【M016】冬にいちばん振れる死因と、冬の上乗せをいちばん運ぶ死因は違う

要旨

本稿が問うのは、冬に増える死亡がどの死因とどの年齢から来ているか、そしてそれが時代でどう動いたか、である。人口動態統計の月別の表(死因×月・年齢×月・1947〜2024 年の年次×月)から、1 日あたりの死亡数で「冬の比」(12〜3 月 ÷ 4〜11 月)と「冬の上乗せ」(冬の死亡数のうち、冬以外の水準を超えた分)を測った。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、2024 年の冬の比は 1.180、冬の上乗せは 91070 人で、年間の死亡 1605378 人の 0.0567 にあたる。四つの表の月別の総数は互いに一致し、死亡数から作った冬の比は、人口で割った率から作った比と 32 年の最大 0.006 しか違わない(第3・4節)。

第二に、これが本稿の芯である。12 の死因の組の中で、冬の上乗せをいちばん運んでいるのは心疾患(24062 人・0.264)で、冬の比は 1.357 である。冬の比がいちばん大きい組は不慮の事故(1.496)で、再掲ではインフルエンザが 17.304、不慮の溺死及び溺水が 2.806 と大きく振れるが、上乗せの割合は 0.026 と 0.041 にとどまる(第5節)。

第三に、上乗せは「冬以外の 1 日あたりの死亡数 ×(冬の比 − 1)× 冬の日数」に一致する。がんの冬の比は 1.022 とほとんど振れないが、ふだんの数が大きいので上乗せは 2894 人(0.032)ある。 自殺は冬の比 0.957 で、冬にかえって少ない(第5節)。

第四に、年齢では、冬の比は 0〜39 歳の 1.053 がいちばん小さく、85〜94 歳の 1.205 がいちばん大きい。 75 歳以上が上乗せの 0.837 を運ぶが、年間の死亡でも 75 歳以上は 0.801 を占める(第6節)。

第五に、冬の比は 1965 年の 1.382 がいちばん大きく、2010 年の 1.111 がいちばん小さい。それでも上乗せの人数は 2024 年の 91070 人が表の 32 年でいちばん多い。 1965→2024 年に上乗せは 1.156 倍、年間の死亡は 2.292 倍になった(第7節)。

第六に、分けているのは冬に振れる幅と、その死因のふだんの大きさである。「冬に増える死因」と「冬の死亡を増やしている死因」は、同じ一覧にはならない。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。月別の死亡数から季節の振れを測る方法は既知で、本稿はそれを公表された表に当てて、振れる幅と運ぶ量がどれだけ食い違うかを測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も全国の集計の月の形である。なぜ冬に増えるか(寒さ・感染症・暮らし方など)には立ち入らない。 冬の定義は一つの選び方である。12〜3 月を冬、4〜11 月を比べる基準とした。暦年の 1〜3 月と 12 月は別の冬である。月ごとの死亡数が 10 未満の升目は本文に出さない(本稿の組と区切りでは 0 個)。データについて:e-Stat の人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の比と上乗せは加工して作成した。出典:厚生労働省「人口動態統計」。加えたのは、冬の上乗せを重ならない 12 の死因の組と年齢の区切りに分け、振れる幅(冬の比)と運ぶ量(上乗せの割合)が同じ順にならないことを示したこと、上乗せを「ふだんの大きさ × 振れる幅 × 日数」の積として書いたこと、1947 年から 2024 年までの 32 年で、冬の比と上乗せの人数が逆の向きに動いたことを示したことである。

1. 記法と問い

  • 1 日あたりの死亡数:その月の死亡数 ÷ その月の日数(2024 年はうるう年で 2 月は 29 日)。月の長さの違いを消すため。
  • 冬の比:冬(12・1・2・3 月)の 1 日あたりの死亡数 ÷ 冬以外(4〜11 月)の 1 日あたりの死亡数。
  • 冬の上乗せ:冬の死亡数 −(冬以外の 1 日あたりの死亡数 × 冬の日数)。冬が冬以外の水準だったら出なかった分である。死因や年齢に分けても、上乗せの和は全体の上乗せにちょうど一致する。

