【論文931】同じ平均の滞在時間でも、混ぜた箱を直列に分けるほど早く出る分が減り、反応は押し出し流れに近づく

要旨

液や気体を流しながら中をよく混ぜる箱では、入ったものの一部はすぐに出て、一部は長く残る。本稿は、合計の平均の滞在時間を変えずに、よく混ぜた箱を $N$ 個に分けて直列につないだとき、早く出る割合・遅く出る割合・一次反応の残りがどう変わるかを数え、粒子の乱数で確かめる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、一つの箱では、平均の半分より早く出るものが四割近くある。箱一つで平均の半分より早く出る割合は $\mathbf{0.393469}$、平均の二倍より遅く出る割合は $0.135335$ だった(第2節)。

第二に、箱を増やすと、早く出る分も遅く出る分も減る。早く出る割合は箱二つで $0.264241$、五つで $0.108822$、十で $0.031828$、三十で $0.000418$ になり、滞在時間の分散は平均の二乗の $1/N$ に縮んだ(第2節)。

第三に、一次反応の残りは、押し出し流れに近づく。反応の速さと平均の滞在時間の積を $2$ とすると、残りは箱一つで $0.333333$、二つで $0.250000$、十で $0.161506$、百で $\mathbf{0.138033}$ と単調に減り、箱が無限の押し出し流れの $\mathbf{0.135335}$ に近づいた(第3節)。

第四に、粒子の乱数でも同じになる。粒子 $20000$ 個に箱ごとの滞在時間を乱数で与えると、箱五つで早く出る割合 $0.104150$(式 $0.108822$)、反応の残り $0.184687$(式 $0.185934$)だった(第4節)。

第五に、分離子は、平均の滞在時間を見るか、滞在時間のばらつきを見るかである。平均はどの箱の数でも同じだが、一次反応の残りはすぐ抜ける分に引きずられ、ばらつきが縮むほど押し出し流れに近づく(第5節)。

キーワード:滞在時間分布、完全混合、槽列モデル、押し出し流れ、一次反応、アーラン分布。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。よく混ぜた箱の滞在時間の指数分布、箱を直列につないだときのアーラン分布、一次反応の残りの式、押し出し流れとの比べ方は、いずれも反応工学で知られている。実在の装置や環境の値を主張しない。反応の速さと平均の滞在時間の積 $2$ は置いた値で、特定の反応器、湖、大気には対応しない。一次反応だけを扱う。二次反応、拡散、逆流、箱のあいだの行き戻りは入れない。設計を論じない。どの箱の数が良いか、費用は扱わない。既刊との関係:論文865 の射程注記は、箱を増やさず、相手を一つの箱としてその中の混ざり方を扱わないと書いた。本稿はその箱を増やす席に座る(先客なし)。論文549 は、滞在時間が $5.8$ 倍変わっても、中にいる数と到着率と滞在時間の掛け算の関係は動かないことを示した。ここでは平均の滞在時間を変えずに分け方だけを変え、平均では見えない早く抜ける分を数える。論文576 は、配水管を太くすると水が古くなることを示した。ここでは古さの平均ではなく、同じ平均の中での古さのばらつきが出口の中身を変えることを数える。加えたのは、箱の数ごとに早く出る割合と遅く出る割合を並べたこと、分散が箱の数に反比例することを示したこと、一次反応の残りが押し出し流れに単調に近づくことを数えたこと、粒子の乱数で式を確かめたこと、分離子を「平均か、ばらつきか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:合計の平均の滞在時間を $\tau=1$ とし、よく混ぜた箱を $N$ 個に分けて直列につなぐ。各箱の平均は $1/N$ で、合計の滞在時間 $t$ はアーラン分布に従う。一次反応(速さ $k$)の残りは、滞在時間で重みをつけた $e^{-kt}$ の平均である。

$$P(t\le x)=1-\sum_{j=0}^{N-1}e^{-Nx}\frac{(Nx)^j}{j!},\qquad \mathrm{Var}(t)=\frac{1}{N},\qquad \text{残り}=\left(1+\frac{k\tau}{N}\right)^{-N}$$

$N\to\infty$ で押し出し流れの残り $e^{-k\tau}$ になる。検算では $k\tau=2$ とし、粒子 $20000$ 個に箱ごとの指数分布の乱数を足した滞在時間を与えて、式と突き合わせた。

問い:平均の滞在時間が同じなら、箱の分け方は出口の中身を変えるか。

2. 早く出る分と遅く出る分

計算 2.1:箱の数ごとの割合。

箱の数 $N$ 平均の半分より早く出る 平均の二倍より遅く出る 分散
$1$ $0.393469$ $0.135335$ $1.000000$
$2$ $0.264241$ $0.091578$ $0.500000$
$3$ $0.191153$ $0.061969$ $0.333333$
$5$ $0.108822$ $0.029253$ $0.200000$
$10$ $0.031828$ $0.004995$ $0.100000$
$30$ $0.000418$ $0.000007$ $0.033333$
$100$ $0.000000$ $0.000000$ $0.010000$

