【論文308】あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である

要旨

バスが平均 $10$ 分間隔で来るとする。あなたが乗るバスの前の間隔は、平均して何分か。本稿が問うのは、「平均間隔」が一つの量かである。答は、二つあるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、バス側の平均は $10$ 分である。ポアソン過程なら間隔は指数分布で、平均が $10$ 分になる(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。あなたが落ちる間隔の平均は $\mathbf{20}$ 分であり、ちょうど $2$ 倍である(第2節)。

第三に、待ち時間も $10$ 分である。直前のバスからの経過も $10$ 分で、$10+10=20$(第3節)。

第四に、離散の例で手で確かめられる。間隔 $5,5,5,5,20$ でバス側 $8.0$ 分、乗客側 $\mathbf{12.5}$ 分である(第4節)。

第五に、一般則は $1+CV^2$ である。等間隔なら $\mathbf{1}$、ポアソンなら $\mathbf{2}$(第5節)。

第六に、分離子は「誰を標本にしたか」である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ポアソン過程、指数分布の無記憶性、検査パラドックス、長さバイアスは、いずれも標準的である。確率過程を作らない。使うのは一つの重み付き平均と、一つの変動係数だけである。待ち行列理論を作らない。混雑も、サービス時間も、複数路線も一切扱わない。実際のバスを論じない。現実の運行は等間隔に近く、ポアソンではない。$2$ 倍は「間隔が完全にランダムなら」の値である。ポアソンを仮定していることを隠さない。第2・3節は到着がポアソン過程であることに立つ。現実のばらつきは $CV<1$ のことが多く、そのぶん比は $2$ より小さい(第5節)。乗客の到着も一様と仮定する。時刻表を見て来る乗客には当てはまらない。でたらめな時刻に来る場合の話である。パラドックスと呼ぶが矛盾ではない。二つの平均は別の量であり、食い違って当然である。「パラドックス」は驚きの名であって、矛盾の名ではない。既刊との関係:論文220 は「独立」が四つあり、たがいに何も言わないと数えた。本稿は「平均」が二つあり、標本の取り方で分かれる場合である。論文194 は四つの平均が一つの族だと示した。あちらは同じ標本に対する四つの平均、本稿は同じ量に対する二つの標本の取り方であり、分かれる場所が違う。論文292 は足せるのは対数だけだと示した。本稿も素朴な平均が答を外す場合である。論文255 は「精度」が二つあり較正で消えるのは一方だけだと分けた。本稿の長さバイアスは標本の取り方に由来し、精度を上げても消えない。加えたのは乗客側の平均が $20$ 分でバス側の $2$ 倍だと計算したこと、離散の例で $8.0$ 対 $12.5$ と手で確かめたこと、一般則を $1+CV^2$ と書いたこと、分離子を「誰を標本にしたか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:バスがポアソン過程で到着する。到着率 $\lambda=1/10$(毎分)、すなわち平均間隔 $10$ 分である。

あなたは時刻表を見ずに、でたらめな時刻にバス停へ行く。

問い:あなたが乗るバスの、その前のバスからの間隔は、平均して何分か。

観察 1.1 素朴には $10$ 分と答えたくなる。バスの平均間隔が $10$ 分だからである。だが違う。

2. 芯:あなたが落ちる間隔の平均は $20$ 分である

観察 2.1 理由は長さバイアスである。長い間隔ほど、そこに落ちる確率が高い。$20$ 分の間隔は $5$ 分の間隔の$4$ 倍の時間を占めるので、$4$ 倍落ちやすい。

検算 2.2:間隔の分布を $f(x)$ とすると、あなたが落ちる間隔の分布は $x f(x)/E[x]$ である(長さで重み付け)。指数分布 $f(x)=\lambda e^{-\lambda x}$ なら、形状 $2$ のガンマ分布になる。

量 値
バスの間隔の平均 $1/\lambda$ $\mathbf{10.0000}$ 分
あなたが落ちる間隔の平均 $2/\lambda$ $\mathbf{20.0000}$ 分
比 $\mathbf{2.0000}$ 倍

