【論文466】全部を合わせられないことは、証明された事実である

要旨

平均律は妥協の産物だと言われる。本稿が示すのは、妥協せざるを得ないことが数で決まっていることである。$(3/2)^{12}$ と $2^{7}$ が一致しないのは、$2$ と $3$ が互いに素だからである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、五度を $12$ 回積むと $7$ オクターブを $\mathbf{23.4600}$ セント超える(第2節)。

第二に、平均律の五度のずれ $\mathbf{1.9550}$ セントは、そのコンマのちょうど $12$ 分の $1$ である(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。長三度のずれは $\mathbf{-13.6863}$ セントで、五度の $\mathbf{7.0007}$ 倍ある(第3節)。

第四に、三度の側のコンマは $\mathbf{21.5063}$ セントで、五度の側の $23.4600$ とは別物である(第3節)。

第五に、平均律は五度を合わせ、三度を犠牲にしている(第3節)。

第六に、分離子は「近似の誤差か、閉じないことの証拠か」である(第4節)。

キーワード:音律、平均律、ピタゴラスのコンマ、シントニックコンマ、純正律。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ピタゴラスのコンマ、シントニックコンマ、十二平均律はすべて既知である。音楽を評価しない。どの音律が美しいか、どう演奏すべきかは主題ではない。聴覚を論じない。うなり、可聴限界、和音の協和感は主題ではない。比の計算だけを見る。歴史を扱わない。中全音律、ヴェルクマイスター、キルンベルガーなどの経緯は主題ではない。楽器を論じない。調律の実務、インハーモニシティ、可変音律は主題ではない。既刊との関係:論文465 は材質より大きさが $40$ 倍効くことを示した。そこでも、二つの因子の大小が問題だった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「五度のコンマ」と「三度のコンマ」は、その基準で別根である。論文459 は往復すれば損失が $1.9$ 倍になることを示した。そこでも、積み重ねが冪になっていた。加えたのは、ピタゴラスのコンマを $23.4600$ セントと出して既知と照合したこと、平均律の五度のずれがコンマの $12$ 分の $1$ と厳密に一致することを示したこと、三度のずれを $-13.6863$ セントと出したこと、比を $7.0007$ 倍と出したこと、二つのコンマが別物であることを示したこと、分離子を「近似の誤差か、閉じないことの証拠か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:二つの音の高さの隔たりを、周波数比の対数で測る。単位はセントで、

$$c=1200\log_{2}\frac{f_{2}}{f_{1}}$$

と定める。オクターブは $1200$ セントである。純正な完全五度は周波数比 $3/2$、純正な長三度は $5/4$ である。十二平均律では、五度は $2^{7/12}$、長三度は $2^{4/12}$ となる。

観察 1.1 平均律は妥協の産物だと言われる。どの調でも同じように弾けるかわりに、どの和音も少しずれている。そう説明される。

観察 1.2 だが「妥協」という言い方は、うまくやれば避けられるように聞こえる。避けられない。それが数で決まっていることを見る。

問い:どれだけずれ、どこへ配られているのか。

2. 五度を十二回積むと 23.4600 セント余る

計算 2.1:純正五度を $12$ 回積んだ比と、$7$ オクターブの比を比べる。

$(3/2)^{12}/2^{7}=\mathbf{1.013643265}$、すなわち $\mathbf{23.4600}$ セントである。

観察 2.2 既知のピタゴラスのコンマ $23.46$ セントと一致する。独立な確認である。$1$ を超えているので、円環が閉じていない。

観察 2.3 閉じないのは、$2$ と $3$ が互いに素だからである。$3^{12}=531441$ と $2^{19}=524288$ は決して等しくならない。どんな整数の組でも $2^{a}=3^{b}$ にはならない。

計算 2.4:平均律の五度と純正五度のずれを出す。

$\mathbf{1.9550}$ セントである(純正 $1.500000$、平均律 $1.498307$)。

観察 2.5 これはコンマのちょうど $12$ 分の $1$ である。$23.4600/12=1.9550$ と厳密に一致、平均律とは、閉じない分を $12$ 等分して配ることである。