問い:冬に増える死亡は、どの死因とどの年齢が運んでいるか。いちばん振れる死因と、いちばん運ぶ死因は同じか。

観察 1.1:冬の上乗せは、冬以外の 1 日あたりの死亡数(ふだんの大きさ)と、冬の比から 1 を引いたもの(振れる幅)と、冬の日数の積である。大きく振れても数の少ない死因は上乗せを多くは運ばず、少ししか振れなくても数の多い死因は運ぶ。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
年次 × 月 第5.4表:死亡月別の死亡数と率(人口千対・年率換算)。1947・1950〜2000 年は 5 年おき、2005〜2024 年は毎年の 32 年
死因 × 月 下巻第3表:死因簡単分類 × 性 × 死亡月の死亡数(2024 年)
死因 × 月の率 第5.18表:死因簡単分類 × 死亡月の率(人口 10 万対・年率換算・2024 年)。死亡数からの比の確かめに使う
年齢 × 月 中巻第5表:生年年齢(各歳)× 死亡月 × 性の死亡数(2024 年)。同じ年齢が生まれ年で二行に分かれているので足す
死因の組 重ならない 12 の組:がん・心疾患・脳血管疾患・その他の循環器・肺炎・誤嚥性肺炎・その他の呼吸器・老衰・不慮の事故・自殺・新型コロナウイルス感染症・その他

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

確かめたこと 結果
2024 年の月別の総数 第5.4表・下巻第3表・中巻第5表で一致(1 月 155418・12 月 157141)
下巻第3表 男+女=総数、章の和(20 個)=総数(月ごと)
中巻第5表 各歳(0〜120 歳)+不詳(543)=総数(月ごと)
12 の死因の組 月別の和=総数。上乗せの和=全体の上乗せ
死亡数からの比と率からの比 2024 年の総数で 1.180 と 1.176(差 +0.004)。32 年の差の最大 0.006

観察 3.2:1 日あたりの死亡数の比は月ごとの人口の違いを入れていないが、人口で割った率からの比とは 0.006 以内で合う。本稿の比は小数第 2 位まで読んでよい。

4. 2024 年の月の形

計算 4.1 2024 年の 1 日あたりの死亡数

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
5013 4804 4644 4178 3986 3889 4111 4272 4143 4126 4396 5069

観察 4.2:いちばん多い月は 12 月、いちばん少ない月は 6 月で、比は 1.303 である。冬以外の 1 日あたり 4137.5 人に対して冬は 4883.9 人で、冬の比は 1.180、冬の上乗せは 91070 人(年間の死亡の 0.0567)である。

5. 芯、振れる死因と、運ぶ死因

計算 5.1 死因の組ごとの冬の比と上乗せ(2024 年・上乗せの大きい順)

組 年間の死亡数 冬以外の 1 日あたり 冬の比 上乗せ(人) 上乗せの割合 最多の月
心疾患 226388 552.8 1.357 +24062 +0.264 1 月
その他 323290 836.3 1.169 +17218 +0.189 12 月
老衰 206887 536.4 1.162 +10574 +0.116 12 月
脳血管疾患 102821 262.3 1.213 +6820 +0.075 1 月
不慮の事故 45743 107.2 1.496 +6492 +0.071 12 月
肺炎 80176 202.4 1.248 +6114 +0.067 1 月
その他の呼吸器 61142 151.5 1.308 +5694 +0.063 12 月
新型コロナウイルス感染症 35865 84.5 1.479 +4938 +0.054 2 月
その他の循環器 41771 102.8 1.331 +4146 +0.046 1 月
がん 398020 1079.6 1.022 +2894 +0.032 12 月
誤嚥性肺炎 63667 167.4 1.118 +2402 +0.026 12 月
自殺 19608 54.4 0.957 −286 −0.003 4 月

