【論文291】同じ海に三つの長さがあり、4.3910^4 倍ひらいている

要旨

回転する海には、特徴的な長さが複数ある。どれも「コリオリで決まる長さ」と呼ばれる。本稿が問うのは、それらは同じものかである。答は、別のものである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、三つの長さを並べる。緯度 $45^\circ$ で、エクマン層 $\mathbf{43.75}$ m、傾圧変形半径 $\mathbf{48.48}$ km、順圧変形半径 $\mathbf{1920.86}$ km(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。最小と最大は $\mathbf{4.3905\times10^{4}}$ 倍ひらいており、どれもコリオリ因子 $f$ を含むのに、$f$ 以外の要素が全部違う(第2節)。

第三に、傾圧と順圧を分けているのは深さではない。比は $\mathbf{39.6182}$ 倍で、決めているのは成層 $N$ である(第3節)。

第四に、回転が効くかどうかは一つの数が決める。ロスビー数 $Ro=U/(fL)$ で、メキシコ湾流 $0.0970$、台風 $0.5818$(第4節)。

第五に、風呂の渦は $Ro=3232$ である。コリオリより $3232$ 倍強い力が回している(第5節)。

第六に、分離子は $Ro$ である。風呂でコリオリを見るには、流速を $\mathbf{0.031}$ mm/s 以下にせねばならない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。エクマン層、ロスビー変形半径、ロスビー数、地衡流平衡は、いずれも標準的である。海洋力学を作らない。使うのは三つの長さの式と、一つの無次元数だけである。エクマン螺旋を導出しない。境界層方程式には立ち入らない。力の点呼をしない。遠心力、コリオリ力、圧力傾度力の分類は扱わない。本稿は長さの点呼である。代表値の精度を主張しない。渦粘性 $A_z=0.01$ $\mathrm{m^2/s}$、成層 $N=0.005$ /s、深さ $H=1000$/$4000$ m は桁を示すための代表値であり、場所と季節で一桁動く。とくに $A_z$ は $10^{-4}$ から $10^{-1}$ まで動く。風呂の渦の値を主張しない。$U=0.1$ m/s、$L=0.3$ m は典型的な排水渦の代表値である。$Ro=3232$ という値ではなく、$Ro\gg1$ という事実が本稿の主張である。排水渦の回転向きを説明しない。何が実際に向きを決めているか(初期の残留渦、容器の形、抜き方)は扱わない。コリオリでないことだけを示す。既刊との関係:論文256 は力学相似が厳密に成り立つ縮尺が $1$ だけだと示した。本稿の $Ro$ も縮尺を変えると保てない無次元数であり、風呂は海の模型になれない。論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶことを扱い、$\Pi$ 群がちょうど一つという条件を書いた。本稿はその条件を満たさない場合であり、三つの長さが独立に立つ。論文140 は対称性が比を決め力学が尺度を決めると分けた。本稿の三つの長さはどれも力学の側である。論文112 は「同じ韻の別根」を数えた。三つの長さは$f$ という韻を共有し、根が違う。加えたのは三つの長さを一表に並べて $4.3905\times10^{4}$ 倍の開きを測ったこと、傾圧と順圧の比 $39.6182$ を決めているのが成層だと確かめたこと、五つの現象のロスビー数を計算したこと、風呂で回転を見るのに要る流速 $0.031$ mm/s を出したことである。

1. 記法と、一つの因子

設定:回転する地球の上では、コリオリ因子

$$f=2\Omega\sin\varphi$$

がどの式にも現れる($\Omega$ は自転角速度、$\varphi$ は緯度)。

検算 1.1:緯度 $45^\circ$ で。

量 値
$\Omega$ $7.2921159\times10^{-5}$ rad/s
$f=2\Omega\sin45^\circ$ $\mathbf{1.0313\times10^{-4}}$ /s
慣性周期 $2\pi/f$ $\mathbf{16.9242}$ 時間

問い:$f$ が入っている長さは、みな同じものか。

2. 芯:三つの長さが $4.39\times10^{4}$ 倍ひらく

検算 2.1:同じ海の、同じ緯度で三つの長さを出す。

長さ 式 値
エクマン層の深さ $\pi\sqrt{2A_z/f}$、$A_z=0.01$ $\mathbf{43.75}$ m
傾圧ロスビー変形半径 $NH/f$、$N=0.005$、$H=1000$ $\mathbf{48.48}$ km
順圧ロスビー変形半径 $\sqrt{gH}/f$、$H=4000$ $\mathbf{1920.86}$ km

観察 2.2 これが本稿の芯である。最小と最大は $\mathbf{4.3905\times10^{4}}$ 倍ひらいている。$44$ メートルから $1900$ キロメートルまでが、同じ一つの海の「コリオリで決まる長さ」である。

