要旨
平均場近似は、どの次元でも相転移を予言する。本稿が問うのは、その外れ方が何で決まるかである。答は、次元だけである。近似の中に次元は入っていないのに、外れる量は次元だけの関数になっている。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、一次元で無限に外す。厳密には $T_c=0$(相転移しない)なのに、平均場は $kT_c/J=\mathbf{2}$ と言う。比は定義できない(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。二次元の厳密解(オンサーガー)は $kT_c/J=\mathbf{2.269185}$、平均場は $\mathbf{4}$、$\mathbf{76.27\%}$ 過大である(第3節)。
第三に、次元を上げると外れ方が縮む。三次元で $\mathbf{32.99\%}$、四次元で $\mathbf{19.76\%}$、単調に減る(第3節)。
第四に、しかし決してゼロにならない。比は $1.76275\to1.32993\to1.19755$ と $1$ に近づくが、$d$ が有限である限り $1$ にはならない(第4節)。
第五に、指数のほうは $d\ge4$ で厳密になる。上部臨界次元を超えると臨界指数は平均場の値と一致する。同じ近似が、一方では正確になり、他方では最後まで外れる(第5節)。
第六に、連続対称性ではもっと悪い。マーミン=ワグナーにより $d\le2$ では自発的破れが起きないのに、平均場はすべての次元で起きると言う(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。平均場近似、オンサーガーの厳密解、上部臨界次元が $4$ であること、マーミン=ワグナーの定理は、いずれも標準的である。統計力学を作らない。使うのは一つの比と、四つの値の突き合わせだけである。厳密解を導かない。オンサーガーの $2/\ln(1+\sqrt2)$ は引用であり、三次元と四次元の値は数値計算による推定である。くりこみ群に立ち入らない。論文117 と120 が扱う。本稿は外れ方の大きさを並べるだけである。臨界指数を計算しない。論文117 が平均場を「素朴な次元勘定で $\eta=0$ を与えるもの」として扱い、上部臨界次元 $4$ を結合定数の冪勘定から書いている。本稿はその指数の話に入らず、$T_c$ の値だけを見る。極限の順序を扱わない。論文245 はキュリー=ワイス模型で極限の順序を扱い、臨界指数もくりこみ群も扱わないと明記している。本稿は順序ではなく、外れ方の大きさである。マーミン=ワグナーを証明しない。結論を引くだけである。既刊のマーミン $8$ 件(論文$11$・$41$・$185$)は量子測定と欠陥の分類であり、同じ人の別の仕事である。パーコレーションの上部臨界次元と混同しない。論文264 の $6$ はパーコレーションのもので、本稿の $4$ はイジングのものである。既刊との関係:論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶことを分けた。本稿は指数ではなく転移温度を見る。論文120 は次元解析が二通りに破れることを示した。本稿は破れの大きさを次元ごとに数える。論文245 は二つの極限が順序を書くまで答を持たないことを示した。本稿は同じ平均場模型を、順序ではなく精度の側から見る。論文264 は閾値が格子の持ち物で指数が次元の持ち物だと書いた。本稿は$T_c$ と指数で、次元への従い方が違うことを書く。同じ形の分け方である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿は百分率と比で書く。加えたのは外れ方を $76.27\%$・$32.99\%$・$19.76\%$ と次元ごとに数えたこと、一次元では比が定義できないと書いたこと、$1$ に近づくが到達しないことを $1.76275\to1.19755$ と並べたこと、指数は $d\ge4$ で厳密になるのに $T_c$ は決してならないという非対称を書いたことである。
1. 記法と位置づけ
設定:イジング模型を考える。各格子点にスピン $\pm1$ を置き、隣り合うスピンの積に $-J$ を掛けて足す。$d$ 次元の単純立方格子では、隣の数(配位数)は $z=2d$ である。
平均場近似:一つのスピンが感じる場を、周りの平均で置き換える。そうすると転移温度は $kT_c/J=z=2d$ になる。隣の数しか見ていない。
問い:この近似は、どれだけ外れるのか。
答は、次元だけで決まる。近似の中に「次元」は入っていない。入っているのは配位数だけである。それでも外れ方は次元の関数になる。
注意:本稿の「マーミン」はマーミン=ワグナーの定理である。既刊の $8$ 件は量子測定と欠陥の分類であり、同じ人の別の仕事である。混同しない。
2. 一次元では、無限に外す
検算 2.1:一次元イジング鎖を厳密に解くと、有限の温度では磁化が立たない。
| $kT_c/J$ | |
|---|---|
| 厳密(一次元) | $\mathbf{0}$(相転移しない) |
| 平均場($z=2$) | $\mathbf{2}$ |
| 比 | 定義できない |
