要旨
論文117 と120 は、指数が普遍であることを扱った。本稿が問うのは、その普遍性がどこまでかである。答は、同じ現象の中に境目が走っている。パーコレーションでは、閾値は格子ごとに $2.8$ 倍ひらくのに、臨界指数は一つも動かない。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、閾値を並べる。三角格子サイトと正方格子ボンドは厳密に $1/2$、正方格子サイトは $0.592746$、蜂の巣サイトは $0.6970$、単純立方ボンドは $\mathbf{0.2488}$ である(第2節)。
第二に、閾値はよく動く。最小 $0.2488$ から最大 $0.6970$ まで $\mathbf{2.8014}$ 倍ひらく。格子を変えるだけで、つながり始める濃度が三倍近く変わる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。同じ二次元なら、三角でも正方でも蜂の巣でも、$\beta=5/36=\mathbf{0.138889}$、$\nu=4/3$ で完全に一致する(第3節)。
第四に、次元を変えると指数は動く。三次元では $\beta\approx0.4181$、$\nu\approx0.8751$、格子では動かず、次元でだけ動く(第3節)。
第五に、二つの数の役目が違う。閾値はどこで起きるかを決め、指数はどう起きるかを決めている(第4節)。
第六に、六次元より上では止まる。$d\ge6$ で $\beta=1$、$\nu=1/2$ に固定される。次元でだけ動いていた数が、そこで動くのをやめる(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。三角格子サイトと正方格子ボンドの閾値が厳密に $1/2$ であること、二次元の指数が $\beta=5/36$、$\nu=4/3$ であること、上部臨界次元が $6$ であること、普遍性という考え方は、いずれも標準的である。パーコレーションの理論を作らない。使うのは文献値の一覧と、比の計算だけである。閾値を計算しない。数値的な閾値($0.592746$ など)は引用値であり、本稿で求めたものではない。指数を計算しない。二次元の厳密値も三次元の数値も引用値である。普遍性を証明しない。なぜ格子に依らないのかは扱わない。依らないという事実を、依る量と並べて置くだけである。くりこみ群に立ち入らない。論文117 と120 が扱う。相転移の一般論を作らない。臨界点 $20$ 件($08$・$117$・$120$・$203$〜$205$・$209$・$212$)は相転移の臨界性を扱っており、本稿はつながりの閾値を扱う。三次元の値の精度を主張しない。$0.4181$ も $0.8751$ も数値計算による推定であり、桁が確定しているとは言わない。既刊との関係:論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶことを分け、$\Pi$ 群がちょうど一つという条件を書いた。本稿はその指数が普遍である側に立ち、同じ現象の中で普遍でない量と並べる。論文120 は次元解析が二通りに破れることを示した。あちらは破れ方の分類、本稿は破れない量と破れる量の同居である。論文94 は「次元」が一つではないことを示した。本稿の「次元」は空間の次元であり、フラクタル次元ではない。論文201 は「完備」が四つの別の主張であることを数えた。本稿は一つの現象を二つの持ち物に分ける。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿は逆に、動かない桁を並べる。加えたのは閾値の広がりを $2.8014$ 倍という具体的な数で出したこと、同じ次元の三つの格子で指数が完全に一致することを並べたこと、「どこで」と「どう」という二つの役目に分けたこと、上部臨界次元で指数が動くのをやめると書いたことである。
1. 記法と位置づけ
設定:格子の各点(サイト)または各辺(ボンド)を、確率 $p$ で「通れる」ことにする。$p$ を上げていくと、あるところで無限に広がる連結成分が現れる。その $p$ を閾値 $p_c$ という。
受け取るもの:論文117 と120 は、臨界指数が普遍であることを扱った。本稿はそれを前提として受け取る。なぜ普遍なのかは扱わない。
問い:その普遍性は、どこまで届いているのか。
答は、同じ現象の中に境目が走っている。閾値は格子の持ち物で、指数は次元の持ち物である。
2. 閾値は格子ごとに動く
検算 2.1:文献値を並べる。
| 格子 | 種類 | $p_c$ |
|---|---|---|
| 二次元 三角 | サイト | $\mathbf{1/2}$(厳密) |
| 二次元 正方 | ボンド | $\mathbf{1/2}$(厳密) |
| 二次元 正方 | サイト | $0.592746$ |
| 二次元 蜂の巣 | サイト | $0.6970$ |
| 三次元 単純立方 | ボンド | $\mathbf{0.2488}$ |
