【論文518】事前分布による食い違いには期限があり、許容差の逆数から 1 を引いた回数で終わる

要旨

同じ観測に対して、事前分布を取り替えると答が変わる。本稿が示すのは、その食い違いの幅が閉じた式で書け、消えるまでの観測数が計算できることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$10$ 回続けて成功したあとの答は、ラプラスで $\mathbf{0.916667}$、ジェフリーズで $\mathbf{0.954545}$、ヘルデインで $\mathbf{1.000000}$ である(第2節)。

第二に、素朴な数え方は $n$ に依らず $\mathbf{1.000000}$ を返す。$n=1$ でも $n=10^{6}$ でも同じ値で、観測の量を捨てている(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。三つの答の幅はちょうど $\mathbf{1/(n+2)}$ であり、$n=1$ で $\mathbf{0.333333333333}$、$n=100$ で $\mathbf{0.009803921569}$、$n=1000$ で $\mathbf{0.000998003992}$ である(第3節)。

第四に、幅を許容差 $1/m$ より小さくするのに要る観測数は $\mathbf{m-1}$ 回である。$\mathbf{9}$ 回、$\mathbf{99}$ 回、$\mathbf{999}$ 回(第3節)。

第五に、幅は有限の $n$ では決してゼロにならない。$n=10^{6}$ でも $\mathbf{1.000\times10^{-6}}$ 残る(第3節)。

第六に、分離子は許容差である。何桁まで一致すれば同じ答と呼ぶかを決めない限り、期限は決まらない(第4節)。

キーワード:ラプラスの逐次法則、ベイズ推定、事前分布、ベータ分布、ジェフリーズ事前分布。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ラプラスの逐次法則も、ベータ事前分布の共役性も標準的である。どの事前分布が正しいかを決めない。一様、ジェフリーズ、ヘルデインのどれを採るべきかは主題ではない。取り替えると値がどれだけ動き、いつ動かなくなるかだけを見る。立場の当否を判定しない。頻度主義とベイズ主義のどちらが正しいかには入らない。全部成功の場合だけを扱う。$n$ 回中 $n$ 回成功という一つの形に限る。失敗が混じる場合の幅は別の式になる。二項の場合に限る。多項分布やディリクレ事前分布へは広げない。漸近論を作らない。ベルンシュタイン=フォン・ミーゼスの定理のような一般の収束は扱わず、一つの式の幅を厳密に出すだけである。既刊との関係:論文164 は「確率」が四つの住所を持つと示し、同じデータに対して頻度が $0$、一様事前が $0.083333$、$\mathrm{Beta}(10,1)$ 事前が $0.476190$ になることを出した。そこは「三つとも公理を満たす」で止まっている。本稿はその先へ進み、食い違いが消えるまでの観測数を出す。論文516 は単位からの自由が共分散への依存に移っただけだと示した。本稿の事前分布も移された選択だが、こちらには期限がある。論文517 は座標を回して、消える選択と残る選択を分けた。本稿はその三つ目、期限つきで消える選択である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「事前分布に依る」と「いつまでも依る」は別根である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を許容差に置く。加えたのは、三つの事前分布の答を同じ $n$ で並べたこと、食い違いの幅が $1/(n+2)$ ちょうどであることを $6$ つの $n$ で確かめたこと、許容差 $1/m$ に対する期限が $m-1$ であることを厳密な有理数で出したこと、境目に乗る許容差では浮動小数の答が $1$ だけ手前で止まることを測ったこと、分離子を許容差に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:ある出来事を $n$ 回観測し、$n$ 回とも起きた。次も起きる確率をいくつと言うか。

三つの答:ベータ事前分布 $\mathrm{Beta}(a,b)$ のもとで、答は

$$P=\frac{n+a}{n+a+b}$$

である。$a=b=1$(一様、ラプラス)、$a=b=1/2$(ジェフリーズ)、$a=b=0$(ヘルデイン)を並べる。最後は素朴な数え方 $n/n=1$ と一致する。

