要旨
磁場は荷電粒子に仕事をしない。それなのにヴァンアレン帯は粒子を何年も閉じ込める。本稿が示すのは、この二つが矛盾していないことである。閉じ込めているのは仕事ではなく、速度の向きの空間である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、ローレンツ力と速度の内積は厳密に $\mathbf{0}$ であり、丸め誤差の範囲で $0.000000000000000$ が出る(第2節)。
第二に、双極子磁場では $L=4$ でミラー比が $\mathbf{115.3776}$ になり、これは仮定ではなく幾何から出る(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。$L=4$ で立体角の $\mathbf{99.5657}$ パーセントが閉じ込められる。エネルギーは一つも変わっていない(第3節)。
第四に、ロスコーンの半頂角は $L=2$ の $\mathbf{16.3301}$ 度から $L=6$ の $\mathbf{2.8514}$ 度まで縮む(第3節)。
第五に、ピッチ角 $30$ 度の粒子は磁場が $\mathbf{4.000000}$ 倍のところで折り返す。逆算しても同じ値が出る(第4節)。
第六に、分離子は「エネルギーを変えるか、向きを変えるか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ローレンツ力が仕事をしないこと、磁気モーメントの断熱不変性、ロスコーンの式はすべて既知である。論文310 との関係を先に書く。ロスコーンの式そのものは論文310 の検算7.5 が既に出している(ミラー比 $2$・$5$・$10$ で $45.0000$・$26.5651$・$18.4349$ 度)。本稿が足すのは二つである:ミラー比を仮定せず双極子の幾何から導くことと、閉じ込めを角度ではなく立体角の割合で測ること。$99.5657$ パーセントという数は 310 に無い。断熱不変性を証明しない。$\mu$ が保たれることは既知として使う。どれだけゆっくりなら保たれるかは論文310 の主題である。実際の放射線帯を予報しない。太陽風、磁気嵐、ピッチ角散乱、波動粒子相互作用は主題ではない。本稿は理想化された双極子だけを扱う。粒子の寿命を出さない。何年閉じ込められるかは散乱で決まり、本稿の計算には入っていない。磁場の起源を論じない。ダイナモは主題ではない。相対論的効果を入れない。高エネルギー粒子の補正は主題ではなく、定性的な結論は変わらない。既刊との関係:論文310 は「保存する」に二つの根があることを示した。ここでは仕事がゼロでも閉じ込めが起きる。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「エネルギーで閉じ込める」と「向きで閉じ込める」は、その基準で別根である。論文404 は水平線が見える距離の限界ではないことを示した。ここでは仕事がゼロであることが閉じ込めの限界ではない。加えたのは、内積がゼロであることを数で確かめたこと、四つの $L$ 殻でミラー比を幾何から出したこと、閉じ込めを立体角の割合で測ったこと、ピッチ角からの逆算を対照に置いたこと、分離子を「エネルギーか向きか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:荷電粒子に働くローレンツ力は $\mathbf{F}=q \mathbf{v}\times\mathbf{B}$ である。 また磁気モーメント $\mu=mv_\perp^2/2B$ は、磁場がゆっくり変わる限り保たれる。
$$\sin^{2}\alpha_{c}=\frac{B_{\min}}{B_{\max}}=\frac{1}{R}$$
ここで $R$ はミラー比、$\alpha_c$ はロスコーンの半頂角である。
観察 1.1 磁場は仕事をしない。力が速度と直交するからである。だから粒子の速さは変わらない。
観察 1.2 それでも粒子は閉じ込められる。ヴァンアレン帯は $1958$ 年に見つかって以来そこにある。速さが変わらないのに、どうやって。
問い:仕事をしないものが、どうやって閉じ込めるのか。
2. 内積は厳密にゼロである
計算 2.1:適当な速度と磁場をとり、$\mathbf{v}\cdot(\mathbf{v}\times\mathbf{B})$ を数値で出す。
結果は $0.000000000000000$ である。これは近似ではない。外積の定義から、$\mathbf{v}\times\mathbf{B}$ は $\mathbf{v}$ に直交する。
観察 2.2 したがって運動エネルギーは厳密に一定である。$dE/dt=\mathbf{F}\cdot\mathbf{v}=0$、電場が無ければ、粒子の速さは永久に変わらない。
観察 2.3 ここで普通の直感が止まる。閉じ込めるには谷が要る、と考えるからである。谷とは位置エネルギーであり、位置エネルギーは仕事をする。
観察 2.4 だが閉じ込めに要るのは、エネルギーを下げることではない。要るのは出ていく道をふさぐことである。そして道は、位置ではなく速度の向きで数えられる。
