要旨
有利な変異は広がる、と言われる。本稿が示すのは、有利さが効くかどうかを決めているのは、有利さの大きさではなく集団の大きさとの積であることである。$Ns$ が小さければ、有利であることが役に立たない。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$s=0.01$ の変異は、$N=10000$ でも固定確率が $\mathbf{0.019801}$ で頭打ちになる(第2節)。
第二に、中立の場合は $1/(2N)$ で、$N$ とともにいくらでも小さくなる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。中立との比は $N=10$ で $\mathbf{1.2012}$ 倍、$N=500$ で $\mathbf{19.8013}$ 倍である(第3節)。
第四に、比は $N$ について単調に増え、$Ns$ が小さいほど中立に近づく(第3節)。
第五に、$s=0$ では固定確率が厳密に $1/(2N)$ になる(第3節)。
第六に、分離子は「有利さが効くか、$Ns$ が効くか」である(第4節)。
キーワード:固定確率、遺伝的浮動、集団の大きさ、自然選択、ほぼ中立説。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。木村の固定確率の式、遺伝的浮動、ほぼ中立説はすべて既知である。進化の歴史を論じない。特定の形質、系統、年代は主題ではない。拡散近似を用いる。世代が重ならず、集団サイズが一定で、選択が弱いという仮定に立つ。実際の集団はこれらを満たさないことが多い。有効集団サイズを区別しない。$N$ を有効集団サイズとして扱う。実際の個体数とは大きく違いうる。連鎖と組換えを扱わない。ヒッチハイキング、背景選択、連鎖不平衡は主題ではない。既刊との関係:論文477 は最小でないものを足しても効かないことを示した。そこでも、量そのものではなく組が効いていた。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「選択が働く」と「$Ns$ が大きい」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、単独の量が条件なしには決まらなかった。加えたのは、四つの集団サイズで固定確率を出したこと、中立との比を $1.2012$ 倍と $19.8013$ 倍と出したこと、比が $N$ について単調に増えることを確かめたこと、$Ns=0.02$ で中立から $5$ パーセント以内に入ることを示したこと、$s=0$ で厳密に中立値になることを確かめたこと、分離子を「$s$ か $Ns$ か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:有効集団サイズ $N$ の二倍体集団に、選択係数 $s$ の変異が一個体に一つ生じたとする。初期頻度は $p_{0}=1/(2N)$ である。拡散近似のもとで、この変異が集団全体に広がる(固定する)確率は
$$u=\frac{1-e^{-4Nsp_{0}}}{1-e^{-4Ns}}$$
で与えられる。$s=0$ のときは $u=p_{0}=1/(2N)$ に帰着する。以下 $s=0.01$ とする。
観察 1.1 有利な変異は広がる、と言われる。有利なら選ばれる。選択の定義そのものに見える。
観察 1.2 だが最初は一個体しか持っていない。有利でも、偶然で消えうる。偶然の大きさは、集団の小ささで決まる。
問い:どちらが勝つのか。
2. 有利さは、大集団でしか効かない
計算 2.1:四つの集団サイズで、固定確率を出す。
| 集団サイズ $N$ | 固定確率 | 中立の場合 $1/(2N)$ |
|---|---|---|
| $10$ | $\mathbf{0.060062}$ | $0.050000$ |
| $100$ | $0.020171$ | $0.005000$ |
| $1000$ | $0.019801$ | $0.000500$ |
| $10000$ | $\mathbf{0.019801}$ | $0.000050$ |
観察 2.2 固定確率は $N$ を大きくしても $\mathbf{0.019801}$ で頭打ちになる。$N=1000$ と $N=10000$ で同じ、有利な変異の運命は、集団が十分大きければ集団サイズに依らない。
観察 2.3 その値は $2s$ にほぼ等しい。$s=0.01$ に対して $0.019801$、$1$ パーセント有利な変異でも、約 $50.5$ 回に $1$ 回しか広がらない。
観察 2.4 一方、中立の場合は $N$ とともにいくらでも小さくなる。$0.050000$ から $0.000050$ へ、$1000$ 分の $1$。
観察 2.5 だから比を見なければならない。絶対値では、小集団のほうが固定確率が高い。有利だからではなく、偶然で広がりやすいだけである。
3. 比は 1.2012 倍から 19.8013 倍まで動く
