【論文265】低温比熱で二つの模型を分けたのは、量子化ではなく状態密度である

要旨

アインシュタイン($1907$)とデバイ($1912$)は、低温の比熱でまったく違う答を出す。本稿が問うのは、何が二人を分けたのかである。答は、量子化ではない。どちらも振動子を同じだけ量子化しており、違うのは状態密度 $g(\omega)$ だけである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、低温でどれだけ違うかを数える。$T/\theta=0.05$ でデバイは $\mathbf{9.740757\times10^{-3}}$、アインシュタインは $\mathbf{8.244615\times10^{-7}}$、比は $\mathbf{11814.7}$ 倍である(第3節)。

第二に、高温では区別がつかない。$T/\theta=1.00$ では $0.951732$ と $0.920674$ で、比は $\mathbf{1.0}$、低温でだけ別れる(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。ずれ方の形が違う。デバイは冪、アインシュタインは指数関数である。同じ測り方をアインシュタインに当てると「指数 $\mathbf{34.067}$」という無意味な値が出る(第4節)。

第四に、$T^3$ の $3$ は次元である。$d$ 次元で解いて低温の指数を測ると、$\mathbf{1.000137}$、$\mathbf{2.000000}$、$\mathbf{3.000000}$、$\mathbf{3.999998}$ と出る。指数がそのまま次元である(第5節)。

第五に、その次元は状態密度から来ている。$g(\omega)\propto\omega^{d-1}$ だから $C\propto T^d$ になる。量子化の式には $d$ が一度も現れない(第5節)。

第六に、その状態密度に $4\pi$ が座っている。$k$ 空間の球面から $g(\omega)\propto 4\pi k^2$ が出る。$4\pi=\mathbf{12.566371}$ は球の立体角そのものである(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。アインシュタイン模型、デバイ模型、低温での $T^3$ 則、状態密度の導出は、いずれも標準的である。固体物理を作らない。使うのは二つの積分と、対数比による指数の測定だけである。格子力学を扱わない。分散関係を線形とだけ置き、実際のフォノン分散も、光学枝も、非調和項も扱わない。どちらの模型が正しいとも言わない。デバイのほうが実測に近いという事実は引くが、どちらも近似であって、本稿はその優劣を主題にしない。電子比熱を扱わない。金属の低温比熱には $T$ に比例する電子の寄与があるが、本稿は格子の寄与だけを見る。デバイ温度の値を主張しない。すべて $T/\theta$ という比で書いており、特定の物質の $\theta$ を使っていない。数値は離散化されている。積分は台形則で刻み $40000$、比較は $T/\theta=0.02$ と $0.04$ の二点である。デバイ長と混同しない。既刊のデバイ $10$ 件はプラズマのデバイ長(論文22・52・54)であり、本稿の格子のデバイ模型とは別物である。同じ人名の別の仕事である。ブロッホ球・ブリルアンとも混同しない。既刊の「ブロッホ」$19$ 件は量子ビットのブロッホ球、「ブリルアン」は波動伝播と観測の代価であって、いずれも結晶の話ではない。既刊との関係:論文02 は逆二乗場に純粋立体角 $4\pi$ が現れることを示した。本稿の第6節は、同じ $4\pi$ が状態密度の中にも座っていることを書く。論文258 は $4\pi$ が出る条件を三つに書き出した。本節はその条件を満たす場所(球・三次元・等方)である。論文117 と120 は指数がどう決まるかを扱った。本稿は一つの指数の正体が空間の次元だった場合を数で出す。論文144 は指数を、何が保存しているかの署名として読んだ。本稿の署名は次元である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿も指数を対数比で測る。加えたのは低温で二つの模型が $11814.7$ 倍ずれることを計算したこと、冪と指数関数の違いを「同じ測り方を当てると無意味な値が出る」という形で見せたこと、$d$ 次元で解いて指数が $1.000137$ から $3.999998$ まで次元に一致することを確かめたこと、その次元が状態密度から来ており、量子化の式には現れないと書いたことである。

1. 記法と位置づけ

設定:固体の格子比熱を、二つの模型で計算する。どちらも振動子のエネルギーを $\hbar\omega$ の整数倍に量子化する。そこは共通である。

模型 量子化するか 状態密度 $g(\omega)$
アインシュタイン($1907$) する すべて同じ $\omega$(デルタ関数)
デバイ($1912$) する 線形分散から $\propto\omega^{2}$

