【F048】分散の実効本数は、組の相関が打ち消し合った結果である

要旨

本稿が問うのは、「複数の通貨ペアに分ければ危険が減る」の減り方を決めているのは何か、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、★ 組の相関はばらばらである。 EURUSD と GBPUSD は +0.6577、USDJPY と EURUSD は −0.4252 で、六つの組が正にも負にも散らばっている(第3節)。

第二に、これが本稿の芯である。★★ なのに平均すると +0.0455 で、ほとんど独立に見える。 実効本数は 3.5194 で、本数 4 の 0.8799 である。「実効本数が 4 に近い」は「四つが独立だった」を意味しない(第4節)。

第三に、★★ 二つずつに分けると、同じ「二つに分けた」が 1.2065 から 3.4797 まで開く。 EURUSD と GBPUSD は 1.2065 で、ほぼ一本ぶんにしかならない(第5節)。

第四に、★ 相関は年で動き、片方の組は上がり続けている。 EURUSD と GBPUSD は 2020 年の +0.5152 から 2023 年の +0.8009 へ上がり、実効本数は 4.2227 から 3.3299 へ下がった(第6節)。

第五に、★ 予言⑤は外れた。 最大ドローダウンは 2.2229 分の一に縮み、ばらつきの 1.8760 よりよく縮んだ(第7節)。

第六に、★ 通貨で分けるより、時間帯で分けるほうが独立に近い。 実効本数 ÷ 本数 は通貨 0.8799 に対し時間帯 1.0008 である。⚠️ ただし同じ日の別の時間帯なので、独立な取引ではない(第7節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。等分したまとまりの分散の式は初等的な結果である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。売買を論じない。成績も損益も測っておらず、どう分けるべきかも述べない。予言②③⑤が外れた。②は実効本数を小さく見積もりすぎた(第4節・第6節・第7節)。時間帯で分けた列は独立な取引ではない。同じ日の別の時間帯である(第7節)。銘柄を四つに固定している(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。

1. 記法と問い

「複数の通貨ペアに分ければ危険が減る」と言われる。四つに分ければ四分の一、というつもりで言われることが多い。

n 本に等分したとき、まとまりの分散は (1/n)·σ²·(1 + (n−1)·ρ) である。だから

実効本数 = n ÷ ( 1 + (n−1)·ρ )

言われること 言われないこと
四つに分けたから四分の一 四つがどれだけ相関していたか
分散投資している 本数は自分で選べるが、相関は選べない
相関は低い 平均が低いのか、どの組も低いのか

観察 1.1:★ ρ = 0 なら n 本ぶん、ρ = 1 なら 1 本ぶんである。 効いているのは本数ではなく相関である。

観察 1.2:★ そして相関は自分では選べない。 本数は決められるが、市場がどれだけ一緒に動くかは決められない。

観察 1.3:本稿の分離子は、二つの相関である。 銘柄・期間・格子・収益率の取り方をすべて固定し、何本に分けたかではなく、どれだけ相関していたかを見る。

問い:実際の為替で、その相関はいくつなのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。

格子 1時間足(中値・完成足のみ)
収益率 24 本ごと(重ならない)。単位は pips
そろえ方 ★ 先に足の時刻をそろえてから 24 本ずつに切る
相関 ピアソン
実効本数 n ÷ (1 + (n−1)·ρ̄)(式)と σ²(1本) ÷ σ²(まとまり)(実測)の両方
まとまり 等分。銘柄はばらつきでそろえる
窓 暦年 2019〜2024 / 時間帯 UTC 0-7 / 8-15 / 16-23
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列・銘柄ごとに独立に作る)
分離子 二つの相関(何本に分けたかではなく)
銘柄・期間 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024

