【M013】平均寿命の延びは、はじめは若い年齢の、いまは高い年齢の死亡が減ったことから来ている

要旨

本稿が問うのは、「平均寿命が延びた」の中身がどの年齢から来たか、である。答えは、はじめは若い年齢、いまは高い年齢、である。厚生労働省の概況の表(特定の年齢まで生存する割合と、主な年齢の平均余命の年次推移)から、1947 年から 2024 年までの隣り合う年のあいだの平均寿命の差を、年齢の区切り(0〜39・40〜64・65〜74・75〜89・90 歳以上)ごとの寄与に分けた(アリアガの分解)。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、どの区間でも、区切りごとの寄与の和は平均寿命の差に一致する(アリアガの恒等式・差の最大 1.2e-14)。概況の丸められた値から作った分解は、丸めていない生命表の値から作った分解と、2020→2024 年で区切りごとに最大 0.007 年しか違わない(第3・7節)。

第二に、これが本稿の芯である。1947→1951 年の男性の延び 9.51 年のうち 7.63 年(0.802)は 40 歳未満の死亡が減ったことから来た。2015→2020 年の延び 0.81 年のうち 0.50 年(0.614)は 65 歳以上から来た。 女性では 0.813 と 0.837 である(第4節)。

第三に、65 歳以上の寄与が 40 歳未満を初めて上回ったのは、男女とも 1970→1975 年の区間である。 75 歳以上が上回ったのは、男性で 1985→1990 年、女性で 1975→1980 年である(第5節)。

第四に、平均寿命が下がった 2021→2022 年(男性 −0.42 年・女性 −0.48 年)は、男女とも下がった分の 6 割以上(0.688・0.754)が 75 歳以上の寄与である(第5節)。

第五に、分け方は、一度に比べるか、刻んで足すかで変わる。 1947→2024 年を一度に比べると、延び(男性 31.03 年)のうち 40 歳未満の寄与の割合は 0.668、区間ごとに分けて足すと 0.564 になる。和はどちらも同じ 31.03 年である(第6節)。

第六に、分けているのはどの年齢の死亡が減ったかである。同じ「一年の延び」でも、戦後すぐは若い命が、いまは高い年齢の命が中身を占める。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。アリアガの分解は既知の方法で、本稿はそれを公表された表に当てて、年齢の中身がいつ入れ替わったかを測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も各年の死亡状況が一定と仮定した生命表の数である(M003)。なぜその年齢の死亡が減ったか(医療・衛生・生活など)には立ち入らない。 年齢の区切りは粗い。概況の表に値のある 0・40・65・75・90 歳で区切った。データについて:厚生労働省ホームページの図表データは公共データ利用規約(第1.0版)、e-Stat の生命表は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の分解は加工して作成した。出典:厚生労働省「令和 6 年簡易生命表の概況」「簡易生命表」「完全生命表」。加えたのは、1947 年から 2024 年までの 19 の区間を同じ区切りで分解し、65 歳以上の寄与が 40 歳未満を上回った区間を男女で特定したこと、一度に比べるか刻んで足すかで年齢の割り振りが変わることを示したこと、丸めた概況の値での分解を生命表の値で確かめたことである。

1. 記法と問い

  • アリアガの分解:二つの年の平均寿命の差を、年齢の区切りごとの寄与に分ける方法。区切り [x, y) の寄与は、その区切りの中で生きる年数が変わった分(直接の効果)と、その区切りで亡くならずに済んだ人がそれより上の年齢で生きる年数(間接の効果)の和で、寄与の和は差にちょうど等しい。
  • 本稿では、各年の 0 歳を 100 とした生存数 l と、定常人口の累計 T = l × 平均余命 を、区切りの年齢(0・40・65・75・90 歳)で作る。

問い:平均寿命の延びは、どの年齢の死亡が減ったことから来たか。その中身はいつ入れ替わったか。

観察 1.1:平均寿命の延びは一つの数だが、その中身は「どの年齢で亡くならずに済んだか」の足し合わせである。同じ 1 年の延びでも、中身の年齢は時代で違いうる。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
生存割合 概況の表3:40・65・75・90 歳まで生存する割合(1947〜2024 年・0.1 % 単位)
平均余命 概況の参考資料2:0・40・65・75・90 歳の平均余命(0.01 年単位)
年 表3 の年:1947・1950-52(1951 と置く)・1955 から 2020 までの 5 年おき・2021〜2024 年の 20 個(19 の区間)
確かめ 2020 年(第 23 回完全生命表)と 2024 年(簡易生命表)の生命表の値で同じ分解をして比べる