観察 1.1 式に入っているのは観測 $n$ だけではない。$a$ と $b$ も入っている。どれを選ぶかで答が変わる。

観察 1.2 論文164 はここまでを既に書いている。同じデータに三つの答が付き、三つとも公理を満たす。そこで止まると、選択の恣意性だけが残る。

問い:その恣意性は、いつまで効くのか。

2. 三つの答を、同じ $n$ で並べる

計算 2.1:$n$ を変えて三つの答を出す。

$n$ 素朴 $n/n$ ラプラス ジェフリーズ ヘルデイン
$0$ 不定 $\mathbf{0.500000}$ $\mathbf{0.500000}$ 不定
$1$ $1.000000$ $\mathbf{0.666667}$ $\mathbf{0.750000}$ $\mathbf{1.000000}$
$10$ $1.000000$ $\mathbf{0.916667}$ $\mathbf{0.954545}$ $\mathbf{1.000000}$
$100$ $1.000000$ $\mathbf{0.990196}$ $\mathbf{0.995050}$ $\mathbf{1.000000}$

観察 2.2 ラプラスの値は独立に確かめられる。$n=1$ で $2/3$、$n=10$ で $11/12$、$n=100$ で $101/102$、分数として書けるので、計算機を通さずに検算できる。

観察 2.3 素朴な答は $n$ に依らない。$n=1$ でも $n=10^{6}$ でも $\mathbf{1.000000}$、$1$ 回の観測と $100$ 万回の観測を同じ扱いにしており、観測の量を捨てている。

観察 2.4 ラプラスは $n$ に依る。$n=1$ で $\mathbf{0.666667}$、$n=10^{6}$ で $\mathbf{0.999999}$、境目の反対側。観測の量を使っている。

観察 2.5 ラプラスはどんな $n$ でも $1$ に届かない。$n=10^{9}$ で $\mathbf{0.999999999000}$、$10$ 億回続けて成功しても、確実だとは言わない。

観察 2.6 ヘルデインは $n=0$ で値を持たない。分母が $0+0+0=0$ になる。実装の都合ではなく、事前分布そのものが観測ゼロでは定義されない。ラプラスは $n=0$ でも $\mathbf{0.500000}$ を返すので、ここが境目である。

観察 2.7 ラプラスの事前分布は、成功 $1$ 回と失敗 $1$ 回を先に見たのと同じ重みを持つ。$n=2$ で $(2+1)/(2+2)=\mathbf{0.750000}$、事前分布の重みが $2$ なので、$n=2$ で観測と釣り合う。

3. 幅は $1/(n+2)$ ちょうどで、期限は $m-1$ である

計算 3.1:最も強い事前分布(ヘルデイン)と最も弱い事前分布(ラプラス)の差を、幅とする。

$n$ 幅 $1/(n+2)$
$1$ $\mathbf{0.333333333333}$ $\mathbf{0.333333333333}$
$10$ $\mathbf{0.083333333333}$ $\mathbf{0.083333333333}$
$100$ $\mathbf{0.009803921569}$ $\mathbf{0.009803921569}$
$1000$ $\mathbf{0.000998003992}$ $\mathbf{0.000998003992}$

観察 3.2 幅は閉じた式で書ける。$1-\dfrac{n+1}{n+2}=\dfrac{1}{n+2}$、$n=1$ から $n=10^{5}$ までの $6$ つで、$10^{-12}$ より内側で一致した。

観察 3.3 幅は決してゼロにならない。$n=10^{6}$ でも $\mathbf{1.000\times10^{-6}}$ 残る。有限の観測で事前分布の影響が消えることはない。消えるのは「見える範囲で」である。

計算 3.4:幅が許容差 $1/m$ を下回る最小の $n$ を、厳密な有理数で探す。

許容差 厳密な $n$ 閉じた式 $m-1$ 浮動小数で探した $n$
$1/10$ $\mathbf{9}$ $\mathbf{9}$ $\mathbf{8}$
$1/100$ $\mathbf{99}$ $\mathbf{99}$ $\mathbf{99}$
$1/1000$ $\mathbf{999}$ $\mathbf{999}$ $\mathbf{999}$

