【論文516】単位から自由になったのではなく、単位の選択を共分散に委ねただけである

要旨

共分散で測る距離は、単位の選び方から自由だと言われる。本稿が示すのは、自由になったのではなく、選択が共分散に移っただけであることである。共分散を取り替えると値が変わる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、素の距離は $\mathbf{5.000000000000}$、共分散で測ると $\mathbf{4.123105626}$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。第一軸の単位を $100$ 倍にすると、素の距離は $\mathbf{300.026665}$ へ動くが、共分散で測った距離は $\mathbf{4.123105625618}$ のまま動かない(第2節)。

第三に、ところが共分散を取り替えると $\mathbf{3.282952601}$ になる(第3節)。

第四に、相関のある共分散では $\mathbf{2.157439560}$ になる(第3節)。

第五に、単位行列にすると素の距離 $\mathbf{5.000000000000}$ に戻る。境目である(第3節)。

第六に、分離子は「選択が消えたか、移ったか」である(第4節)。

キーワード:マハラノビス距離、共分散、単位の不変性、統計的距離、多変量解析。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。マハラノビス距離も、それが単位のとり方に依らないことも標準的である。統計を作らない。推定、外れ値検出、判別分析の手法は主題ではない。距離の値だけを見る。高次元を扱わない。二次元の例だけで、次元が上がったときの共分散の推定の難しさには入らない。どの共分散が正しいかを決めない。標本共分散を使うべきか、事前の知識を使うべきかは主題ではない。取り替えると値が変わることを示すだけである。正定値性を前提とする。共分散が退化する場合には入らない。既刊との関係:論文95 は規約と事実を分けた。本稿の共分散は、事実に見えて規約の側にいる量である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。単位からの自由と、共分散への依存は別根である。論文505 は「勢力圏」が三つあり、指数が違うと示した。どちらも、一つに見える量が選択の数だけあった場合である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、素の距離と共分散で測った距離を並べたこと、単位を $100$ 倍にして片方だけが動くことを示したこと、共分散を三通りに取り替えて値の変化を出したこと、単位行列で素の距離に戻ることを確かめたこと、分離子を「選択が消えたか移ったか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:二点 $x$、$y$ の間の距離を二通りに測る。素の距離は

$$d_{E}=\sqrt{(x-y)^{\top}(x-y)}$$

共分散 $\Sigma$ で測る距離は

$$d_{M}=\sqrt{(x-y)^{\top}\Sigma^{-1}(x-y)}$$

である。以下、$x=(0,0)$、$y=(3,4)$ とし、$\Sigma$ を取り替えたり、軸の単位を変えたりして値を見る。

観察 1.1 共分散で測る距離は、単位の選び方から自由だと言われる。メートルでもキロメートルでも同じ値、恣意性が消えた、という像である。

観察 1.2 だが式には $\Sigma$ が入っている。どの共分散を使うか、それも一つの選択である。

問い:選択は消えたのか、場所を変えただけか。

2. 単位を変えても動かない

計算 2.1:二つの距離を出す。

測り方 値
素の距離 $\mathbf{5.000000000000}$
共分散 $\mathrm{diag}(9,1)$ で測る $\mathbf{4.123105626}$

観察 2.2 素の距離が $5$ になる。$3$ と $4$ の直角三角形、独立に確かめられる値である。

観察 2.3 共分散で測ると別の値になる。$4.123105626$、第一軸のばらつきが大きいので、その方向の差が割り引かれている。

計算 2.4:第一軸の単位を $100$ 倍にする。

測り方 元の単位 $100$ 倍の単位
素の距離 $5.000000$ $\mathbf{300.026665}$
共分散で測る $4.123105625618$ $\mathbf{4.123105625618}$