問い:では、二人を分けたのは何か。

答は、状態密度だけである。量子化は同じで、$g(\omega)$ の一行だけが違う。

注意:本稿の「デバイ」は格子のデバイ模型である。既刊に $10$ 件あるデバイはプラズマのデバイ長であり、同じ人名の別の仕事である。混同しない。

2. 高温では区別がつかない

設定:以下、比熱は $C/(3Nk)$ で書く。高温極限で $1$ に近づく形である(デュロン=プティ)。

検算 2.1:$T/\theta$ を下げていく。

$T/\theta$ デバイ アインシュタイン 比
$1.00$ $0.951732$ $0.920674$ $\mathbf{1.0}$
$0.50$ $0.825408$ $0.724062$ $1.1$
$0.20$ $0.368635$ $0.170742$ $2.2$
$0.10$ $7.582100\times10^{-2}$ $4.540405\times10^{-3}$ $16.7$
$0.05$ $\mathbf{9.740757\times10^{-3}}$ $\mathbf{8.244615\times10^{-7}}$ $\mathbf{11814.7}$

観察 2.2 高温では二つの模型が同じ答を出す。$T/\theta=1.00$ で $0.951732$ と $0.920674$、差は $3\%$ ほどである。ここで二人を区別することはできない。

観察 2.3 $T/\theta$ を $20$ 分の $1$ にすると、比が $1.0$ から $\mathbf{11814.7}$ まで開く。低温でだけ別れる。模型の差は温度によって見えたり見えなかったりする。

3. 芯:ずれ方の形が違う

設定:低温で二つがどう振る舞うかを、形で見る。デバイは冪 $T^3$、アインシュタインは指数関数 $\exp(-\theta/T)$ である。

検算 3.1:$T/\theta=0.02$ と $0.04$ の二点をとり、対数比で「指数」を測る。

模型 $T/\theta=0.02$ $T/\theta=0.04$ 測った指数
デバイ(三次元) $2.078061\times10^{-4}$ $1.662448\times10^{-3}$ $\mathbf{3.000000}$
アインシュタイン $4.821875\times10^{-19}$ $8.679965\times10^{-9}$ $\mathbf{34.067}$

観察 3.2 デバイは $3.000000$ ときれいに出る。冪則だからである。アインシュタインは $34.067$ という意味のない値が出る。冪則ではないので、指数を測るという操作自体が当てはまらない。

観察 3.3 $34.067$ は測り方が間違っているという印である。別の二点をとれば別の値が出る。$\exp(-\theta/T)$ は $\exp(-50)=1.93\times10^{-22}$ から $\exp(-25)=1.39\times10^{-11}$ へ動いており、比が温度に依存する。

観察 3.4 分離子、何を動かすと別物になるか。状態密度が $\omega=0$ の近くに状態を持つかどうかである。デバイは持つので、いくら冷やしても励起できる低い振動が残り、冪で落ちる。アインシュタインは持たないので、$\hbar\omega$ より下では何も励起できず、指数関数で落ちる。

4. $T^3$ の $3$ は、空間の次元である

設定:デバイ模型を $d$ 次元で解く。線形分散のままで、状態密度だけが $g(\omega)\propto\omega^{d-1}$ に変わる。

検算 4.1:同じ二点で指数を測る。

次元 $d$ $T/\theta=0.02$ $T/\theta=0.04$ 測った指数
$1$ $6.578486\times10^{-2}$ $1.315822\times10^{-1}$ $\mathbf{1.000137}$
$2$ $2.884937\times10^{-3}$ $1.153975\times10^{-2}$ $\mathbf{2.000000}$
$3$ $2.078061\times10^{-4}$ $1.662448\times10^{-3}$ $\mathbf{3.000000}$
$4$ $1.990901\times10^{-5}$ $3.185438\times10^{-4}$ $\mathbf{3.999998}$

観察 4.2 測った指数が、そのまま次元と一致する。$1.000137$、$2.000000$、$3.000000$、$3.999998$、$T^3$ の $3$ は空間の次元である。

観察 4.3 ここが本稿の一番の点である。量子化の式(プランク分布)には $d$ が一度も現れない。$d$ が入ってくるのは状態密度からだけである。だから「$T^3$ は量子効果だ」という言い方は、半分しか言っていない。

観察 4.4 正直に書くべき点、$d=1$ で $1.000137$ とわずかにずれるのは、$T/\theta=0.02$ がまだ十分低温でないためである。数値の限界であって、法則の破れではない。

5. その状態密度に、$4\pi$ が座っている

設定:三次元の $k$ 空間で、半径 $k$ 以内の状態数を数える。

$$N(<k)=V\cdot\frac{\frac{4}{3}\pi k^3}{(2\pi)^3},\qquad
g(\omega)\,d\omega=3V\cdot\frac{4\pi k^2\,dk}{(2\pi)^3}$$