観察 2.3 これが本稿の芯である。バスの平均間隔は $10$ 分、あなたが乗るバスの間隔は $20$ 分、どちらも正しく、ちょうど $2$ 倍違う。

観察 2.4 矛盾ではない。標本の取り方が違う。バス側はバスを等しく数え、乗客側は時間を等しく数える。同じ列を、別の重みで見ている。

3. 待ち時間も $10$ 分で、合わせて $20$ 分になる

検算 3.1:

量 値
あなたの待ち時間の平均 $\mathbf{10.0000}$ 分
直前のバスからの経過時間の平均 $\mathbf{10.0000}$ 分
合計(=落ちた間隔) $\mathbf{20.0000}$ 分

観察 3.2 待ち時間が $10$ 分なのは無記憶性による。指数分布は「どれだけ待ったか」を覚えていないので、いつ来ても残り $10$ 分である。$5$ 分待った後でも、まだ平均 $10$ 分待つ。

観察 3.3 前後が対称であることに注意する。前に $10$ 分、後に $10$ 分、だから合わせて $20$ 分の間隔に落ちている。

観察 3.4 ここに気持ちの悪さの正体がある。「平均 $10$ 分間隔」と聞けば「平均 $5$ 分待つ」と思うのに、実際は $10$ 分待つ、待ち時間もまた $2$ 倍である。

観察 3.5 正直に書くべき点、これはポアソンを仮定した値である。現実のバスは等間隔に近く運行される。そのぶん比は $2$ より小さい(第5節)。

4. 離散の例で、手で確かめられる

設定:間隔が $5,5,5,5,20$ 分(合計 $40$ 分)の一日を考える。

検算 4.1:

計算 値
バス側の平均 $40/5$ $\mathbf{8.0000}$ 分
乗客側の平均 $\sum g^2/\sum g=500/40$ $\mathbf{12.5000}$ 分
比 $\mathbf{1.5625}$ 倍

観察 4.2 $20$ 分の間隔は、全体 $40$ 分のうち$\mathbf{50\%}$ の時間を占める。ところがバスの本数では $5$ 本中 $1$ 本、すなわち $20\%$ にすぎない。時間で数えるか、本数で数えるかの差である。

観察 4.3 したがって乗客の半分は $20$ 分の間隔に落ちる。バスの側から見れば「ほとんどの便は $5$ 分間隔」なのに、乗る側から見れば「半分は $20$ 分待ちの回」である。

観察 4.4 この例は手で全部確かめられる。$500=5^2\times4+20^2=100+400$、$500/40=12.5$、確率論を使わずに、同じ現象が出る。

5. 一般則は $1+CV^2$ である

設定:間隔の平均を $\mu$、標準偏差を $\sigma$、変動係数を $CV=\sigma/\mu$ とすると、比は $1+CV^2$ である。

検算 5.1:

運行 $CV$ 比 $=1+CV^2$
等間隔($10,10,10,10,10$) $0.0000$ $\mathbf{1.0000}$
第4節の例($5,5,5,5,20$) $0.7500$ $\mathbf{1.5625}$
ポアソン(指数分布) $1.0000$ $\mathbf{2.0000}$

観察 5.2 等間隔ならバイアスは無い(比 $1$)。すべての間隔が同じなら、どこに落ちても同じだからである。バイアスはばらつきから生まれる。

観察 5.3 そしてポアソンでちょうど $2$である。指数分布の $CV$ がちょうど $1$だからである。$1+1^2=2$。

観察 5.4 $CV$ が $1$ を超えれば$2$ を超える。バスが団子になって走るなら($CV>1$)、待ち時間はさらに悪化する。実際にバスが団子になるのは、遅れたバスほど客を多く拾うためであり、これは別の機構である。

観察 5.5 論文255 は「精度」が二つあり、較正で消えるのは一方だけだと分けた。ここでの長さバイアスは標本の取り方に由来する。時計を精密にしても、標本を増やしても消えない。

