【論文319】暦は、近似を三段重ねたものである

要旨

一年は $365$ 日ではない。本稿が問うのは、暦は何をしているのかである。答は、整数で近似し、ずれを別の整数で補い、それをまた補っているである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、一年は $\mathbf{365.24219}$ 日である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。ユリウス暦は $\mathbf{128}$ 年で一日、グレゴリオ暦は $\mathbf{3226}$ 年で一日ずれる。$\mathbf{25.19}$ 倍よくなった(第3節)。

第三に、規則は三段の入れ子である。$4$ で割れる・$100$ で割れる・$400$ で割れる(第3節)。

第四に、$400$ 年に $\mathbf{97}$ 回で $\mathbf{365.242500}$ 日になる(第3節)。

第五に、一年の長さ自体も動いている。直すべき相手が止まっていない(第4節)。

第六に、分離子は「どこで切るか」であり、それは約束である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。回帰年の長さ、ユリウス暦とグレゴリオ暦の閏規則、連分数による近似、うるう秒は、いずれも標準的である。天文学を作らない。使うのは一つの引き算と、一つの割り算だけである。暦法の歴史を書かない。改暦の政治的経緯や、各国の採用時期には立ち入らない。回帰年の変化を予測しない。潮汐摩擦による自転の減速は事実として引くだけであり、将来の値は計算しない。うるう秒の制度を論じない。$2035$ 年に向けた廃止の議論には立ち入らない。他の暦を比較しない。太陰暦・太陰太陽暦・イスラム暦などは扱わない。既刊との関係:論文306 は「基本単位の個数は約束である」と示した。本稿の閏の規則も約束であり、どこで打ち切るかが決められている。論文295 は炭素 $12$ のモル質量がもう $12$ ちょうどではないと示した。定義を固定した側が動くという同じ形が、暦にもある。論文314 は「定数は変わったか」と問える相手は一つしかないと示した。回帰年は次元を持つので、その値の変化は単位の取り方と切り離せない。本稿は日と年の比という無次元量で書く。論文82 は時間を出来事の積み上げとして読んだ。暦はまさに出来事(日の出)を数える器である。論文123 は双子の違いが時計の遅れではなく世界線の長さだと示した。本稿の時間はすべて地球上の座標時であり、相対論的な効果は扱わない。加えたのは二つの暦の一年の長さと回帰年の差から、一日ずれるまでの年数を計算したこと、$400$ 年の閏の回数を数えて平均年長を確かめたこと、連分数で近似の階段を並べたこと、分離子を「どこで切るか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:地球が太陽のまわりを一周し、季節が一巡する時間を回帰年という。地球の自転一回を一日という。

観察 1.1 この二つは、割り切れない。公転と自転は別々の運動であり、整数比になる理由が無い。暦の問題はすべてここから出る。

問い:では、暦は何をしているのか。

2. 一年は $365.24219$ 日である

検算 2.1:

量 値
回帰年 $\mathbf{365.24219}$ 日
$365$ 日との差 $0.24219$ 日 $=5$ 時間 $48$ 分 $45$ 秒

観察 2.2 一年ごとに約 $6$ 時間ずつ余る。放っておくと$4$ 年で約一日、$120$ 年で一か月、$720$ 年で季節が半年ずれる。

観察 2.3 $0.24219$ はほぼ $1/4$ である。だから最初の近似は「$4$ 年に一度、一日足す」になる。これがユリウス暦である。

3. 芯:$128$ 年と $3226$ 年

検算 3.1:二つの暦の平均年長と、回帰年との差。

暦 平均年長 差 一日ずれるまで
ユリウス暦 $365.250000$ 日 $+0.007810$ $\mathbf{128.0}$ 年
グレゴリオ暦 $365.242500$ 日 $+0.000310$ $\mathbf{3225.8}$ 年

観察 3.2 これが本稿の芯である。$128$ 年が $3226$ 年になった。$\mathbf{25.19}$ 倍よくなっている。

検算 3.3:グレゴリオ暦の規則は三段である。

段 規則 $400$ 年あたり
第一 $4$ で割れる年は閏 $+100$ 回
第二 $100$ で割れる年は平年 $-4$ 回
第三 $400$ で割れる年は閏 $+1$ 回
合計 、 $\mathbf{97}$ 回

