要旨
共分散で測る距離は、単位の選び方から自由だと言われる。本稿が示すのは、自由になったのではなく、選択が共分散に移っただけであることである。共分散を取り替えると値が変わる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、素の距離は $\mathbf{5.000000000000}$、共分散で測ると $\mathbf{4.123105626}$ である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。第一軸の単位を $100$ 倍にすると、素の距離は $\mathbf{300.026665}$ へ動くが、共分散で測った距離は $\mathbf{4.123105625618}$ のまま動かない(第2節)。
第三に、ところが共分散を取り替えると $\mathbf{3.282952601}$ になる(第3節)。
第四に、相関のある共分散では $\mathbf{2.157439560}$ になる(第3節)。
第五に、単位行列にすると素の距離 $\mathbf{5.000000000000}$ に戻る。境目である(第3節)。
第六に、分離子は「選択が消えたか、移ったか」である(第4節)。
キーワード:マハラノビス距離、共分散、単位の不変性、統計的距離、多変量解析。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。マハラノビス距離も、それが単位のとり方に依らないことも標準的である。統計を作らない。推定、外れ値検出、判別分析の手法は主題ではない。距離の値だけを見る。高次元を扱わない。二次元の例だけで、次元が上がったときの共分散の推定の難しさには入らない。どの共分散が正しいかを決めない。標本共分散を使うべきか、事前の知識を使うべきかは主題ではない。取り替えると値が変わることを示すだけである。正定値性を前提とする。共分散が退化する場合には入らない。既刊との関係:論文95 は規約と事実を分けた。本稿の共分散は、事実に見えて規約の側にいる量である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。単位からの自由と、共分散への依存は別根である。論文505 は「勢力圏」が三つあり、指数が違うと示した。どちらも、一つに見える量が選択の数だけあった場合である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、素の距離と共分散で測った距離を並べたこと、単位を $100$ 倍にして片方だけが動くことを示したこと、共分散を三通りに取り替えて値の変化を出したこと、単位行列で素の距離に戻ることを確かめたこと、分離子を「選択が消えたか移ったか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:二点 $x$、$y$ の間の距離を二通りに測る。素の距離は
$$d_{E}=\sqrt{(x-y)^{\top}(x-y)}$$
共分散 $\Sigma$ で測る距離は
$$d_{M}=\sqrt{(x-y)^{\top}\Sigma^{-1}(x-y)}$$
である。以下、$x=(0,0)$、$y=(3,4)$ とし、$\Sigma$ を取り替えたり、軸の単位を変えたりして値を見る。
観察 1.1 共分散で測る距離は、単位の選び方から自由だと言われる。メートルでもキロメートルでも同じ値、恣意性が消えた、という像である。
観察 1.2 だが式には $\Sigma$ が入っている。どの共分散を使うか、それも一つの選択である。
問い:選択は消えたのか、場所を変えただけか。
2. 単位を変えても動かない
計算 2.1:二つの距離を出す。
| 測り方 | 値 |
|---|---|
| 素の距離 | $\mathbf{5.000000000000}$ |
| 共分散 $\mathrm{diag}(9,1)$ で測る | $\mathbf{4.123105626}$ |
観察 2.2 素の距離が $5$ になる。$3$ と $4$ の直角三角形、独立に確かめられる値である。
観察 2.3 共分散で測ると別の値になる。$4.123105626$、第一軸のばらつきが大きいので、その方向の差が割り引かれている。
計算 2.4:第一軸の単位を $100$ 倍にする。
| 測り方 | 元の単位 | $100$ 倍の単位 |
|---|---|---|
| 素の距離 | $5.000000$ | $\mathbf{300.026665}$ |
| 共分散で測る | $4.123105625618$ | $\mathbf{4.123105625618}$ |
観察 2.5 素の距離は $60$ 倍に動く。$5.000000$ から $300.026665$ へ、単位を変えただけで、二点の関係は変わっていないのに。
