【M003】平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない

要旨

本稿が問うのは、ある年の「平均余命」が、その年にその年齢だった人が実際に生きる年数を表しているのか、である。答えは、表していない、である。平均余命はその年の年齢別の死亡率の要約であり、率が下がり続けた日本では、同じ人たちが実際に生きた年数より数年短かった。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、公開の 5 歳階級の死亡率から作った本稿の生命表は、公式の生命表を再現する。2020 年の完全生命表と 2024 年の簡易生命表の男女 4 組で、40〜90 歳の余命の食い違いは最大 0.073 年、90 歳まで生きる割合の食い違いは最大 0.006 である。40 歳の平均余命は最大 0.316 年ずれるが、そのずれの大半は 90 歳より上の部分から来る(第3節)。

第二に、これが本稿の芯である。1950〜1975 年に 40〜44 歳だった人を 85〜89 歳まで斜めにたどる(6 つの生まれ × 男女=12 組)と、40〜90 歳のあいだに実際に生きた年数は、起点の年の率で作った余命より 12 組すべてで長く、その差は 3.698〜6.258 年である(第4節)。

第三に、差は 90 歳まで生きる割合で見ると大きい。1950 年の率で計算すると、40 歳の男のうち 90 歳まで生きるのは 0.0157 だが、実際にたどると 0.0962 で、6.140 倍だった。12 組の比は 3.802〜8.435 倍である(第4節)。

第四に、その年の余命は、同じ人たちの実際の値に遅れて追いつく。期間の 40〜90 歳の余命がコホートの値に届いたのは、起点から 21.2〜27.4 年後である(第5節)。

第五に、期間の余命は下がることもある。本稿の計算で 40 歳の平均余命は 2020 年を頂点に下がり(男 42.63 → 42.07、女 48.69 → 48.02)、公式の生命表でも男 42.50 → 42.03、女 48.37 → 47.88 と下がった。これはその年の率の要約が下がったということで、誰かの寿命が縮んだと測ったものではない。本稿はその原因を述べない(第6節)。

第六に、公式の生命表の説明そのものが、生命表を「ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したときに」作るものだと書いている。本稿がたどった 12 組では、この仮定はどの組でも成り立たず、率は下がり続けた。平均余命は予測ではなく、その年の率の写真である(第2節・第4節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。その年の率で作る生命表(期間)と、同じ生まれの人をたどる生命表(コホート)の区別は人口学で既知であり、5 歳階級から生命表を作る方法も標準的である。本稿は日本の公開の集計表でその違いの大きさを測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 個人の余命を予測しない。本稿の数はどれも集団の要約であり、特定の人があと何年生きるかを言うものではない。将来の平均余命を予測しない。これからも率が下がり続けるかどうかは、本稿の外にある。原因を述べない。率がなぜ下がったのか、2020 年からなぜ期間の余命が下がったのかには立ち入らない。出生時の平均寿命は作らない。0〜4 歳が一つの階級なので、40 歳を起点にした。使ったのは公開の集計表だけである。厚生労働省『人口動態統計』と『生命表』(e-Stat)で、個人に関する情報は含まない。本稿が作った生命表は、それらを加工して作った数であり、国が作成した生命表ではない。既刊との関係:M001 は、粗死亡率の上昇を年齢構成の動きと年齢別の率の動きに分け、年齢別の率は下がり続けたことを示した。M002 は、その年齢別の率の低下がほとんど高さの低下であったことを示した。ここでは、その下がり続けた率を、同じ年で横に読むか、同じ生まれで縦に読むかで、余命が何年違うかを測る。加えたのは、予測を先に書いてから測ったこと、5 歳階級から作る生命表を公式の生命表と突き合わせ、ずれの出どころ(90 歳より上)を示したこと、差を年数と 90 歳まで生きる割合の二つで測ったこと、期間の値が追いつくまでの遅れを測ったことである。

