【論文478】有利であることが効くかどうかは、集団の大きさが決めている

要旨

有利な変異は広がる、と言われる。本稿が示すのは、有利さが効くかどうかを決めているのは、有利さの大きさではなく集団の大きさとの積であることである。$Ns$ が小さければ、有利であることが役に立たない。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$s=0.01$ の変異は、$N=10000$ でも固定確率が $\mathbf{0.019801}$ で頭打ちになる(第2節)。

第二に、中立の場合は $1/(2N)$ で、$N$ とともにいくらでも小さくなる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。中立との比は $N=10$ で $\mathbf{1.2012}$ 倍、$N=500$ で $\mathbf{19.8013}$ 倍である(第3節)。

第四に、比は $N$ について単調に増え、$Ns$ が小さいほど中立に近づく(第3節)。

第五に、$s=0$ では固定確率が厳密に $1/(2N)$ になる(第3節)。

第六に、分離子は「有利さが効くか、$Ns$ が効くか」である(第4節)。

キーワード:固定確率、遺伝的浮動、集団の大きさ、自然選択、ほぼ中立説。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。木村の固定確率の式、遺伝的浮動、ほぼ中立説はすべて既知である。進化の歴史を論じない。特定の形質、系統、年代は主題ではない。拡散近似を用いる。世代が重ならず、集団サイズが一定で、選択が弱いという仮定に立つ。実際の集団はこれらを満たさないことが多い。有効集団サイズを区別しない。$N$ を有効集団サイズとして扱う。実際の個体数とは大きく違いうる。連鎖と組換えを扱わない。ヒッチハイキング、背景選択、連鎖不平衡は主題ではない。既刊との関係:論文477 は最小でないものを足しても効かないことを示した。そこでも、量そのものではなく組が効いていた。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「選択が働く」と「$Ns$ が大きい」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、単独の量が条件なしには決まらなかった。加えたのは、四つの集団サイズで固定確率を出したこと、中立との比を $1.2012$ 倍と $19.8013$ 倍と出したこと、比が $N$ について単調に増えることを確かめたこと、$Ns=0.02$ で中立から $5$ パーセント以内に入ることを示したこと、$s=0$ で厳密に中立値になることを確かめたこと、分離子を「$s$ か $Ns$ か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:有効集団サイズ $N$ の二倍体集団に、選択係数 $s$ の変異が一個体に一つ生じたとする。初期頻度は $p_{0}=1/(2N)$ である。拡散近似のもとで、この変異が集団全体に広がる(固定する)確率は

$$u=\frac{1-e^{-4Nsp_{0}}}{1-e^{-4Ns}}$$

で与えられる。$s=0$ のときは $u=p_{0}=1/(2N)$ に帰着する。以下 $s=0.01$ とする。

観察 1.1 有利な変異は広がる、と言われる。有利なら選ばれる。選択の定義そのものに見える。

観察 1.2 だが最初は一個体しか持っていない。有利でも、偶然で消えうる。偶然の大きさは、集団の小ささで決まる。

問い:どちらが勝つのか。

2. 有利さは、大集団でしか効かない

計算 2.1:四つの集団サイズで、固定確率を出す。

集団サイズ $N$ 固定確率 中立の場合 $1/(2N)$
$10$ $\mathbf{0.060062}$ $0.050000$
$100$ $0.020171$ $0.005000$
$1000$ $0.019801$ $0.000500$
$10000$ $\mathbf{0.019801}$ $0.000050$

観察 2.2 固定確率は $N$ を大きくしても $\mathbf{0.019801}$ で頭打ちになる。$N=1000$ と $N=10000$ で同じ、有利な変異の運命は、集団が十分大きければ集団サイズに依らない。

観察 2.3 その値は $2s$ にほぼ等しい。$s=0.01$ に対して $0.019801$、$1$ パーセント有利な変異でも、約 $50.5$ 回に $1$ 回しか広がらない。