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

確かめたこと 結果
表3 の年すべてに、参考資料2 の平均余命がそろうか そろう(20 年)
概況の表の 2020・2024 年の値と生命表の値 生存割合の差の最大 0.047 点・平均余命の差の最大 0.000 年(丸めの幅)
どの区間も、寄与の和は平均寿命の差に一致するか 一致(差の最大 1.2e-14)

4. 芯、はじめは若い年齢、いまは高い年齢

計算 4.1 隣り合う年のあいだの平均寿命の差と、区切りごとの寄与(男性・年)

区間 平均寿命の差 0〜39 歳 40〜64 歳 65〜74 歳 75〜89 歳 90 歳以上
1947→1951 +9.51 +7.63 +1.41 +0.36 +0.12 +0.00
1951→1955 +4.03 +3.05 +0.72 +0.19 +0.07 +0.00
1955→1960 +1.72 +1.57 +0.27 +0.00 -0.12 -0.00
1960→1965 +2.42 +1.78 +0.47 +0.16 +0.01 -0.00
1965→1970 +1.57 +0.69 +0.45 +0.22 +0.20 +0.00
1970→1975 +2.42 +0.80 +0.74 +0.57 +0.30 +0.01
1975→1980 +1.62 +0.56 +0.41 +0.40 +0.24 +0.01
1980→1985 +1.43 +0.36 +0.30 +0.43 +0.32 +0.01
1985→1990 +1.14 +0.22 +0.35 +0.22 +0.32 +0.02
1990→1995 +0.46 +0.09 +0.15 +0.02 +0.19 +0.01
1995→2000 +1.34 +0.20 +0.25 +0.28 +0.53 +0.07
2000→2005 +0.84 +0.13 +0.21 +0.29 +0.20 +0.01
2005→2010 +0.99 +0.14 +0.33 +0.26 +0.26 +0.01
2010→2015 +1.20 +0.18 +0.44 +0.16 +0.40 +0.02
2015→2020 +0.81 +0.09 +0.22 +0.12 +0.33 +0.05
2020→2021 -0.09 +0.01 +0.01 -0.02 -0.06 -0.03
2021→2022 -0.42 +0.00 -0.05 -0.08 -0.22 -0.07
2022→2023 +0.04 -0.05 +0.02 +0.00 +0.05 +0.02
2023→2024 +0.00 +0.03 +0.02 -0.01 -0.05 +0.01

観察 4.2:1947→1951 年の男性の延び 9.51 年のうち 7.63 年(0.802)は、40 歳未満の死亡が減ったことから来た。 女性では 9.01 年のうち 7.32 年(0.813)である。

観察 4.3:2015→2020 年の男性の延び 0.81 年のうち 0.50 年(0.614)は、65 歳以上から来た。 40 歳未満は 0.09 年である。女性では 0.72 年のうち 0.60 年(0.837)が 65 歳以上から来た。

図1 平均寿命の差を年齢の区切りごとの寄与に分ける

図1:19 の区間ごとの寄与を積み上げたもの(上が男性、下が女性)。青が 40 歳未満、緑が 40〜64 歳、茶が 65〜74 歳、橙が 75〜89 歳、紫が 90 歳以上。棒の高さが平均寿命の差。

5. いつ入れ替わったか

観察 5.1:65 歳以上の寄与が 40 歳未満を初めて上回ったのは、男女とも 1970→1975 年の区間である(男性 65 歳以上 +0.88・40 歳未満 +0.80、女性 +1.01・+0.55)。75 歳以上が 40 歳未満を初めて上回ったのは、男性で 1985→1990 年(+0.34 と +0.22)、女性で 1975→1980 年(+0.52 と +0.45)である。

観察 5.2:平均寿命が下がった区間は、男性の 2020→2021 年(−0.09)と 2021→2022 年(−0.42)、女性の 2020→2021 年(−0.14)・2021→2022 年(−0.48)・2023→2024 年(−0.01)である。2021→2022 年の低下は、男女とも 6 割以上(0.688・0.754)が 75 歳以上の寄与である。 延びと同じく、下がるときも中身は高い年齢に寄っている。

図2 正の寄与の中の年齢の割合(1947→2020 年)

図2:1947→2020 年の 15 の区間について、正の寄与の中で各区切りが占める割合。青(40 歳未満)が減り、橙(75〜89 歳)が増えていく。2020 年より後は差がごく小さいので描いていない。

