【論文208】曲率は、次元と同じ仕事をする

要旨

球の体積が半径とともにどう増えるかは、曲率だけで三通りに分かれる。本稿はその三通りを測り、曲率が生む混雑が、次元が生む混雑と同じ形をしていることを数で示す。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、増え方は三通りに分かれる。三次元の模型で半径 $4$ の球の体積は、曲率 $-1$ で $4657.344588$、曲率 $0$ で $268.0825731$、曲率 $+1$ ではそもそも半径 $\pi$ で終わっている(第2節)。

第二に、双曲空間では球の外側だけが太る。半径 $r-1$ から $r$ までの殻が占める割合は、$r=20$ で $0.8646647168$ であり、$1-e^{-2}=0.864664716763$ に十桁で一致する。半径をいくら大きくしても、八十六パーセントが外側の厚さ $1$ に住み続ける(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。同じ混み方が、二つの別の買い方で手に入る。平らな空間で同じ割合を出すのに要る次元は、$r=3$ で $4.93$、$r=10$ で $18.98$、$r=50$ で $98.997$、次元を半径の二倍に育て続けねばならない(第5節)。

第四に、比は決して戻らない。曲率の大きいほうの体積を小さいほうで割った比は、六つの半径すべてで前より小さくなった(表明で確認した)。比較定理の中身はある半径での値ではなく、途中で向きを変えないことである(第6節)。

第五に、双曲の球は決して中身が主にならない。表面と体積の比は、平らでは $3/r$ で零へ行くのに、双曲では $r=20$ で $2.0$ に落ち着く(第7節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。定曲率模型の体積、ビショップ=グロモフの比較定理は、いずれも標準的である。比較定理を証明しない。本稿が確かめるのは模型どうしの比が単調に落ちることであり、リッチ曲率に下限を置いた一般の多様体については何も言わない。三次元しか測らない。第5節だけが次元を動かすが、そこで動かすのは平らな空間の次元である。実在の空間について何も主張しない。論文182 との関係:182 は次元が生む混雑を測った。本稿は曲率が生む同じ混雑を測る。同じ現象に二つの別の原因があり、どちらでも買えることが第5節である。論文60・63 との関係:体系はすでに双曲幾何を速度空間で扱っている。あちらは相対論の速度の住む場所の話であり、本稿は体積の増え方の話である。加えたのは三つの増え方を求積と閉じた形の両方で出したこと、外側の殻の割合が双曲では定数に落ち着くことを六つの半径で測ったこと、同じ割合を平らな空間で出すのに要る次元が半径の二倍であることを示したこと、比の単調性を表明つきで確かめたことである。

1. 記法と位置づけ

曲率 $K$ が一定の $n$ 次元の模型で、半径 $r$ の測地球の体積を考える。$n=3$ では閉じた形があり、$K=-1$ で $\pi(\sinh 2r-2r)$、$K=0$ で $\tfrac43\pi r^3$、$K=+1$ で $\pi(2r-\sin 2r)$($r\le\pi$)である。数値は多倍長の求積で出し、閉じた形と突き合わせた。

位置づけ:論文182 は「次元の呪い」を扱い、次元が上がると体積が外側へ集まることを測った。本稿は同じ集まり方を曲率の側から測る。そして第5節で、二つが取り替えられることを示す。

2. 増え方は、三通りに分かれる

検算 2.1:三次元の模型で、半径ごとの体積を測る。

$r$ $K=-1$ $K=0$ $K=+1$
$0.5$ $0.5504107829$ $0.5235987756$ $0.4980335895$
$1$ $5.110932706$ $4.188790205$ $3.426543191$
$2$ $73.16743277$ $33.51032164$ $14.94393577$
$3$ $614.8510174$ $113.0973355$ $19.7273656$
$4$ $\mathbf{4657.344588}$ $268.0825731$ ($r=\pi$ で終わっている)