計算 3.1:五つの集団サイズで、中立との比を出す。
| $N$ | $Ns$ | 中立との比 |
|---|---|---|
| $10$ | $0.10$ | $\mathbf{1.2012}$ |
| $25$ | $0.25$ | $1.5663$ |
| $50$ | $0.50$ | $2.2901$ |
| $100$ | $1.00$ | $4.0342$ |
| $500$ | $5.00$ | $\mathbf{19.8013}$ |
観察 3.2 $N=10$ では $\mathbf{1.2012}$ 倍にしかならない。中立とほとんど区別がつかない。有利であることが、ほぼ役に立っていない。
観察 3.3 $N=500$ では $\mathbf{19.8013}$ 倍になる。同じ $s=0.01$ で、有利さは変わらず、集団だけが変わった。
観察 3.4 比は $N$ について単調に増える。$1.2012<4.0342<19.8013$ と、途中でも順序が保たれる。$Ns$ が小さいほど中立に近い。
観察 3.5 $Ns=0.02$($N=2$)では、中立から $5$ パーセント以内に入る。比が $1.0302$、極限では中立に一致する。
観察 3.6 そして $s=0$ では、固定確率が厳密に $1/(2N)$ になる。境目であり、式が正しく置かれていることの確認でもある。近似的にではなく、厳密に一致する。
観察 3.7 不利な変異でも、小集団では固定しうる。$s=-0.01$、$N=10$ で中立の $0.8215$ 倍、$N=10000$ では $7.738\times10^{-172}$ 倍で、実質ゼロ。同じ不利さが、集団の大きさで運命を変える。
4. 分離子
分離子:有利さが効くか、$Ns$ が効くか。
観察 4.1 有利さが効くなら、$s$ を見れば分かる。$1$ パーセント有利なら、どこでも $1$ パーセント有利、形質だけを見ればよい。
観察 4.2 $Ns$ が効くなら、集団を知らなければ分からない。同じ $s$ が $1.2$ 倍にも $19.8$ 倍にもなる。形質だけでは決まらない。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「選択が働いている」と呼ばれる。一方は形質の量、一方は形質と集団の組の量である。
観察 4.4 論文477 と同じ形である。そこでは足した量ではなく、どこへ足したかが効いた。ここでは有利さの大きさではなく、どの集団にいるかが効く。どちらも、単独の量では答えが決まらない。
観察 4.5 論文446 とも重なる。そこでは「下限の何倍か」が回収率を言わなければ決まらなかった。ここでは「有利な変異」が集団サイズを言わなければ決まらない。
観察 4.6 だから小集団では、有害な変異も溜まりうる。選択が振り分けきれないから、これがほぼ中立説の中身であり、絶滅の危機にある集団で問題になる。
観察 4.7 正直に言えば、拡散近似に立っている。世代が重ならず、集団サイズが一定で、選択が弱いという仮定であり、実際の集団はこれらを満たさないことが多い。$19.8013$ という値は近似のものだが、効くのが $s$ ではなく $Ns$ であるという結論は、この族の模型で広く成り立つ。
5. 点呼と結び
- $N=10000$ で $0.019801$(計算 2.1):頭打ちになる。
- その値は $2s$ にほぼ等しい(観察 2.3):約 $50.5$ 回に $1$ 回。
- 中立は $0.050000$ から $0.000050$(計算 2.1):$1000$ 分の $1$。
- 絶対値では小集団が高い(観察 2.5):偶然で広がる。
- $N=10$ で $1.2012$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
- $N=500$ で $19.8013$ 倍(計算 3.1):同じ $s$ で。
- 比は単調に増える(観察 3.4):$Ns$ が効く。
- $s=0$ で厳密に $1/(2N)$(観察 3.6):境目の確認。
- 不利でも小集団なら固定しうる(観察 3.7):$0.8215$ 倍。
- 分離子は $s$ か $Ns$ か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:有利な変異は広がる、と言われる。有利なら選ばれる、というのは選択の定義そのものに見える。だが最初は一個体しか持っていない。有利でも偶然で消えうるし、偶然の大きさは集団の小ささで決まる。有利さは、大集団でしか効かない。$s=0.01$ の変異の固定確率は $N=1000$ でも $N=10000$ でも $\mathbf{0.019801}$ で頭打ちになる。集団が十分大きければ、有利な変異の運命は集団サイズに依らない。その値は $2s$ にほぼ等しい。$1$ パーセント有利な変異でも、約 $50.5$ 回に $1$ 回しか広がらない。