要旨
平均律は妥協の産物だと言われる。本稿が示すのは、妥協せざるを得ないことが数で決まっていることである。$(3/2)^{12}$ と $2^{7}$ が一致しないのは、$2$ と $3$ が互いに素だからである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、五度を $12$ 回積むと $7$ オクターブを $\mathbf{23.4600}$ セント超える(第2節)。
第二に、平均律の五度のずれ $\mathbf{1.9550}$ セントは、そのコンマのちょうど $12$ 分の $1$ である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。長三度のずれは $\mathbf{-13.6863}$ セントで、五度の $\mathbf{7.0007}$ 倍ある(第3節)。
第四に、三度の側のコンマは $\mathbf{21.5063}$ セントで、五度の側の $23.4600$ とは別物である(第3節)。
第五に、平均律は五度を合わせ、三度を犠牲にしている(第3節)。
第六に、分離子は「近似の誤差か、閉じないことの証拠か」である(第4節)。
キーワード:音律、平均律、ピタゴラスのコンマ、シントニックコンマ、純正律。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ピタゴラスのコンマ、シントニックコンマ、十二平均律はすべて既知である。音楽を評価しない。どの音律が美しいか、どう演奏すべきかは主題ではない。聴覚を論じない。うなり、可聴限界、和音の協和感は主題ではない。比の計算だけを見る。歴史を扱わない。中全音律、ヴェルクマイスター、キルンベルガーなどの経緯は主題ではない。楽器を論じない。調律の実務、インハーモニシティ、可変音律は主題ではない。既刊との関係:論文465 は材質より大きさが $40$ 倍効くことを示した。そこでも、二つの因子の大小が問題だった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「五度のコンマ」と「三度のコンマ」は、その基準で別根である。論文459 は往復すれば損失が $1.9$ 倍になることを示した。そこでも、積み重ねが冪になっていた。加えたのは、ピタゴラスのコンマを $23.4600$ セントと出して既知と照合したこと、平均律の五度のずれがコンマの $12$ 分の $1$ と厳密に一致することを示したこと、三度のずれを $-13.6863$ セントと出したこと、比を $7.0007$ 倍と出したこと、二つのコンマが別物であることを示したこと、分離子を「近似の誤差か、閉じないことの証拠か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:二つの音の高さの隔たりを、周波数比の対数で測る。単位はセントで、
$$c=1200\log_{2}\frac{f_{2}}{f_{1}}$$
と定める。オクターブは $1200$ セントである。純正な完全五度は周波数比 $3/2$、純正な長三度は $5/4$ である。十二平均律では、五度は $2^{7/12}$、長三度は $2^{4/12}$ となる。
観察 1.1 平均律は妥協の産物だと言われる。どの調でも同じように弾けるかわりに、どの和音も少しずれている。そう説明される。
観察 1.2 だが「妥協」という言い方は、うまくやれば避けられるように聞こえる。避けられない。それが数で決まっていることを見る。
問い:どれだけずれ、どこへ配られているのか。
2. 五度を十二回積むと 23.4600 セント余る
計算 2.1:純正五度を $12$ 回積んだ比と、$7$ オクターブの比を比べる。
$(3/2)^{12}/2^{7}=\mathbf{1.013643265}$、すなわち $\mathbf{23.4600}$ セントである。
観察 2.2 既知のピタゴラスのコンマ $23.46$ セントと一致する。独立な確認である。$1$ を超えているので、円環が閉じていない。
観察 2.3 閉じないのは、$2$ と $3$ が互いに素だからである。$3^{12}=531441$ と $2^{19}=524288$ は決して等しくならない。どんな整数の組でも $2^{a}=3^{b}$ にはならない。
計算 2.4:平均律の五度と純正五度のずれを出す。
$\mathbf{1.9550}$ セントである(純正 $1.500000$、平均律 $1.498307$)。
観察 2.5 これはコンマのちょうど $12$ 分の $1$ である。$23.4600/12=1.9550$ と厳密に一致、平均律とは、閉じない分を $12$ 等分して配ることである。
観察 2.6 $1.9550$ セントは、ほとんど聞き分けられない。五度に関するかぎり、平均律はよくできている。問題は別のところにある。