6. 分離子:誰を標本にしたか

観察 6.1 分離子、何を動かすと、$10$ 分と $20$ 分が入れ替わるか。何を等しく数えるかである。

何を等しく数えるか 答
バス側の平均 バスを $1$ 本ずつ $10$ 分
乗客側の平均 時間を $1$ 分ずつ $20$ 分

観察 6.2 二行とも正しい平均である。標本が違うだけである。「平均間隔は何分か」という問いが、二つの問いを覆っている。

観察 6.3 同じ構造は他にもある。

場面 対象側の平均 標本側の平均
バス バス $1$ 本ずつ 時間で重み
学級規模 学級 $1$ つずつ 生徒で重み(大きい学級に多く居る)
友人の数 人 $1$ 人ずつ 辺で重み(友達が多い人ほど友人に選ばれる)

観察 6.4 三行とも同じ長さバイアスである。「あなたの友人は、平均してあなたより友人が多い」という命題もここから出る。一つの機構が、三つの現象を覆っている。

観察 6.5 論文220 は「独立」が四つあり、たがいに何も言わないと数えた。本稿の二つの平均もたがいに何も言わない。片方を知っても、他方は $CV$ を知らねば出ない。

観察 6.6 正直に書くべき点、これは矛盾ではない。「パラドックス」という名は驚きに付いた名であって、矛盾に付いた名ではない。二つの平均は別の量であり、食い違って当然である。

7. 点呼と結び

  1. バス側の平均は $10.0000$ 分(検算2.2):ポアソン過程。
  2. 乗客側の平均は $20.0000$ 分(検算2.2):ちょうど $2$ 倍。
  3. 待ち時間も $10.0000$ 分(検算3.1):無記憶性による。
  4. 前後が対称(観察3.3):$10+10=20$。
  5. 離散例でバス側 $8.0000$ 分(検算4.1):乗客側 $12.5000$ 分。
  6. $20$ 分は時間の $50\%$(観察4.2):本数では $20\%$。
  7. 等間隔なら比 $1.0000$(検算5.1):バイアスはばらつきから。
  8. ポアソンで $CV=1$(観察5.3):$1+1^2=2$。
  9. 学級規模・友人の数も同じ(観察6.3):一つの機構。
  10. 矛盾ではない(観察6.6):別の量である。

結び:バスが平均 $10$ 分間隔で来るとき、あなたが乗るバスの間隔は平均 $\mathbf{20}$ 分である。ちょうど $2$ 倍であり、どちらも正しい。バス側はバスを等しく数え、乗客側は時間を等しく数えるからである。待ち時間も同じ理屈で $10$ 分になる。無記憶性により、前に $10$ 分、後に $10$ 分で、合わせて $20$ 分の間隔に落ちている。離散の例なら手で確かめられる。間隔 $5,5,5,5,20$ で、バス側 $\mathbf{8.0}$ 分に対し乗客側 $\mathbf{12.5}$ 分。$20$ 分の間隔は本数では $20\%$ にすぎないのに、時間では $\mathbf{50\%}$ を占める。一般則は $\mathbf{1+CV^2}$ である。等間隔なら $\mathbf{1}$(バイアス無し)、ポアソンなら $CV=1$ でちょうど $\mathbf{2}$。バイアスはばらつきから生まれる。分けるものは一つ、何を等しく数えたか。同じ機構が、学級規模にも、友人の数にも効いている。「あなたの友人は、平均してあなたより友人が多い」も、ここから出る。

参考文献

  1. Feller, W. (1971). An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume II. New York: Wiley.
  2. Cox, D. R. (1962). Renewal Theory. London: Methuen.
  3. Ross, S. M. (1996). Stochastic Processes. New York: Wiley.
  4. Feld, S. L. (1991). Why Your Friends Have More Friends Than You Do. American Journal of Sociology, 96(6).
  5. Hemenway, D. (1982). Why Your Classes Are Larger Than “Average”. Mathematics Magazine, 55(3).
  6. 山岸勇輝 (2026). 四つの平均は一つの族であり、等号の柵は一つしかない [論文194]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106809
  7. 山岸勇輝 (2026). 「独立」は四つあり、たがいに何も言わない [論文220]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22119838
  8. 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
  9. 山岸勇輝 (2026). 足せるのは対数だけである [論文292]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171519

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である」[論文308]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22172305

YOI 308第1版・2026年8月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である [論文308]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/308 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22172305

Yamagishi, Y. (2026). The Gap between the Buses You Board Is Twice the Average [Paper 308]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/308; DOI: 10.5281/zenodo.22172305

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