要旨
本を作るときは「紙の目を背に揃える」と言われる。本稿は、それが何を揃えているのかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、紙の伸びは向きで違う。相対湿度が $30$ パーセント上がると、目の向きで $0.003$、直角の向きで $0.012$ 伸びる(第2節)。
第二に、綴じた辺に沿う向きは伸びを縛られる。縛られた伸びの行き場が、自由な縁の波になる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。どちらの向きを縛るかで波の高さが変わる。目が背と平行なら振幅 $\mathbf{0.349083}$ mm、直角なら $\mathbf{0.700507}$ mm である(第3節)。
第四に、伸びの差ほどには波は違わない。ひずみは $4$ 倍なのに、振幅は $\mathbf{2.006707}$ 倍である(第3節)。
第五に、振幅は伸びの平方根で効く。近似 $(w/\pi)\sqrt{\varepsilon}$ は厳密な弧長の計算と $1$ パーセント以内で合う(第3節)。
第六に、分離子は、どれだけ湿るかを問うか、どの向きを縛るかを問うかである。同じ紙が同じだけ湿っても、置く向きで波打ち方が変わる(第4節)。
キーワード:紙の目、湿度膨張、異方性、波打ち、製本、模型。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。紙の湿度による伸びが繊維の向きで異なり、目と直角の向きのほうが大きいこと、製本で紙の目を背と平行にする習わし、伸びを縛られた薄い板が波打つこと、正弦波の弧長と振幅の関係は、いずれも既知である。実在の紙の値を主張しない。伸びの係数 $1\times10^{-4}$ と $4\times10^{-4}$、波長 $20$ mm は模型の値である。製本を指示しない。綴じ方の手順や材料の選び方は述べない。乾きを入れない。乾いて縮むときの反り(カール)は扱わない。紙の強さを扱わない。破れや折り目の付き方は主題ではない。既刊との関係:論文342 は同じ二材料を同じ割合で混ぜても、並べ方で剛性が $16.93$ 倍ひらくことを示した。本稿はその隣に置く。あちらは並べ方が硬さを変え、こちらは向きの置き方が波打ちを変える。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。湿る量と縛る向きは、その基準で別根である。加えたのは、二つの向きで波の振幅を厳密な弧長から出したこと、ひずみ $4$ 倍が振幅 $2.006707$ 倍になると測ったこと、近似と厳密な計算が $1$ パーセント以内で合うと確かめたこと、分離子を「湿る量か、縛る向きか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:紙が相対湿度 $\Delta\phi$ だけ湿ると、目の向きには $\beta_{\mathrm{MD}}\Delta\phi$、直角の向きには $\beta_{\mathrm{CD}}\Delta\phi$ のひずみが生じる。背に沿う向きは綴じられて伸びられず、縛られたひずみ $\varepsilon$ のぶんが自由な縁で波長 $w$ の正弦波になると置く。
$$\frac{1}{w}\int_{0}^{w}\sqrt{1+\left(\frac{2\pi a}{w}\cos\frac{2\pi x}{w}\right)^{2}}\,dx=1+\varepsilon,
\qquad a\approx\frac{w}{\pi}\sqrt{\varepsilon}$$
左の式を振幅 $a$ について解く。右は $\varepsilon$ が小さいときの近似である。本稿は $\beta_{\mathrm{MD}}=1\times10^{-4}$、$\beta_{\mathrm{CD}}=4\times10^{-4}$、$\Delta\phi=30$、$w=20$ mm と置く。
問い:ページの波打ちは、湿る量で決まるのか、向きの置き方で決まるのか。
2. 向きで違う伸び
計算 2.1:相対湿度が $30$ パーセント上がったときのひずみを出した。
| 向き | ひずみ |
|---|---|
| 目の向き | $0.003000$ |
| 目と直角の向き | $0.012000$ |
| 比 | $4.000000$ |
観察 2.2 同じ湿りで、伸びは向きで $4$ 倍違う。背に沿う向きがどちらになるかで、縛られるひずみが変わる。湿る量は同じで、違うのは縛られる向きだけである。
3. 波の高さ
計算 3.1:縛られたひずみから、自由な縁の波の振幅を厳密な弧長の式で解いた。
| 目と背の関係 | 縛られるひずみ | 振幅(厳密) | 振幅(近似) |
|---|---|---|---|
| 平行 | $0.003000$ | $0.349083$ mm | $0.348691$ mm |
| 直角 | $0.012000$ | $0.700507$ mm | $0.697382$ mm |
観察 3.2 これが本稿の芯である。向きの置き方で波の高さが変わる。目が背と直角だと、平行のときの $2.006707$ 倍の高さで波打つ。目を背に揃えるのは、伸びの小さい向きを縛られた辺に合わせることである。
観察 3.3 ひずみ $4$ 倍が、振幅 $2$ 倍にしかならない。比は $2.006707$ で、$4$ の平方根にほぼ等しい。余った長さは波の高さの二乗で吸収されるので、高さは伸びの平方根で効くからである。