観察 2.1:★ そろえる順番が要である。 銘柄ごとに足の集合が違うので、先に 24 本ずつ切ると境目がそろわない。 先に切って、相関が全部 NaN になった。

観察 2.2:収益率は 24 本ごとで、そろえた時点は 1,395 点である。 ばらつきは USDJPY 78.3978・EURUSD 48.5303・GBPUSD 72.6165・XAUUSD 178.4380 pips である。★ 一時間足は 36,534・36,554・36,535・34,892 本あるので、そろえた時点は各銘柄の本数より少ない。

観察 2.3:★ 収益率を測る間隔がシャープレシオを動かすことは [F032] で測ってある。 本稿は間隔を 24 本に固定し、動かさない。

予言(測る前に書いた)

① 同じ通貨を共有する組は相関が高く、実効本数が伸びない。

② ★ 四銘柄に等分しても、実効本数は 4 にならず 2 前後になる。

③ ★★ 相関は期間で動く。窓ごとに測ると実効本数が大きく変わる。

④ 合成乱数(独立に作る)なら実効本数はちょうど本数に一致する。

⑤ ★ 最大ドローダウンの縮み方は、分散の縮み方より悪い。

⑥ ★ 通貨で分けるより、時間帯で分けるほうが相関が低い。

3. 組の相関は −0.4252 から +0.6577 まで散らばっている

計算 3.1 六つの組

組 相関
EURUSD と GBPUSD +0.6577
USDJPY と EURUSD −0.4252
EURUSD と XAUUSD +0.3797
USDJPY と XAUUSD −0.3325
USDJPY と GBPUSD −0.3284
GBPUSD と XAUUSD +0.3218

観察 3.2:予言①は当たった。 ★ いちばん高いのは EURUSD と GBPUSD の +0.6577 で、どちらもドルが分母側にある組である。

観察 3.3:★ USDJPY を含む三つの組は、すべて負である(−0.4252・−0.3325・−0.3284)。ドルの位置が逆だからである。

観察 3.4:★★ 正が三つ、負が三つで、しかも大きさが同じくらいである。 これが次の節で効いてくる。

4. 平均すると打ち消し合って、実効本数は 3.5194 になる

計算 4.1 四つに等分したとき

量 値
分けた本数 n 4
組の相関の平均 ρ̄ +0.0455
実効本数(式 n ÷ (1+(n−1)ρ̄)) 3.5194
実効本数(実測 σ²(1本) ÷ σ²(まとまり)) 3.5194
式と実測の差 0.000000

観察 4.2:★★ 予言②は外れた。実効本数は 2 前後ではなく 3.5194 である。 本数 4 の 0.8799 で、思っていたよりずっと 4 に近い。

観察 4.3:★★ 理由は打ち消し合いである。 +0.6577 と −0.4252 が混ざって、平均が +0.0455 になる。

観察 4.4:★★ だから「実効本数が 4 に近い」は「四つが独立だった」を意味しない。 中には +0.6577 の組がある。平均が低いのと、どの組も低いのは、別のことである。

観察 4.5:式と実測がぴったり一致する(差 0.000000)。 ★ これは検算であって、発見ではない。 等分したまとまりの分散が (1/n)·σ²·(1+(n−1)ρ) になることの確認にすぎない。

観察 4.6:危険(ばらつき)は √3.5194 = 1.8760 分の一に縮む。 ★ 四つに分けて 2 分の一にならない、という差である。

5. 二つずつに分けると、1.2065 から 3.4797 まで開く

計算 5.1 二本に分けたときの実効本数

組 相関 実効本数
USDJPY と EURUSD −0.4252 3.4797
USDJPY と XAUUSD −0.3325 2.9961
USDJPY と GBPUSD −0.3284 2.9780
GBPUSD と XAUUSD +0.3218 1.5130
EURUSD と XAUUSD +0.3797 1.4496
EURUSD と GBPUSD +0.6577 1.2065

観察 5.2:★★ 同じ「二つに分けた」が、1.2065 から 3.4797 まで開く。 中央は 2.2455 である。

観察 5.3:★★ EURUSD と GBPUSD は 1.2065 で、ほぼ一本ぶんにしかならない。 二つ建てているのに、危険は √1.2065 分の一しか減らない。

