要旨
同じ関数を、同じ点で、点を増やしながら近似する。本稿が問うのは、近似が良くなるか悪くなるかを決めているのは何かである。答は、独立に動かせるものが二つあるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、同じ $29$ 点で、多項式は $\mathbf{1131.420474}$、三次スプラインは $\mathbf{0.001039}$(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。直し方は二つあり、どちらか一方だけでも効く(第3節)。
第三に、点の配置を替えると $\mathbf{0.00365254}$、族を替えると $\mathbf{0.00103905}$。改善率は $309762.9$ 倍と $1088894.0$ 倍(第3節)。
第四に、崩れる理由は、近似する関数ではなく節点の配置にある。ルベーグ定数が $n=29$ で $1803783.3902$ 対 $3.0829$(第4節)。
第五に、等間隔の多項式の誤差は $n=9$ で $1$ を超える。関数の最大値そのものより大きくなる(第4節)。
第六に、分離子は「点を動かしたか、族を動かしたか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ルンゲの $1901$ 年の例、チェビシェフ点、三次スプライン、ルベーグ定数はいずれも標準的である。近似論を作らない。使うのは一つの関数と、三通りの近似だけである。収束定理を証明しない。どの族がどの条件で収束するかの一般論には立ち入らない。一つの関数について実際に測った数だけを置く。最適な節点を求めない。チェビシェフ点が最適に近いことは使うが、最適性の証明はしない。有限要素法を扱わない。スプラインを微分方程式の解法として使う話には入らない。触れるにとどめる。丸め誤差を主題にしない。本稿の数は多倍長でも同じ桁で出る。桁落ちの話は論文221 と論文330 の射程である。既刊との関係:論文221 は最後の桁を一つ変えると固有値が $0.16$ 動くと示した。そこでは入力の摂動が問題で、本稿では入力が厳密でも近似の族が崩れる。同じ「数値が信用できない」でも、原因が別である。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。本稿の二つの直し方は、その基準で別根である。片方を動かしても他方は動かない。論文182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないと示した。同じ型であり、ここでは「ルンゲ現象の対策」が一つではない。論文324 は万能の探索が無いことは問題の数え方の帰結だと示した。どの近似族にも苦手な関数があるという事情は同じ根から来る。論文316 は同じ整数を三つの数え方が返すと示した。そこでは別の道が同じ答に着き、ここでは別の道が同じくらい良い答に着く。加えたのは同一の関数と同一の測り方で三通りを並べたこと、ルベーグ定数を同じ表に置いて「なぜ」を数で示したこと、誤差が関数の最大値を超える $n$ を特定したこと、分離子を「点か族か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:区間 $[-1,1]$ の上で、関数
$$f(x)=\frac{1}{1+25x^2}$$
を考える。この関数は $[-1,1]$ で滑らかで、値は $1/26$ から $1$ までしか動かない。近似の相手として、特に意地の悪い形をしているわけではない。
観察 1.1 点を増やせば近似は良くなる、と素朴には思う。標本を増やして悪くなる道理は、直観には無い。ところが等間隔の点で多項式を通すと、増やすほど悪くなる。
観察 1.2 本稿の測り方を先に固定する。誤差は $[-1,1]$ を $20001$ 点に刻んだ上での最大絶対誤差とする。三通りすべてを同じ物差しで測る。
問い:崩れているのは何で、それを直すには何を動かせばよいのか。
2. 同じ点、同じ関数、二つの結果
検算 2.1:等間隔の $n$ 点を取り、(a) その $n$ 点を通る多項式 (b) その $n$ 点を通る三次スプライン、の最大誤差を並べる(本稿で計算)。
| 点の数 $n$ | 等間隔・多項式 | 等間隔・三次スプライン |
|---|---|---|
| $5$ | $0.438357$ | $0.317082$ |
| $13$ | $3.663393$ | $0.006909$ |
| $21$ | $59.822309$ | $0.003183$ |
| $29$ | $\mathbf{1131.420474}$ | $\mathbf{0.001039}$ |
観察 2.2 左の列は増え、右の列は減る。同じ点を、同じ関数で使っているのに、向きが逆である。
観察 2.3 $n=5$ では両者にほとんど差が無い。$0.438357$ 対 $0.317082$ で、$1.38$ 倍しか違わない。少ない点数で試すと、この違いは見えない。
観察 2.4 $n=29$ では $1088894$ 倍ひらく。$1131.420474$ 対 $0.001039$、同じ標本から、六桁違う答が出る。
観察 2.5 左の列の意味を正確に言う。$f$ の値は $1$ を超えない。誤差が $1131$ ということは、近似が、近似される関数の千倍の高さまで振れているということである。
3. 芯:直し方が二つあり、互いに独立である
設定:崩れているものを直すために、動かせるものは二つある。
| 動かすもの | 何を替えるか |
|---|---|
| 節点の配置 | どこで標本を取るか |
| 近似の族 | 通す関数の集合をどう取るか |
検算 3.1:$n=29$ に固定し、片方ずつ動かす(本稿で計算)。
| 節点 | 族 | 最大誤差 | |
|---|---|---|---|
| 基準 | 等間隔 | 多項式 | $\mathbf{1131.420474}$ |
| 点だけ動かす | チェビシェフ | 多項式 | $\mathbf{0.00365254}$ |