1. 記法と問い

生命表は、40 歳の人を 1 とおいて、年齢ごとの死亡率を当てながら、何人が生き残るかをたどったものである。本稿では 5 歳階級の死亡率 m(1 人あたり)から、各階級で死ぬ割合を q = 5m ÷(1 + 2.5m)とし、生き残りを l、その階級で生きる年数を L = 2.5(l + 次の l)として積み上げる。

そこから三つの量を出す。

  • 40 歳の平均余命:40 歳から先に生きる年数の平均(90 歳以上は開いた階級として L = l90 ÷ m90+)
  • 40〜90 歳の余命:40 歳から 90 歳までに生きる年数の平均(開いた階級を使わない)
  • 90 歳まで生きる割合:l90 ÷ l40

生命表には二通りの作り方がある。

  • 期間:ある年の、全年齢の率だけを使う。その年の率がずっと続くと仮定した架空の人の値である
  • コホート:年 Y に 40〜44 歳だった人を、Y+5 年の 45〜49 歳、…、Y+45 年の 85〜89 歳と、同じ生まれの人の率を斜めにたどる

問い:期間の余命は、同じ人たちが実際に生きた年数と、どれだけ違うか。

観察 1.1:「平均余命」は、この二つのどちらを指すかで別の数になる。公式に毎年出される平均余命は、期間のほうである。

2. 二つの予測を、測る前に書く

公式の生命表は、e-Stat の説明で次のように定義されている。

生命表は、ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したものです。

予測A(期間の値は、実際に生きた年数より短い):6 つの生まれ × 男女の 12 組すべてで、コホートの 40〜90 歳の余命が起点の年の期間の値より長く、90 歳まで生きる割合もコホートのほうが大きい。

予測B(ほぼ同じ):12 組とも、40〜90 歳の余命の差が 0.5 年未満である。

この二つは差の大きさで分かれる。だから決着する。

設計(走らせる前に宣言し、実行時に変えていない)

中身
率 厚生労働省『人口動態統計』第5.15表の 5 歳階級の死亡率(1950〜2010 年は 5 年おき、2014〜2024 年は毎年)
起点と終点 40 歳から。主な物差しは 90 歳で止める 40〜90 歳の余命(開いた階級を使わない)
コホート 年 Y に 40〜44 歳だった人。表の年の列で 85〜89 歳まで届くのは Y = 1950, 1955, 1960, 1965, 1970, 1975 の 6 つ
確かめ 2020 年の完全生命表と 2024 年の簡易生命表(どちらも公式・1 歳刻み)と突き合わせる

観察 2.1:公式の説明がいう「今後変化しないと仮定したときに」が、期間の生命表そのものである。予測A は、その仮定が現実には成り立たなかった分だけ差が出る、という予測である。

3. 本稿の生命表は、公式の生命表を再現するか

計算 3.1 5 歳階級から作った期間の生命表と、公式の生命表

年 性 40〜90 歳の余命(本稿/公式) 90 歳まで生きる割合(本稿/公式) 40 歳の平均余命(本稿/公式)
2020 男 41.190 / 41.217 0.2916 / 0.2854 42.63 / 42.50
2020 女 45.186 / 45.259 0.5356 / 0.5308 48.69 / 48.37
2024 男 40.873 / 40.910 0.2655 / 0.2619 42.07 / 42.03
2024 女 44.995 / 45.057 0.5115 / 0.5074 48.02 / 47.88

公式の 40〜90 歳の余命は、公式の表の定常人口 T から(40 歳の T − 90 歳の T)÷ 40 歳の l として作った。

観察 3.2:40〜90 歳の余命の食い違いは、4 組で −0.073・−0.027・−0.063・−0.037、最大 0.073 年である。90 歳まで生きる割合の食い違いは最大 0.006 である。5 歳階級から作っても、1 歳刻みの公式の表にほぼ一致する。

観察 3.3:40 歳の平均余命は +0.316・+0.130・+0.137・+0.045 とずれ、最大 0.316 年である。このうち 90 歳より上の部分は +0.389・+0.158・+0.200・+0.082 で、4 組とも 40〜90 歳の部分より大きい。ずれの大半は、90 歳以上を一つの開いた階級で扱ったところから来る。 本稿が主な物差しを 40〜90 歳の余命にしたのは、このためである。