3. 三度は五度の 7.0007 倍ずれている
計算 3.1:純正長三度と平均律長三度のずれを出す。
| 音程 | 純正 | 平均律とのずれ [セント] |
|---|---|---|
| 完全五度 | $1.500000$ | $\mathbf{1.9550}$ |
| 長三度 | $1.250000$ | $\mathbf{-13.6863}$ |
観察 3.2 三度のずれは五度の $\mathbf{7.0007}$ 倍ある。$13.6863$ 対 $1.9550$、同じ平均律の中で、音程によって精度がまったく違う。
観察 3.3 符号が逆である。五度は平均律のほうが低く、三度は平均律のほうが高い。$-13.6863$ という負号がそれを示している。
計算 3.4:三度の側のコンマ(シントニックコンマ)を出す。
$(3/2)^{4}/2^{2}$ と $5/4$ の比は $\mathbf{21.5063}$ セントである。
観察 3.5 既知のシントニックコンマ $21.51$ セントと一致する。独立な確認である。そしてピタゴラスのコンマ $23.4600$ とは $1.9537$ セント違う。
観察 3.6 つまり閉じない場所が二つある。一つは $2$ と $3$ の間、もう一つは $2$、$3$ と $5$ の間、別々の素数に由来する、別々のずれである。
観察 3.7 平均律は前者だけを $12$ 等分して片づけ、後者を放置している。だから五度は $1.9550$、三度は $13.6863$、どちらを合わせるかを選んだ結果である。
4. 分離子
分離子:近似の誤差か、閉じないことの証拠か。
観察 4.1 近似の誤差なら、精度を上げれば減らせる。計算を細かくすればよい。原理的な壁は無い。
観察 4.2 閉じないことの証拠なら、どんな精度でも消えない。$2^{a}=3^{b}$ を満たす正の整数が無いから、$23.4600$ セントは、測定の誤差ではなく算術の帰結である。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「音律のずれ」と呼ばれる。一方は $2$ と $3$ の非可換性、一方は $5$ を加えたときの非可換性である。
観察 4.4 だから「もっとよい音律」を探しても、二つを同時にはゼロにできない。どちらを合わせるかを選ぶだけである。中全音律は三度を合わせて五度を犠牲にし、平均律はその逆をした。
観察 4.5 論文459 と同じ場所にいる。そこでは効率が段を重ねると冪になった。ここでは五度を重ねると冪になり、$2$ の冪と決して出会わない。どちらも、積み重ねが指数を作っている。
観察 4.6 論文465 とも重なる。そこでは二つの因子の大小が答えを決めた。ここでは二つのコンマの大小が、どちらを犠牲にするかを決めている。
観察 4.7 正直に言えば、どのずれが聞こえるかは論じていない。$13.6863$ セントが実際にどう聞こえるかは、和音、音域、音色、うなりで変わる。ここで言えるのは、ずれが数として避けられないことまでである。
5. 点呼と結び
- コンマは $23.4600$ セント(計算 2.1):既知と一致。
- $2$ と $3$ が互いに素だから(観察 2.3):$3^{12}\ne2^{19}$。
- 五度のずれは $1.9550$ セント(計算 2.4):コンマの $12$ 分の $1$。
- 厳密に一致する(観察 2.5):等分して配っている。
- 三度のずれは $-13.6863$ セント(計算 3.1):本稿の芯。
- 五度の $7.0007$ 倍(観察 3.2):音程で精度が違う。
- 符号が逆(観察 3.3):三度は平均律のほうが高い。
- シントニックコンマは $21.5063$(計算 3.4):別物である。
- 分離子は近似の誤差か閉じないことか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 同時にゼロにはできない(観察 4.4):どちらを選ぶかだけ。
結び:平均律は妥協の産物だと言われる。どの調でも同じように弾けるかわりに、どの和音も少しずれている、と説明される。だが「妥協」という言い方は、うまくやれば避けられるように聞こえる。避けられない。それが数で決まっている。閉じないことは、算術の帰結である。純正五度を $12$ 回積むと $7$ オクターブを $\mathbf{1.013643265}$ 倍、すなわち $\mathbf{23.4600}$ セント超える。既知のピタゴラスのコンマと一致する。閉じないのは $2$ と $3$ が互いに素だからで、$3^{12}=531441$ と $2^{19}=524288$ は決して等しくならず、どんな整数の組でも $2^{a}=3^{b}$ にはならない。