【論文942】曲げの硬さで倍音は整数倍より高くなり、同じ高さの弦では太いほどずれる

要旨

理想の弦は張力だけで元に戻るので、倍音の振動数は基音のちょうど整数倍になる。本稿は、鋼の弦に曲げの硬さを入れた倍音の式で、整数倍からのずれをセントで数え、同じ高さに合わせた太さの違う二本で比べ、式を差分の固有値で確かめる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、曲げの硬さがあると、番号の大きい音ほど整数倍より高くずれる。長さ $0.648$ m・直径 $1.0$ mm の鋼の弦を $330$ Hz に合わせると、ずれの係数は $B=2.046219\times10^{-4}$ で、$n=2$・$5$・$10$・$20$ の音は整数倍より $0.5311$・$4.2397$・$17.3565$・$\mathbf{67.9222}$ セント高かった(第2節)。

第二に、同じ高さに合わせると、細い弦はずれが小さい。直径 $0.5$ mm では $B=5.115549\times10^{-5}$ で、$n=20$ の音のずれは $\mathbf{17.4894}$ セントだった。係数の比は $\mathbf{4.000000}$ で、直径の二乗に比例した(第2節)。

第三に、同じ高さの太い弦は、張力も大きい。直径 $1.0$ mm の張力は $1127.710$ N、$0.5$ mm は $281.927$ N だった。太さを増すと、曲げの硬さは張力より速く増える(第2節)。

第四に、式は差分の固有値と合った。両端を支えた弦を $1500$ 点の差分にして固有値を解くと、$n=1$・$2$・$5$・$10$・$20$ の振動数は式と相対差が一万分の一未満で合い、$n=20$ では $6864.2502$ Hz 対 $6864.7893$ Hz だった(第3節)。

第五に、分離子は、弦を戻す力を張力だけで数えるか、曲げの硬さも数えるかである。張力だけなら波の速さは振動数に依らず、倍音は整数倍に並ぶ。曲げの硬さは短い波ほど強く戻すので、番号の大きい音ほど高くなる(第4節)。

キーワード:非調和性、曲げ剛性、弦の振動、倍音、セント、ヤング率。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。曲げの硬さを持つ弦の倍音の式、その係数が直径の四乗に比例し張力と長さの二乗に反比例すること、ピアノなどで倍音が整数倍より高くなる非調和性(インハーモニシティ)は、いずれも既知である。置いた値である。長さ $0.648$ m と鋼の密度 $7850$ kg/m³ は論文857 と同じで、高さ $330$ Hz とヤング率 $200$ GPa は本稿で置いた値である。張力はどの楽器の弦にも対応しない。楽器と調律を扱わない。巻き弦、実在のピアノやギター、倍音のずれに合わせて音程を広げる調律、音色の聞こえ方は扱わない。端の条件を限る。両端は回転が自由な支え方とし、駒や響板の動きは入れない。既刊との関係:論文857 の射程注記は、曲げの硬さを入れず、弦の曲げ剛性で倍音が理想からずれることは扱わないと書いた。本稿はその席に座る(先客なし)。論文466 の射程注記も、楽器を論じず、調律の実務、インハーモニシティ、可変音律は主題ではないと書いた。本稿はそのうちインハーモニシティの席に座り、調律の実務には入らない。論文299 は、弦の倍音は整数比で、円形の膜は無理数比になることを示した。ここでは、その弦の整数比が曲げの硬さでどれだけ崩れるかを数える。加えたのは、二つの太さでずれの係数とセントを出したこと、同じ高さで係数が直径の二乗に比例することを数で確かめたこと、式を差分の固有値と突き合わせたこと、分離子を「弦を戻す力を張力だけで数えるか、曲げの硬さも数えるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:長さ $L$、直径 $d$、密度 $\rho$、ヤング率 $E$ の円い弦を張力 $T$ で張る。線密度は $\mu=\rho\pi d^2/4$、断面二次モーメントは $I=\pi d^4/64$ である。両端を回転が自由な形で支えると、$n$ 番目の音の振動数は次の式になる。

$$f_n=nf_0\sqrt{1+Bn^2},\qquad f_0=\frac{1}{2L}\sqrt{\frac{T}{\mu}},\qquad B=\frac{\pi^3Ed^4}{64TL^2}$$

同じ $f_0$ に合わせると $T=\mu(2Lf_0)^2$ なので、

$$B=\frac{\pi^2Ed^2}{64\rho L^4f_0^2}$$

となり、係数は直径の二乗に比例する。整数倍からのずれは、実際の一番目の音 $f_1$ の $n$ 倍に対して $c_n=1200\log_2\bigl(f_n/(nf_1)\bigr)$ セントで数える。置いた値は $L=0.648$ m、$\rho=7850$ kg/m³(論文857 と同じ)、$E=200$ GPa、$f_0=330$ Hz である。

問い:曲げの硬さは倍音をどれだけ整数倍からずらし、そのずれは弦の太さでどう変わるか。

2. 二つの太さのずれ

計算 2.1:$330$ Hz に合わせた二本の弦。

直径 線密度 kg/m 張力 N $B$ $n=2$ $n=5$ $n=10$ $n=20$(セント)
$1.0$ mm $6.165376\times10^{-3}$ $1127.710$ $2.046219\times10^{-4}$ $0.5311$ $4.2397$ $17.3565$ $\mathbf{67.9222}$
$0.5$ mm $1.541344\times10^{-3}$ $281.927$ $5.115549\times10^{-5}$ $0.1328$ $1.0620$ $4.3725$ $\mathbf{17.4894}$

