要旨
ノーフリーランチ定理は「すべての問題で平均すれば、どの探索も同じ」と言う。本稿が問うのは、その平均は何の上で取られているのかである。答は、ほとんど構造を含まない集合の上である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、構造を使う探索は、構造があれば速い。$N=16384$ で$\mathbf{186.18}$ 倍(第2節)。
第二に、その速さは対数で、乱択は線型である。$17\to44$ 対 $32\to8192$(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。同じ探索が、構造の無い関数では乱択に負ける。$\mathbf{0.9645}$ 倍(第3節)。
第四に、平均される集合の中で、構造は $\mathbf{10^{-113.79}}$ しかない(第4節)。
第五に、定理は正しく、そして測度の話である(第4節)。
第六に、分離子は「何を最大にするか」ではなく「何の上で平均するか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ノーフリーランチ定理、三分探索の計算量、コルモゴロフ複雑性の計数論法はいずれも標準的である。定理を証明しない。本稿は定理の内容を数で見せるだけであり、証明にも一般化にも立ち入らない。定理を反駁しない。定理は正しい。本稿が言うのは、その主語が何かということだけである。帳尻を測ったとは言わない。測ったのは二つの算法の一つの対であり、全算法・全関数にわたる厳密な収支は定理のものであって、本稿の測定ではない。探索算法を設計しない。遺伝的算法・焼きなまし・ベイズ最適化には立ち入らない。実問題の分布を主張しない。現実の問題がどの測度に従うかは、本稿では決めない。既刊との関係:論文311 は「正しい上界と、予測に使える上界は別である」と示した。311 は何を最大にするかの話で、本稿は何の上で平均するかの話である。目的関数と測度という、別の場所に立っている。論文186 は代理を強く最適化するほど目標が悪くなる場合を示した。186 は目標と代理の乖離、本稿は問題集合の測り方であり、どちらも「最適化が効く前提」を問うている。論文315 はどの次元が特別かは問い方で変わると示した。本稿はどの算法が優れているかは問題の測り方で変わるという、同じ型である。論文320 は分岐比が地図の形に依らないと示した。本稿の $186.18$ 倍は形に強く依るという、反対側の例である。論文323 は三原色の三が受容器の個数から来ると示した。どちらも「その数はどこから来たか」を問う。加えたのは三分探索と乱択を五つの規模で走らせたこと、構造がある側と無い側で符号が逆転することを測ったこと、一山の関数の割合を $10^{-113.79}$ と数えたこと、分離子を測度に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:$N$ 個の点それぞれに値がついた関数を探索する。評価回数を予算とし、最大値を見つけたい。
観察 1.1 ノーフリーランチ定理は、すべての関数について一様に平均すれば、どの探索も同じ成績になると述べる。これは正しい。
問い:では、その「すべての関数」とは何か。
観察 1.2 定理は算法について何かを言っているように読めるが、実は問題の集合について言っている。主語がどちらかで、意味が変わる。
2. 構造を使えば、構造がある所では速い
設定:一山の関数(単峰)に、三分探索をかける。二点を測れば頂上のある側が分かるので、区間が縮む。
検算 2.1:厳密な最大値に到達するまでの評価回数(本稿で計算、各 $4000$ 試行)。
| $N$ | 三分探索 | 乱択($N/2$) | 比 |
|---|---|---|---|
| $64$ | $17.000$ | $32.0$ | $1.88$ 倍 |
| $256$ | $24.000$ | $128.0$ | $5.33$ 倍 |
| $1024$ | $30.000$ | $512.0$ | $17.07$ 倍 |
| $4096$ | $37.000$ | $2048.0$ | $55.35$ 倍 |
| $16384$ | $\mathbf{44.000}$ | $8192.0$ | $\mathbf{186.18}$ 倍 |
観察 2.2 三分探索は $100.00\%$ の試行で厳密な最適に届いた。どの規模でも外さない。単峰であることが分かっていれば、これは保証である。
観察 2.3 増え方が違う。三分探索は $17\to44$(対数)、乱択は $32\to8192$(線型)、規模を $256$ 倍にして、比は $1.88$ 倍から $186.18$ 倍にひらいた。
観察 2.4 比は上限なく育つ。論文303 が「指数が相手なら何倍かでなくどの $n$ で交差するかを書け」と言った場所と同じ形である。ここでは交差はなく、ひらき続ける。
3. 芯:同じ探索が、構造の無い所では負ける
設定:今度は値を一様乱数で与える。同じ三分探索を、同じ予算でかける。
検算 3.1:到達した最大値の平均(各 $20000$ 試行)。
| $N$ | 予算 | 三分探索 | 乱択 | 比 |
|---|---|---|---|---|
| $64$ | $23$ | $58.6623$ | $60.8210$ | $\mathbf{0.9645}$ |
| $256$ | $30$ | $242.2745$ | $247.2238$ | $0.9800$ |