観察 5.4:★★ 一方、負の相関の組は 2 を超える。 USDJPY と EURUSD は 3.4797 である。二つに分けたのに、三本半ぶんの効きがある。

観察 5.5:★ つまり「いくつに分けたか」は、実効本数について何も言っていない。 同じ 2 が、1.2065 とも 3.4797 とも読める。

図1 四つに分けても、相関が決めている

図1:横が組の相関 ρ、縦が実効本数。曲線が式 n ÷ (1 + (n−1)ρ)、点が実測と合成乱数である。

6. 相関は年で動き、片方の組は上がり続けている

計算 6.1 暦年ごと

年 組の相関の平均 実効本数 いちばん高い組
2019 −0.0176 4.2227 USDJPY/XAUUSD −0.5660
2020 +0.0159 3.8181 EURUSD/GBPUSD +0.5152
2021 +0.0603 3.3871 EURUSD/GBPUSD +0.6840
2022 +0.0530 3.4514 EURUSD/GBPUSD +0.7524
2023 +0.0437 3.5367 EURUSD/GBPUSD +0.8009
2024 +0.0671 3.3299 EURUSD/GBPUSD +0.7663

観察 6.2:★ 予言③は外れた。実効本数は 4.2227 から 3.3299 で、最大 ÷ 最小が 1.2681 倍しかない。 「大きく変わる」と書いたが、そこまでではなかった。

観察 6.3:★★ だが中身は動いている。 EURUSD と GBPUSD は 2020 年の +0.5152 から 2023 年の +0.8009 へ上がり続けている。 平均が動かないのは、他の組が逆に動いて打ち消しているからである。

観察 6.4:★ 2019 年だけ、いちばん高い組が USDJPY と XAUUSD の −0.5660 である。 その年は平均が −0.0176 で、実効本数が 4.2227 と 4 を超えた。

観察 6.5:★ 平均だけを見ていると、+0.8009 の組が育っていることに気づけない。 これは第4節と同じ形である。

7. 裾・時間帯・基準線と限界

計算 7.1 最大ドローダウンの縮み方

量 値
一本あたりの最大ドローダウン(中央) 38.8708
四つにまとめたときの最大ドローダウン 17.4867
縮んだ倍率 2.2229
ばらつきの縮み √実効本数 1.8760
裾 ÷ ばらつき 1.1849

観察 7.2:★ 予言⑤は外れた。裾のほうがよく縮んだ(2.2229 対 1.8760、比 1.1849)。★ ただし最大ドローダウンが取引の順序に属することは [F031] で測ってあるので、この一つの数字を強く読んではいけない。

計算 7.3 通貨で分けるか、時間帯で分けるか

分け方 本数 組の相関の平均 実効本数 実効本数 ÷ 本数
通貨(四銘柄) 4 +0.0455 3.5194 0.8799
時間帯(三つ) 3 −0.0004 3.0023 1.0008

観察 7.4:予言⑥は当たった。 時間帯の組の相関は −0.0002・−0.0008・−0.0002 で、ほとんどゼロである。

観察 7.5:⚠️ ただし時間帯で分けた列は、同じ日の別の時間帯である。 独立な取引ではない。

計算 7.6 基準線(合成乱数・銘柄ごとに独立)

種 組の相関の平均 実効本数(式) 実効本数(実測)
0 −0.0018 4.0213 4.0213
1 −0.0011 4.0129 4.0129
2 +0.0005 3.9941 3.9941