| 族だけ動かす | 等間隔 | 三次スプライン | $\mathbf{0.00103905}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。どちらか一方だけを動かせば、それで直る。点の配置は等間隔のままでも、族をスプラインにすれば $0.00103905$ になる。族を多項式のままにしても、点をチェビシェフにすれば $0.00365254$ になる。
観察 3.3 改善率は $309762.9$ 倍と $1088894.0$ 倍である。どちらも五桁から六桁の改善で、「効く/効かない」の差ではなく、どちらも決定的に効く。
観察 3.4 二つの答は同じではない。チェビシェフ/スプライン $=3.5152$、同じくらい良いが、同じ値ではない。別々の機構が、たまたま近い桁に着いている。
観察 3.5 論文300 の基準に当てる。
| 基準 | 結果 |
|---|---|
| 恒等式を保つ対応があるか | 無い。片方は節点、片方は関数空間の話である |
| 同じ量が現れるか | 現れない。ルベーグ定数と区分多項式の次数 |
| 片方を動かすともう片方も動くか | 動かない。節点を替えてもスプラインの誤差はほぼ不変 |
観察 3.6 三行とも別根を指している。「ルンゲ現象の対策」という一語が、交わらない二つを指している。論文182 が「次元の呪い」について書いたのと同じ形である。
4. なぜそうなるか:崩れる理由は関数の側に無い
設定:補間の誤差は、関数が悪いから出るのか、点の置き方が悪いから出るのか。これは分けられる。節点の配置だけで決まる量があり、ルベーグ定数 $\Lambda_n$ という。関数を一切見ずに、点の位置だけから計算できる誤差の増幅率である。
検算 4.1:同じ節点の集合について $\Lambda_n$ を計算する(本稿で計算)。
| 点の数 $n$ | 等間隔 | チェビシェフ |
|---|---|---|
| $5$ | $2.2078$ | $1.7988$ |
| $13$ | $89.3249$ | $2.5393$ |
| $21$ | $10986.6965$ | $2.8678$ |
| $29$ | $\mathbf{1803783.3902}$ | $\mathbf{3.0829}$ |
観察 4.2 この表に $f$ は一度も現れていない。計算に使ったのは点の位置だけである。つまり崩れる原因は、近似される関数の側には無い。
観察 4.3 等間隔は $n=5$ から $n=29$ で $816995.9$ 倍に増え、チェビシェフは $1.7988$ から $3.0829$ にしか増えない。同じ区間、同じ点数で、置き方だけで、増幅率が六桁変わる。
観察 4.4 等間隔の多項式の誤差が $1$ を超えるのは $n=9$ からである。$1$ は $f$ の最大値そのものである。$9$ 点を過ぎたところで、「何もせず $0$ と答える」ほうがましになる。
観察 4.5 正直に書くべき点、スプラインが強いのは、この関数についてである。三次スプラインの収束は次数で頭打ちになるので、解析的な関数を高精度で近似したい場面ではチェビシェフのほうが速い。本稿が言うのは「二つの手が独立に効く」ことであって、「スプラインが常に良い」ことではない。
観察 4.6 ここが論文221 との分かれ目である。221 では入力の最後の桁を動かしたときに答が動いた。本稿では入力は厳密で、多倍長で計算しても同じ数が出る。壊れているのは計算ではなく、近似の作り方である。
5. 分離子:点を動かしたか、族を動かしたか
観察 5.1 分離子、その対策が、標本を取る位置を変えたのか、通す関数の集合を変えたのか。
| 何を替えた | 節点の自由 | 誤差の抑え方 | |
|---|---|---|---|
| チェビシェフ点 | 位置 | 失う | $\Lambda_n$ を小さく保つ |
| 三次スプライン | 族 | 保つ | 高次の項を持たない |
観察 5.2 三つ目の列が実務を分ける。測定点を自分で選べるならチェビシェフが使え、選べないならスプラインしか残らない。既に取られたデータに対しては、片方の手が最初から無い。
観察 5.3 両方を同時に動かすこともできる。そして両方動かしても、片方の五桁が二倍になるだけである。足し算にならないのは、二つが同じ病を別の側から塞いでいるからである。
観察 5.4 正直に書くべき点、「等間隔だから悪い」は言い過ぎである。等間隔でも $n$ が小さければ問題は出ない($n=5$ で $0.438357$)、悪いのは配置そのものではなく、配置と次数の組合せである。
観察 5.5 論文324 との位置関係。324 は「万能の探索が無いのは問題の数え方の帰結である」と書いた。本稿はその近似版で、どの族にも苦手な関数があるという事情は同じ根から来る。ただし本稿が示したのは、苦手をどう避けるかに独立な二本の道があることである。
観察 5.6 最後に一つ、この現象は、標本を増やしたことが原因ではない。標本は増やしてよい。増やした標本を全部通る一本の多項式で表そうとしたことが原因である。データが悪いのではなく、要求が強すぎた。
6. 点呼と結び
- $n=29$ の等間隔多項式で $1131.420474$(検算2.1):関数の最大値は $1$ である。
- 同じ点のスプラインで $0.001039$(検算2.1):向きが逆である。
- $n=5$ では $1.38$ 倍しか違わない(観察2.3):少ない点数では見えない。
- 点だけ替えて $0.00365254$(検算3.1):族は多項式のまま。
- 族だけ替えて $0.00103905$(検算3.1):点は等間隔のまま。
- チェビシェフ/スプライン $=3.5152$(観察3.4):同じくらい良いが同じ値ではない。
- ルベーグ定数 $1803783.3902$ 対 $3.0829$(検算4.1):$f$ を一度も見ていない。
- 誤差が $1$ を超えるのは $n=9$ から(観察4.4):$0$ と答えるほうがましになる。
- 両方動かしても二倍にしかならない(観察5.3):足し算にならない。
