【論文377】色消しレンズは、二つの波長でしか合っていない

要旨

色消しレンズは「色収差を消したレンズ」と呼ばれる。本稿が問うのはどこまで消えるかである。答えは二つの波長でだけであり、三色目は残る。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、単レンズの色による焦点のずれは、焦点距離をアッベ数で割った $\mathbf{1.558361}$ mm である(第2節)。

第二に、色消しの条件から $f_1=43.322425$ mm、$f_2=-76.436624$ mm が出る(第3節)。

第三に、二枚目は負のレンズ、すなわち発散レンズでなければならない(第3節)。

第四に、これが本稿の芯である。二枚で消しても $\mathbf{0.044604}$ mm が残る(第4節)。

第五に、改善は $\mathbf{34.9374}$ 倍だが、残った量の原因は部分分散の差という一つの数で名指しできる(第4節)。

第六に、分離子は「一次の分散か、二次の分散か」であって、枚数ではない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。アッベ数・色消し条件・二次スペクトルはすべて既知である。光学設計を作らない。アポクロマートの設計法や、異常分散ガラスの選定には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。他の収差を扱わない。球面収差・コマ・非点収差は主題ではない。薄肉レンズの近軸近似で計算する。ガラスを測らない。アッベ数と部分分散は文献の目安を用いる。特定の製品の値ではない。製造を扱わない。接合や公差は主題ではない。回折を扱わない。回折限界との比較は主題ではない。既刊との関係:論文370 は一層の反射防止膜が一つの波長でしか消せないことを示した。そこでは一層で一波長、ここでは二枚で二波長。同じ数え方である。論文363 は「芯」が三つあることを示した。そこでも条件の数と点の数が対応していた。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。一次の分散と二次の分散は、その基準で別根である。論文368 は代数的に等しい式が別の桁を返すことを示した。そこでも残った量の原因を一つの数で名指しできた。加えたのは、単レンズのずれを数に出したこと、色消し条件から二枚の焦点距離を解いたこと、合成焦点距離が戻ることを確かめたこと、二次スペクトルが $34.9374$ 分の $1$ に減るが $0$ にならないことを示したこと、分離子を「一次か二次か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:アッベ数 $V$ のガラス二枚で、合成焦点距離 $f=100$ mm の色消しレンズを組む。

$$\frac{1}{f}=\frac{1}{f_1}+\frac{1}{f_2},\qquad
\frac{1}{f_1V_1}+\frac{1}{f_2V_2}=0$$

クラウン $V_1=64.17$、フリント $V_2=36.37$ とする。

観察 1.1 アッベ数は分散の逆数のような量である。大きいほど色が分かれにくい。単レンズの色による焦点のずれは $f/V$ で表される。

観察 1.2 二式あるので、二つの未知数が決まる。$f_1$ と $f_2$、方程式の数が、合わせられる波長の数を決めている。

観察 1.3 三色目のための式が無い。条件を二つしか課していないから、本稿はその残りを数で出す。

問い:色消しレンズは、どこまで色収差を消すか。

2. 単レンズのずれは $1.558361$ mm である

計算 2.1:クラウン単レンズの色による焦点のずれ(本稿で計算・$f=100$ mm)。

量 値
アッベ数 $V$ $64.17$
焦点のずれ $f/V$ $\mathbf{1.558361}$ mm
焦点距離に対する割合 $\mathbf{1.5584}$ パーセント

観察 2.2 $1.5584$ パーセントは小さくない。$100$ mm のレンズで $1.5$ mm、青と赤で焦点が $1.5$ mm ずれる。写真では明瞭な色の縁になる。

観察 2.3 ずれは焦点距離に比例する。$f/V$ だから、望遠ほど絶対量が大きくなる。歴史的に望遠鏡で先に問題になったのはこのためである。

3. 二枚目は発散レンズでなければならない

計算 3.1:色消し条件から解いた二枚の焦点距離(本稿で計算)。

量 値
クラウン $f_1$ $\mathbf{43.322425}$ mm
フリント $f_2$ $\mathbf{-76.436624}$ mm
合成の検算 $1/f_1+1/f_2$ $0.0100000000$($1/f=0.0100000000$)
色消し条件の残差 $0.000\times10^{0}$