観察 2.6 $1.9550$ セントは、ほとんど聞き分けられない。五度に関するかぎり、平均律はよくできている。問題は別のところにある。

3. 三度は五度の 7.0007 倍ずれている

計算 3.1:純正長三度と平均律長三度のずれを出す。

音程 純正 平均律とのずれ [セント]
完全五度 $1.500000$ $\mathbf{1.9550}$
長三度 $1.250000$ $\mathbf{-13.6863}$

観察 3.2 三度のずれは五度の $\mathbf{7.0007}$ 倍ある。$13.6863$ 対 $1.9550$、同じ平均律の中で、音程によって精度がまったく違う。

観察 3.3 符号が逆である。五度は平均律のほうが低く、三度は平均律のほうが高い。$-13.6863$ という負号がそれを示している。

計算 3.4:三度の側のコンマ(シントニックコンマ)を出す。

$(3/2)^{4}/2^{2}$ と $5/4$ の比は $\mathbf{21.5063}$ セントである。

観察 3.5 既知のシントニックコンマ $21.51$ セントと一致する。独立な確認である。そしてピタゴラスのコンマ $23.4600$ とは $1.9537$ セント違う。

観察 3.6 つまり閉じない場所が二つある。一つは $2$ と $3$ の間、もう一つは $2$、$3$ と $5$ の間、別々の素数に由来する、別々のずれである。

観察 3.7 平均律は前者だけを $12$ 等分して片づけ、後者を放置している。だから五度は $1.9550$、三度は $13.6863$、どちらを合わせるかを選んだ結果である。

4. 分離子

分離子:近似の誤差か、閉じないことの証拠か。

観察 4.1 近似の誤差なら、精度を上げれば減らせる。計算を細かくすればよい。原理的な壁は無い。

観察 4.2 閉じないことの証拠なら、どんな精度でも消えない。$2^{a}=3^{b}$ を満たす正の整数が無いから、$23.4600$ セントは、測定の誤差ではなく算術の帰結である。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「音律のずれ」と呼ばれる。一方は $2$ と $3$ の非可換性、一方は $5$ を加えたときの非可換性である。

観察 4.4 だから「もっとよい音律」を探しても、二つを同時にはゼロにできない。どちらを合わせるかを選ぶだけである。中全音律は三度を合わせて五度を犠牲にし、平均律はその逆をした。

観察 4.5 論文459 と同じ場所にいる。そこでは効率が段を重ねると冪になった。ここでは五度を重ねると冪になり、$2$ の冪と決して出会わない。どちらも、積み重ねが指数を作っている。

観察 4.6 論文465 とも重なる。そこでは二つの因子の大小が答えを決めた。ここでは二つのコンマの大小が、どちらを犠牲にするかを決めている。

観察 4.7 正直に言えば、どのずれが聞こえるかは論じていない。$13.6863$ セントが実際にどう聞こえるかは、和音、音域、音色、うなりで変わる。ここで言えるのは、ずれが数として避けられないことまでである。

5. 点呼と結び

  1. コンマは $23.4600$ セント(計算 2.1):既知と一致。
  2. $2$ と $3$ が互いに素だから(観察 2.3):$3^{12}\ne2^{19}$。
  3. 五度のずれは $1.9550$ セント(計算 2.4):コンマの $12$ 分の $1$。
  4. 厳密に一致する(観察 2.5):等分して配っている。
  5. 三度のずれは $-13.6863$ セント(計算 3.1):本稿の芯。
  6. 五度の $7.0007$ 倍(観察 3.2):音程で精度が違う。
  7. 符号が逆(観察 3.3):三度は平均律のほうが高い。
  8. シントニックコンマは $21.5063$(計算 3.4):別物である。
  9. 分離子は近似の誤差か閉じないことか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. 同時にゼロにはできない(観察 4.4):どちらを選ぶかだけ。