一方、中立の場合は $0.050000$ から $0.000050$ へ $1000$ 分の $1$ になる。だから絶対値では小集団のほうが固定確率が高いが、それは有利だからではなく、偶然で広がりやすいだけである。比を見ると、$1.2012$ 倍から $19.8013$ 倍まで動く。$N=10$($Ns=0.10$)では $\mathbf{1.2012}$ 倍にしかならず、中立とほとんど区別がつかない。有利であることが、ほぼ役に立っていない。$N=500$($Ns=5.00$)では $\mathbf{19.8013}$ 倍になる。同じ $s=0.01$ で、有利さは変わらず集団だけが変わった。比は $N$ について単調に増え、$1.2012<4.0342<19.8013$ と途中でも順序が保たれる。$Ns$ が小さいほど中立に近い。$Ns=0.02$ では比が $1.0302$ と中立から $5$ パーセント以内に入り、極限では中立に一致する。そして $s=0$ では固定確率が厳密に $1/(2N)$ になる。境目であり、式の確認でもある。不利な変異でも小集団では固定しうる。$s=-0.01$、$N=10$ で中立の $0.8215$ 倍、$N=10000$ では $7.738\times10^{-172}$ 倍で実質ゼロ。同じ不利さが、集団の大きさで運命を変える。分けているものは一つ、有利さが効くか、$Ns$ が効くか。有利さが効くなら $s$ を見れば分かり、$1$ パーセント有利ならどこでも $1$ パーセント有利で、形質だけを見ればよい。$Ns$ が効くなら集団を知らなければ分からず、同じ $s$ が $1.2$ 倍にも $19.8$ 倍にもなる。論文300 の基準で別根であり、一方は形質の量、一方は形質と集団の組の量である。論文477 と同じ形で、そこでは足した量ではなくどこへ足したかが効いた。どちらも、単独の量では答えが決まらない。論文446 とも重なり、そこでは「下限の何倍か」が回収率を言わなければ決まらなかった。ここでは「有利な変異」が集団サイズを言わなければ決まらない。だから小集団では有害な変異も溜まりうる。選択が振り分けきれないからで、これがほぼ中立説の中身であり、絶滅の危機にある集団で問題になる。正直に言えば、拡散近似に立っている。世代が重ならず、集団サイズが一定で、選択が弱いという仮定であり、実際の集団はこれらを満たさないことが多い。$19.8013$ という値は近似のものだが、効くのが $s$ ではなく $Ns$ であるという結論は、この族の模型で広く成り立つ。
参考文献
- Fisher, R. A. (1930). The Genetical Theory of Natural Selection. Clarendon Press.
- Wright, S. (1931). Evolution in Mendelian Populations. Genetics.
- Kimura, M. (1962). On the Probability of Fixation of Mutant Genes in a Population. Genetics.
- Ohta, T. (1973). Slightly Deleterious Mutant Substitutions in Evolution. Nature.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
- 山岸勇輝 (2026). 『効かない投入を続けているあいだ、律速はそこにいない』[論文477]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733686
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「有利であることが効くかどうかは、集団の大きさが決めている」[論文478]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733726
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 有利であることが効くかどうかは、集団の大きさが決めている [論文478]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733726
Yamagishi, Y. (2026). Whether Being Advantageous Matters Is Decided by the Size of the Population [Paper 478]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478; DOI: 10.5281/zenodo.22733726
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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