観察 3.2 二枚目が負である。$-76.436624$ mm、発散レンズを足さなければ色が消えない。

観察 3.3 だから一枚目は目標より強くなる。$43.322425$ mm は $100$ mm より短い。発散レンズで打ち消されるぶん、余分に曲げておく必要がある。

観察 3.4 式が閉じている。合成すると $0.0100000000$、色消し条件の残差は厳密に $0$、計算の誤りではない。

観察 3.5 アッベ数の差が分母に入る。$64.17-36.37=27.80$、差が小さいと $f_1$ も $f_2$ も極端に短くなる。二枚は分散の違うガラスでなければならない。

4. 二次スペクトルは $0.044604$ mm 残る

計算 4.1:部分分散の差から出る残留収差(本稿で計算)。

量 値
クラウンの部分分散 $P_1$ $0.3076$
フリントの部分分散 $P_2$ $0.2952$
二次スペクトル $f(P_1-P_2)/(V_1-V_2)$ $\mathbf{0.044604}$ mm
単レンズに対する比 $\mathbf{34.9374}$ 分の $1$
$P_1=P_2$ とした場合 $0.000\times10^{0}$ mm

観察 4.2 これが本稿の芯である。$34.9374$ 分の $1$ に減るが、$0$ にはならない。$0.044604$ mm が残る。

観察 4.3 原因は一つの数で名指しできる。部分分散の差 $P_1-P_2=0.0124$、これを $0$ にすると二次スペクトルは厳密に $0$ になる。残った量の出所が特定されている。

観察 4.4 つまり「二枚では足りない」のではない。二枚で二つの条件は満たされている。足りないのは、部分分散が一致するガラスの組である。

観察 4.5 論文370 と同じ形である。論文370 では、一層膜が理想の屈折率をもつ材料を要求した。ここでは、色消しが部分分散の一致する組を要求する。どちらも、条件を満たす材料が存在するかという問題に帰着する。

観察 4.6 正直に言えば、本稿は異常分散ガラスを扱っていない。蛍石などを使えば二次スペクトルはさらに小さくなる。文献として挙げるにとどめる。本稿が計算したのは、普通の二枚組の場合である。

5. 分離子:一次の分散か、二次の分散か

観察 5.1 分離子、アッベ数の差(一次)を打ち消したか、部分分散の差(二次)を打ち消したかであって、レンズの枚数ではない。

打ち消した項 残る量 単レンズに対して
単レンズ 無し $\mathbf{1.558361}$ mm $1$ 倍
色消し(二枚) 一次(アッベ数) $\mathbf{0.044604}$ mm $\mathbf{1/34.9374}$
部分分散が一致する組 一次と二次 $\mathbf{0.000000}$ mm $0$

観察 5.2 三行目は材料の条件であって、設計の条件ではない。枚数を増やしても、部分分散が違えば残る。どこまで消せるかを決めているのは、使えるガラスの側である。

観察 5.3 論文300 の基準で別根である。一次の分散はアッベ数から、二次は部分分散から出る。どちらも「色がずれる」という同じ症状を作るが、根が違う。

観察 5.4 分離子は動かせる。異常分散ガラスを使えば $P_1-P_2$ を小さくできる。ただし高価で、加工も難しい。動かせるが、代償がある。

観察 5.5 正直に言えば、$0.044604$ mm も $34.9374$ も、明示したアッベ数と部分分散、薄肉近軸の上での値である。別のガラスなら別の数が出る。動かないのは、条件の数だけ波長が合い、それを超えた分は材料が決めるという構造だけである。

観察 5.6 最後に一つ、「消した」と言えるのは、課した条件の数だけである。二式を課せば二波長で合い、三色目には何の保証も無い。何を消したかを数えるには、いくつ条件を課したかを数えればよい。

6. 点呼と結び

  1. 単レンズのずれは $1.558361$ mm(計算 2.1):焦点距離の $1.5584$ パーセント。
  2. ずれは焦点距離に比例(観察 2.3):望遠ほど大きい。
  3. $f_1=43.322425$ mm(計算 3.1):$100$ mm より短い。
  4. $f_2=-76.436624$ mm(計算 3.1):発散レンズが要る。
  5. 合成すると $0.0100000000$(観察 3.4):式が閉じている。
  6. 色消し条件の残差は厳密に $0$(計算 3.1):二式が満たされている。
  7. 二次スペクトルは $0.044604$ mm(計算 4.1):$34.9374$ 分の $1$。
  8. $P_1=P_2$ なら厳密に $0$(観察 4.3):原因が名指しできる。
  9. 足りないのは材料の組(観察 4.4):枚数ではない。
  10. アッベ数の差が分母に入る(観察 3.5):分散の違うガラスが要る。

