【論文455】どこまで乾かすかで、律速が入れ替わる

要旨

乾燥は二つの期間に分かれ、後半が長いと言われる。本稿が示すのは、どちらが長いかは、どこまで乾かすかで入れ替わることである。入れ替わる点は含水率 $\mathbf{0.039506}$ にある。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、定率期($0.60$ から $0.20$)は $\mathbf{8.0000}$ 時間で、目標に依らず一定である(第2節)。

第二に、減率期は目標で $2.9193$ から $16.1993$ 時間へ動く(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。律速が入れ替わる含水率は $\mathbf{0.039506}$ で、その上下で長い期間が変わる(第3節)。

第四に、同じ $0.001$ を抜くのに、$0.023$ 付近では $\mathbf{1.4597}$ 時間、$0.030$ 付近では $\mathbf{0.3793}$ 時間である(第3節)。

第五に、平衡含水率そのものには、有限の時間では到達しない(第3節)。

第六に、分離子は「律速が固定か、要求で動くか」である(第4節)。

キーワード:乾燥、定率乾燥、減率乾燥、平衡含水率、律速。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。定率乾燥期間と減率乾燥期間の区別、平衡含水率、指数型の減衰はすべて既知である。乾燥機を設計しない。風量、温度、循環、熱回収は主題ではない。材料を特定しない。木材、食品、汚泥のどれかに限らない。含水率で書ける対象を一般に扱う。数値は模型である。定率期の速度 $0.05$ 毎時、限界含水率 $0.20$、平衡含水率 $0.02$ は置いた値で、実測ではない。品質を論じない。乾かしすぎによる割れ、変色、風味の変化は主題ではない。既刊との関係:論文454 は荷重が $3$ 乗で増えても必要幅が $1$ 乗で済むことを示した。そこでも、両側を見なければ答えが出なかった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「定率期が律速の乾燥」と「減率期が律速の乾燥」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、要求の側を動かすと限界が動いた。本稿は同じ形の三例目である。論文445 は待っているのが反応ではなく拡散であることを示した。そこでも、どちらが律速かで打つ手が変わった。加えたのは、五つの目標含水率で減率期を出したこと、入れ替わりの含水率を閉じた式で $0.039506$ と出したこと、境目の両側で長短が逆転することを確かめたこと、同じ量を抜く時間の比を $3.85$ 倍と出したこと、分離子を「律速が固定か要求で動くか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:乾量基準の含水率を $W$ とする。表面が濡れている間は蒸発が律速し、含水率は一定の速度 $R$ で下がる。

$$\frac{dW}{dt}=-R \qquad (W\ge W_{c})$$

限界含水率 $W_{c}$ を下回ると内部拡散が律速し、平衡含水率 $W_{e}$ へ指数的に近づく。

$$\frac{dW}{dt}=-R\,\frac{W-W_{e}}{W_{c}-W_{e}} \qquad (W<W_{c})$$

以下 $W_{0}=0.60$、$W_{c}=0.20$、$W_{e}=0.02$、$R=0.05$ 毎時とする。

観察 1.1 乾燥は二つの期間に分かれ、後半が長いと言われる。表面が乾いてからが長い。経験としてよく知られている。

観察 1.2 だが「後半」は、どこで終わるかを決めなければ長さが決まらない。前半は $W_{c}$ に達したら終わる。後半は、こちらが止めるまで終わらない。

問い:どこまで乾かせば、後半のほうが長くなるのか。

2. 定率期は 8 時間で固定、減率期は目標で動く

計算 2.1:定率期の長さを出す。

$(0.60-0.20)/0.05=\mathbf{8.0000}$ 時間である。

観察 2.2 これは目標に依らない。どこまで乾かすつもりでも、最初の $8$ 時間は同じ、固定された量である。

計算 2.3:五つの目標で減率期の長さを出す。

目標含水率 減率期 [時間] 定率期 [時間]
$0.100$ $2.9193$ $8.0000$
$0.050$ $6.4503$ $8.0000$
$0.030$ $\mathbf{10.4053}$ $8.0000$
$0.025$ $12.9007$ $8.0000$
$0.022$ $\mathbf{16.1993}$ $8.0000$

観察 2.4 $2.9193$ から $16.1993$ まで、$5.55$ 倍動く。含水率の目標を $0.100$ から $0.022$ へ下げただけで、抜く水の量は $0.078$ しか違わないのに。