3. 双極子の幾何がミラー比を決める
計算 3.1:双極子磁場では、赤道面から磁力線をたどると磁場の強さが増える。 $L$ 殻ごとに、赤道の値と足元(地表)の値の比を出す。
| $L$ 殻 | ミラー比 $R$ | ロスコーン半頂角 | 失う立体角 | 閉じ込め |
|---|---|---|---|---|
| $2.0$ | $12.6491$ | $16.3301$ 度 | $4.0342$ % | $95.9658$ % |
| $3.0$ | $46.7654$ | $8.4085$ 度 | $1.0749$ % | $98.9251$ % |
| $4.0$ | $115.3776$ | $5.3418$ 度 | $0.4343$ % | $99.5657$ % |
| $6.0$ | $404.0990$ | $2.8514$ 度 | $0.1238$ % | $99.8762$ % |
観察 3.2 ミラー比は仮定していない。双極子の式から出ている。論文310 は $R=2$・$5$・$10$ を置いて角度を出した。ここでは $R$ のほうが幾何の帰結である。
観察 3.3 閉じ込めを角度ではなく立体角で測る。ロスコーンは上下二つの円錐なので、失う割合は $1-\cos\alpha_c$ である。$L=4$ で $\mathbf{0.4343}$ パーセント、つまり $\mathbf{99.5657}$ パーセントが残る。
観察 3.4 $5.3418$ 度という角度は小さく見えるが、立体角ではもっと小さい。角度の比は $5.3418/90=5.9$ パーセントだが、立体角の比は $\mathbf{0.4343}$ パーセントである。一桁以上違う。円錐の立体角は角の二乗で効くからである。
観察 3.5 遠いほど強く閉じ込められる。$L=2$ の $16.3301$ 度から $L=6$ の $2.8514$ 度へ縮む、遠いほど赤道の磁場が弱く、足元との比が大きくなるからである。
4. 逆算
計算 4.1:ピッチ角 $30$ 度の粒子は、磁場がどこまで強くなったところで折り返すか。
$$\frac{B}{B_{\mathrm{eq}}}=\frac{1}{\sin^{2}\alpha}=\frac{1}{\sin^{2}30^{\circ}}=4$$
数値でも $\mathbf{4.000000}$ が出る。
観察 4.2 これは第3節の式を逆向きに使っただけである。同じ式が、角度から比を出すことにも、比から角度を出すことにも使える。どちらでも同じ数が出ることが、式が正しく実装されている証拠になる。
観察 4.3 折り返す点でも速さは変わっていない。変わったのは $v_\parallel$ と $v_\perp$ の配分である。$\mu$ が一定なので $B$ が増えれば $v_\perp$ が増え、速さが一定なので $v_\parallel$ が減る。ゼロになった点が折り返しである。
5. 分離子
分離子:エネルギーを変えるか、向きを変えるか。
観察 5.1 位置エネルギーの谷は、エネルギーで閉じ込める。高さより低いエネルギーの粒子が出られない。出られるかどうかは、速さで決まる。
観察 5.2 磁気ミラーは、向きで閉じ込める。速さがどれだけ大きくても、ロスコーンの外にいれば出られない。出られるかどうかは、向きで決まる。
観察 5.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「閉じ込め」と呼ばれるが、判定に使う量が違う。一方は速さ、一方はピッチ角である。
観察 5.4 だから「磁場は仕事をしないのに閉じ込める」は矛盾ではない。矛盾に見えるのは、閉じ込めが必ずエネルギーで起きると思っているからである。その思い込みを外せば、残るのは幾何だけである。
観察 5.5 正直に言えば、実際の放射線帯では粒子は永久には残らない。ピッチ角散乱がロスコーンへ粒子を送り込む、本稿の計算に散乱は入っていない。入れれば寿命が有限になる。それでも閉じ込めの機構そのものは変わらない。
観察 5.6 最後に一つ、「仕事をしない」は「何もしない」ではない。仕事はエネルギーの出入りだけを測る量である。向きを変えることは、その物差しに映らない。
6. 点呼と結び
- $\mathbf{v}\cdot\mathbf{F}=0.000000000000000$(計算 2.1):厳密にゼロ。
- $L=2$ でミラー比 $12.6491$(計算 3.1):幾何から。
- $L=4$ でミラー比 $115.3776$(計算 3.1):仮定ではない。
- $L=6$ でミラー比 $404.0990$(計算 3.1):遠いほど大きい。
- ロスコーンは $16.3301\to2.8514$ 度(計算 3.1):遠いほど狭い。
- $L=4$ で閉じ込め $99.5657$ %(計算 3.1):立体角で。
- 角度の比は $5.9$ %、立体角は $0.4343$ %(観察 3.4):一桁以上違う。
- $L=2$ でも $95.9658$ %(計算 3.1):最も緩い殻でも。
- ピッチ角 $30$ 度は $B/B_{\mathrm{eq}}=4.000000$ で折り返す(計算 4.1):逆算が一致。
- 分離子は速さか向きか(観察 5.3):論文300 の基準で別根。