4. 期間とコホート、同じ人たちは、期間の値より長く生きた

計算 4.1 年 Y に 40〜44 歳だった人の 40〜90 歳の余命と、90 歳まで生きる割合

起点 Y 性 期間の余命 コホートの余命 差 期間の 90 歳まで コホートの 90 歳まで 比
1950 男 29.031 33.110 +4.079 0.0157 0.0962 6.140
1955 男 30.919 34.810 +3.891 0.0300 0.1323 4.406
1960 男 31.081 36.029 +4.949 0.0223 0.1605 7.211
1965 男 31.797 37.167 +5.370 0.0225 0.1895 8.435
1970 男 32.709 37.456 +4.746 0.0342 0.2045 5.978
1975 男 34.358 38.056 +3.698 0.0567 0.2360 4.159
1950 女 32.047 37.705 +5.658 0.0420 0.2416 5.755
1955 女 34.261 39.498 +5.237 0.0703 0.3104 4.414
1960 女 34.802 40.916 +6.115 0.0638 0.3691 5.784
1965 女 35.781 42.038 +6.258 0.0675 0.4133 6.125
1970 女 36.850 42.921 +6.071 0.0885 0.4520 5.105
1975 女 38.431 43.558 +5.127 0.1285 0.4884 3.802

計算 4.2 コホートの計算の確かめ:同じ斜めの道筋で、率だけをすべて起点の年に固定すると、12 組とも期間の値に戻る(差の最大 0.0e+00)。

観察 4.3:予測A が 12 組すべてで当たった。 差は 3.698〜6.258 年で、予測B(0.5 年未満)は一組も当たらない。90 歳まで生きる割合の比は 3.802〜8.435 倍である。

観察 4.4:1950 年に 40〜44 歳だった男について、1950 年の率で作った期間の生命表は「90 歳まで生きるのは 0.0157」と言う。同じ人たちを 1995 年の 85〜89 歳までたどると 0.0962 だった。その年の平均余命は、その年にその年齢だった人の将来を当てる数ではなかった。

図2 1960 年に 40〜44 歳だった人の生き残り:期間とコホート

図2:縦軸は 40 歳の人のうち生きている割合。灰色は 1960 年の率だけで作った期間の生命表、紺は同じ人たちを斜めにたどったコホート。年齢が上がるほど二本は離れ、90 歳で男 0.0223 と 0.1605、女 0.0638 と 0.3691 になる。

5. 期間の値は、遅れて追いつく

計算 5.1 期間の 40〜90 歳の余命が、各コホートの値に届く年(隣り合う年のあいだは直線で補う)

起点 Y 男:届く年 男:遅れ 女:届く年 女:遅れ
1950 1971.2 21.2 1972.7 22.7
1955 1977.2 22.2 1979.1 24.1
1960 1983.1 23.1 1984.8 24.8
1965 1989.5 24.5 1991.1 26.1
1970 1993.3 23.3 1997.4 27.4
1975 1997.7 22.7 2001.2 26.2

観察 5.2:期間の値がコホートの値に届くまでの遅れは、12 組で 21.2〜27.4 年である。同じ人たちが 40 歳から 90 歳までに実際に生きた年数は、20 年あまりのちの年の期間の余命と同じくらいだった。

図1 40〜90 歳の余命:期間(線)とコホート(点)

図1:灰色の線は期間の 40〜90 歳の余命、紺の点はその年に 40〜44 歳だった人の実際の値。点線の長さが第4節の差である。点の高さに線が届くのは、20 年あまり右である。

6. 期間の余命は下がることもある。それは誰かの寿命が縮んだことではない

計算 6.1 40 歳の平均余命(期間)

2020 年 2024 年 差
男(本稿) 42.63 42.07 −0.56
男(公式) 42.50 42.03 −0.47
女(本稿) 48.69 48.02 −0.67
女(公式) 48.37 47.88 −0.49