観察 3.5 期限は $m-1$ である。$1/(n+2)<1/m$ は $n>m-2$ と同値で、整数では $n=m-1$、許容差を $10$ 分の $1$ にすると、要る観測数はおよそ $\mathbf{10.090909}$ 倍になる。

観察 3.6 一つ手前ではまだ超えている。$n=98$ で幅は $1/100$、$n=99$ で $1/101$、境目の反対側を確かめた。

観察 3.7 許容差が境目にちょうど乗ると、答が $1$ だけ食い違う。$1/10$ では厳密な答が $\mathbf{9}$、浮動小数で探すと $\mathbf{8}$、$1/10$ は二進で表せないので、$n=8$ の幅がわずかに $0.1$ を下回ると判定される。$1/100$ では食い違わない。

観察 3.8 これは丸めの雑談ではない。$1/4$ なら二進で厳密に表せるので食い違わない。食い違うのは許容差が境目に乗ったときだけで、そこは「何回観測すればよいか」の答が $1$ だけずれる場所である。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は許容差である。何桁まで一致すれば同じ答と呼ぶかを決めない限り、期限は決まらない。許容差を動かすと期限が動き、動かさなければ期限も動かない。

観察 4.2 事前分布そのものは分離子にならない。どの二つを比べても幅は $n$ とともに縮む、事前分布を取り替えても「いつか消える」という事実は動かない。

観察 4.3 「事前分布に依る」と「いつまでも依る」は別根である。論文300 の判定でいえば、前者は $n$ に依らず正しく、後者は $n$ が小さいときにだけ正しい。一語で言うと同じに見えるが、片方には期限が付く。

観察 4.4 論文164 の四つの住所に、期限という目盛りが入る。あちらは「三つとも公理を満たす」で止めた。止めたのは正しい。どれが正しいかは公理からは出ない。だが、いつまで争いになるかは公理を使わずに出る。

観察 4.5 論文516・論文517 と並べると四通りになる。選択が移る(論文516 の共分散)、選択が消える(論文517 の縦横)、選択が残る(論文517 の $xy$)、選択に期限がある(本稿)、「恣意性がある」という指摘は、この四つのどれかを名指すまで空手形である。

観察 4.6 論文481 の言い方でいえば、「事前分布のせいで結論が変わった」を疑うとき、行き先は二つある。事前分布を疑うか、観測数が足りないことを疑うか、本稿は後者に数を与えたので、$m-1$ 回に届いているかどうかで行き先が決まる。

観察 4.7 どの事前分布が正しいかは言わない。言えるのは、争いに期限があり、その期限が計算できるということだけである。期限が来ていないうちは、事前分布を明示する以外にできることはない。

5. 点呼と結び

  1. $n=10$ で $\mathbf{0.916667}$、$\mathbf{0.954545}$、$\mathbf{1.000000}$(計算 2.1):同じ観測に三つの答。
  2. ラプラスは分数で書ける(観察 2.2):$2/3$、$11/12$、$101/102$。
  3. 素朴な答は $n$ に依らない(観察 2.3):観測の量を捨てている。
  4. ヘルデインは $n=0$ で値を持たない(観察 2.6):境目。
  5. 幅はちょうど $\mathbf{1/(n+2)}$(観察 3.2):本稿の芯。
  6. $n=10^{6}$ でも $\mathbf{1.000\times10^{-6}}$ 残る(観察 3.3):有限では消えない。
  7. 期限は $\mathbf{m-1}$、すなわち $\mathbf{9}$、$\mathbf{99}$、$\mathbf{999}$(計算 3.4):厳密な有理数で。
  8. 境目に乗ると浮動小数が $\mathbf{8}$ を返す(観察 3.7):$1/10$ は二進で表せない。
  9. 分離子は許容差(観察 4.1):事前分布そのものではない。
  10. どれが正しいかは言わない(観察 4.7):争いに期限がある、まで。

