要旨
乾燥は二つの期間に分かれ、後半が長いと言われる。本稿が示すのは、どちらが長いかは、どこまで乾かすかで入れ替わることである。入れ替わる点は含水率 $\mathbf{0.039506}$ にある。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、定率期($0.60$ から $0.20$)は $\mathbf{8.0000}$ 時間で、目標に依らず一定である(第2節)。
第二に、減率期は目標で $2.9193$ から $16.1993$ 時間へ動く(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。律速が入れ替わる含水率は $\mathbf{0.039506}$ で、その上下で長い期間が変わる(第3節)。
第四に、同じ $0.001$ を抜くのに、$0.023$ 付近では $\mathbf{1.4597}$ 時間、$0.030$ 付近では $\mathbf{0.3793}$ 時間である(第3節)。
第五に、平衡含水率そのものには、有限の時間では到達しない(第3節)。
第六に、分離子は「律速が固定か、要求で動くか」である(第4節)。
キーワード:乾燥、定率乾燥、減率乾燥、平衡含水率、律速。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。定率乾燥期間と減率乾燥期間の区別、平衡含水率、指数型の減衰はすべて既知である。乾燥機を設計しない。風量、温度、循環、熱回収は主題ではない。材料を特定しない。木材、食品、汚泥のどれかに限らない。含水率で書ける対象を一般に扱う。数値は模型である。定率期の速度 $0.05$ 毎時、限界含水率 $0.20$、平衡含水率 $0.02$ は置いた値で、実測ではない。品質を論じない。乾かしすぎによる割れ、変色、風味の変化は主題ではない。既刊との関係:論文454 は荷重が $3$ 乗で増えても必要幅が $1$ 乗で済むことを示した。そこでも、両側を見なければ答えが出なかった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「定率期が律速の乾燥」と「減率期が律速の乾燥」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、要求の側を動かすと限界が動いた。本稿は同じ形の三例目である。論文445 は待っているのが反応ではなく拡散であることを示した。そこでも、どちらが律速かで打つ手が変わった。加えたのは、五つの目標含水率で減率期を出したこと、入れ替わりの含水率を閉じた式で $0.039506$ と出したこと、境目の両側で長短が逆転することを確かめたこと、同じ量を抜く時間の比を $3.85$ 倍と出したこと、分離子を「律速が固定か要求で動くか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:乾量基準の含水率を $W$ とする。表面が濡れている間は蒸発が律速し、含水率は一定の速度 $R$ で下がる。
$$\frac{dW}{dt}=-R \qquad (W\ge W_{c})$$
限界含水率 $W_{c}$ を下回ると内部拡散が律速し、平衡含水率 $W_{e}$ へ指数的に近づく。
$$\frac{dW}{dt}=-R\,\frac{W-W_{e}}{W_{c}-W_{e}} \qquad (W<W_{c})$$
以下 $W_{0}=0.60$、$W_{c}=0.20$、$W_{e}=0.02$、$R=0.05$ 毎時とする。
観察 1.1 乾燥は二つの期間に分かれ、後半が長いと言われる。表面が乾いてからが長い。経験としてよく知られている。
観察 1.2 だが「後半」は、どこで終わるかを決めなければ長さが決まらない。前半は $W_{c}$ に達したら終わる。後半は、こちらが止めるまで終わらない。
問い:どこまで乾かせば、後半のほうが長くなるのか。
2. 定率期は 8 時間で固定、減率期は目標で動く
計算 2.1:定率期の長さを出す。
$(0.60-0.20)/0.05=\mathbf{8.0000}$ 時間である。
観察 2.2 これは目標に依らない。どこまで乾かすつもりでも、最初の $8$ 時間は同じ、固定された量である。
計算 2.3:五つの目標で減率期の長さを出す。
| 目標含水率 | 減率期 [時間] | 定率期 [時間] |
|---|---|---|
| $0.100$ | $2.9193$ | $8.0000$ |
| $0.050$ | $6.4503$ | $8.0000$ |
| $0.030$ | $\mathbf{10.4053}$ | $8.0000$ |
| $0.025$ | $12.9007$ | $8.0000$ |
| $0.022$ | $\mathbf{16.1993}$ | $8.0000$ |
観察 2.4 $2.9193$ から $16.1993$ まで、$5.55$ 倍動く。含水率の目標を $0.100$ から $0.022$ へ下げただけで、抜く水の量は $0.078$ しか違わないのに。
観察 2.5 そして $0.100$ では定率期のほうが長く、$0.030$ では減率期のほうが長い。$2.9193<8.0000$ と $10.4053>8.0000$、どちらが律速かが、目標で入れ替わっている。