- 測定点を選べなければ片方の手は無い(観察5.2):実務を分けるのはここ。
結び:$f(x)=1/(1+25x^2)$ を $[-1,1]$ の等間隔の点で近似すると、点を増やすほど多項式は悪くなり、同じ点のスプラインは良くなる。$n=29$ で $\mathbf{1131.420474}$ 対 $\mathbf{0.001039}$、同じ標本から六桁違う答が出る。$f$ の値は $1$ を超えないので、多項式は近似される関数の千倍の高さまで振れている。$n=5$ では両者が $1.38$ 倍しか違わない。少ない点数で試すと、この違いは見えない。そして直し方は二つあり、どちらか一方だけでも直る。点だけをチェビシェフに替えれば $\mathbf{0.00365254}$($309762.9$ 倍の改善)、族だけをスプラインに替えれば $\mathbf{0.00103905}$($1088894.0$ 倍の改善)である。二つの答の比は $3.5152$ で、同じくらい良いが同じ値ではない。別々の機構が、たまたま近い桁に着いている。崩れる理由は、近似される関数の側には無い。節点の配置だけから計算できるルベーグ定数は、$n=29$ で等間隔 $1803783.3902$ に対しチェビシェフ $3.0829$ であり、この計算に $f$ は一度も現れない。等間隔の多項式の誤差が $1$ を超えるのは $n=9$ からで、そこから先は「何もせず $0$ と答える」ほうがましになる。分けるものは一つ、その対策が、標本を取る位置を変えたのか、通す関数の集合を変えたのか。測定点を自分で選べるならチェビシェフが使え、選べないならスプラインしか残らない。既に取られたデータに対しては、片方の手が最初から無い。論文300 の基準に当てると三行とも別根を指す。「ルンゲ現象の対策」という一語が、交わらない二つを指している。最後に一つ、この現象は、標本を増やしたことが原因ではない。標本は増やしてよい。増やした標本を全部通る一本の多項式で表そうとしたことが原因である。データが悪いのではなく、要求が強すぎた。
参考文献
- Runge, C. (1901). Über empirische Funktionen und die Interpolation zwischen äquidistanten Ordinaten. Zeitschrift für Mathematik und Physik, 46.
- Faber, G. (1914). Über die interpolatorische Darstellung stetiger Funktionen. Jahresbericht der Deutschen Mathematiker-Vereinigung, 23.
- Schoenberg, I. J. (1946). Contributions to the Problem of Approximation of Equidistant Data by Analytic Functions. Quarterly of Applied Mathematics, 4.
- de Boor, C. (1978). A Practical Guide to Splines. New York: Springer.
- Trefethen, L. N. (2013). Approximation Theory and Approximation Practice. Philadelphia: SIAM.
- 山岸勇輝 (2026). 「次元の呪い」は一つの呪いではない [論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
- 山岸勇輝 (2026). 最後の桁を一つ変えると、固有値が 0.16 動く [論文221]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22120012
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 同じ整数を、三つの別の数え方が返す [論文316]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208229
- 山岸勇輝 (2026). 万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である [論文324]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209395
- 山岸勇輝 (2026). 条件数が二乗になるのは、近似ではなく恒等式である [論文330]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681423
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ点を使って、片方は千倍に発散し、片方は千分の一に収束する」[論文329]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ点を使って、片方は千倍に発散し、片方は千分の一に収束する [論文329]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/329 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22681343
Yamagishi, Y. (2026). From the Same Points, One Method Diverges by a Thousand and the Other Converges to a Thousandth [Paper 329]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/329; DOI: 10.5281/zenodo.22681343
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