観察 2.5 素の距離は $60$ 倍に動く。$5.000000$ から $300.026665$ へ、単位を変えただけで、二点の関係は変わっていないのに。

観察 2.6 共分散で測った距離は桁一つ動かない。$4.123105625618$ 対 $4.123105625618$、共分散も同じ倍率で変わるので、逆行列との間で打ち消す。

観察 2.7 ここまでは「単位から自由」という言い方で困らない。実際に動かない。この操作だけを見ていれば、恣意性が消えたように見える。

3. 共分散を取り替えると、動く

計算 3.1:同じ二点を、別の共分散で測る。

共分散 距離
$\mathrm{diag}(9,1)$ $4.123105626$
$\mathrm{diag}(1,9)$ $\mathbf{3.282952601}$
相関つき(対角 $4$、非対角 $1.5$) $\mathbf{2.157439560}$
単位行列 $\mathbf{5.000000000000}$

観察 3.2 軸を入れ替えるだけで値が変わる。$4.123105626$ から $3.282952601$、二点は同じで、共分散だけを取り替えた。

観察 3.3 相関を入れるとさらに変わる。$2.157439560$、非対角の成分が、二つの軸の差を結びつけている。

観察 3.4 単位行列にすると素の距離に戻る。$5.000000000000$ 対 $5.000000000000$、境目であり、素の距離は「共分散を単位行列に選んだ場合」である。

観察 3.5 つまり素の距離も、一つの選択である。何も選んでいないのではない。単位行列を選んだのである。

観察 3.6 三つの値が $2.16$ から $5.00$ まで開く。同じ二点、$2.3$ 倍の幅があり、どれを使うかで「遠い」か「近い」かが変わる。

4. 分離子

分離子:選択が消えたのか、場所を変えたのか。

観察 4.1 消えたなら、何を動かしても値が変わらないはずである。単位でも共分散でも、だが共分散では変わった。

観察 4.2 場所を変えたなら、動かす対象が入れ替わる。単位から共分散へ、実際、単位では動かず、共分散では動いた。

観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「恣意性が無い」と言える。一方は選択が存在しないこと、一方は選択が別の場所にあることで、意味が違う。

観察 4.4 論文95 が分けた規約と事実の、境目に立つ量である。共分散は測って決める。事実に見えるが、どの標本から測るか、どの母集団を想定するかは選択であり、そこが規約の側に残る。

観察 4.5 論文505 とも同じ形である。「勢力圏」が三つあり、何と釣り合わせたかで指数が違った。こちらは「距離」が共分散の数だけあり、何を基準に割り引いたかで値が違う。

観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「この距離は単位に依らない」という主張が問われたとき、単位を疑うのか、共分散の選び方を疑うのかで、直す先が違う。

観察 4.7 正直に言えば、どの共分散が正しいかは言っていない。標本から測るのか、事前の知識を使うのか、本稿が示したのは、取り替えると値が変わるということまでである。選択が要るという指摘は、選択が誤りだという指摘ではない。

5. 点呼と結び

  1. 素の距離 $5.000000000000$(計算 2.1):$3$ と $4$ の直角三角形。
  2. 共分散で測ると $4.123105626$(観察 2.3):差が割り引かれる。
  3. 単位 $100$ 倍で素は $300.026665$(計算 2.4):$60$ 倍に動く。
  4. 共分散で測ると動かない(観察 2.6):本稿の芯。
  5. 軸を入れ替えると $3.282952601$(計算 3.1):二点は同じ。
  6. 相関を入れると $2.157439560$(観察 3.3):非対角が効く。
  7. 単位行列で $5.000000000000$(観察 3.4):素の距離に戻る。
  8. 三つの値が $2.3$ 倍開く(観察 3.6):遠いか近いかが変わる。
  9. 分離子は消えたか移ったか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. どれが正しいかは言っていない(観察 4.7):選択が要ることまで。