観察 5.2:上乗せをいちばん運んでいるのは心疾患(0.264)で、冬の比は 1.357 である。冬の比がいちばん大きい組は不慮の事故(1.496)だが、上乗せの割合は 0.071 である。 上乗せの順と冬の比の順は一致しない。上乗せは「冬以外の 1 日あたり ×(冬の比 − 1)× 冬の日数(122 日)」にちょうど一致するので、ふだんの大きさと振れる幅の両方で決まる。

観察 5.3:がんの冬の比は 1.022 で、12 の組の中でほとんど振れない。それでも冬以外の 1 日あたりが 1079.6 人と大きいので、上乗せは 2894 人(0.032)ある。 自殺は冬の比 0.957 で、冬にかえって少なく、1 日あたりがいちばん多い月は 4 月である。

計算 5.4 組の中の一部(再掲・2024 年)

死因 年間の死亡数 冬以外の 1 日あたり 冬の比 上乗せ(人) 上乗せの割合 最多の月
インフルエンザ 2857 1.2 17.304 +2413 +0.026 12 月
不慮の溺死及び溺水 9905 16.9 2.806 +3722 +0.041 12 月
急性心筋梗塞 28237 66.5 1.479 +3886 +0.043 1 月
脳内出血 32566 81.5 1.274 +2728 +0.030 1 月
転倒・転落・墜落 11935 30.0 1.263 +961 +0.011 12 月
糖尿病 14959 37.6 1.260 +1194 +0.013 1 月
心不全 98814 248.7 1.257 +7800 +0.086 1 月
腎不全 29665 75.5 1.219 +2014 +0.022 1 月
脳梗塞 56129 144.8 1.177 +3130 +0.034 1 月
アルツハイマー病 25595 66.7 1.146 +1184 +0.013 12 月

観察 5.5:インフルエンザの冬の比 17.304 は心疾患の 12.75 倍だが、上乗せは心疾患のほうが 9.97 倍多い。 不慮の溺死及び溺水も冬の比 2.806 と大きく振れ、上乗せは 3722 人(0.041)である。いちばん振れる死因は、冬の死亡をいちばん増やしている死因ではない。

図1 冬の上乗せを死因の組に分ける

図1:2024 年の冬の上乗せ(人)を 12 の死因の組に分けたもの。棒の先の数字が冬の比。心疾患の棒がいちばん長いが、比がいちばん大きいのは不慮の事故である。がんは比 1.022 でも棒が残り、自殺だけが負になる。

6. 年齢で見る

計算 6.1 年齢の区切りごとの冬の比と上乗せ(2024 年)

区切り 年間の死亡数 冬の比 上乗せ(人) 上乗せの割合
0〜39 歳 15402 1.053 +268 +0.003
40〜64 歳 113235 1.118 +4299 +0.047
65〜74 歳 191139 1.170 +10260 +0.113
75〜84 歳 451728 1.167 +23871 +0.262
85〜94 歳 627118 1.205 +40198 +0.441
95 歳以上 206213 1.189 +12192 +0.134

観察 6.2:冬の比は 0〜39 歳の 1.053 がいちばん小さく、85〜94 歳の 1.205 がいちばん大きい。 年齢不詳の死亡の上乗せは −20 人で、区切りの和と足すと全体に一致する。

観察 6.3:75 歳以上が上乗せの 0.837 を運ぶが、年間の死亡でも 75 歳以上は 0.801 を占める。 75 歳以上の三つの区切りの冬の比は 1.167〜1.205 で、上乗せの割合と死亡の割合の差は小さい。上乗せが高い年齢に集まるのは、主に高い年齢の死亡がもともと多いからである。ここでも、運ぶ量はふだんの大きさで決まる。

7. 年次の推移

計算 7.1 冬の比と上乗せの推移(第5.4表)

年 冬の比 上乗せ(人) 年間の死亡に占める割合
1947 1.246 +85669 0.0753
1950 1.286 +78404 0.0866
1955 1.229 +48904 0.0705
1960 1.266 +57558 0.0815
1965 1.382 +78769 0.1125
1970 1.332 +70700 0.0992
1975 1.248 +53296 0.0759
1980 1.209 +47014 0.0650
1985 1.190 +44675 0.0594
1990 1.192 +48987 0.0597
1995 1.289 +80497 0.0873
2000 1.231 +68676 0.0714
2005 1.228 +76133 0.0702
2010 1.111 +42384 0.0354
2015 1.175 +70601 0.0547
2020 1.136 +59720 0.0435
2021 1.117 +53710 0.0373
2022 1.172 +84751 0.0540
2023 1.175 +86251 0.0547
2024 1.180 +91070 0.0567