観察 2.5 そして $0.100$ では定率期のほうが長く、$0.030$ では減率期のほうが長い。$2.9193<8.0000$ と $10.4053>8.0000$、どちらが律速かが、目標で入れ替わっている。

3. 入れ替わる含水率は 0.039506

計算 3.1:二つの期間がちょうど等しくなる含水率を、閉じた式で出す。

$$W_{\times}=W_{e}+(W_{c}-W_{e})\,e^{-K t_{\mathrm{const}}},
\qquad K=\frac{R}{W_{c}-W_{e}}$$

$W_{\times}=\mathbf{0.039506}$ である。

観察 3.2 逆算すると、この含水率までの減率期はちょうど $8.0000$ 時間になる。相対差 $10^{-9}$ 未満、閉じた式が本当に釣り合いを解いている。

観察 3.3 境目の両側で、長短が入れ替わる。$W_{\times}$ の $1.05$ 倍では定率期が勝ち、$0.95$ 倍では減率期が勝つ、境目であることが、両側から確かめられる。

観察 3.4 $0.039506$ は目標 $0.05$ と $0.03$ の間にある。実用的な乾燥の目標がまたいでいる。つまりこの入れ替わりは、机上の話ではない。

観察 3.5 同じ量の水を抜くのに、乾いているほど時間がかかる。$0.030$ から $0.029$ は $0.3793$ 時間、$0.023$ から $0.022$ は $\mathbf{1.4597}$ 時間、$\mathbf{3.85}$ 倍である。

観察 3.6 平衡含水率そのものには、有限の時間では到達しない。$100$ 時間で残差 $1.554\times10^{-13}$、$200$ 時間で $1.342\times10^{-25}$、減り続けるが、ゼロにはならない。

観察 3.7 ただし計算機の上では、$142$ 時間で残差が和から消える。$0.02$ に $10^{-18}$ を足しても浮動小数では変わらないから、これは物理ではなく、桁の限界である。私はここで一度、検査の書き方を誤った。

4. 分離子

分離子:律速が固定か、要求で動くか。

観察 4.1 固定なら、打つ手は一つに決まる。蒸発が律速なら風を送る、拡散が律速なら薄くする。どちらかを選べばよい。

観察 4.2 要求で動くなら、目標を言わなければ打つ手が決まらない。$0.10$ までなら風、$0.03$ までなら厚み、同じ材料、同じ装置でも、答えが変わる。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「乾燥の律速」と呼ばれる。一方は材料と装置の量、一方はそれに目標を加えた組の量である。

観察 4.4 論文446 と論文453 に続く、同じ形の三例目である。論文446 では回収率を上げると理論の下限が上がり、論文453 では摩擦が減ると速度の下限が立ち上がった。ここでは目標を下げると律速が入れ替わる。いずれも、限界が要求の関数だった。

観察 4.5 論文445 とも重なる。そこでは待っているのが反応ではなく拡散だった。ここでは、どちらを待っているかが目標で変わる。律速の同定そのものが、条件つきの作業である。

観察 4.6 だから「乾燥時間の短縮」を語るときは、目標含水率を併記する。$0.10$ を目標にした改善が、$0.03$ では効かない。律速が別の場所へ移っているからである。

観察 4.7 正直に言えば、数値は模型である。$R$ も $W_{c}$ も $W_{e}$ も置いた値で、実測ではない。$0.039506$ という位置は材料ごとに違う。変わらないのは、入れ替わる点が存在することである。