観察 2.2 指数的に増えるもの、三乗で増えるもの、そして途中で終わるもの。同じ「球の体積」という言葉が、曲率の符号だけで三つの別の振る舞いを指している。

3. 道具の照合

検算 3.1:求積と閉じた形を突き合わせる。

$r$ 曲率 求積 閉じた形
$1$ $-1$ $5.11093270570829$ $5.11093270570829$
$1$ $0$ $4.18879020478639$ $4.18879020478639$
$3$ $-1$ $614.851017405332$ $614.851017405332$
$3$ $0$ $113.097335529233$ $113.097335529233$

十五桁まで一致した。以下の数はすべてこの求積で出している。

4. 双曲空間では、外側だけが太る

検算 4.1:半径 $r-1$ から $r$ までの殻が、球全体に占める割合を測る。

$r$ $K=-1$ $K=0$ $K=+1$
$2$ $0.930147437$ $0.875$ $0.7707067775$
$3$ $0.880999737$ $0.7037037037$ $0.242476868$
$5$ $0.8652687948$ $0.488$ (終わっている)
$8$ $0.8646673804$ $0.330078125$ (終わっている)
$12$ $0.8646647182$ $0.2297453704$ (終わっている)
$20$ $\mathbf{0.8646647168}$ $0.142625$ (終わっている)

($1-e^{-2}=0.864664716763$。)

観察 4.2 平らな空間では殻が空いていく($0.875$ から $0.142625$ へ)。双曲空間では一定の割合に落ち着き、$r=20$ で $1-e^{-2}$ と十桁一致する。半径をどれだけ大きくしても、八十六パーセント以上が外側の厚さ $1$ に住み続ける。

観察 4.3 球面の列($K=+1$)は途中で意味を失う。$r=3$ ですでに $0.242476868$ と小さく、$r=\pi$ で球全体を覆い切ってしまうからである。

5. 芯:同じ混み方が、二つの別の買い方で手に入る

平らな $n$ 次元空間では、外側の厚さ $1$ の殻が占める割合は $1-\left(\frac{r-1}{r}\right)^{n}$ である。これを双曲三次元の値 $1-e^{-2}$ に合わせるには、$n$ をいくつにすればよいか。

検算 5.1:

$r$ 同じ割合を出す次元 $n$ $2r$
$3$ $4.932606925$ $6$
$5$ $8.962840235$ $10$
$10$ $18.98244316$ $20$
$20$ $38.99145149$ $40$
$50$ $\mathbf{98.99663291}$ $100$

観察 5.2 平らな空間で同じ混み方を出すには、次元を半径の二倍に育て続けねばならない。曲率のほうは一度 $-1$ と決めたきり、何も増やしていない。同じ現象が、片方では次元を払って、もう片方では曲率を払って買われている。

観察 5.3 ゆえに「体積が外側に集まっている」という観察だけでは、原因が分からない。論文182 が測ったのは次元による集まり方であり、本稿が測ったのは曲率による集まり方である。見えている形は同じでも、別根である。どちらかを問うには、次元を動かしても割合が動くかを見ればよい。

6. 比は、決して戻らない

検算 6.1:曲率の大きいほうの体積を、小さいほうの体積で割る。

$r$ $K=+1$ を $K=0$ で割る $K=0$ を $K=-1$ で割る
$0.5$ $0.951174091153$ $0.951287278359$
$1$ $0.818026929881$ $0.819574517212$
$1.5$ $0.635306664876$ $0.641219749076$
$2$ $0.445950233935$ $0.457995044653$
$2.5$ $0.286028365184$ $0.301045763042$
$3$ $0.174428208283$ $0.183942666317$

どの段でも前より小さい。計算には比が増えたら止まる表明を入れてあり、一度も止まらなかった。

観察 6.2 比較定理の中身は、ある半径での値ではない。途中で向きを変えないことである。一点での不等式なら偶然でも成り立ちうるが、単調であることは偶然では成り立たない。ただし本稿が確かめたのは模型どうしであり、リッチ曲率に下限を置いた一般の多様体については何も言っていない。

7. 双曲の球は、決して中身が主にならない

検算 7.1:球の表面積を体積で割る。

$r$ $K=-1$ $K=0$
$1$ $3.3957378$ $3.0$
$2$ $2.259195051$ $1.5$
$5$ $2.001635891$ $0.6$
$10$ $2.000000157$ $0.3$
$20$ $\mathbf{2.0}$ $0.15$