観察 3.4 近似と厳密な計算は $1$ パーセント以内で合う。厳密な振幅がわずかに大きいのは、弧長の高い次の項のぶんである。比が $2$ よりわずかに大きいのも同じ理由による。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、どれだけ湿るかを問うか、どの向きを縛るかを問うかである。湿りの量を同じにしても、縛る向きで振幅は $0.349083$ mm と $0.700507$ mm に分かれる。同じ紙が同じだけ湿っても、置く向きで波打ち方が変わる。
観察 4.2 論文342 の隣に置く。342 は同じ二材料を同じ割合で混ぜても、並べ方で剛性が $16.93$ 倍ひらくことを示した。あちらは材料の並べ方が硬さを変え、こちらは向きの置き方が波打ちを変える。どちらも中身を変えずに向きと配置だけで答が変わる。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。湿る量と縛る向きは、その基準で別根である。
観察 4.3 言わないこと。実在の紙の係数も、製本の手順も、乾いたときの反りも、紙の強さも扱わない。示したのは、波打ちを決めるのが縛る向きだということである。
5. 点呼と結び
- 目の向きのひずみ $0.003000$(計算 2.1):小さい。
- 直角の向き $0.012000$(計算 2.1):$4$ 倍。
- 背に沿う向きは縛られる(第1節):行き場が波になる。
- 平行なら $\mathbf{0.349083}$ mm(計算 3.1):低い波。
- 直角なら $\mathbf{0.700507}$ mm(計算 3.1):本稿の芯。
- 比は $\mathbf{2.006707}$(観察 3.3):$4$ 倍にならない。
- 高さは伸びの平方根(観察 3.3):二乗で吸収される。
- 近似は $1$ パーセント以内(観察 3.4):高い次の項のぶんだけずれる。
- 揃えるのは小さい伸びの向き(観察 3.2):作法ではない。
- 湿る量か、縛る向きか(観察 4.1):分離子・論文342・300。
結び:本のページが波打つかどうかは、紙が湿る量より、綴じた辺にどちらの向きを沿わせたかで決まる。相対湿度が $30$ パーセント上がると紙は目の向きで $0.003$、直角の向きで $0.012$ 伸び、背に沿う向きは綴じられて伸びられないので、そのぶんが自由な縁の波になる。縛られた伸びの行き場が、縁の波しかないからである。波長 $20$ mm の振幅は、目が背と平行なら $0.349083$ mm、直角なら $0.700507$ mm で、ひずみは $4$ 倍でも振幅は $2.006707$ 倍にとどまる。余った長さは波の高さの二乗で吸収されるので、高さは伸びの平方根で効くからである。目を背に揃えるのは、伸びの小さい向きを縛られた辺に合わせることである。既刊との位置:論文342 の「並べ方で硬さが変わる」の隣に、「向きの置き方で波打ちが変わる」を置き、論文300 の規律で湿る量と縛る向きを別根として扱った。正直に言えば、伸びの係数と波長は模型の値で、乾いて縮むときの反りは入れていない。
参考文献
- Niskanen, K. (Ed.) (2012). Mechanics of Paper Products. De Gruyter.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/300 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ二材料を同じ割合で混ぜて、剛性が $16.93$ 倍ひらく』[論文342]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/342 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22682160
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「本のページが波打つかどうかは、紙が湿る量より、綴じた辺にどちらの向きを沿わせたかで決まる」[論文859]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/859
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/859・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 本のページが波打つかどうかは、紙が湿る量より、綴じた辺にどちらの向きを沿わせたかで決まる [論文859]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/859
Yamagishi, Y. (2026). Whether Book Pages Cockle Depends Less on How Damp the Paper Gets Than on Which Direction Runs Along the Bound Edge [Paper 859]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/859
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Whether Book Pages Cockle Depends Less on How Damp the Paper Gets Than on Which Direction Runs Along the Bound Edge},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/859},
note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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