打ち消した項 | 残る量 | 単レンズに対して | |
|---|---|---|---|
| 単レンズ | 無し | $\mathbf{1.558361}$ mm | $1$ 倍 |
| 色消し(二枚) | 一次(アッベ数) | $\mathbf{0.044604}$ mm | $\mathbf{1/34.9374}$ |
| 部分分散が一致する組 | 一次と二次 | $\mathbf{0.000000}$ mm | $0$ |
観察 5.2 三行目は材料の条件であって、設計の条件ではない。枚数を増やしても、部分分散が違えば残る。どこまで消せるかを決めているのは、使えるガラスの側である。
観察 5.3 論文300 の基準で別根である。一次の分散はアッベ数から、二次は部分分散から出る。どちらも「色がずれる」という同じ症状を作るが、根が違う。
観察 5.4 分離子は動かせる。異常分散ガラスを使えば $P_1-P_2$ を小さくできる。ただし高価で、加工も難しい。動かせるが、代償がある。
観察 5.5 正直に言えば、$0.044604$ mm も $34.9374$ も、明示したアッベ数と部分分散、薄肉近軸の上での値である。別のガラスなら別の数が出る。動かないのは、条件の数だけ波長が合い、それを超えた分は材料が決めるという構造だけである。
観察 5.6 最後に一つ、「消した」と言えるのは、課した条件の数だけである。二式を課せば二波長で合い、三色目には何の保証も無い。何を消したかを数えるには、いくつ条件を課したかを数えればよい。
6. 点呼と結び
- 単レンズのずれは $1.558361$ mm(計算 2.1):焦点距離の $1.5584$ パーセント。
- ずれは焦点距離に比例(観察 2.3):望遠ほど大きい。
- $f_1=43.322425$ mm(計算 3.1):$100$ mm より短い。
- $f_2=-76.436624$ mm(計算 3.1):発散レンズが要る。
- 合成すると $0.0100000000$(観察 3.4):式が閉じている。
- 色消し条件の残差は厳密に $0$(計算 3.1):二式が満たされている。
- 二次スペクトルは $0.044604$ mm(計算 4.1):$34.9374$ 分の $1$。
- $P_1=P_2$ なら厳密に $0$(観察 4.3):原因が名指しできる。
- 足りないのは材料の組(観察 4.4):枚数ではない。
- アッベ数の差が分母に入る(観察 3.5):分散の違うガラスが要る。
結び:色消しレンズは「色収差を消したレンズ」と呼ばれる。だが消えるのは、課した条件の数だけの波長である。単レンズの色による焦点のずれは、焦点距離をアッベ数で割った量である。$f=100$ mm・$V=64.17$ で $\mathbf{1.558361}$ mm、焦点距離の $1.5584$ パーセント。$100$ mm のレンズで青と赤の焦点が $1.5$ mm ずれ、写真では明瞭な色の縁になる。ずれは $f/V$ なので望遠ほど絶対量が大きく、歴史的に望遠鏡で先に問題になったのはこのためである。二式を課すと、二枚の焦点距離が決まる。$f_1=\mathbf{43.322425}$ mm と $f_2=\mathbf{-76.436624}$ mm。二枚目が負、すなわち発散レンズでなければ色が消えない。そのぶん一枚目は目標の $100$ mm より短く、余分に曲げてある。合成すると $0.0100000000$、色消し条件の残差は厳密に $0$ で、式が閉じている。それでも三色目は残る。部分分散の差から出る二次スペクトルが $\mathbf{0.044604}$ mm、単レンズの $\mathbf{34.9374}$ 分の $1$ に減るが $0$ にはならない。そして残った量の原因は一つの数で名指しできる。部分分散の差 $P_1-P_2=0.0124$ を $0$ にすると、二次スペクトルは厳密に $0$ になる。つまり「二枚では足りない」のではなく、足りないのは部分分散が一致するガラスの組である。論文370 と同じ形である。そこでは一層膜が理想の屈折率をもつ材料を要求し、ここでは色消しが部分分散の一致する組を要求する。どちらも、条件を満たす材料が存在するかという問題に帰着する。分けているものは一つ、アッベ数の差(一次)を打ち消したか、部分分散の差(二次)を打ち消したかであって、レンズの枚数ではない。枚数を増やしても部分分散が違えば残るので、どこまで消せるかを決めているのは使えるガラスの側である。異常分散ガラスを使えば動かせるが、高価で加工も難しい。正直に言えば、$0.044604$ mm も $34.9374$ も、明示したアッベ数と部分分散、薄肉近軸の上での値である。本稿は異常分散ガラスを扱っておらず、計算したのは普通の二枚組の場合である。最後に一つ、「消した」と言えるのは、課した条件の数だけである。二式を課せば二波長で合い、三色目には何の保証も無い。何を消したかを数えるには、いくつ条件を課したかを数えればよい。
参考文献
- Abbe, E. (1873). Beiträge zur Theorie des Mikroskops und der mikroskopischen Wahrnehmung. Archiv für Mikroskopische Anatomie.
- Kingslake, R., Johnson, R. B. (2010). Lens Design Fundamentals (2nd ed.). Amsterdam: Academic Press.
- Smith, W. J. (2007). Modern Optical Engineering (4th ed.). New York: McGraw-Hill.
- Hecht, E. (2016). Optics (5th ed.). Boston: Pearson.
- Born, M., Wolf, E. (1999). Principles of Optics (7th ed.). Cambridge: Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『バットの「芯」は三つあり、同じバットの上で 23 cm 離れている』[論文363]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697505
- 山岸勇輝 (2026). 『代数的に等しい二つの式が、返す有効桁を 15 桁変える』[論文368]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697726
- 山岸勇輝 (2026). 『反射防止膜が一層では足りない理由は、二つ独立にある』[論文370]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697804
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「色消しレンズは、二つの波長でしか合っていない」[論文377]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22698749
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 色消しレンズは、二つの波長でしか合っていない [論文377]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/377 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22698749
Yamagishi, Y. (2026). An Achromat Meets at Two Wavelengths Only [Paper 377]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/377; DOI: 10.5281/zenodo.22698749
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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