【論文982】二倍体では、有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、相加なら半数体の半分に近い

要旨

中立な変異が置き換わる速さは、集団の大きさに依らず、変異の起きる速さに等しい(論文879)。そこでは、一組の遺伝子をもつ半数体の集団だけを扱い、二倍体を入れなかった。本稿は、$N$ 個体の二倍体で、有利な変異が一つの写しから固定する確率を、優性の度合い $h$ を変えて、拡散の式、遷移行列の厳密解、乱数で出し、同じ個体数の半数体と比べる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、優性の度合いが固定する確率を分ける。$N=50$・$s=0.05$ の厳密解で、劣性($h=0$)$0.025104$・相加($h=0.5$)$0.048439$・優性($h=1$)$0.080208$ で、優性÷劣性は $\mathbf{3.194988}$ だった。$N=200$・$s=0.01$ では $\mathbf{2.886501}$ だった(第3節)。

第二に、相加の変異は、同じ個体数の半数体の半分に近い。相加÷半数体は $N=50$ で $\mathbf{0.514679}$、$N=200$ で $0.502932$ だった(第4節)。

第三に、拡散の式は厳密解より大きい。拡散の式÷厳密は $N=50$・$s=0.05$ で $1.006470$(劣性)から $\mathbf{1.025576}$(優性)、$N=200$・$s=0.01$ で $1.001424$ から $1.005470$ だった。論文879 の半数体の式も厳密の $1.017984$ 倍と $1.003687$ 倍だった(第3節)。

第四に、乱数は厳密解と合い、拡散の式より低く出たのは式のほうの外れだった。乱数 10 万回($N=50$)は $0.024490$・$0.047330$・$0.080530$ で、厳密解との差は標準誤差の $-1.24$・$-1.63$・$0.38$ 倍だった(第3節)。

第五に、分離子は、有利さがヘテロ接合のうちから見えるか、ホモ接合になるまで隠れるか。最初の一つの写しはヘテロ接合の個体に乗り、その有利さは $hs$ である。劣性ではそれが 0 で、相加÷劣性は $N=50$ で $1.929524$、優性÷相加は $1.655842$ だった(第5節)。

キーワード:二倍体、優性、固定する確率、集団遺伝学、拡散の式、ライト・フィッシャー模型。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。二倍体で有利な変異が固定する確率を拡散の式で出すこと、劣性の変異が優性の変異より固定しにくいこと、相加の変異ではヘテロ接合の有利さが半分になることは、いずれも集団遺伝学で既知である。実在の値を主張しない。個体数 50 と 200、有利さ 0.05 と 0.01、優性の度合い 0・0.5・1 は模型の値で、どの遺伝子にもどの種にも対応しない。模型を広げない。任意交配で世代が重ならない二倍体とし、近交、性比、世代の重なり、遺伝子どうしのつながり、優性の仕組みは入れない。極限を言わない。個体数を大きくした極限の式は検算していないので書かない。二つの設定の数だけを並べる。既刊との関係:論文879 の射程注記は、模型を広げず、一組の遺伝子をもつ集団(半数体)で世代が重ならないとし、二倍体、世代の重なり、遺伝子どうしのつながりは入れないと書いた。本稿はそのうち二倍体の席に座る(先客なし)。論文478 は、有利であることが効くかどうかは集団の大きさが決めていることを示した。ここでは、同じ有利さでも、それがヘテロ接合で見えるかどうかで固定する確率がどれだけ変わるかを数える。加えたのは、三つの優性の度合いと二つの設定で固定する確率を拡散の式と遷移行列の厳密解で出したこと、拡散の式が厳密解より大きいことを測ったこと、乱数が厳密解と合うことを確かめたこと、同じ個体数の半数体と比べたこと、分離子を「ヘテロ接合で見えるか、隠れるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