観察 2.6 共分散で測った距離は桁一つ動かない。$4.123105625618$ 対 $4.123105625618$、共分散も同じ倍率で変わるので、逆行列との間で打ち消す。
観察 2.7 ここまでは「単位から自由」という言い方で困らない。実際に動かない。この操作だけを見ていれば、恣意性が消えたように見える。
3. 共分散を取り替えると、動く
計算 3.1:同じ二点を、別の共分散で測る。
| 共分散 | 距離 |
|---|---|
| $\mathrm{diag}(9,1)$ | $4.123105626$ |
| $\mathrm{diag}(1,9)$ | $\mathbf{3.282952601}$ |
| 相関つき(対角 $4$、非対角 $1.5$) | $\mathbf{2.157439560}$ |
| 単位行列 | $\mathbf{5.000000000000}$ |
観察 3.2 軸を入れ替えるだけで値が変わる。$4.123105626$ から $3.282952601$、二点は同じで、共分散だけを取り替えた。
観察 3.3 相関を入れるとさらに変わる。$2.157439560$、非対角の成分が、二つの軸の差を結びつけている。
観察 3.4 単位行列にすると素の距離に戻る。$5.000000000000$ 対 $5.000000000000$、境目であり、素の距離は「共分散を単位行列に選んだ場合」である。
観察 3.5 つまり素の距離も、一つの選択である。何も選んでいないのではない。単位行列を選んだのである。
観察 3.6 三つの値が $2.16$ から $5.00$ まで開く。同じ二点、$2.3$ 倍の幅があり、どれを使うかで「遠い」か「近い」かが変わる。
4. 分離子
分離子:選択が消えたのか、場所を変えたのか。
観察 4.1 消えたなら、何を動かしても値が変わらないはずである。単位でも共分散でも、だが共分散では変わった。
観察 4.2 場所を変えたなら、動かす対象が入れ替わる。単位から共分散へ、実際、単位では動かず、共分散では動いた。
観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「恣意性が無い」と言える。一方は選択が存在しないこと、一方は選択が別の場所にあることで、意味が違う。
観察 4.4 論文95 が分けた規約と事実の、境目に立つ量である。共分散は測って決める。事実に見えるが、どの標本から測るか、どの母集団を想定するかは選択であり、そこが規約の側に残る。
観察 4.5 論文505 とも同じ形である。「勢力圏」が三つあり、何と釣り合わせたかで指数が違った。こちらは「距離」が共分散の数だけあり、何を基準に割り引いたかで値が違う。
観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「この距離は単位に依らない」という主張が問われたとき、単位を疑うのか、共分散の選び方を疑うのかで、直す先が違う。
観察 4.7 正直に言えば、どの共分散が正しいかは言っていない。標本から測るのか、事前の知識を使うのか、本稿が示したのは、取り替えると値が変わるということまでである。選択が要るという指摘は、選択が誤りだという指摘ではない。
5. 点呼と結び
- 素の距離 $5.000000000000$(計算 2.1):$3$ と $4$ の直角三角形。
- 共分散で測ると $4.123105626$(観察 2.3):差が割り引かれる。
- 単位 $100$ 倍で素は $300.026665$(計算 2.4):$60$ 倍に動く。
- 共分散で測ると動かない(観察 2.6):本稿の芯。
- 軸を入れ替えると $3.282952601$(計算 3.1):二点は同じ。
- 相関を入れると $2.157439560$(観察 3.3):非対角が効く。
- 単位行列で $5.000000000000$(観察 3.4):素の距離に戻る。
- 三つの値が $2.3$ 倍開く(観察 3.6):遠いか近いかが変わる。
- 分離子は消えたか移ったか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- どれが正しいかは言っていない(観察 4.7):選択が要ることまで。
結び:共分散で測る距離は、単位の選び方から自由だと言われる。メートルでもキロメートルでも同じ値になり、恣意性が消えたという像である。だが式には $\Sigma$ が入っている。どの共分散を使うかも、一つの選択である。単位を変えても動かない。$x=(0,0)$、$y=(3,4)$ で、素の距離は $\mathbf{5.000000000000}$、共分散 $\mathrm{diag}(9,1)$ で測ると $\mathbf{4.123105626}$ である。第一軸のばらつきが大きいので、その方向の差が割り引かれている。第一軸の単位を $100$ 倍にすると、素の距離は $5.000000$ から $\mathbf{300.026665}$ へ $60$ 倍に動く。単位を変えただけで、二点の関係は変わっていないのに。