係数の比($1.0$ mm ÷ $0.5$ mm)は $\mathbf{4.000000}$ だった。

観察 2.2 番号の大きい音ほど高くずれ、同じ高さなら太い弦ほどずれる。直径 $1.0$ mm の弦では、$n=2$ の $0.5311$ セントが $n=20$ で $67.9222$ セントまで増えた。同じ $330$ Hz に合わせた $0.5$ mm の弦では $n=20$ で $17.4894$ セントで、係数は直径の二乗のとおり $4.000000$ 倍違った。太い弦は張力も $1127.710$ N と大きく、細い弦との比は $4.000000$ だったが、曲げの硬さ $EI$ の比は $16.000000$ で、張力の増え方を上回った。

3. 差分の固有値で確かめる

計算 3.1:直径 $1.0$ mm の弦を $1500$ 点の差分にし、$\mu\ddot y=Ty”-EIy””$ の固有値を解いた。

$n$ 差分の固有値 Hz 式 Hz 相対差
$1$ $330.0337$ $330.0338$ $1.83\times10^{-7}$
$2$ $660.2696$ $660.2700$ $7.31\times10^{-7}$
$5$ $1654.2074$ $1654.2149$ $4.59\times10^{-6}$
$10$ $3333.5296$ $3333.5917$ $1.86\times10^{-5}$
$20$ $6864.2502$ $6864.7893$ $7.85\times10^{-5}$

観察 3.2 式は、弦の運動方程式を直接解いた固有値と合った。五つの番号で相対差は $10^{-4}$ 未満だった。番号が大きいほど相対差は大きかった。刻みを変えた比べ方はしていない。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、弦を戻す力を張力だけで数えるか、曲げの硬さも数えるかである。張力だけで戻る弦では、波の速さが振動数に依らず、倍音は整数倍に並ぶ。曲げの硬さは弦の曲がりの急さで戻す力を足すので、式の $Bn^2$ のとおり番号の大きい音ほど効く。$n=20$ では直径 $1.0$ mm で $67.9222$ セント、$0.5$ mm で $17.4894$ セントだった。

観察 4.2 言わないこと。巻き弦、実在の楽器、ずれに合わせて音程を広げる調律、駒や響板の動き、音色としての聞こえ方は扱わない。示したのは、置いた値の鋼の弦で、曲げの硬さが倍音を整数倍より高くずらし、同じ高さなら係数が直径の二乗で増えることである。

5. 点呼と結び

  1. 倍音の式と係数 $B$(第1節):同じ高さなら直径の二乗。
  2. 直径 $1.0$ mm で $n=20$ が $\mathbf{67.9222}$ セント(計算 2.1):番号の大きい音ほどずれる。
  3. 直径 $0.5$ mm で $\mathbf{17.4894}$ セント・係数の比 $\mathbf{4.000000}$(計算 2.1):細いほど小さい。
  4. 差分の固有値と式(計算 3.1):相対差 $10^{-4}$ 未満。
  5. 張力だけか、曲げの硬さもか(観察 4.1):分離子・論文857 と論文466 の射程注記・論文299。

結び:曲げの硬さで倍音は整数倍より高くなり、同じ高さの弦では太いほどずれる。長さ $0.648$ m の鋼の弦を $330$ Hz に合わせると、直径 $1.0$ mm では $n=20$ の音が整数倍より $67.9222$ セント高く、直径 $0.5$ mm では $17.4894$ セント高かった。ずれの係数の比は $4.000000$ で、直径の二乗に比例した。式は差分の固有値と一万分の一未満の相対差で合った。分離子は、弦を戻す力を張力だけで数えるか、曲げの硬さも数えるかである。既刊との位置:論文299 が示した弦の整数比が、論文857 と論文466 が脇に置いた曲げの硬さでどれだけ崩れるかを数えた。正直に言えば、実在の楽器の音や調律のしかたは言わない。置いた値の弦で、ずれの大きさと太さによる違いを数えた、そこまでである。

参考文献

  1. Fletcher, H. (1964). Normal vibration frequencies of a stiff piano string. The Journal of the Acoustical Society of America.
  2. Fletcher, N. H., & Rossing, T. D. (1998). The Physics of Musical Instruments (2nd ed.). Springer.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『太鼓に音程が無いのは、境界のせいであって方程式のせいではない』[論文299]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/299 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171877
  4. 山岸勇輝 (2026). 『全部を合わせられないことは、証明された事実である』[論文466]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/466 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733284
  5. 山岸勇輝 (2026). 『音の高さは張力と重さの比しか見ないが、楽器にかかる力は張力そのものである』[論文857]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/857

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「曲げの硬さで倍音は整数倍より高くなり、同じ高さの弦では太いほどずれる」[論文942]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/942

YOI 942第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 曲げの硬さで倍音は整数倍より高くなり、同じ高さの弦では太いほどずれる [論文942]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/942

Yamagishi, Y. (2026). Bending Stiffness Sharpens Overtones Past Whole Multiples, and at the Same Pitch a Thicker String Strays Further [Paper 942]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/942

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