観察 2.2 これは「精度が悪い」ではない。無いものを有ると言っている。百分率で書けない種類の誤りである。
観察 2.3 理由は一行で言える。一次元では、一箇所を反転させる代価が有限なので、どんなに低い温度でも秩序が壊れる。平均場はこの「一箇所」を見ていない。
3. 芯:外れ方を次元ごとに数える
検算 3.1:二次元の厳密解はオンサーガー($1944$)が与えた。$kT_c/J=2/\ln(1+\sqrt2)$ である。
| 次元 $d$ | 配位数 $z=2d$ | 平均場 | 厳密(または数値) | 過大の割合 |
|---|---|---|---|---|
| $1$ | $2$ | $2.0000$ | $0.000000$ | 定義できない |
| $2$ | $4$ | $4.0000$ | $\mathbf{2.269185}$ | $\mathbf{76.27\%}$ |
| $3$ | $6$ | $6.0000$ | $4.511500$ | $\mathbf{32.99\%}$ |
| $4$ | $8$ | $8.0000$ | $6.680300$ | $\mathbf{19.76\%}$ |
観察 3.2 外れ方が単調に縮む。$76.27\to32.99\to19.76$ パーセント、次元を上げるほど平均場が当たるようになる。
観察 3.3 分離子、何を動かすと外れ方が変わるか。次元だけである。結合の強さも、格子の形も、スピンの大きさも動かしていない。そして平均場の式には次元が入っていないのに、外れ方は次元の関数になっている。
観察 3.4 理由は、平均場がゆらぎを一切見ないことである。次元が高いほど隣が多く、ゆらぎが平均されて小さくなる。近似が良くなるのは、近似が正しくなるからではなく、無視したものが小さくなるからである。
4. しかし、決してゼロにならない
検算 4.1:比(平均場を厳密で割ったもの)を並べる。
| 次元 $d$ | 平均場/厳密 |
|---|---|
| $2$ | $\mathbf{1.76275}$ |
| $3$ | $\mathbf{1.32993}$ |
| $4$ | $\mathbf{1.19755}$ |
| $d\to\infty$ | $1$(極限でのみ) |
観察 4.2 $1$ に近づくが、有限の $d$ では届かない。平均場が $T_c$ について厳密になるのは無限次元だけである。現実の次元では、どこまで行っても外れている。
観察 4.3 これは第3節の $76.27\%$ という数と、同じことを別の書き方で言っている。どちらも「近づくが到達しない」を表している。
5. 指数は $d\ge4$ で厳密になるのに、$T_c$ は決してならない
観察 5.1 上部臨界次元は $4$ である。$d\ge4$ では、臨界指数が平均場の値と一致する(対数補正を除く)。
検算 5.2:二つの量を、次元への従い方で並べる。
| 量 | $d\ge4$ で | $d\to\infty$ で |
|---|---|---|
| 臨界指数 | 厳密になる | 厳密 |
| 転移温度 $T_c$ | まだ $19.76\%$ 外れる | そこで初めて厳密 |
観察 5.3 同じ一つの近似が、一方では有限の次元で正確になり、他方では最後まで外れる。「平均場が正しくなる次元」という一語が、二つの別のことを指している。指数について言うなら $4$、$T_c$ について言うなら無限である。
観察 5.4 論文117 は指数の側を扱った。$\eta=0$ を与える素朴な次元勘定として平均場を置き、上部臨界次元 $4$ を結合定数の冪勘定から書いている。本稿は$T_c$ の側であり、その二つの側で答が違うことが本節の内容である。
観察 5.5 論文264 は、パーコレーションで閾値が格子の持ち物、指数が次元の持ち物だと書いた。本稿はイジングで$T_c$ と指数の次元への従い方が違うと書く。同じ形の分け方が、別の現象にも現れている。
6. 連続対称性では、もっと悪い
観察 6.1 イジングのスピンは $\pm1$ の二値、すなわち離散である。連続に回せるスピン(ハイゼンベルクやXY模型)にすると、話が変わる。
検算 6.2:マーミン=ワグナーの定理が言うことを、平均場の予言と並べる。
| 次元 | 連続対称性の自発的破れ | 平均場は |
|---|---|---|
| $d=1$ | 起きない | 起きると言う |
| $d=2$ | 起きない | 起きると言う |
| $d=3$ | 起きる | 起きると言う |
観察 6.3 離散対称性(イジング)では二次元で秩序が立つのに、連続対称性では立たない。平均場はこの区別を一つも見ていない。どちらでも同じ答を返す。
観察 6.4 したがって「平均場がどれだけ外れるか」は、次元だけでなく対称性の型にも依る。第3節の表は離散対称性の場合であり、連続対称性ではもっと悪い。正直に書くべき点である。
7. 点呼と結び
- 一次元で無限に外す(検算2.1):厳密は $0$、平均場は $2$。
- 百分率で書けない誤り(観察2.2):無いものを有ると言っている。
- 二次元で $76.27\%$ 過大(検算3.1):$4$ 対 $2.269185$。
- 三次元で $32.99\%$、四次元で $19.76\%$(検算3.1):単調に縮む。
- 分離子は次元だけ(観察3.3):式には次元が入っていない。