6. 一度に比べるか、刻んで足すか

計算 6.1 1947→2024 年の延び(男性 31.03 年・女性 33.17 年)の区切りごとの寄与

性 分け方 0〜39 歳 40〜64 歳 65〜74 歳 75〜89 歳 90 歳以上 40 歳未満の割合
男性 一度に比べる +20.73 +6.60 +2.60 +1.09 +0.02 0.668
男性 刻んで足す +17.50 +6.72 +3.59 +3.08 +0.15 0.564
女性 一度に比べる +20.77 +6.43 +3.44 +2.47 +0.06 0.626
女性 刻んで足す +17.08 +6.02 +3.99 +5.48 +0.59 0.515

観察 6.2:同じ 77 年の延びでも、一度に比べると 40 歳未満の割合が大きく、刻んで足すと高い年齢の割合が大きくなる。 一度に比べる分解は、1947 年の生存数(高い年齢まで生きる人が少ない)を重みに使うので、高い年齢の寄与が小さく出る。刻んで足すと、各区間の始まりの年の生存数を重みに使う。和はどちらも同じである。分解の答えは、何年と何年を比べるかという問いの立て方に依る。

7. 丸めた値と丸めていない値

計算 7.1 2020→2024 年の分解(年)

性 使った値 0〜39 歳 40〜64 歳 65〜74 歳 75〜89 歳 90 歳以上 和
男性 生命表 -0.007 -0.016 -0.096 -0.289 -0.061 -0.469
男性 概況の表 -0.008 -0.014 -0.099 -0.288 -0.062 -0.470
女性 生命表 -0.101 -0.019 -0.058 -0.251 -0.158 -0.587
女性 概況の表 -0.095 -0.012 -0.058 -0.258 -0.158 -0.580

観察 7.2:概況の丸められた値(生存割合 0.1 %・平均余命 0.01 年)からの分解は、生命表の値からの分解と区切りごとに最大 0.007 年しか違わない。本稿の区間ごとの寄与は、小数第 2 位まで読んでよい。

8. 限界

  1. 期間の数である。
  2. 年齢の区切りが粗い。 0 歳(乳児)と 1〜39 歳を分けていない。
  3. なぜその年齢の死亡が減ったかには立ち入らない。
  4. 区間の長さが違う(初めは 4〜5 年、2020 年より後は 1 年)。区間どうしの大きさを比べるときは長さに気をつける。
  5. 表3 の令和 2 年以前は完全生命表、昭和 45 年以前は沖縄県を除く値である(表の注)。
  6. 一人の見通しではない。

結び

1947→1951 年の男性の平均寿命の延び 9.51 年のうち 0.802 は 40 歳未満の死亡が減ったことから来たが、2015→2020 年の延び 0.81 年のうち 0.614 は 65 歳以上から来た。65 歳以上の寄与が 40 歳未満を初めて上回ったのは、男女とも 1970→1975 年の区間だった。2021→2022 年の低下も、6 割以上が 75 歳以上の寄与だった。そして同じ 77 年の延びでも、一度に比べるか刻んで足すかで、40 歳未満の割合は 0.668 と 0.564 に分かれた。

分けるものは一つ、どの年齢の死亡が減ったか、である。

「平均寿命が延びた」と聞いたら、その延びがどの年齢で亡くならずに済んだ分なのかを、一緒に思い出す。 戦後すぐと今とでは、同じ 1 年の中身が違う。

データと再現

データ 厚生労働省「令和 6 年簡易生命表の概況」図表データ 表3・参考資料2(厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/index.html )、「令和 6 年簡易生命表」第1表・第2表、「第 23 回生命表(完全生命表)」第1表・第2表(e-Stat)(2026 年 9 月 25〜26 日に利用)
利用条件 厚生労働省ホームページのコンテンツは公共データ利用規約(第1.0版)、e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。本稿の分解は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・男女別・1947〜2024 年・年齢の区切り 5 つ
検算 検算/M013.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M013_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 5 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・分解の式)
図 図/M013_zu1・図/M013_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 令和6年簡易生命表の概況 図表データ 表3・参考資料2(2026年9月26日に利用). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/xls/life24-13.xlsx
  • 厚生労働省. 令和6年簡易生命表 第1表・第2表、第23回生命表(完全生命表)第1表・第2表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「平均寿命の延びは、はじめは若い年齢の、いまは高い年齢の死亡が減ったことから来ている」[M013]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22966888

YOI M013医療統計ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 平均寿命の延びは、はじめは若い年齢の、いまは高い年齢の死亡が減ったことから来ている [M013]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M013 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22966888

Yamagishi, Y. (2026). Gains in Life Expectancy Came First from Fewer Deaths at Young Ages, Now from Fewer at Old Ages [M013]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M013; DOI: 10.5281/zenodo.22966888

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