| $1024$ | $37$ | $984.5823$ | $996.7134$ | $0.9878$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。符号が反転している。構造がある側では$186.18$ 倍勝ち、無い側では$0.9645$ 倍に負ける。同じ算法である。
観察 3.3 負ける理由が分かる。三分探索は区間を狭めることに評価を使うが、値が乱数ならその区間に意味が無い。狭めた分だけ、見ていない領域が増える。
観察 3.4 これがノーフリーランチの帳尻が見えた姿である。構造での利得はどこかで払われている。定理はその収支が厳密にゼロだと言う。
観察 3.5 正直に書くべき点、本稿は帳尻を測ったのではない。測ったのは二つの算法の一つの対であって、全算法・全関数の厳密な収支は定理のものである。本稿が示したのは向きであって、量ではない。
4. 平均される側の集合は、ほとんど構造を含まない
検算 4.1:$N$ 点の関数のうち、単峰なものの割合。
| $N$ | 全関数 | 単峰なもの | 割合 |
|---|---|---|---|
| $64$ | $10^{115.60}$ | $64$ | $\mathbf{10^{-113.79}}$ |
| $256$ | $10^{616.51}$ | $256$ | $10^{-614.10}$ |
観察 4.2 $10^{-113.79}$ である。宇宙の原子の数の逆数より、はるかに小さい。一様に一つ引いたら、単峰であることは実質的に起こらない。
検算 4.3:もっと弱い意味の構造でも同じである。$N=64$ の関数一つを書くには $384$ ビット要る。
| $k$ ビット縮められる | そういう関数の割合(上限) |
|---|---|
| $8$ | $3.9062\times10^{-3}$ |
| $32$ | $2.3283\times10^{-10}$ |
| $128$ | $2.9387\times10^{-39}$ |
| $256$ | $8.6362\times10^{-78}$ |
観察 4.4 $k$ ビット縮められる対象は、多くとも $2^{-k}$ しかない。これは数え上げだけから出る。$2^{n-k}$ 個の短い記述しか無いのだから、それ以上は入らない。
観察 4.5 「構造がある」とは「短く書ける」ということである。そして短く書けるものは、定義からしてほとんど無い。一様測度の下では、構造は測度ゼロに近い。
観察 4.6 定理は正しく、そして測度の話である。一様に平均すればどの算法も同じ、その平均を支配しているのは、誰も出題したことのない関数たちである。
5. 分離子:何を最大にするかではなく、何の上で平均するか
観察 5.1 分離子、問題の集合にどの測度を入れるか。
| 測度 | 結論 | 正しさ |
|---|---|---|
| 一様 | どの探索も同じ | 正しい |
| 構造に偏る | 構造を使う探索が勝つ | 正しい |
観察 5.2 二行は矛盾していない。同じ算法・同じ関数・同じ予算で、測度だけが違う。結論の違いは、算法の性質ではなく、問いの立て方から来ている。
観察 5.3 ここが論文311 と分かれる場所である。
| 何を動かすと結論が変わるか | 圏 | |
|---|---|---|
| 論文311 | 何を最大にするか | 目的関数 |
| 本稿 | 何の上で平均するか | 測度 |
観察 5.4 311 は効率と仕事率という二つの目的を並べた。本稿は目的を一つに固定したまま、問題の集合を替えている。論文300 の基準に当てると別根であり、翻訳は構成できない。
観察 5.5 論文300 は「値の一致だけでは同根と見なさない」と書いた。本稿の反転も同じ規律に服する。$186.18$ 倍と $0.9645$ 倍が同じ算法から出ることの理由が、区間の意味の有無として名指せている。
観察 5.6 正直に書くべき点、現実の問題がどの測度に従うかを、本稿は決めない。一様でないことは示せても、何であるかは示せない。そこは経験の領域である。
観察 5.7 最後に一つ、「ただ飯は無い」は、食堂の話ではなく、献立表の話である。定理が数えている献立の $\mathbf{10^{-113.79}}$ しか、我々が食べたことのある料理は載っていない。そして我々が実際に払っているのは、載っていない料理への代金である。
6. 点呼と結び
- $N=16384$ で $186.18$ 倍(検算2.1):単峰なら。
- $100.00\%$ で厳密最適(観察2.2):三分探索は外さない。
- $17\to44$ 対 $32\to8192$(観察2.3):対数と線型。
- 構造が無いと $0.9645$ 倍(検算3.1):同じ算法が負ける。
- 区間に意味が無いから(観察3.3):狭めるほど損。
- 測ったのは向きであって量ではない(観察3.5):収支は定理のもの。
- 単峰は $10^{-113.79}$(検算4.1):$N=64$ で。
- $k$ ビット縮まるのは $2^{-k}$(観察4.4):数え上げだけから。
- 測度だけが違う(観察5.2):算法の性質ではない。
- 311 とは圏が違う(観察5.3):目的関数と測度。