観察 7.7:予言④は当たった。 中央は 4.0129 で、本数 4 に一致する。★ これも検算であって、発見ではない。

観察 7.8:★ 実測 3.5194 は、その 0.8770 倍である。 つまり四銘柄は、独立な四本に対して 0.8770 本ぶんしか働いていない。

観察 7.9:★ この基準線が何についてゼロなのかは [F033] で測ってある。

図2 実効本数は年ごとに動く

図2:横が年、縦が実効本数。点線が本数 4、破線が全期間の 3.5194 である。

限界

  1. ⚠️ 予言②を大きく外した。 実効本数を 2 前後と見積もったが、実際は 3.5194 だった。打ち消し合いを考えていなかった。
  2. 予言③⑤も外れた。 ③は年による動きを大きく見積もりすぎ、⑤は裾の縮み方を逆に見積もった。
  3. 時間帯で分けた列は独立な取引ではない。 同じ日の別の時間帯である。
  4. 銘柄を四つに固定している。 組み合わせを変えれば平均も変わる。
  5. 収益率の間隔を 24 本に固定している。
  6. 売買を論じていない。 成績も損益も測っておらず、どう分けるべきかも述べていない。
  7. 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

「四つに分ければ四分の一」と言うとき、数えているのは本数である。だが式に入っているのは相関のほうである。

★ 六つの組の相関は、+0.6577 から −0.4252 まで散らばっていた。 正が三つ、負が三つで、大きさも同じくらいである。

★★ だから平均すると +0.0455 になり、ほとんど独立に見える。 実効本数は 3.5194、本数 4 の 0.8799 である。私は 2 前後と予想して外した。

★★ しかし「実効本数が 4 に近い」は「四つが独立だった」を意味しない。 中には +0.6577 の組がある。平均が低いのと、どの組も低いのは別のことである。

★★ 二つずつに分けると、それがはっきり出る。 同じ「二つに分けた」が 1.2065 から 3.4797 まで開く。 EURUSD と GBPUSD は 1.2065 でほぼ一本ぶん、USDJPY と EURUSD は 3.4797 で三本半ぶんである。

★ 年ごとに見ると、平均はあまり動かない(4.2227 から 3.3299・1.2681 倍)のに、EURUSD と GBPUSD は +0.5152 から +0.8009 へ上がり続けている。 平均だけを見ていると、育っている組に気づけない。

★ 予言は六つのうち三つ外れた。 ②は実効本数を小さく見積もりすぎ、③は年による動きを大きく見積もりすぎ、⑤は裾の縮み方を逆に見積もった。裾はむしろよく縮んだ(2.2229 対 1.8760)。

だから、分散したと言うときに書くべきなのは本数ではない。 ★ 組の相関を並べて、その平均がいくつで、いちばん高い組がいくつかを書くことである。 平均は打ち消し合いの結果なので、それだけでは中身が見えない。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 1時間足・中値・完成足のみ。ティックの無い足は作らない
収益率 24 本ごと(重ならない)。単位は pips
そろえ方 先に足の時刻を四銘柄でそろえてから、24 本ずつに切る
実効本数 n ÷ (1 + (n−1)·ρ̄)(式)と σ²(1本) ÷ σ²(まとまり)(実測)。ρ̄ は組の相関の平均
まとまり 等分。銘柄はばらつきでそろえる
窓 暦年 2019〜2024 / 時間帯 UTC 0-7 / 8-15 / 16-23
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)。銘柄ごとに独立な種で作る
検算 検算/F048.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F048_output.txt から取っている
図 図/F048_zu1・図/F048_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 最大ドローダウンは、取引の順序に属している [F031]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893510
  • 山岸勇輝 (2026). シャープレシオは、測る間隔に属している [F032]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893620
  • 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「分散の実効本数は、組の相関が打ち消し合った結果である」[F048]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22896842

YOI F048FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F048・DOI 10.5281/zenodo.22896842・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 分散の実効本数は、組の相関が打ち消し合った結果である [F048]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F048 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22896842

Yamagishi, Y. (2026). The Effective Count of a Diversified Book Is What Is Left After the Pair Correlations Cancel [F048]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F048; DOI: 10.5281/zenodo.22896842

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  title = {The Effective Count of a Diversified Book Is What Is Left After the Pair Correlations Cancel},
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