観察 7.2 平らな球では $3/r$ で零へ行く。大きくすればするほど、球は「中身」になる。双曲の球では $2$ に落ち着く。どれだけ大きくしても、皮と中身の割合が変わらない。第4節の $86\%$ を、別の言い方で言い直しただけである。

8. 分離子と柵

観察 8.1 (分離子) 「体積が外側に集まる」という同じ観察に、二つの別の原因がある。次元(論文182)と曲率(本稿)である。分けるには次元を動かしてみればよい:次元による集中は次元を下げれば消え、曲率による集中は三次元のまま残る。

観察 8.2 (柵) 「球の体積は半径の $n$ 乗で増える」という言い方を囲っている柵は、曲率が零であることである。柵の外では、増え方の形そのものが変わる。負なら指数、正なら途中で終わる。そして「増え方が速い/遅い」という程度の差ではない:$K=+1$ の列は、そもそも半径 $\pi$ より先が無い。

観察 8.3 論文206 で、細い円筒の次元は目盛りを言うまで答が無かった。ここでは球の体積が、曲率を言うまで増え方が決まらない。どちらも、量の名前だけでは足りないという同じ形である。

9. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. 増え方は三通り(検算2.1):指数・三乗・途中で終わる。
  2. 道具を照合した(検算3.1):求積と閉じた形が十五桁一致。
  3. 双曲では殻が $86\%$ を保つ(検算4.1):$1-e^{-2}$ と十桁一致。
  4. 真似るには次元が半径の二倍(検算5.1):$r=50$ で $n=98.997$。
  5. 比は決して戻らない(検算6.1):表明つきで確認。
  6. 表面と体積の比が $2$ に落ち着く(検算7.1)。
  7. 柵は「曲率が零であること」(観察8.2)。

結び:平らな空間で「体積のほとんどが外側にある」状態を作りたければ、次元を上げ続けるしかない。半径を倍にすれば、次元も倍にしなければ追いつかない。ところが曲率を $-1$ にすれば、三次元のまま、最初から最後までそれが成り立っている。同じ混雑が、二つのまったく別の値段で売られているのである。そして見えている形が同じである以上、どちらを買ったのかは、形を見ても分からない。分かるのは、次元のほうを動かしてみたときだけである。

参考文献

  1. Bishop, R. L., Crittenden, R. J. (1964). Geometry of Manifolds. New York: Academic Press.
  2. Gromov, M. (1981). Structures métriques pour les variétés riemanniennes. Paris: CEDIC.
  3. Cheeger, J., Ebin, D. G. (1975). Comparison Theorems in Riemannian Geometry. Amsterdam: North-Holland.
  4. Ledoux, M. (2001). The Concentration of Measure Phenomenon. Providence: American Mathematical Society.
  5. Chavel, I. (2006). Riemannian Geometry: A Modern Introduction. Second edition. Cambridge: Cambridge University Press.
  6. 山岸勇輝 (2026). ウィグナー角は面積である [論文33]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090872
  7. 山岸勇輝 (2026). 速度空間の球としての $c$ [論文60]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21598012
  8. 山岸勇輝 (2026). 速度=時空曲率の双対性 [論文63]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21606250
  9. 山岸勇輝 (2026). 「次元の呪い」は一つの呪いではない [論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
  10. 山岸勇輝 (2026). 固有値を数えたときのべきは、次元の半分である [論文204]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110032
  11. 山岸勇輝 (2026). 空間は近づいても、次元は近づかない [論文206]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110637
  12. 山岸勇輝 (2026). 「偏光」を書く道具は三つある [論文207]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22110902

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「曲率は、次元と同じ仕事をする」[論文208]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22111071

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 曲率は、次元と同じ仕事をする [論文208]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/208 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22111071

Yamagishi, Y. (2026). Curvature Does the Same Work as Dimension [Paper 208]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/208; DOI: 10.5281/zenodo.22111071

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