結び:ノーフリーランチ定理は「すべての問題で平均すれば、どの探索も同じ」と言う。定理は正しい。本稿が問うのはその平均が何の上で取られているのかであり、答はほとんど構造を含まない集合の上である。一山の関数に三分探索をかけると、$N=16384$ で $\mathbf{186.18}$ 倍速く、$\mathbf{100.00\%}$ の試行で厳密な最適に届く。評価回数は $17\to44$ と対数で増え、乱択は $32\to8192$ と線型で増えるので、規模を $256$ 倍にすると比は $1.88$ 倍から $186.18$ 倍にひらき、上限なく育つ。ところが同じ三分探索を、値が乱数の関数にかけると乱択に負ける。$\mathbf{0.9645}$ 倍であり、符号が反転している。区間を狭めることに評価を使うのに、その区間に意味が無いからである。これがノーフリーランチの帳尻が見えた姿である。ただし本稿が測ったのは二つの算法の一つの対であって、厳密な収支は定理のものである。示したのは向きであって、量ではない。そして平均される側を数えると、$N=64$ で単峰な関数は全体の $\mathbf{10^{-113.79}}$ しかない。もっと弱い構造でも同じで、$k$ ビット縮められる対象は多くとも $2^{-k}$ しかなく、これは数え上げだけから出る。「構造がある」とは「短く書ける」ことであり、短く書けるものは定義からしてほとんど無い。分けるものは一つ、問題の集合にどの測度を入れるか。一様なら「どの探索も同じ」で正しく、構造に偏るなら「構造を使う探索が勝つ」でやはり正しい。二行は矛盾しておらず、違いは算法の性質ではなく問いの立て方から来ている。論文311 が「正しい上界と予測に使える上界は別である」と書いた場所とは圏が違う。311 は何を最大にするか、本稿は何の上で平均するかであり、目的関数と測度は別根で、翻訳は構成できない。最後に一つ、「ただ飯は無い」は食堂の話ではなく、献立表の話である。定理が数えている献立の $\mathbf{10^{-113.79}}$ しか我々が食べたことのある料理は載っておらず、我々が実際に払っているのは、載っていない料理への代金である。
参考文献
- Wolpert, D. H. and Macready, W. G. (1997). No Free Lunch Theorems for Optimization. IEEE Transactions on Evolutionary Computation, 1(1).
- Schaffer, C. (1994). A Conservation Law for Generalization Performance. Proceedings of the Eleventh International Conference on Machine Learning.
- Li, M. and Vitányi, P. (2019). An Introduction to Kolmogorov Complexity and Its Applications, 4th edition. Cham: Springer.
- Igel, C. and Toussaint, M. (2005). A No-Free-Lunch Theorem for Non-Uniform Distributions of Target Functions. Journal of Mathematical Modelling and Algorithms, 3(4).
- 山岸勇輝 (2026). 代理を強く最適化するほど、目標が悪くなる場合がある [論文186]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105530
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 比ではなく、対数を報告せよ [論文303]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172026
- 山岸勇輝 (2026). 正しい上界と、予測に使える上界は、別のものである [論文311]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174391
- 山岸勇輝 (2026). どの次元が特別かは、問い方で変わる [論文315]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208139
- 山岸勇輝 (2026). カオスへの道は、写像が持っていない数を持っている [論文320]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209089
- 山岸勇輝 (2026). 三原色の「三」は、光の性質ではない [論文323]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209319
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である」[論文324]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22209395
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である [論文324]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/324 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22209395
Yamagishi, Y. (2026). That No Search Is Universal Follows from How the Problems Are Counted [Paper 324]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/324; DOI: 10.5281/zenodo.22209395
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