結び:同じ観測に対して事前分布を取り替えると答が変わる、というところまでは既に書かれている。その食い違いには期限がある。$10$ 回続けて成功したあと、次も成功する確率はラプラスで $\mathbf{0.916667}$、ジェフリーズで $\mathbf{0.954545}$、ヘルデインで $\mathbf{1.000000}$ と割れる。ラプラスの値は $2/3$、$11/12$、$101/102$ と分数で書けるので、計算機を通さずに確かめられる。素朴な数え方は $n=1$ でも $n=10^{6}$ でも $\mathbf{1.000000}$ を返し、観測の量を捨てている。ラプラスは $n=10^{9}$ でも $\mathbf{0.999999999000}$ で、確実だとは言わない。ヘルデインは $n=0$ で分母が $0$ になり値を持たないが、ラプラスは $\mathbf{0.500000}$ を返す。幅は閉じた式で書ける。三つの答の幅はちょうど $\mathbf{1/(n+2)}$ であり、$n=1$ で $\mathbf{0.333333333333}$、$n=100$ で $\mathbf{0.009803921569}$、$n=1000$ で $\mathbf{0.000998003992}$、$6$ つの $n$ で $10^{-12}$ より内側で一致した。有限の $n$ では決してゼロにならず、$n=10^{6}$ でも $\mathbf{1.000\times10^{-6}}$ 残る。幅を許容差 $1/m$ より小さくするのに要る観測数は $\mathbf{m-1}$ 回、すなわち $\mathbf{9}$ 回、$\mathbf{99}$ 回、$\mathbf{999}$ 回である。許容差を $10$ 分の $1$ にすると、要る観測数はおよそ $\mathbf{10.090909}$ 倍になる。許容差が境目にちょうど乗る $1/10$ では、厳密な答 $\mathbf{9}$ に対して浮動小数で探すと $\mathbf{8}$ になる。$1/10$ が二進で表せないからで、$1/100$ では食い違わない。一つが二つを分ける。分離子は許容差である。何桁まで一致すれば同じ答と呼ぶかを決めない限り、期限は決まらない。事前分布そのものは分離子にならない。どの二つを比べても幅は $n$ とともに縮むからである。論文300 の判定でいえば、「事前分布に依る」と「いつまでも依る」は別根で、後者にだけ期限が付く。論文164 は三つとも公理を満たすと書いて止めた。止めたのは正しく、どれが正しいかは公理からは出ない。だが、いつまで争いになるかは公理を使わずに出る。論文516・論文517 と並べれば四通りになる。選択が移る、選択が消える、選択が残る、選択に期限がある。論文481 の言い方でいえば、「事前分布のせいで結論が変わった」を疑うとき、事前分布を疑うか観測数の不足を疑うかで行き先が変わり、$m-1$ 回に届いているかどうかがそれを決める。正直に言えば、扱ったのは $n$ 回中 $n$ 回成功という一つの形だけである。失敗が混じれば幅は別の式になり、多項分布へ広げれば事前分布の自由度も増える。どの事前分布が正しいかも言っていない。言えるのは、争いに期限があり、その期限が計算できるところまでで、期限が来ていないうちは事前分布を明示する以外にできることはない。

参考文献

  1. Haldane, J. B. S. (1932). A Note on Inverse Probability. Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society.
  2. Jeffreys, H. (1946). An Invariant Form for the Prior Probability in Estimation Problems. Proceedings of the Royal Society A.
  3. Laplace, P. S. (1814). Essai philosophique sur les probabilités. Courcier.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『「確率」は四つの住所を持つ』[論文164]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092815
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
  7. 山岸勇輝 (2026). 『単位から自由になったのではなく、単位の選択を共分散に委ねただけである』[論文516]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22862360
  8. 山岸勇輝 (2026). 『場を縦と横に分けるのは場の性質だが、$x$ と $y$ に分けるのは座標の性質である』[論文517]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22862396
  9. Zabell, S. L. (1989). The Rule of Succession. Erkenntnis.

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「事前分布による食い違いには期限があり、許容差の逆数から 1 を引いた回数で終わる」[論文518]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22862439

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 事前分布による食い違いには期限があり、許容差の逆数から 1 を引いた回数で終わる [論文518]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/518 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22862439

Yamagishi, Y. (2026). The Disagreement Between Priors Has an Expiry, and It Falls One Short of the Reciprocal of the Tolerance [Paper 518]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/518; DOI: 10.5281/zenodo.22862439

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