3. 入れ替わる含水率は 0.039506
計算 3.1:二つの期間がちょうど等しくなる含水率を、閉じた式で出す。
$$W_{\times}=W_{e}+(W_{c}-W_{e})\,e^{-K t_{\mathrm{const}}},
\qquad K=\frac{R}{W_{c}-W_{e}}$$
$W_{\times}=\mathbf{0.039506}$ である。
観察 3.2 逆算すると、この含水率までの減率期はちょうど $8.0000$ 時間になる。相対差 $10^{-9}$ 未満、閉じた式が本当に釣り合いを解いている。
観察 3.3 境目の両側で、長短が入れ替わる。$W_{\times}$ の $1.05$ 倍では定率期が勝ち、$0.95$ 倍では減率期が勝つ、境目であることが、両側から確かめられる。
観察 3.4 $0.039506$ は目標 $0.05$ と $0.03$ の間にある。実用的な乾燥の目標がまたいでいる。つまりこの入れ替わりは、机上の話ではない。
観察 3.5 同じ量の水を抜くのに、乾いているほど時間がかかる。$0.030$ から $0.029$ は $0.3793$ 時間、$0.023$ から $0.022$ は $\mathbf{1.4597}$ 時間、$\mathbf{3.85}$ 倍である。
観察 3.6 平衡含水率そのものには、有限の時間では到達しない。$100$ 時間で残差 $1.554\times10^{-13}$、$200$ 時間で $1.342\times10^{-25}$、減り続けるが、ゼロにはならない。
観察 3.7 ただし計算機の上では、$142$ 時間で残差が和から消える。$0.02$ に $10^{-18}$ を足しても浮動小数では変わらないから、これは物理ではなく、桁の限界である。私はここで一度、検査の書き方を誤った。
4. 分離子
分離子:律速が固定か、要求で動くか。
観察 4.1 固定なら、打つ手は一つに決まる。蒸発が律速なら風を送る、拡散が律速なら薄くする。どちらかを選べばよい。
観察 4.2 要求で動くなら、目標を言わなければ打つ手が決まらない。$0.10$ までなら風、$0.03$ までなら厚み、同じ材料、同じ装置でも、答えが変わる。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「乾燥の律速」と呼ばれる。一方は材料と装置の量、一方はそれに目標を加えた組の量である。
観察 4.4 論文446 と論文453 に続く、同じ形の三例目である。論文446 では回収率を上げると理論の下限が上がり、論文453 では摩擦が減ると速度の下限が立ち上がった。ここでは目標を下げると律速が入れ替わる。いずれも、限界が要求の関数だった。
観察 4.5 論文445 とも重なる。そこでは待っているのが反応ではなく拡散だった。ここでは、どちらを待っているかが目標で変わる。律速の同定そのものが、条件つきの作業である。
観察 4.6 だから「乾燥時間の短縮」を語るときは、目標含水率を併記する。$0.10$ を目標にした改善が、$0.03$ では効かない。律速が別の場所へ移っているからである。
観察 4.7 正直に言えば、数値は模型である。$R$ も $W_{c}$ も $W_{e}$ も置いた値で、実測ではない。$0.039506$ という位置は材料ごとに違う。変わらないのは、入れ替わる点が存在することである。
5. 点呼と結び
- 定率期は $8.0000$ 時間(計算 2.1):目標に依らない。
- 減率期は $2.9193$ から $16.1993$(計算 2.3):$5.55$ 倍動く。
- $0.100$ では定率期が長い(観察 2.5):$2.9193<8.0000$。
- $0.030$ では減率期が長い(観察 2.5):$10.4053>8.0000$。
- 入れ替わりは $0.039506$(計算 3.1):本稿の芯。
- 両側で長短が逆転(観察 3.3):境目であることの確認。
- 実用の目標がまたいでいる(観察 3.4):机上の話ではない。
- 同じ $0.001$ に $3.85$ 倍(観察 3.5):乾くほど遅い。
- 平衡には到達しない(観察 3.6):残差は正のまま。
- 分離子は律速が固定か要求で動くか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:乾燥は二つの期間に分かれ、後半が長いと言われる。表面が乾いてからが長い、という経験はよく知られている。だが「後半」は、どこで終わるかを決めなければ長さが決まらない。前半は限界含水率に達したら終わるが、後半はこちらが止めるまで終わらない。前半は固定されている。定率期は $(0.60-0.20)/0.05=\mathbf{8.0000}$ 時間で、どこまで乾かすつもりでも最初の $8$ 時間は同じである。ところが減率期は目標で $2.9193$・$6.4503$・$10.4053$・$12.9007$・$\mathbf{16.1993}$ 時間と $5.55$ 倍動く。抜く水の量は $0.078$ しか違わないのにである。そして $0.100$ では定率期のほうが長く、$0.030$ では減率期のほうが長い。どちらが律速かが、目標で入れ替わっている。入れ替わる点は、閉じた式で書ける。