ところが共分散で測った距離は $\mathbf{4.123105625618}$ のまま桁一つ動かない。共分散も同じ倍率で変わるので、逆行列との間で打ち消す。ここまでは「単位から自由」という言い方で困らず、この操作だけを見ていれば恣意性が消えたように見える。共分散を取り替えると、動く。同じ二点を $\mathrm{diag}(1,9)$ で測ると $\mathbf{3.282952601}$、相関つきの共分散で測ると $\mathbf{2.157439560}$ になる。軸を入れ替えるだけで値が変わり、二点は同じで共分散だけを取り替えた。相関を入れるとさらに変わり、非対角の成分が二つの軸の差を結びつけている。単位行列にすると $\mathbf{5.000000000000}$ と素の距離に戻る。境目であり、素の距離は「共分散を単位行列に選んだ場合」である。つまり素の距離も一つの選択であって、何も選んでいないのではなく、単位行列を選んだのである。三つの値は $2.16$ から $5.00$ まで、$2.3$ 倍の幅で開き、どれを使うかで「遠い」か「近い」かが変わる。分けているものは一つ、選択が消えたのか、場所を変えたのか。消えたなら、単位でも共分散でも値が変わらないはずだが、共分散では変わった。場所を変えたなら、動かす対象が単位から共分散へ入れ替わる。実際、単位では動かず、共分散では動いた。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「恣意性が無い」と言えるが、一方は選択が存在しないこと、一方は選択が別の場所にあることで、意味が違う。論文95 が分けた規約と事実の境目に立つ量でもある。共分散は測って決めるので事実に見えるが、どの標本から測るか、どの母集団を想定するかは選択であり、そこが規約の側に残る。論文505 とも同じ形で、あちらは「勢力圏」が三つあって何と釣り合わせたかで指数が違った。こちらは「距離」が共分散の数だけあり、何を基準に割り引いたかで値が違う。これは論文481 でいう分離子の一本で、「この距離は単位に依らない」という主張が問われたとき、単位を疑うのか共分散の選び方を疑うのかで直す先が違う。正直に言えば、どの共分散が正しいかは言っていない。標本から測るのか事前の知識を使うのかは主題の外であり、本稿が示したのは取り替えると値が変わるということまでである。選択が要るという指摘は、選択が誤りだという指摘ではない。
参考文献
- Mahalanobis, P. C. (1936). On the Generalised Distance in Statistics. Proceedings of the National Institute of Sciences of India.
- McLachlan, G. J. (1999). Mahalanobis Distance. Resonance.
- Rao, C. R. (1973). Linear Statistical Inference and Its Applications (2nd ed.). Wiley.
- 山岸勇輝 (2026). 『規約と事実を分ける』[論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
- 山岸勇輝 (2026). 『「勢力圏」は三つあり、質量比を $1000$ 分の $1$ にすると別々に縮む』[論文505]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22861782
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「単位から自由になったのではなく、単位の選択を共分散に委ねただけである」[論文516]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22862360
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 単位から自由になったのではなく、単位の選択を共分散に委ねただけである [論文516]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/516 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22862360
Yamagishi, Y. (2026). Not Freed from Units, but Having Handed the Choice to the Covariance [Paper 516]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/516; DOI: 10.5281/zenodo.22862360
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