結び:平均律は妥協の産物だと言われる。どの調でも同じように弾けるかわりに、どの和音も少しずれている、と説明される。だが「妥協」という言い方は、うまくやれば避けられるように聞こえる。避けられない。それが数で決まっている。閉じないことは、算術の帰結である。純正五度を $12$ 回積むと $7$ オクターブを $\mathbf{1.013643265}$ 倍、すなわち $\mathbf{23.4600}$ セント超える。既知のピタゴラスのコンマと一致する。閉じないのは $2$ と $3$ が互いに素だからで、$3^{12}=531441$ と $2^{19}=524288$ は決して等しくならず、どんな整数の組でも $2^{a}=3^{b}$ にはならない。平均律の五度のずれ $\mathbf{1.9550}$ セントは、そのコンマのちょうど $12$ 分の $1$ と厳密に一致する。平均律とは、閉じない分を $12$ 等分して配ることである。$1.9550$ セントはほとんど聞き分けられず、五度に関するかぎり平均律はよくできている。問題は三度にある。長三度のずれは $\mathbf{-13.6863}$ セント、五度の $\mathbf{7.0007}$ 倍ある。同じ平均律の中で、音程によって精度がまったく違う。しかも符号が逆で、五度は平均律のほうが低く、三度は平均律のほうが高い。三度の側のコンマ(シントニックコンマ)は $\mathbf{21.5063}$ セントで、既知の値と一致し、ピタゴラスのコンマ $23.4600$ とは $1.9537$ セント違う。つまり閉じない場所が二つある。一つは $2$ と $3$ の間、もう一つは $2$、$3$ と $5$ の間で、別々の素数に由来する別々のずれである。平均律は前者だけを $12$ 等分して片づけ、後者を放置している。だから五度は $1.9550$、三度は $13.6863$ で、どちらを合わせるかを選んだ結果である。分けているものは一つ、近似の誤差か、閉じないことの証拠か。近似の誤差なら精度を上げれば減らせて、原理的な壁は無い。閉じないことの証拠なら、どんな精度でも消えない。$2^{a}=3^{b}$ を満たす正の整数が無いのだから、$23.4600$ セントは測定の誤差ではなく算術の帰結である。論文300 の基準で別根であり、一方は $2$ と $3$ の非可換性、一方は $5$ を加えたときの非可換性である。だから「もっとよい音律」を探しても、二つを同時にはゼロにできない。どちらを合わせるかを選ぶだけで、中全音律は三度を合わせて五度を犠牲にし、平均律はその逆をした。論文459 と同じ場所にいて、そこでは効率が段を重ねると冪になった。ここでは五度を重ねると冪になり、$2$ の冪と決して出会わない。論文465 とも重なり、そこでは二つの因子の大小が答えを決めた。ここでは二つのコンマの大小が、どちらを犠牲にするかを決めている。正直に言えば、どのずれが聞こえるかは論じていない。$13.6863$ セントが実際にどう聞こえるかは和音、音域、音色、うなりで変わる。ここで言えるのは、ずれが数として避けられないことまでである。

参考文献

  1. Euler, L. (1739). Tentamen Novae Theoriae Musicae. Academiae Scientiarum Petropolitanae.
  2. Helmholtz, H. von (1863). Die Lehre von den Tonempfindungen. Vieweg.
  3. Barbour, J. M. (1951). Tuning and Temperament: A Historical Survey. Michigan State College Press.
  4. Benson, D. J. (2007). Music: A Mathematical Offering. Cambridge University Press.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『九割の効率が二度あれば、残るのは八割一分である』[論文459]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733103
  7. 山岸勇輝 (2026). 『材質を変えるより、小さくするほうが四十倍効く』[論文465]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733260

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「全部を合わせられないことは、証明された事実である」[論文466]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733284

YOI 466第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466・DOI 10.5281/zenodo.22733284・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 全部を合わせられないことは、証明された事実である [論文466]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733284

Yamagishi, Y. (2026). That Everything Cannot Be Tuned at Once Is a Proved Fact [Paper 466]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466; DOI: 10.5281/zenodo.22733284

@misc{yamagishi2026yoi466,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {That Everything Cannot Be Tuned at Once Is a Proved Fact},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466},
  doi = {10.5281/zenodo.22733284},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
03b4a4e72f90a80b2cae4e6f9d115c93e4146ccc7f62afdf8b75fca30dd095ee yamagishi_yoi466_v1_jp.pdf
5f710e478bb7090a82a8e00f31fb6d1e8a79bb794f9ccfa4a6cfbd64c5368d73 yamagishi_yoi466_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。