観察 2.2 箱を増やすと、平均は同じまま、早く出る分も遅く出る分も減る。箱一つでは平均の半分より早く出るものが $0.393469$ あり、十に分けると $0.031828$ になる。平均のまわりのばらつきは、分散で平均の二乗の $1/N$ に縮む。

3. 一次反応の残り

計算 3.1:$k\tau=2$ の一次反応の残り。

箱の数 $N$ 反応の残り
$1$ $0.333333$
$2$ $0.250000$
$3$ $0.216000$
$5$ $0.185934$
$10$ $0.161506$
$30$ $0.144257$
$100$ $0.138033$
押し出し流れ $0.135335$

観察 3.2 一次反応の残りは、箱を増やすほど単調に減り、押し出し流れに近づく。残りは滞在時間ごとの $e^{-kt}$ の平均で、この関数は短い時間の側で大きいので、早く抜ける分が残りを押し上げる。箱一つの残り $0.333333$ は押し出し流れの $0.135335$ の二倍を超え、箱を百にすると $0.138033$ まで下がった。

4. 粒子の乱数で確かめる

計算 4.1:粒子 $20000$ 個。

$N$ 早く出る(乱数) 早く出る(式) 反応の残り(乱数) 反応の残り(式)
$1$ $0.395100$ $0.393469$ $0.334997$ $0.333333$
$5$ $0.104150$ $0.108822$ $0.184687$ $0.185934$
$30$ $0.000400$ $0.000418$ $0.144473$ $0.144257$

滞在時間の平均は $0.993630$・$1.001475$・$1.000035$、分散は $1.009950$・$0.196102$・$0.034189$(式 $1$・$0.2$・$0.033333$)で、差はどれも $0.01$ 以内だった。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、平均の滞在時間を見るか、滞在時間のばらつきを見るかである。平均だけを見れば、箱が一つでも百でも同じ装置に見える。ばらつきを見ると、箱一つでは早く抜けるものが多く、一次反応の残りは押し出し流れの二倍を超える。箱を増やしてばらつきを縮めるほど、出口の中身は押し出し流れに近づく。

観察 5.2 言わないこと。実在の反応器や環境の値、二次反応、拡散、逆流、どの箱の数が良いかは扱わない。示したのは、同じ平均の滞在時間でも、分け方で早く出る分と反応の残りが変わることである。

6. 点呼と結び

  1. アーラン分布・分散 $1/N$・残り $(1+k\tau/N)^{-N}$(第1節):分けた箱。
  2. 箱一つで早く出る $\mathbf{0.393469}$(計算 2.1):四割近く。
  3. 十で $0.031828$(計算 2.1):早く出る分が減る。
  4. 反応の残り $0.333333$ から $\mathbf{0.138033}$(計算 3.1):押し出し流れ $\mathbf{0.135335}$ へ。
  5. 乱数と式の差 $0.01$ 以内(計算 4.1):粒子で確かめた。
  6. 平均か、ばらつきか(観察 5.1):分離子・論文865 の射程注記・論文549・576。

結び:同じ平均の滞在時間でも、混ぜた箱を直列に分けるほど早く出る分が減り、反応は押し出し流れに近づく。箱一つでは平均の半分より早く出るものが $0.393469$ あり、十に分けると $0.031828$ になった。一次反応の残りは箱一つの $0.333333$ から箱百の $0.138033$ まで単調に減り、押し出し流れの $0.135335$ に近づいた。平均はどの分け方でも同じで、変わったのは滞在時間のばらつきである。分離子は、平均の滞在時間を見るか、滞在時間のばらつきを見るかである。既刊との位置:論文865 が一つの箱として扱わなかった混ざり方を箱の数として数え、論文549 の平均の関係と論文576 の水の古さに、平均では見えないばらつきを並べた。正直に言えば、どの装置が良いかは言わない。平均が同じでも出口の中身が変わる、そこまでである。

参考文献

  1. Fogler, H. S. (2006). Elements of Chemical Reaction Engineering. Prentice Hall.
  2. Levenspiel, O. (1999). Chemical Reaction Engineering. Wiley.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『滞在時間が $5.8$ 倍変わっても、掛け算の関係は動かない』[論文549]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/549 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014185
  4. 山岸勇輝 (2026). 『配水管は、太くすると水が古くなる』[論文576]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/576 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014315
  5. 山岸勇輝 (2026). 『一つの分子が空に居る時間と、足した分が消える時間は別である』[論文865]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/865

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ平均の滞在時間でも、混ぜた箱を直列に分けるほど早く出る分が減り、反応は押し出し流れに近づく」[論文931]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/931

YOI 931第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ平均の滞在時間でも、混ぜた箱を直列に分けるほど早く出る分が減り、反応は押し出し流れに近づく [論文931]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/931

Yamagishi, Y. (2026). With the Same Mean Residence Time, Splitting a Mixed Vessel into More Tanks in Series Lets Less Leave Early and Brings Reaction Close to Plug Flow [Paper 931]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/931

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