結び:磁場は荷電粒子に仕事をしない。ローレンツ力は速度と直交するので、内積は厳密に $\mathbf{0.000000000000000}$ である。これは近似ではなく外積の定義から出るので、電場が無い限り粒子の速さは永久に変わらない。それなのに粒子は閉じ込められる。双極子磁場では $L=4$ の殻でミラー比が $\mathbf{115.3776}$ になり、これは仮定ではなく幾何から出る。論文310 の検算7.5 はミラー比 $2$・$5$・$10$ を置いて $45.0000$・$26.5651$・$18.4349$ 度を出した。本稿はその $R$ のほうを双極子から導き、閉じ込めを角度ではなく立体角で測る。$L=4$ でロスコーンの半頂角は $\mathbf{5.3418}$ 度、失う立体角は $\mathbf{0.4343}$ パーセント、残るのは $\mathbf{99.5657}$ パーセントである。角度で測れば $5.9$ パーセントに見えるものが、立体角では $\mathbf{0.4343}$ パーセントになる。円錐の立体角は角の二乗で効くからで、一桁以上違う。最も緩い $L=2$ の殻でも $\mathbf{95.9658}$ パーセントが残り、$L=6$ では $\mathbf{99.8762}$ パーセントになる。そしてこの間、エネルギーは一つも変わっていない。ピッチ角 $30$ 度の粒子は $B/B_{\mathrm{eq}}=\mathbf{4.000000}$ のところで折り返すが、折り返す瞬間も速さは同じである。変わったのは $v_\parallel$ と $v_\perp$ の配分だけで、$\mu$ が一定なので $B$ が増えれば $v_\perp$ が増え、速さが一定なので $v_\parallel$ が減り、ゼロになった点が折り返しである。分けているものは一つ、エネルギーで閉じ込めるか、向きで閉じ込めるか。位置エネルギーの谷では出られるかどうかが速さで決まり、磁気ミラーではピッチ角で決まる。速さがどれだけ大きくても、ロスコーンの外にいれば出られない。論文300 の基準で別根であり、判定に使う量そのものが違う。正直に言えば、実際の放射線帯で粒子は永久には残らない。ピッチ角散乱がロスコーンへ粒子を送り込むからで、本稿の計算に散乱は入っていない。入れれば寿命は有限になる。それでも閉じ込めの機構そのものは変わらない。最後に一つ、「仕事をしない」は「何もしない」ではない。仕事はエネルギーの出入りだけを測る物差しであり、向きを変えることはその物差しに映らない。
参考文献
- Van Allen, J. A., & Frank, L. A. (1959). Radiation Around the Earth to a Radial Distance of 107,400 km. Nature.
- Alfvén, H. (1950). Cosmical Electrodynamics. Oxford: Clarendon Press.
- Northrop, T. G. (1963). The Adiabatic Motion of Charged Particles. New York: Interscience.
- Walt, M. (1994). Introduction to Geomagnetically Trapped Radiation. Cambridge: Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「保存する」には二つの根があり、ネーターは片方しか説明しない』[論文310]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172372
- 山岸勇輝 (2026). 『水平線は、見える距離の限界ではない』[論文404]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699418
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書誌
山岸勇輝(2026)「磁場は仕事をしないのに、粒子を閉じ込める」[論文410]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 磁場は仕事をしないのに、粒子を閉じ込める [論文410]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/410 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699628
Yamagishi, Y. (2026). The Magnetic Field Does No Work, and Still It Confines [Paper 410]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/410; DOI: 10.5281/zenodo.22699628
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