観察 6.2:本稿の計算でも公式でも、40 歳の平均余命は 2020 年から 2024 年に下がった。本稿の計算では、男女とも表の中で 2020 年が最も長い。これは、M001・M002 が見た「2020 年から年齢別の率が上がった区間がある」ことの、期間の生命表での現れである。

観察 6.3:しかし期間の余命は、その年の率の写真である。2024 年の値が下がったことは、「2024 年の率がずっと続くと仮定すれば」の値が下がったということで、2020 年に 40 歳だった人が実際に何年生きるかを測ったものではない。第4節のとおり、実際の値は期間の値と数年違いうる。本稿はこの下がりの原因を述べない。

図3 40 歳の平均余命(期間):2014〜2024 年

図3:紺は本稿が 5 歳階級から作った値、金色の菱形は公式の生命表(2020 年・2024 年)。本稿の値は公式より少し高い(第3節の 90 歳より上の扱い)が、動きの向きは同じである。

7. 限界

  1. 5 歳階級の率から作った。 1 歳刻みの公式の表とは、40〜90 歳の余命で最大 0.073 年、40 歳の平均余命で最大 0.316 年ずれる(第3節)。
  2. コホートは 40〜44 歳の 5 年幅の人をまとめてたどった。 表の年の列が 5 年おきなので、年 Y の 40〜44 歳が Y+5 年に 45〜49 歳になる形で追っている。
  3. コホートは 90 歳で止めた。 90 歳より先は表の年の列が足りず、コホートの平均余命(全体)は作っていない。
  4. 出生時の平均寿命は作っていない。 0〜4 歳が一つの階級だからである。
  5. 原因を述べない。 率が下がった理由も、2020 年から期間の余命が下がった理由も、この比べ方の外にある。
  6. 日本・全死因だけである。

結び

平均余命は、その年の年齢別の死亡率がずっと続くと仮定したときの値である。公式の説明がそう書いている。1950〜1975 年に 40〜44 歳だった人を実際にたどると、40〜90 歳のあいだに生きた年数は、その年の余命より 12 組すべてで長く、差は 3.698〜6.258 年、90 歳まで生きた割合は 3.802〜8.435 倍だった。その年の余命がそこへ追いつくのに、21.2〜27.4 年かかった。

分けるものは一つ、生命表を同じ年で横に読むか、同じ生まれで縦に読むか、である。

だから平均余命が上がっても下がっても、それはまず、その年の率の写真が変わったということである。誰かが実際に生きる年数は、縦に読まなければ出てこない。

データと再現

データ 厚生労働省『人口動態統計』令和6年(確定数)上巻 第5.15表。厚生労働省『第23回生命表(完全生命表)』第1表・第2表、『令和6年簡易生命表』第1表・第2表。すべて e-Stat から取得(2026年9月25日に利用)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠(CC BY 4.0 互換)。本稿の生命表は、これらを加工して作成したものである
範囲 日本(日本人)・全死因・男女別・40〜89 歳と 90 歳以上
検算 検算/M003.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M003_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したそのままのファイル 5 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・e-Stat の生命表の説明の写し)。検算は走らせるたびに SHA-256 を照合する
図 図/M003_zu1・図/M003_zu2・図/M003_zu3(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.15表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 厚生労働省. 第23回生命表(完全生命表)第1表・第2表、令和6年簡易生命表 第1表・第2表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). 「死亡率が上がった」は、年齢構成の動きと年齢別の率の動きを一語で呼んでいる [M001]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963112
  • 山岸勇輝 (2026). 大人の死亡率が年齢とともに倍になる速さはほとんど動かず、下がったのは高さである [M002]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963210

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない」[M003]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22963485

YOI M003医療統計ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M003・DOI 10.5281/zenodo.22963485・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M003 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22963485

Yamagishi, Y. (2026). Life Expectancy Is Not the Number of Years Anyone Actually Lives [M003]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M003; DOI: 10.5281/zenodo.22963485

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