観察 2.4 一方、中立の場合は $N$ とともにいくらでも小さくなる。$0.050000$ から $0.000050$ へ、$1000$ 分の $1$。

観察 2.5 だから比を見なければならない。絶対値では、小集団のほうが固定確率が高い。有利だからではなく、偶然で広がりやすいだけである。

3. 比は 1.2012 倍から 19.8013 倍まで動く

計算 3.1:五つの集団サイズで、中立との比を出す。

$N$ $Ns$ 中立との比
$10$ $0.10$ $\mathbf{1.2012}$
$25$ $0.25$ $1.5663$
$50$ $0.50$ $2.2901$
$100$ $1.00$ $4.0342$
$500$ $5.00$ $\mathbf{19.8013}$

観察 3.2 $N=10$ では $\mathbf{1.2012}$ 倍にしかならない。中立とほとんど区別がつかない。有利であることが、ほぼ役に立っていない。

観察 3.3 $N=500$ では $\mathbf{19.8013}$ 倍になる。同じ $s=0.01$ で、有利さは変わらず、集団だけが変わった。

観察 3.4 比は $N$ について単調に増える。$1.2012<4.0342<19.8013$ と、途中でも順序が保たれる。$Ns$ が小さいほど中立に近い。

観察 3.5 $Ns=0.02$($N=2$)では、中立から $5$ パーセント以内に入る。比が $1.0302$、極限では中立に一致する。

観察 3.6 そして $s=0$ では、固定確率が厳密に $1/(2N)$ になる。境目であり、式が正しく置かれていることの確認でもある。近似的にではなく、厳密に一致する。

観察 3.7 不利な変異でも、小集団では固定しうる。$s=-0.01$、$N=10$ で中立の $0.8215$ 倍、$N=10000$ では $7.738\times10^{-172}$ 倍で、実質ゼロ。同じ不利さが、集団の大きさで運命を変える。

4. 分離子

分離子:有利さが効くか、$Ns$ が効くか。

観察 4.1 有利さが効くなら、$s$ を見れば分かる。$1$ パーセント有利なら、どこでも $1$ パーセント有利、形質だけを見ればよい。

観察 4.2 $Ns$ が効くなら、集団を知らなければ分からない。同じ $s$ が $1.2$ 倍にも $19.8$ 倍にもなる。形質だけでは決まらない。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「選択が働いている」と呼ばれる。一方は形質の量、一方は形質と集団の組の量である。

観察 4.4 論文477 と同じ形である。そこでは足した量ではなく、どこへ足したかが効いた。ここでは有利さの大きさではなく、どの集団にいるかが効く。どちらも、単独の量では答えが決まらない。

観察 4.5 論文446 とも重なる。そこでは「下限の何倍か」が回収率を言わなければ決まらなかった。ここでは「有利な変異」が集団サイズを言わなければ決まらない。

観察 4.6 だから小集団では、有害な変異も溜まりうる。選択が振り分けきれないから、これがほぼ中立説の中身であり、絶滅の危機にある集団で問題になる。

観察 4.7 正直に言えば、拡散近似に立っている。世代が重ならず、集団サイズが一定で、選択が弱いという仮定であり、実際の集団はこれらを満たさないことが多い。$19.8013$ という値は近似のものだが、効くのが $s$ ではなく $Ns$ であるという結論は、この族の模型で広く成り立つ。