観察 3.4 $400$ 年に $\mathbf{97}$ 回である。平均年長は $(400\times365+97)/400=\mathbf{365.242500}$ 日、回帰年 $365.24219$ との差は $0.00031$ 日しかない。

観察 3.5 三段とも「引く」か「足す」かだけである。$100$ 回入れすぎたので $4$ 回引き、引きすぎたので $1$ 回戻す。近似の誤差を、次の段が拾っている。

検算 3.6:連分数で見ると、階段がそのまま出る。$0.24219$ の近似分数を並べる。

近似分数 小数 誤差 意味
$1/4$ $0.25000000$ $+0.00781000$ ユリウス暦
$7/29$ $0.24137931$ $-0.00081069$ 、
$8/33$ $0.24242424$ $+0.00023424$ ペルシア暦の $33$ 年周期
$31/128$ $0.24218750$ $\mathbf{-0.00000250}$ 、
$97/400$ $0.24250000$ $+0.00031000$ グレゴリオ暦(列に無い)

観察 3.7 $97/400$ は、この列に入っていない。連分数が返すのは $1/4$・$7/29$・$8/33$・$31/128$ であり、$97/400$ はどこにも現れない。グレゴリオ暦は、最良近似の階段から降りた場所にある。

観察 3.8 しかも二つ手前の $8/33$ のほうが近い。誤差は $0.00023424$ 対 $0.00031000$、ペルシア暦の $33$ 年周期のほうが、グレゴリオ暦より精度が高い。

観察 3.9 $31/128$ に至っては桁が違う。誤差 $\mathbf{0.00000250}$ で、一日ずれるのに $\mathbf{40}$ 万年かかる。$128$ 年に $31$ 回の閏、すなわち「$4$ 年に一度、ただし $128$ 年ごとに一回抜く」という規則である。

観察 3.10 それでも $400$ が採られた。$400$ は$100$ の倍数で、十進法の数え方にそのまま乗る。$33$ も $128$ もどこから数え始めるかを別に決めないと使えない。選ばれたのは精度ではなく、扱いやすさである。

4. 直すべき相手が、止まっていない

観察 4.1 回帰年の長さ自体が変化している。潮汐摩擦で自転が遅くなり、一日が長くなっている。したがって「一年は何日か」の答が、ゆっくり動く。

観察 4.2 だから $3226$ 年という数字は、$3226$ 年後まで有効ではない。分母のほうが動くので、現在の値から外挿した数にすぎない。本稿はこの外挿を主張しない。

観察 4.3 うるう秒は、暦とは別の層の補正である。

補正 何を合わせるか 周期
閏年 年と日 規則で決まる
うるう秒 日と秒 規則が無く、観測で決める

観察 4.4 下の行には規則が無い。地球の自転がいつどれだけ遅れるかは予言できないので、測ってから決める。閏年は計算、うるう秒は観測である。

観察 4.5 論文295 は炭素 $12$ のモル質量がもう $12$ ちょうどではないと書いた。同じ形である。定義で固定した側の隣で、実物が動いている。

5. 分離子:どこで切るか

観察 5.1 分離子、近似をどこで打ち切るか。そしてそれは、自然が決めていない。

検算 5.2:段を増やせば、いくらでもよくできる。

規則 平均年長 一日ずれるまで
$4$ 年に一度だけ $365.250000$ $128$ 年
$+$ $100$ 年で抜く $365.240000$ $456.6$ 年
$+$ $400$ 年で戻す $365.242500$ $\mathbf{3226}$ 年
$+$ $3200$ 年で抜く(仮) $365.242188$ $\mathbf{40}$ 万年

観察 5.3 四段目は実在しない。数としては書けるが、誰も採用していない。$3226$ 年で十分だと決めたからである。

観察 5.4 論文306 は「基本単位の個数は約束である」と書いた。閏の段数も約束である。三段が正しいのではなく、三段で止めることに決めたのである。

観察 5.5 論文300 の判定基準を、二つの補正に当てる。

基準 閏年 と うるう秒
同じ量を合わせているか いいえ。年と日/日と秒
決め方は同じか いいえ。計算/観測
予言できるか いいえ。できる/できない
どちらも「暦のずれを直す」か はい

観察 5.6 三つ「いいえ」、一つ「はい」である。「暦の補正」という一語の下に、別根が二つある。

観察 5.7 最後に一つ、暦が難しいのは、天文が難しいからではない。回帰年も一日も十分な精度で測れている。難しいのは整数でない数を、整数の規則で近似しなければならないことのほうである。自然の側に誤差は無く、誤差は約束の側にある。