平均律の五度のずれ $\mathbf{1.9550}$ セントは、そのコンマのちょうど $12$ 分の $1$ と厳密に一致する。平均律とは、閉じない分を $12$ 等分して配ることである。$1.9550$ セントはほとんど聞き分けられず、五度に関するかぎり平均律はよくできている。問題は三度にある。長三度のずれは $\mathbf{-13.6863}$ セント、五度の $\mathbf{7.0007}$ 倍ある。同じ平均律の中で、音程によって精度がまったく違う。しかも符号が逆で、五度は平均律のほうが低く、三度は平均律のほうが高い。三度の側のコンマ(シントニックコンマ)は $\mathbf{21.5063}$ セントで、既知の値と一致し、ピタゴラスのコンマ $23.4600$ とは $1.9537$ セント違う。つまり閉じない場所が二つある。一つは $2$ と $3$ の間、もう一つは $2$、$3$ と $5$ の間で、別々の素数に由来する別々のずれである。平均律は前者だけを $12$ 等分して片づけ、後者を放置している。だから五度は $1.9550$、三度は $13.6863$ で、どちらを合わせるかを選んだ結果である。分けているものは一つ、近似の誤差か、閉じないことの証拠か。近似の誤差なら精度を上げれば減らせて、原理的な壁は無い。閉じないことの証拠なら、どんな精度でも消えない。$2^{a}=3^{b}$ を満たす正の整数が無いのだから、$23.4600$ セントは測定の誤差ではなく算術の帰結である。論文300 の基準で別根であり、一方は $2$ と $3$ の非可換性、一方は $5$ を加えたときの非可換性である。だから「もっとよい音律」を探しても、二つを同時にはゼロにできない。どちらを合わせるかを選ぶだけで、中全音律は三度を合わせて五度を犠牲にし、平均律はその逆をした。論文459 と同じ場所にいて、そこでは効率が段を重ねると冪になった。ここでは五度を重ねると冪になり、$2$ の冪と決して出会わない。論文465 とも重なり、そこでは二つの因子の大小が答えを決めた。ここでは二つのコンマの大小が、どちらを犠牲にするかを決めている。正直に言えば、どのずれが聞こえるかは論じていない。$13.6863$ セントが実際にどう聞こえるかは和音、音域、音色、うなりで変わる。ここで言えるのは、ずれが数として避けられないことまでである。
参考文献
- Euler, L. (1739). Tentamen Novae Theoriae Musicae. Academiae Scientiarum Petropolitanae.
- Helmholtz, H. von (1863). Die Lehre von den Tonempfindungen. Vieweg.
- Barbour, J. M. (1951). Tuning and Temperament: A Historical Survey. Michigan State College Press.
- Benson, D. J. (2007). Music: A Mathematical Offering. Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『九割の効率が二度あれば、残るのは八割一分である』[論文459]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733103
- 山岸勇輝 (2026). 『材質を変えるより、小さくするほうが四十倍効く』[論文465]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733260
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「全部を合わせられないことは、証明された事実である」[論文466]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733284
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 全部を合わせられないことは、証明された事実である [論文466]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733284
Yamagishi, Y. (2026). That Everything Cannot Be Tuned at Once Is a Proved Fact [Paper 466]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466; DOI: 10.5281/zenodo.22733284
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