模型:$N$ 個体の二倍体(遺伝子の写し $2N$)で、世代ごとに任意交配の遺伝子型の頻度に選択をかけ、$2N$ 個の写しを二項分布で引き直す(ライト・フィッシャー模型)。遺伝子型の有利さを AA $1+s$・Aa $1+hs$・aa $1$ とし、変異の写しの割合を $p$ とすると、選択のあとの割合は

$$p’=\frac{p^2(1+s)+p(1-p)(1+hs)}{p^2(1+s)+2p(1-p)(1+hs)+(1-p)^2}$$

である。はじめの写しは一つ($p=1/(2N)$)。半数体は $N$ 個の写しで $p’=p(1+s)/(1+ps)$ とする(論文879 の模型)。

三つの出し方:拡散の式は

$$u=\frac{\int_0^{1/(2N)}G(x)\,dx}{\int_0^1 G(x)\,dx},\qquad G(x)=\exp\Bigl(-4Ns\bigl(hx+(1-2h)x^2/2\bigr)\Bigr)$$

を 200001 点の台形で積んだ。厳密解は、写しの数 $0$〜$2N$ の遷移行列(行の和のずれは最大 $1.7\times10^{-13}$)で、吸収の確率を連立一次方程式で解いた。乱数は $N=50$・$s=0.05$ で 10 万回。

問い:同じ有利さの変異でも、優性の度合いで固定する確率はどれだけ変わり、半数体とどう違うか。

2. 拡散の式

計算 2.1:拡散の式による固定する確率。

設定 $h=0$ $h=0.5$ $h=1$ 半数体 $N$ 個 半数体 $2N$ 個
$N=50$・$s=0.05$ $0.025267$ $0.049101$ $0.082259$ $0.095808$ $0.095167$
$N=200$・$s=0.01$ $0.005668$ $0.010136$ $0.016428$ $0.020171$ $0.019808$

$h=0.5$ では $G(x)=e^{-2Nsx}$ で、$u=(1-e^{-s})/(1-e^{-2Ns})$ になる。$N=50$・$s=0.05$ でこの閉じた形は $0.049101$ で、数値の積分と $10^{-6}$ 以内で一致した。

3. 遷移行列の厳密解と乱数

計算 3.1:厳密解と、拡散の式÷厳密。

設定 $h=0$ $h=0.5$ $h=1$ 半数体 $N$ 個
$N=50$・$s=0.05$ 厳密 $0.025104$ $0.048439$ $0.080208$ $0.094116$
式÷厳密 $1.006470$ $1.013670$ $\mathbf{1.025576}$ $1.017984$
$N=200$・$s=0.01$ 厳密 $0.005660$ $0.010107$ $0.016338$ $0.020097$
式÷厳密 $1.001424$ $1.002824$ $1.005470$ $1.003687$

計算 3.2:乱数 10 万回($N=50$・$s=0.05$)。

$h$ 乱数 厳密 拡散の式 厳密との差÷標準誤差
$0$ $0.024490$ $0.025104$ $0.025267$ $-1.24$
$0.5$ $0.047330$ $0.048439$ $0.049101$ $-1.63$
$1$ $0.080530$ $0.080208$ $0.082259$ $0.38$

観察 3.3 拡散の式は厳密解より大きく、乱数は厳密解と合った。乱数は三つとも拡散の式より低かったが、厳密解との差は標準誤差の 3 倍以内だった。式÷厳密は $N=50$・$s=0.05$ のほうが $N=200$・$s=0.01$ より大きく、同じ設定の中では $h$ が大きいほど大きかった。劣性・相加・優性の順は、厳密解でも二つの設定の両方で同じだった。

4. 半数体と比べる

計算 4.1:厳密解の比。

設定 $2Ns$ 優性÷劣性 相加÷劣性 優性÷相加 相加÷半数体 優性÷半数体
$N=50$・$s=0.05$ $5.0$ $\mathbf{3.194988}$ $1.929524$ $1.655842$ $\mathbf{0.514679}$ $0.852226$
$N=200$・$s=0.01$ $4.0$ $\mathbf{2.886501}$ $1.785640$ $1.616508$ $0.502932$ $0.812994$