$W_{\times}=W_{e}+(W_{c}-W_{e})e^{-Kt_{\mathrm{const}}}=\mathbf{0.039506}$ であり、逆算するとこの含水率までの減率期はちょうど $8.0000$ 時間になる(相対差 $10^{-9}$ 未満)。境目の両側で長短が入れ替わることも確かめた。$1.05$ 倍では定率期が勝ち、$0.95$ 倍では減率期が勝つ。$0.039506$ は実用的な目標 $0.05$ と $0.03$ の間にあり、この入れ替わりは机上の話ではない。そして同じ量の水を抜くのに、乾いているほど時間がかかる。$0.030$ から $0.029$ は $0.3793$ 時間、$0.023$ から $0.022$ は $\mathbf{1.4597}$ 時間で、$\mathbf{3.85}$ 倍である。平衡含水率そのものには有限の時間では到達せず、$100$ 時間で残差 $1.554\times10^{-13}$、$200$ 時間で $1.342\times10^{-25}$ と減り続けるがゼロにはならない。ただし計算機の上では $142$ 時間で残差が和から消える。$0.02$ に $10^{-18}$ を足しても浮動小数では変わらないからで、これは物理ではなく桁の限界である。私はここで一度、検査の書き方を誤った。分けているものは一つ、律速が固定か、要求で動くか。固定なら打つ手は一つに決まり、蒸発が律速なら風を送り、拡散が律速なら薄くすればよい。要求で動くなら目標を言わなければ打つ手が決まらず、$0.10$ までなら風、$0.03$ までなら厚みと、同じ材料・同じ装置でも答えが変わる。論文300 の基準で別根であり、一方は材料と装置の量、一方はそれに目標を加えた組の量である。論文446 と論文453 に続く、同じ形の三例目である。論文446 では回収率を上げると理論の下限が上がり、論文453 では摩擦が減ると速度の下限が立ち上がり、ここでは目標を下げると律速が入れ替わる。いずれも、限界が要求の関数だった。論文445 とも重なり、そこでは待っているのが反応ではなく拡散だった。ここでは、どちらを待っているかが目標で変わる。律速の同定そのものが、条件つきの作業である。だから「乾燥時間の短縮」を語るときは目標含水率を併記する。$0.10$ を目標にした改善が $0.03$ では効かないのは、律速が別の場所へ移っているからである。正直に言えば、数値は模型で、$R$ も $W_{c}$ も $W_{e}$ も置いた値である。$0.039506$ という位置は材料ごとに違う。変わらないのは、入れ替わる点が存在することである。
参考文献
- Lewis, W. K. (1921). The Rate of Drying of Solid Materials. Journal of Industrial and Engineering Chemistry.
- Sherwood, T. K. (1929). The Drying of Solids. Industrial and Engineering Chemistry.
- Mujumdar, A. S. (Ed.) (2014). Handbook of Industrial Drying (4th ed.). CRC Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『待っているのは反応ではなく、拡散である』[論文445]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732445
- 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
- 山岸勇輝 (2026). 『凍った道でゆっくり走ると、速く走るより危ないことがある』[論文453]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732924
- 山岸勇輝 (2026). 『水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい』[論文454]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732989
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書誌
山岸勇輝(2026)「どこまで乾かすかで、律速が入れ替わる」[論文455]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). どこまで乾かすかで、律速が入れ替わる [論文455]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/455 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733024
Yamagishi, Y. (2026). How Dry You Want It Decides Which Stage Is Rate-Limiting [Paper 455]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/455; DOI: 10.5281/zenodo.22733024
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