- $1$ に近づくが到達しない(検算4.1):$1.76275\to1.19755$。
- 指数は $d\ge4$ で厳密(検算5.2):$T_c$ は無限次元でのみ。
- 二つの側で答が違う(観察5.3):$4$ と、無限。
- 連続対称性ではもっと悪い(検算6.2):$d\le2$ で起きないのに起きると言う。
結び:平均場近似の式には、次元が一度も現れない。現れるのは配位数 $z$ だけである。それでも外れ方は次元だけの関数になっていた。一次元では無いものを有ると言い、二次元では $\mathbf{76.27\%}$ 過大、三次元で $32.99\%$、四次元で $19.76\%$、単調に縮むが、有限の次元では決してゼロにならない。そして臨界指数のほうは $d\ge4$ で厳密になる。同じ一つの近似が、一方では有限の次元で正確になり、他方では無限次元でしか正確にならない。さらに連続対称性では、$d\le2$ で秩序が立たないのに立つと言う。分けるものは一つ、何について「平均場が正しくなる」と言っているのかを書き出すこと。書き出せば、$4$ という数が指数の話で、$T_c$ の話ではないことが分かる。書き出さなければ、四次元で平均場が完全に正しくなったと読んでしまう。
参考文献
- Onsager, L. (1944). Crystal Statistics I: A Two-Dimensional Model with an Order-Disorder Transition. Physical Review, 65(3).
- Mermin, N. D. and Wagner, H. (1966). Absence of Ferromagnetism or Antiferromagnetism in One- or Two-Dimensional Isotropic Heisenberg Models. Physical Review Letters, 17(22).
- Ising, E. (1925). Beitrag zur Theorie des Ferromagnetismus. Zeitschrift fuer Physik, 31(1).
- Goldenfeld, N. (1992). Lectures on Phase Transitions and the Renormalization Group. Reading: Addison-Wesley.
- Baxter, R. J. (1982). Exactly Solved Models in Statistical Mechanics. London: Academic Press.
- Ferrenberg, A. M., Xu, J. and Landau, D. P. (2018). Pushing the Limits of Monte Carlo Simulations for the Three-Dimensional Ising Model. Physical Review E, 97(4).
- 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 次元解析は、二通りに破れる [論文120]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036433
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). 二つの極限は、順序を書くまで答を持たない [論文245]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22159739
- 山岸勇輝 (2026). 同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している [論文264]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169720
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる」[論文271]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169925
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる [論文271]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/271 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169925
Yamagishi, Y. (2026). Mean Field Does Not See the Dimension, and Yet the Dimension Alone Settles How Far It Errs [Paper 271]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/271; DOI: 10.5281/zenodo.22169925
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