結び:色消しレンズは「色収差を消したレンズ」と呼ばれる。だが消えるのは、課した条件の数だけの波長である。単レンズの色による焦点のずれは、焦点距離をアッベ数で割った量である。$f=100$ mm・$V=64.17$ で $\mathbf{1.558361}$ mm、焦点距離の $1.5584$ パーセント。$100$ mm のレンズで青と赤の焦点が $1.5$ mm ずれ、写真では明瞭な色の縁になる。ずれは $f/V$ なので望遠ほど絶対量が大きく、歴史的に望遠鏡で先に問題になったのはこのためである。二式を課すと、二枚の焦点距離が決まる。$f_1=\mathbf{43.322425}$ mm と $f_2=\mathbf{-76.436624}$ mm。二枚目が負、すなわち発散レンズでなければ色が消えない。そのぶん一枚目は目標の $100$ mm より短く、余分に曲げてある。合成すると $0.0100000000$、色消し条件の残差は厳密に $0$ で、式が閉じている。それでも三色目は残る。部分分散の差から出る二次スペクトルが $\mathbf{0.044604}$ mm、単レンズの $\mathbf{34.9374}$ 分の $1$ に減るが $0$ にはならない。そして残った量の原因は一つの数で名指しできる。部分分散の差 $P_1-P_2=0.0124$ を $0$ にすると、二次スペクトルは厳密に $0$ になる。つまり「二枚では足りない」のではなく、足りないのは部分分散が一致するガラスの組である。論文370 と同じ形である。そこでは一層膜が理想の屈折率をもつ材料を要求し、ここでは色消しが部分分散の一致する組を要求する。どちらも、条件を満たす材料が存在するかという問題に帰着する。分けているものは一つ、アッベ数の差(一次)を打ち消したか、部分分散の差(二次)を打ち消したかであって、レンズの枚数ではない。枚数を増やしても部分分散が違えば残るので、どこまで消せるかを決めているのは使えるガラスの側である。異常分散ガラスを使えば動かせるが、高価で加工も難しい。正直に言えば、$0.044604$ mm も $34.9374$ も、明示したアッベ数と部分分散、薄肉近軸の上での値である。本稿は異常分散ガラスを扱っておらず、計算したのは普通の二枚組の場合である。最後に一つ、「消した」と言えるのは、課した条件の数だけである。二式を課せば二波長で合い、三色目には何の保証も無い。何を消したかを数えるには、いくつ条件を課したかを数えればよい。

参考文献

  1. Abbe, E. (1873). Beiträge zur Theorie des Mikroskops und der mikroskopischen Wahrnehmung. Archiv für Mikroskopische Anatomie.
  2. Kingslake, R., Johnson, R. B. (2010). Lens Design Fundamentals (2nd ed.). Amsterdam: Academic Press.
  3. Smith, W. J. (2007). Modern Optical Engineering (4th ed.). New York: McGraw-Hill.
  4. Hecht, E. (2016). Optics (5th ed.). Boston: Pearson.
  5. Born, M., Wolf, E. (1999). Principles of Optics (7th ed.). Cambridge: Cambridge University Press.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『バットの「芯」は三つあり、同じバットの上で 23 cm 離れている』[論文363]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697505
  8. 山岸勇輝 (2026). 『代数的に等しい二つの式が、返す有効桁を 15 桁変える』[論文368]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697726
  9. 山岸勇輝 (2026). 『反射防止膜が一層では足りない理由は、二つ独立にある』[論文370]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697804

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「色消しレンズは、二つの波長でしか合っていない」[論文377]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22698749

YOI 377第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 色消しレンズは、二つの波長でしか合っていない [論文377]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/377 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22698749

Yamagishi, Y. (2026). An Achromat Meets at Two Wavelengths Only [Paper 377]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/377; DOI: 10.5281/zenodo.22698749

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