結び:共分散で測る距離は、単位の選び方から自由だと言われる。メートルでもキロメートルでも同じ値になり、恣意性が消えたという像である。だが式には $\Sigma$ が入っている。どの共分散を使うかも、一つの選択である。単位を変えても動かない。$x=(0,0)$、$y=(3,4)$ で、素の距離は $\mathbf{5.000000000000}$、共分散 $\mathrm{diag}(9,1)$ で測ると $\mathbf{4.123105626}$ である。第一軸のばらつきが大きいので、その方向の差が割り引かれている。第一軸の単位を $100$ 倍にすると、素の距離は $5.000000$ から $\mathbf{300.026665}$ へ $60$ 倍に動く。単位を変えただけで、二点の関係は変わっていないのに。ところが共分散で測った距離は $\mathbf{4.123105625618}$ のまま桁一つ動かない。共分散も同じ倍率で変わるので、逆行列との間で打ち消す。ここまでは「単位から自由」という言い方で困らず、この操作だけを見ていれば恣意性が消えたように見える。共分散を取り替えると、動く。同じ二点を $\mathrm{diag}(1,9)$ で測ると $\mathbf{3.282952601}$、相関つきの共分散で測ると $\mathbf{2.157439560}$ になる。軸を入れ替えるだけで値が変わり、二点は同じで共分散だけを取り替えた。相関を入れるとさらに変わり、非対角の成分が二つの軸の差を結びつけている。単位行列にすると $\mathbf{5.000000000000}$ と素の距離に戻る。境目であり、素の距離は「共分散を単位行列に選んだ場合」である。つまり素の距離も一つの選択であって、何も選んでいないのではなく、単位行列を選んだのである。三つの値は $2.16$ から $5.00$ まで、$2.3$ 倍の幅で開き、どれを使うかで「遠い」か「近い」かが変わる。分けているものは一つ、選択が消えたのか、場所を変えたのか。消えたなら、単位でも共分散でも値が変わらないはずだが、共分散では変わった。場所を変えたなら、動かす対象が単位から共分散へ入れ替わる。実際、単位では動かず、共分散では動いた。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「恣意性が無い」と言えるが、一方は選択が存在しないこと、一方は選択が別の場所にあることで、意味が違う。論文95 が分けた規約と事実の境目に立つ量でもある。共分散は測って決めるので事実に見えるが、どの標本から測るか、どの母集団を想定するかは選択であり、そこが規約の側に残る。論文505 とも同じ形で、あちらは「勢力圏」が三つあって何と釣り合わせたかで指数が違った。こちらは「距離」が共分散の数だけあり、何を基準に割り引いたかで値が違う。これは論文481 でいう分離子の一本で、「この距離は単位に依らない」という主張が問われたとき、単位を疑うのか共分散の選び方を疑うのかで直す先が違う。正直に言えば、どの共分散が正しいかは言っていない。標本から測るのか事前の知識を使うのかは主題の外であり、本稿が示したのは取り替えると値が変わるということまでである。選択が要るという指摘は、選択が誤りだという指摘ではない。

参考文献

  1. Mahalanobis, P. C. (1936). On the Generalised Distance in Statistics. Proceedings of the National Institute of Sciences of India.
  2. McLachlan, G. J. (1999). Mahalanobis Distance. Resonance.
  3. Rao, C. R. (1973). Linear Statistical Inference and Its Applications (2nd ed.). Wiley.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『規約と事実を分ける』[論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
  7. 山岸勇輝 (2026). 『「勢力圏」は三つあり、質量比を $1000$ 分の $1$ にすると別々に縮む』[論文505]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22861782

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「単位から自由になったのではなく、単位の選択を共分散に委ねただけである」[論文516]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22862360

YOI 516第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 単位から自由になったのではなく、単位の選択を共分散に委ねただけである [論文516]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/516 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22862360

Yamagishi, Y. (2026). Not Freed from Units, but Having Handed the Choice to the Covariance [Paper 516]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/516; DOI: 10.5281/zenodo.22862360

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