検算 2.3:$f$ 以外に何が入っているかを書き出す。

長さ $f$ 以外の要素 何の層か
エクマン深さ 渦粘性 $A_z$ 摩擦の層
傾圧変形半径 成層 $N$、深さ $H$ 密度の層
順圧変形半径 重力 $g$、深さ $H$ 自由表面

観察 2.4 右の二列が一つも重なっていない。粘性・成層・重力はたがいに独立である。共有しているのは $f$ だけである。

検算 2.5:$f$ への依存の仕方も違う。

長さ $f$ 依存 $f$ を $2$ 倍にすると
エクマン深さ $\propto f^{-1/2}$ $\times0.7071$
傾圧変形半径 $\propto f^{-1}$ $\times0.5000$
順圧変形半径 $\propto f^{-1}$ $\times0.5000$

観察 2.6 エクマン深さだけ指数が違う。緯度を変えると三つの長さの比そのものが変わる。どれか一つを測っても、他の二つは分からない。

観察 2.7 論文112 は「同じ韻を踏む六つの別根」を数えた。三つの長さは$f$ という韻を共有し、根はまったく別である。同じ因子が入っていることは、同じ現象であることを意味しない。

3. 傾圧と順圧を分けているのは、深さではない

検算 3.1:二つの変形半径の比を取る。

量 値
順圧 $/$ 傾圧 $\mathbf{39.6182}$ 倍
式では $\sqrt{gH_2} / (NH_1)$ $f$ が約分される

観察 3.2 比の中で $f$ が約分されて消える。したがって緯度を変えても、二つの比は変わらない。分けているのは回転ではない。

検算 3.3:成層 $N$ を動かしてみる。

$N$ [/s] 傾圧変形半径 順圧 $/$ 傾圧
$0.005$ $48.48$ km $39.6182$ 倍
$0.010$ $96.97$ km $19.8091$ 倍

観察 3.4 $N$ を二倍にすると、比が半分になる。決めているのは深さではなく成層である。海が層に分かれている度合いが、この $39.6$ 倍を作っている。

観察 3.5 もし海が完全に混ざっていれば($N=0$)、傾圧変形半径は $0$ になる。そのとき残るのは順圧の一つだけ、三つの長さのうち一つは、成層があるからこそ存在する。

4. 回転が効くかどうかは、一つの数が決める

設定:ロスビー数 $Ro=U/(fL)$ は、慣性力とコリオリ力の比である。$Ro\ll1$ なら回転が支配し、$Ro\gg1$ なら回転は無関係である。

検算 4.1:

現象 $U$ [m/s] $L$ [m] $Ro$ 判定
メキシコ湾流 $1.0$ $1.0\times10^{5}$ $\mathbf{0.0970}$ 回転が効く
大気の高気圧 $10.0$ $1.0\times10^{6}$ $0.0970$ 回転が効く
台風 $30.0$ $5.0\times10^{5}$ $\mathbf{0.5818}$ 回転が効く
実験室の回転水槽 $0.01$ $0.5$ $193.94$ 回転は無関係
風呂の渦 $0.1$ $0.3$ $\mathbf{3232.29}$ 回転は無関係

観察 4.2 メキシコ湾流と大気の高気圧が偶然ほぼ同じ $0.0970$ である。速さが $10$ 倍、大きさも $10$ 倍なので、比が同じになる。$Ro$ は $U$ と $L$ の比しか見ていない。

観察 4.3 台風は $0.5818$ で、$1$ に近い。回転は効くが支配的ではない。だから台風の中心付近では地衡流平衡が崩れ、傾度風平衡という別の釣り合いに移る。

5. 芯の続き:風呂の渦は $Ro=3232$ である

観察 5.1 風呂の排水渦は $Ro=\mathbf{3232.29}$ である。コリオリより $3232$ 倍強い力が回している。初期の残留した渦、容器の形の非対称、栓を抜く動作である。

検算 5.2:では、どうすれば見えるか。$Ro<1$ にするには $U<fL$ である。

容器 許される流速 $U<fL$
風呂(半径 $0.3$ m) $\mathbf{0.0309}$ mm/s
直径 $2$ m の水槽 $0.1031$ mm/s
半径 $100$ m の池 $10.3126$ mm/s

観察 5.3 風呂でコリオリを見るには、流速を $\mathbf{0.031}$ mm/s 以下にせねばならない。実際の排水渦は約 $100$ mm/s、$3232$ 倍速すぎる。

観察 5.4 $3232$ という同じ数が二度出るのは偶然ではない。$Ro$ の定義そのものだからである。だが「$3232$ 倍速すぎる」と書き直すと、何が要るかが分かる。