5. 点呼と結び

  1. 定率期は $8.0000$ 時間(計算 2.1):目標に依らない。
  2. 減率期は $2.9193$ から $16.1993$(計算 2.3):$5.55$ 倍動く。
  3. $0.100$ では定率期が長い(観察 2.5):$2.9193<8.0000$。
  4. $0.030$ では減率期が長い(観察 2.5):$10.4053>8.0000$。
  5. 入れ替わりは $0.039506$(計算 3.1):本稿の芯。
  6. 両側で長短が逆転(観察 3.3):境目であることの確認。
  7. 実用の目標がまたいでいる(観察 3.4):机上の話ではない。
  8. 同じ $0.001$ に $3.85$ 倍(観察 3.5):乾くほど遅い。
  9. 平衡には到達しない(観察 3.6):残差は正のまま。
  10. 分離子は律速が固定か要求で動くか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:乾燥は二つの期間に分かれ、後半が長いと言われる。表面が乾いてからが長い、という経験はよく知られている。だが「後半」は、どこで終わるかを決めなければ長さが決まらない。前半は限界含水率に達したら終わるが、後半はこちらが止めるまで終わらない。前半は固定されている。定率期は $(0.60-0.20)/0.05=\mathbf{8.0000}$ 時間で、どこまで乾かすつもりでも最初の $8$ 時間は同じである。ところが減率期は目標で $2.9193$・$6.4503$・$10.4053$・$12.9007$・$\mathbf{16.1993}$ 時間と $5.55$ 倍動く。抜く水の量は $0.078$ しか違わないのにである。そして $0.100$ では定率期のほうが長く、$0.030$ では減率期のほうが長い。どちらが律速かが、目標で入れ替わっている。入れ替わる点は、閉じた式で書ける。$W_{\times}=W_{e}+(W_{c}-W_{e})e^{-Kt_{\mathrm{const}}}=\mathbf{0.039506}$ であり、逆算するとこの含水率までの減率期はちょうど $8.0000$ 時間になる(相対差 $10^{-9}$ 未満)。境目の両側で長短が入れ替わることも確かめた。$1.05$ 倍では定率期が勝ち、$0.95$ 倍では減率期が勝つ。$0.039506$ は実用的な目標 $0.05$ と $0.03$ の間にあり、この入れ替わりは机上の話ではない。そして同じ量の水を抜くのに、乾いているほど時間がかかる。$0.030$ から $0.029$ は $0.3793$ 時間、$0.023$ から $0.022$ は $\mathbf{1.4597}$ 時間で、$\mathbf{3.85}$ 倍である。平衡含水率そのものには有限の時間では到達せず、$100$ 時間で残差 $1.554\times10^{-13}$、$200$ 時間で $1.342\times10^{-25}$ と減り続けるがゼロにはならない。ただし計算機の上では $142$ 時間で残差が和から消える。$0.02$ に $10^{-18}$ を足しても浮動小数では変わらないからで、これは物理ではなく桁の限界である。私はここで一度、検査の書き方を誤った。分けているものは一つ、律速が固定か、要求で動くか。固定なら打つ手は一つに決まり、蒸発が律速なら風を送り、拡散が律速なら薄くすればよい。要求で動くなら目標を言わなければ打つ手が決まらず、$0.10$ までなら風、$0.03$ までなら厚みと、同じ材料・同じ装置でも答えが変わる。論文300 の基準で別根であり、一方は材料と装置の量、一方はそれに目標を加えた組の量である。論文446 と論文453 に続く、同じ形の三例目である。論文446 では回収率を上げると理論の下限が上がり、論文453 では摩擦が減ると速度の下限が立ち上がり、ここでは目標を下げると律速が入れ替わる。いずれも、限界が要求の関数だった。論文445 とも重なり、そこでは待っているのが反応ではなく拡散だった。ここでは、どちらを待っているかが目標で変わる。律速の同定そのものが、条件つきの作業である。だから「乾燥時間の短縮」を語るときは目標含水率を併記する。$0.10$ を目標にした改善が $0.03$ では効かないのは、律速が別の場所へ移っているからである。正直に言えば、数値は模型で、$R$ も $W_{c}$ も $W_{e}$ も置いた値である。$0.039506$ という位置は材料ごとに違う。変わらないのは、入れ替わる点が存在することである。

参考文献

  1. Lewis, W. K. (1921). The Rate of Drying of Solid Materials. Journal of Industrial and Engineering Chemistry.
  2. Sherwood, T. K. (1929). The Drying of Solids. Industrial and Engineering Chemistry.
  3. Mujumdar, A. S. (Ed.) (2014). Handbook of Industrial Drying (4th ed.). CRC Press.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『待っているのは反応ではなく、拡散である』[論文445]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732445
  6. 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
  7. 山岸勇輝 (2026). 『凍った道でゆっくり走ると、速く走るより危ないことがある』[論文453]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732924
  8. 山岸勇輝 (2026). 『水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい』[論文454]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732989

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「どこまで乾かすかで、律速が入れ替わる」[論文455]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733024

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). どこまで乾かすかで、律速が入れ替わる [論文455]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/455 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733024

Yamagishi, Y. (2026). How Dry You Want It Decides Which Stage Is Rate-Limiting [Paper 455]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/455; DOI: 10.5281/zenodo.22733024

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