観察 7.2:冬の比は 1965 年の 1.382 がいちばん大きく、2010 年の 1.111 がいちばん小さい。上乗せの人数は、2024 年の 91070 人が表の 32 年でいちばん多い。 1965→2024 年に冬の比は 1.382 から 1.180 に下がったが、上乗せは 78769 人から 91070 人へ 1.156 倍になり、年間の死亡は 700438 人から 1605378 人へ 2.292 倍になった。冬の振れは小さくなったが、ふだんの大きさが大きくなった分、冬に上乗せされる人数は増えた。

図2 冬の比と冬の上乗せの推移

図2:上は冬の比、下は冬の上乗せ(人)。1947〜2000 年は 5 年おき、2005 年からは毎年の値。上の線が 1965 年を山に下がる一方、下の棒は 2022 年から高い。

8. 限界

  1. 冬の定義は一つの選び方である。 12〜3 月を冬、4〜11 月を基準にした。夏にも山がある年(2024 年は 8 月の 1 日あたりが 4272 人)は、基準が少し上がる。
  2. 暦年の 1〜3 月と 12 月は別の冬である。 本稿の数は一つの暦年の月の形である。
  3. 1 日あたりの死亡数の比は人口の動きを入れていない。 率からの比とは 0.006 以内で合った。
  4. なぜ冬に増えるかには立ち入らない。 寒さ、感染症の流行、暮らし方などの理由を、この表は分けない。
  5. 死因は死亡診断書に書かれた原死因による。 一人の死亡は一つの死因にしか数えられない。
  6. 死亡数が増えた中身(年齢構成と年齢別の率)は分けていない。 その分け方は M001 が示した。
  7. 一人の見通しではない。

結び

2024 年の冬の上乗せ 91070 人のうち 0.264 は心疾患が運び、その冬の比は 1.357 だった。インフルエンザは冬の比 17.304 と大きく振れても、上乗せの 0.026 だった。がんは 1.022 とほとんど振れないのに 2894 人を運んだ。年齢でも、75 歳以上が上乗せの 0.837 を運ぶのは、年間の死亡でも 0.801 を占めるからだった。そして冬の比は 1965 年の 1.382 から下がったのに、上乗せの人数は 2024 年がいちばん多かった。

分けるものは一つ、冬に振れる幅と、その死因のふだんの大きさ、である。

「冬に増える死因」と聞いたら、それが大きく振れる死因なのか、冬の死亡を多く運んでいる死因なのかを、一緒に思い出す。 二つの一覧は同じではない。

データと再現

データ 厚生労働省『人口動態統計』令和6年(確定数)上巻 第5.4表・第5.18表、中巻 第5表、下巻 第3表(e-Stat・2026 年 9 月 26 日に利用)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。本稿の比と上乗せは、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・2024 年の死因と年齢の月別、1947〜2024 年の 32 年の月別
検算 検算/M016.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M016_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 4 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・計算の置き方)
図 図/M016_zu1・図/M016_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.4表・第5.18表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)中巻 第5表・下巻 第3表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). 「死亡率が上がった」は、年齢構成の動きと年齢別の率の動きを一語で呼んでいる [M001]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963112

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「冬にいちばん振れる死因と、冬の上乗せをいちばん運ぶ死因は違う」[M016]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22967170

YOI M016医療統計ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M016・DOI 10.5281/zenodo.22967170・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 冬にいちばん振れる死因と、冬の上乗せをいちばん運ぶ死因は違う [M016]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M016 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22967170

Yamagishi, Y. (2026). The Cause That Swings Most in Winter Is Not the Cause That Carries Most of the Winter Excess [M016]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M016; DOI: 10.5281/zenodo.22967170

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