観察 4.2 相加の二倍体は、同じ個体数の半数体の半分に近い。相加÷半数体は $0.514679$ と $0.502932$ だった。相加ではヘテロ接合の有利さが $s/2$ で、半数体の一つの写しの有利さ $s$ の半分である。優性でも半数体に届かず、優性÷半数体は $0.852226$ と $0.812994$ だった。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、有利さがヘテロ接合のうちから見えるか、ホモ接合になるまで隠れるか。最初の一つの写しはヘテロ接合の個体に乗り、その有利さは $hs$ である。劣性($h=0$)ではそれが 0 で、有利さはホモ接合が生まれてからしか働かない。優性÷劣性は $3.194988$ と $2.886501$、相加÷劣性は $1.929524$ と $1.785640$ だった。それぞれの確率のうち、ヘテロ接合の段階で消えた分とホモ接合の段階で消えた分は、本稿では分けて数えていない。

観察 5.2 言わないこと。優性の仕組み、実在の遺伝子、近交、性比、世代の重なり、個体数を大きくした極限の式は扱わない。示したのは、二つの設定で、優性の度合いによって固定する確率がどれだけ分かれ、拡散の式が厳密解からどれだけ外れるかである。

6. 点呼と結び

  1. 二倍体のライト・フィッシャー模型(第1節):拡散の式・厳密解・乱数。
  2. 優性÷劣性 $\mathbf{3.194988}$ と $\mathbf{2.886501}$(計算 4.1):優性の度合いが分ける。
  3. 相加÷半数体 $\mathbf{0.514679}$ と 0.502932(計算 4.1):半数体の半分に近い。
  4. 式÷厳密は最大 $\mathbf{1.025576}$(計算 3.1):拡散の式は大きい。
  5. 乱数と厳密の差は標準誤差の $-1.63$〜$0.38$ 倍(計算 3.2):乱数は厳密と合う。
  6. ヘテロ接合で見えるか、隠れるか(観察 5.1):分離子・論文879 の射程注記。

結び:二倍体では、有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、相加なら半数体の半分に近い。遷移行列で厳密に解くと、$N=50$・$s=0.05$ で劣性・相加・優性は $0.025104$・$0.048439$・$0.080208$、優性÷劣性は $3.194988$($N=200$・$s=0.01$ で $2.886501$)だった。相加÷半数体は $0.514679$ と $0.502932$ だった。拡散の式は厳密解の $1.001424$〜$1.025576$ 倍で、乱数が式より低く出たのは式のほうの外れだった。分離子は、有利さがヘテロ接合のうちから見えるか、ホモ接合になるまで隠れるか。既刊との位置:論文879 が半数体で数えた模型に、論文879 が入れなかった二倍体と優性の度合いを足し、論文478 が集団の大きさで見た有利さの効き目を、ヘテロ接合での見え方で見た。正直に言えば、二つの設定の模型で、固定する確率を三通りに出して並べた。優性の度合いで確率がどれだけ分かれるか、そこまでである。

参考文献

  1. Hartl, D. L., & Clark, A. G. (2007). Principles of Population Genetics (4th ed.). Sinauer.
  2. Kimura, M. (1962). On the probability of fixation of mutant genes in a population. Genetics.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『有利であることが効くかどうかは、集団の大きさが決めている』[論文478]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/478 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733726
  4. 山岸勇輝 (2026). 『中立な変異が置き換わる速さは、集団の大きさに依らず、変異の起きる速さに等しい』[論文879]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/879

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「二倍体では、有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、相加なら半数体の半分に近い」[論文982]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/982

YOI 982第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 二倍体では、有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、相加なら半数体の半分に近い [論文982]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/982

Yamagishi, Y. (2026). Dominance Divides the Fixation of Favourable Mutations in Diploids, and Additive Ones Come Near Half the Haploid Value [Paper 982]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/982

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