| 三次元 単純立方 | サイト | $0.3116$ |
観察 2.2 最小 $0.2488$、最大 $0.6970$、比は $\mathbf{2.8014}$ 倍である。同じ「パーコレーション」という現象なのに、始まる濃度が三倍近く違う。
観察 2.3 二次元の中だけで見ても $1/2$ から $0.6970$ まで動く。次元を変えなくても動く。閾値は格子の細部を見ている。
観察 2.4 正直に書くべき点、$0.592746$ や $0.3116$ は数値計算による値であり、厳密値が知られているのは $1/2$ の二行だけである。本稿はこれらを引用しており、自分で求めてはいない。
3. 芯:指数は格子を見ていない
設定:閾値の近くでは、無限クラスターに属する確率が $P_\infty\sim(p-p_c)^\beta$、相関長が $\xi\sim|p-p_c|^{-\nu}$ で振る舞う。この $\beta$ と $\nu$ を臨界指数という。
検算 3.1:同じ二次元の三つの格子で並べる。
| 格子 | $p_c$ | $\beta$ | $\nu$ |
|---|---|---|---|
| 三角 サイト | $0.5$ | $\mathbf{0.138889}$ | $\mathbf{1.333333}$ |
| 正方 サイト | $0.592746$ | $\mathbf{0.138889}$ | $\mathbf{1.333333}$ |
| 蜂の巣 サイト | $0.6970$ | $\mathbf{0.138889}$ | $\mathbf{1.333333}$ |
観察 3.2 左から二列目は $0.5$ から $0.6970$ まで $\mathbf{1.394}$ 倍動いている。右の二列は一桁も動いていない。$\beta=5/36$、$\nu=4/3$ で、三つとも同じ分数である。
検算 3.3:次元を変える。
| 次元 $d$ | $\beta$ | $\nu$ |
|---|---|---|
| $2$ | $5/36=0.138889$ | $4/3=1.333333$ |
| $3$ | $\approx0.4181$ | $\approx0.8751$ |
| $6$ 以上 | $1$ | $1/2$ |
観察 3.4 格子を変えても動かなかった数が、次元を変えると動く。$\beta$ は $0.138889$ から $0.4181$ へ $\mathbf{3.01}$ 倍になる。閾値とは見ているものが違う。
観察 3.5 分離子、何を動かすとどちらが動くか。格子を動かすと閾値だけが動き、次元を動かすと指数だけが動く。二つの旋回軸が直交している。
4. 二つの数の役目が違う
検算 4.1:二つを役目で分ける。
| 量 | 何を決めるか | 格子で動くか | 次元で動くか |
|---|---|---|---|
| 閾値 $p_c$ | どこで起きるか | 動く($2.8014$ 倍) | 動く |
| 指数 $\beta,\nu$ | どう起きるか | 動かない | 動く |
観察 4.2 閾値は「いつ始まるか」を、指数は「始まったあとどう立ち上がるか」を決めている。同じ現象の中に、細部を見ている量と、見ていない量が同居している。
観察 4.3 実務への含意、閾値を知りたければ格子を正確に指定せねばならず、指数を知りたければ次元だけ言えばよい。どちらを測っているのかで、必要な情報の量が違う。
5. 六次元より上では、指数も動くのをやめる
検算 5.1:次元を上げていく。
| 次元 $d$ | $\beta$ | 状態 |
|---|---|---|
| $2$ | $0.138889$ | 次元ごとに違う |
| $3$ | $\approx0.4181$ | 次元ごとに違う |
| $6$ | $1$ | 上部臨界次元 |
| $7$ | $1$ | もう動かない |
| $100$ | $1$ | もう動かない |
観察 5.2 $d\ge6$ では平均場の値に固定される。閾値は依然として格子ごとに動くのに、指数は次元にも依らなくなる。普遍性の階段が、そこでもう一段上がる。
観察 5.3 三段になっている。閾値は格子ごと、指数は $d<6$ で次元ごと、$d\ge6$ で完全に一つ。同じ一つの現象の中に、細部への依存度が三段階ある。
6. 点呼と結び
- 閾値の一覧(検算2.1):$1/2$、$0.592746$、$0.6970$、$0.2488$、$0.3116$。
- 閾値は $2.8014$ 倍ひらく(観察2.2):$0.2488$ から $0.6970$。
- 二次元の中だけでも動く(観察2.3):$1/2$ から $0.6970$。
- 指数は三つの格子で完全一致(検算3.1):$0.138889$ と $1.333333$。
- 閾値は $1.394$ 倍動いている(観察3.2):同じ表の中で。
- 次元を変えると指数が動く(検算3.3):$\beta$ が $3.01$ 倍。
- 旋回軸が直交している(観察3.5):格子は閾値、次元は指数。