検算 5.1:この式に立っている定数を読む。

定数 値 由来
$4\pi$ $\mathbf{12.566371}$ 球の全立体角
$\frac{4}{3}\pi$ $4.188790$ 球の体積
$(2\pi)^3$ $248.050213$ 一状態あたりの $k$ 空間の体積
$3$ $3$ 偏極の数(縦 $1$ +横 $2$)

観察 5.2 $4\pi$ が状態密度の中に立っている。論文02 が逆二乗場で見た $4\pi$ と同じものである。どちらも球の全立体角であり、別根ではない。

観察 5.3 論文258 は $4\pi$ が出る条件を点源・三次元・等方の三つに書き出した。ここはその三つが揃っている。$k$ 空間の原点から等方に、三次元の球面を数えている。

観察 5.4 そして $d$ 次元では $4\pi$ が別の立体角に変わり、$k^2$ が $k^{d-1}$ に変わる。そこから $g(\omega)\propto\omega^{d-1}$、そして $C\propto T^d$ が出る。第4節で測った指数の出どころが、この一行である。

6. 点呼と結び

  1. どちらも量子化している(第1節):共通点は量子化のほう。
  2. 高温では同じ(検算2.1):$0.951732$ と $0.920674$、比 $1.0$。
  3. 低温で $11814.7$ 倍(検算2.1):$T/\theta=0.05$ で。
  4. 形が違う(検算3.1):デバイは冪、アインシュタインは指数関数。
  5. $34.067$ は無意味(観察3.2):冪則でないものに指数を測った印。
  6. 分離子は $\omega=0$ の近く(観察3.4):低い振動が残るかどうか。
  7. 指数は次元と一致(検算4.1):$1.000137$、$2.000000$、$3.000000$、$3.999998$。
  8. 量子化の式に $d$ は無い(観察4.3):$d$ は状態密度から入る。
  9. $4\pi$ が状態密度に座る(検算5.1):$12.566371$、球の全立体角。
  10. 論文02 と同根(観察5.2):別根ではない。

結び:アインシュタインとデバイを分けたのは、量子化ではなかった。二人とも同じだけ量子化しており、違うのは状態密度 $g(\omega)$ の一行だけである。その一行が、低温で $\mathbf{11814.7}$ 倍の差を作り、ずれ方の形まで変える。デバイは冪で落ち、アインシュタインは指数関数で落ちるので、同じ測り方を当てると $34.067$ という無意味な値が返る。そして $T^3$ の $3$ は、$d$ 次元で解いて測れば $1.000137$、$2.000000$、$3.000000$、$3.999998$ と出る。空間の次元そのものである。その次元は量子化の式には一度も現れず、状態密度からだけ入ってくる。そしてその状態密度には $4\pi=12.566371$ が座っており、論文02 が見た立体角と同じものである。分けるものは一つ、どの一行が違うのかを書き出すこと。書き出せば、量子化のせいにしてよい部分と、幾何のせいにすべき部分が分かれる。書き出さなければ、$T^3$ の $3$ を量子力学の手柄にしてしまう。

参考文献

  1. Einstein, A. (1907). Die Plancksche Theorie der Strahlung und die Theorie der spezifischen Waerme. Annalen der Physik, 327(1).
  2. Debye, P. (1912). Zur Theorie der spezifischen Waermen. Annalen der Physik, 344(14).
  3. Ashcroft, N. W. and Mermin, N. D. (1976). Solid State Physics. New York: Holt, Rinehart and Winston.
  4. Kittel, C. (2005). Introduction to Solid State Physics, 8th edition. New York: Wiley.
  5. Born, M. and Huang, K. (1954). Dynamical Theory of Crystal Lattices. Oxford: Clarendon Press.
  6. Landau, L. D. and Lifshitz, E. M. (1980). Statistical Physics, Part 1, 3rd edition. Oxford: Butterworth-Heinemann.
  7. 山岸勇輝 (2026). 4$\pi$質量相殺定理 [論文02]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21403931
  8. 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
  9. 山岸勇輝 (2026). 次元解析は、二通りに破れる [論文120]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036433
  10. 山岸勇輝 (2026). 指数は、何が保存しているかの署名である [論文144]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082585
  11. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  12. 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ が出るのは、源が点のときだけである [論文258]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169011

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「低温比熱で二つの模型を分けたのは、量子化ではなく状態密度である」[論文265]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169749

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 低温比熱で二つの模型を分けたのは、量子化ではなく状態密度である [論文265]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/265 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169749

Yamagishi, Y. (2026). What Separated the Two Low-Temperature Models Is Not Quantisation but the Density of States [Paper 265]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/265; DOI: 10.5281/zenodo.22169749

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