6. 点呼と結び

  1. 回帰年は $365.24219$ 日(検算2.1):$5$ 時間 $48$ 分 $45$ 秒 余る。
  2. ユリウスは $128$ 年で一日(検算3.1):差は $+0.007810$。
  3. グレゴリオは $3226$ 年で一日(検算3.1):$25.2$ 倍よい。
  4. $400$ 年に $97$ 回(検算3.3):$100-4+1$。
  5. 平均年長 $365.242500$(観察3.4):差は $0.00031$ 日。
  6. $97/400$ は列に無い(観察3.7):$31/128$ なら $40$ 万年。
  7. 選ばれたのは扱いやすさ(観察3.8):精度ではない。
  8. 一日の長さが動く(観察4.1):$3226$ 年は外挿。
  9. うるう秒は観測で決める(観察4.4):閏年は計算。
  10. 三「いいえ」一「はい」(検算5.5):補正にも別根がある。

結び:公転と自転は別々の運動なので、一年が整数日になる理由が無い。回帰年は $\mathbf{365.24219}$ 日で、毎年 $5$ 時間 $48$ 分 $45$ 秒 余る。ユリウス暦は $\mathbf{128}$ 年で一日、グレゴリオ暦は $\mathbf{3226}$ 年で一日ずれる。$\mathbf{25.19}$ 倍よくなった。規則は三段の入れ子である。$4$ で割れる年に足し($+100$)、$100$ で割れる年に抜き($-4$)、$400$ で割れる年に戻す($+1$)。$400$ 年に $\mathbf{97}$ 回で平均年長 $\mathbf{365.242500}$ 日、近似の誤差を次の段が拾っている。ただし $8/33$ のほうが回帰年に近い。$0.000234$ 対 $0.000310$ で、$33$ 年周期のほうが精度が高い。それでもグレゴリオ暦が採られたのは、$400$ 年が数えやすいからである。選ばれたのは精度ではなく、扱いやすさであった。そして直すべき相手が止まっていない。潮汐摩擦で一日が長くなるので、$3226$ 年という数字自体が現在値からの外挿にすぎない。うるう秒は別の層の補正である。閏年は年と日を合わせ規則で決まるが、うるう秒は日と秒を合わせ規則が無く観測で決める。閏年は計算、うるう秒は観測であり、論文300 の基準では別根である。分けるものは一つ、近似をどこで打ち切るか。そしてそれは自然が決めていない。最後に一つ、暦が難しいのは、天文が難しいからではない。回帰年も一日も十分な精度で測れている。難しいのは、整数でない数を整数の規則で近似しなければならないことのほうであり、自然の側に誤差は無く、誤差は約束の側にある。

参考文献

  1. Meeus, J. (1998). Astronomical Algorithms, 2nd edition. Richmond: Willmann-Bell.
  2. Richards, E. G. (1998). Mapping Time: The Calendar and Its History. Oxford: Oxford University Press.
  3. Dershowitz, N. and Reingold, E. M. (2018). Calendrical Calculations, 4th edition. Cambridge: Cambridge University Press.
  4. Stephenson, F. R. and Morrison, L. V. (1995). Long-Term Fluctuations in the Earth’s Rotation. Philosophical Transactions of the Royal Society A, 351(1695).
  5. 山岸勇輝 (2026). 練行足としての時間、出来事が積み上がって時間になる(第3版) [論文82]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21735260
  6. 山岸勇輝 (2026). 双子が違うのは時計の遅れではなく、世界線の長さである [論文123]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22055231
  7. 山岸勇輝 (2026). 炭素 $12$ のモル質量は、もう $12$ ちょうどではない [論文295]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171659
  8. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  9. 山岸勇輝 (2026). 「基本」単位の個数は、約束である [論文306]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172149
  10. 山岸勇輝 (2026). 「定数は変わったか」と問える相手は、一つしかない [論文314]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22175192

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「暦は、近似を三段重ねたものである」[論文319]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22208933

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 暦は、近似を三段重ねたものである [論文319]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/319 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22208933

Yamagishi, Y. (2026). A Calendar Is Three Approximations Stacked [Paper 319]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/319; DOI: 10.5281/zenodo.22208933

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