観察 5.5 実際、この実験は成功している。直径 $1.8$ m の水槽で $18$ 時間以上静置し、ごくゆっくり抜けば、コリオリの向きが出る。$18$ 時間という時間が、慣性周期 $16.92$ 時間とほぼ同じであることに注意する。

観察 5.6 分離子、何を動かすと、回転が効くようになるか。$U/L$ を $f$ より小さくすることである。容器を大きくするか、流れを遅くするか、緯度を変えても $f$ は高々 $\sqrt2$ 倍しか動かないので、そちらでは埋まらない。

観察 5.7 論文256 は力学相似が厳密に成り立つ縮尺が $1$ だけだと示した。風呂と海は$Ro$ が $3.3\times10^{4}$ 倍違う。風呂は海の模型になれない。

6. 点呼と結び

  1. $f=1.0313\times10^{-4}$ /s(検算1.1):慣性周期 $16.9242$ 時間。
  2. エクマン層 $43.75$ m(検算2.1):摩擦の層。
  3. 傾圧変形半径 $48.48$ km(検算2.1):密度の層。
  4. 順圧変形半径 $1920.86$ km(検算2.1):自由表面。
  5. 開きは $4.3905\times10^{4}$ 倍(観察2.2):同じ海の同じ緯度。
  6. $f$ 依存の指数が違う(検算2.5):エクマンだけ $f^{-1/2}$。
  7. 順圧$/$傾圧 $=39.6182$(検算3.1):$f$ が約分される。
  8. $N$ を二倍で比は半分(検算3.3):決めているのは成層。
  9. 風呂の渦 $Ro=3232.29$(検算4.1):回転は無関係。
  10. 要る流速 $0.031$ mm/s(検算5.2):実際の $3232$ 分の一。

結び:同じ海の同じ緯度に、三つの「コリオリで決まる長さ」がある。エクマン層 $\mathbf{43.75}$ m、傾圧変形半径 $\mathbf{48.48}$ km、順圧変形半径 $\mathbf{1920.86}$ km、$\mathbf{4.3905\times10^{4}}$ 倍ひらいている。どれもコリオリ因子 $f$ を含むが、$f$ 以外の要素は一つも重なっていない。粘性、成層、重力である。$f$ への依存の指数さえ違う。エクマン深さだけが $f^{-1/2}$ で、緯度を変えると三つの比そのものが変わる。傾圧と順圧を分けているのは深さではなく成層である。比の中で $f$ が約分され、$N$ を二倍にすると $39.6$ 倍が $19.8$ 倍になる。そして回転が効くかどうかは、ロスビー数 $Ro=U/(fL)$ という一つの数が決める。メキシコ湾流 $0.0970$、台風 $0.5818$、そして風呂の渦は $\mathbf{3232.29}$。分けるものは一つ、$U/L$ が $f$ より小さいかどうか。風呂でコリオリを見るには流速を $\mathbf{0.031}$ mm/s 以下にせねばならず、実際の排水渦はその $\mathbf{3232}$ 倍速い。緯度を変えても $f$ は高々 $\sqrt2$ 倍しか動かないので、そちらでは埋まらない。

参考文献

  1. Ekman, V. W. (1905). On the Influence of the Earth’s Rotation on Ocean-Currents. Arkiv for Matematik, Astronomi och Fysik, 2(11).
  2. Rossby, C.-G. (1938). On the Mutual Adjustment of Pressure and Velocity Distributions in Certain Simple Current Systems II. Journal of Marine Research, 1(3).
  3. Gill, A. E. (1982). Atmosphere-Ocean Dynamics. New York: Academic Press.
  4. Pedlosky, J. (1987). Geophysical Fluid Dynamics. New York: Springer.
  5. Shapiro, A. H. (1962). Bath-Tub Vortex. Nature, 196(4859).
  6. Trefethen, L. M. et al. (1965). The Bath-Tub Vortex in the Southern Hemisphere. Nature, 207(5001).
  7. 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
  8. 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
  9. 山岸勇輝 (2026). 対称性は比を決め、力学は尺度を決める [論文140]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22081997
  10. 山岸勇輝 (2026). 力学相似が厳密に成り立つ縮尺は、$1$ だけである [論文256]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168919

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ海に三つの長さがあり、4.3910^4 倍ひらいている」[論文291]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171479

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ海に三つの長さがあり、4.39×10⁴ 倍ひらいている [論文291]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/291 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171479

Yamagishi, Y. (2026). One Sea Holds Three Lengths, Spanning a Factor of 4.39×10⁴ [Paper 291]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/291; DOI: 10.5281/zenodo.22171479

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  author = {Yamagishi, Yuuki},
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