5. 点呼と結び

  1. $N=10000$ で $0.019801$(計算 2.1):頭打ちになる。
  2. その値は $2s$ にほぼ等しい(観察 2.3):約 $50.5$ 回に $1$ 回。
  3. 中立は $0.050000$ から $0.000050$(計算 2.1):$1000$ 分の $1$。
  4. 絶対値では小集団が高い(観察 2.5):偶然で広がる。
  5. $N=10$ で $1.2012$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
  6. $N=500$ で $19.8013$ 倍(計算 3.1):同じ $s$ で。
  7. 比は単調に増える(観察 3.4):$Ns$ が効く。
  8. $s=0$ で厳密に $1/(2N)$(観察 3.6):境目の確認。
  9. 不利でも小集団なら固定しうる(観察 3.7):$0.8215$ 倍。
  10. 分離子は $s$ か $Ns$ か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:有利な変異は広がる、と言われる。有利なら選ばれる、というのは選択の定義そのものに見える。だが最初は一個体しか持っていない。有利でも偶然で消えうるし、偶然の大きさは集団の小ささで決まる。有利さは、大集団でしか効かない。$s=0.01$ の変異の固定確率は $N=1000$ でも $N=10000$ でも $\mathbf{0.019801}$ で頭打ちになる。集団が十分大きければ、有利な変異の運命は集団サイズに依らない。その値は $2s$ にほぼ等しい。$1$ パーセント有利な変異でも、約 $50.5$ 回に $1$ 回しか広がらない。一方、中立の場合は $0.050000$ から $0.000050$ へ $1000$ 分の $1$ になる。だから絶対値では小集団のほうが固定確率が高いが、それは有利だからではなく、偶然で広がりやすいだけである。比を見ると、$1.2012$ 倍から $19.8013$ 倍まで動く。$N=10$($Ns=0.10$)では $\mathbf{1.2012}$ 倍にしかならず、中立とほとんど区別がつかない。有利であることが、ほぼ役に立っていない。$N=500$($Ns=5.00$)では $\mathbf{19.8013}$ 倍になる。同じ $s=0.01$ で、有利さは変わらず集団だけが変わった。比は $N$ について単調に増え、$1.2012<4.0342<19.8013$ と途中でも順序が保たれる。$Ns$ が小さいほど中立に近い。$Ns=0.02$ では比が $1.0302$ と中立から $5$ パーセント以内に入り、極限では中立に一致する。そして $s=0$ では固定確率が厳密に $1/(2N)$ になる。境目であり、式の確認でもある。不利な変異でも小集団では固定しうる。$s=-0.01$、$N=10$ で中立の $0.8215$ 倍、$N=10000$ では $7.738\times10^{-172}$ 倍で実質ゼロ。同じ不利さが、集団の大きさで運命を変える。分けているものは一つ、有利さが効くか、$Ns$ が効くか。有利さが効くなら $s$ を見れば分かり、$1$ パーセント有利ならどこでも $1$ パーセント有利で、形質だけを見ればよい。$Ns$ が効くなら集団を知らなければ分からず、同じ $s$ が $1.2$ 倍にも $19.8$ 倍にもなる。論文300 の基準で別根であり、一方は形質の量、一方は形質と集団の組の量である。論文477 と同じ形で、そこでは足した量ではなくどこへ足したかが効いた。どちらも、単独の量では答えが決まらない。論文446 とも重なり、そこでは「下限の何倍か」が回収率を言わなければ決まらなかった。ここでは「有利な変異」が集団サイズを言わなければ決まらない。だから小集団では有害な変異も溜まりうる。選択が振り分けきれないからで、これがほぼ中立説の中身であり、絶滅の危機にある集団で問題になる。正直に言えば、拡散近似に立っている。世代が重ならず、集団サイズが一定で、選択が弱いという仮定であり、実際の集団はこれらを満たさないことが多い。$19.8013$ という値は近似のものだが、効くのが $s$ ではなく $Ns$ であるという結論は、この族の模型で広く成り立つ。

参考文献

  1. Fisher, R. A. (1930). The Genetical Theory of Natural Selection. Clarendon Press.
  2. Wright, S. (1931). Evolution in Mendelian Populations. Genetics.
  3. Kimura, M. (1962). On the Probability of Fixation of Mutant Genes in a Population. Genetics.
  4. Ohta, T. (1973). Slightly Deleterious Mutant Substitutions in Evolution. Nature.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
  7. 山岸勇輝 (2026). 『効かない投入を続けているあいだ、律速はそこにいない』[論文477]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733686

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「有利であることが効くかどうかは、集団の大きさが決めている」[論文478]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733726

YOI 478第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478・DOI 10.5281/zenodo.22733726・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 有利であることが効くかどうかは、集団の大きさが決めている [論文478]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733726

Yamagishi, Y. (2026). Whether Being Advantageous Matters Is Decided by the Size of the Population [Paper 478]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478; DOI: 10.5281/zenodo.22733726

@misc{yamagishi2026yoi478,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Whether Being Advantageous Matters Is Decided by the Size of the Population},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478},
  doi = {10.5281/zenodo.22733726},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
afdbab243892f165170ac29a7a77e76ef784fcc99e8fdf4cf93eac1c4b728fc6 yamagishi_yoi478_v1_jp.pdf
0e44672263ddcdbabd3714f035c66e91907ab60bcadee96f085458bad0906031 yamagishi_yoi478_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。