- 役目が違う(検算4.1):どこでと、どう。
- 六次元で止まる(検算5.1):$\beta=1$、$\nu=1/2$ に固定。
- 依存度は三段(観察5.3):格子ごと、次元ごと、完全に一つ。
結び:論文117 と120 が扱った普遍性は、現象まるごとの性質ではなかった。同じパーコレーションという現象の中に、境目が走っている。閾値は格子の持ち物で、単純立方ボンドの $0.2488$ から蜂の巣サイトの $0.6970$ まで $\mathbf{2.8014}$ 倍ひらく。一方、臨界指数は次元の持ち物で、三角でも正方でも蜂の巣でも $\beta=5/36$、$\nu=4/3$ から一桁も動かない。そして六次元より上では、指数は次元にも依らなくなる。細部への依存度が三段になっている。分けるものは一つ、どの量が、何の持ち物なのかを書き出すこと。書き出せば、格子を正確に指定すべき場面と、次元だけ言えばよい場面が分かれる。書き出さなければ、$0.2488$ と $0.6970$ を同じ数の測定誤差だと読んでしまう。
参考文献
- Broadbent, S. R. and Hammersley, J. M. (1957). Percolation Processes. Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society, 53(3).
- Stauffer, D. and Aharony, A. (1994). Introduction to Percolation Theory, 2nd edition. London: Taylor and Francis.
- Grimmett, G. (1999). Percolation, 2nd edition. Berlin: Springer.
- Kesten, H. (1980). The Critical Probability of Bond Percolation on the Square Lattice Equals 1/2. Communications in Mathematical Physics, 74(1).
- den Nijs, M. P. M. (1979). A Relation between the Temperature Exponents of the Eight-Vertex and q-State Potts Model. Journal of Physics A, 12(10).
- Wang, J., Zhou, Z., Zhang, W., Garoni, T. M. and Deng, Y. (2013). Bond and Site Percolation in Three Dimensions. Physical Review E, 87(5).
- 山岸勇輝 (2026). 「次元」は一つではない [論文94]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758581
- 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 次元解析は、二通りに破れる [論文120]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036433
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). 「完備」は四つの別の主張である [論文201]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22109052
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している」[論文264]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169720
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している [論文264]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/264 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169720
Yamagishi, Y. (2026). Inside One Phenomenon Live a Number That Moves with the Lattice and a Number That Does Not [Paper 264]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/264; DOI: 10.5281/zenodo.22169720
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