要旨
角の三等分は作図できない、と言われる。本稿が問うのは、できないのは何のせいかである。答は、図形のせいではなく、許した道具のせいである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、$\cos20^\circ=\mathbf{0.9396926208}$ は $8c^3-6c-1=0$ の根である(第2節)。
第二に、代入した残差は $\mathbf{8.882\times10^{-16}}$ で、倍精度の丸めの範囲である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。定規とコンパスが作れるのは $2$ の冪次の拡大だけで、$3$ は $2$ の冪ではない(第3節)。
第四に、折り紙は $3$ 次方程式を解けるので、同じ角が三等分できる(第4節)。
第五に、立方体倍積の $2^{1/3}=\mathbf{1.2599210499}$ も、同じ理由で折れる(第4節)。
第六に、分離子は「許す操作が $2$ 次までか、$3$ 次に届くか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ヴァンツェルの $1837$ 年の定理、三倍角の公式、藤田の折紙公理、体の拡大次数はいずれも標準的である。ガロア理論を展開しない。可解性の判定や群論的な扱いには立ち入らない。拡大次数という一つの量だけを使う。不可能性を証明しない。ヴァンツェルの定理は引用するだけで、証明は与えない。触れるにとどめる。折り紙の公理系を尽くさない。藤田の七公理の独立性や完全性には入らない。$3$ 次に届くという事実だけを使う。円積問題を扱わない。$\pi$ の超越性は別の話であり、折り紙でも作れない。実際の折り方を示さない。手順の図解は主題にしない。既刊との関係:論文179 は「構成できない」にも別根があると示した。そこでは集合論の側で、選択公理の有無が構成可能性を分けた。本稿は幾何の側で、道具の次数が分ける。同じ一語の下に、少なくとも二つの別根がある。論文331 は面積が二種類の点を数えるだけで出ると示し、三次元では同じ式が存在しないと書いた。そこでは次元が限界を作り、ここでは道具が作る。どちらも「無い」の理由を名指している。論文324 は万能の探索が無いことは問題の数え方の帰結だと示した。そこでも不可能性が対象ではなく枠組みから出ていた。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。三等分と倍積は、判定に掛ければ同根である。どちらも $3$ 次の壁である。加えたのは$\cos20^\circ$ が根であることを残差 $8.882\times10^{-16}$ で示し、ニュートン法で独立に確かめたこと、$\cos30^\circ$ が同じ多項式の根ではないことを反例として置いたこと、三倍角の公式から式が出ることを数で確かめたこと、分離子を「許す操作の次数」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:定規とコンパスで、与えられた角を三等分せよ、ギリシャ以来の問題で、$1837$ 年にヴァンツェルが不可能を示した。
観察 1.1 「不可能」という言葉が、二通りに読める。(a)この図形には三等分点が存在しない (b)この道具ではその点に到達できない。正しいのは (b) である。
観察 1.2 三等分点は、もちろん存在する。$60^\circ$ の三分の一は $20^\circ$ であり、そこに点はある。分度器で測れば引ける。問題は、定規とコンパスだけで到達できるかである。
観察 1.3 本稿の測り方を先に固定する。$60^\circ$ の三等分を代表例とし、$\cos20^\circ$ が作図可能かを問う。すべての角が三等分できないのではない。$90^\circ$ は三等分できる。
問い:できないのは、図形のせいか、道具のせいか。
2. $\cos20^\circ$ は $8c^3-6c-1$ の根である
設定:三倍角の公式は $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ である。$\theta=20^\circ$ とすれば $\cos60^\circ=1/2$ なので
$$4c^3-3c=\tfrac{1}{2},\qquad\text{すなわち}\qquad 8c^3-6c-1=0$$
が出る。
検算 2.1:$\cos20^\circ$ を代入する(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| $\cos20^\circ$ | $\mathbf{0.9396926208}$ |
| $8c^3-6c-1$ に代入した残差 | $\mathbf{8.882\times10^{-16}}$ |
| ニュートン法で求めた実根 | $\mathbf{0.9396926208}$ |
| 二つの差 | $\mathbf{0.000\times10^{0}}$ |
観察 2.2 自己検査を三つ置く。(a)残差 $8.882\times10^{-16}$ は倍精度の丸めの範囲である。(b)多項式を独立にニュートン法で解いた実根が、$\cos20^\circ$ と桁の限りまで一致した。(c)三倍角の公式 $4c^3-3c$ に代入すると $0.500000000000$ になり、$\cos60^\circ=1/2$ と一致する。三方向から同じ数に着いてから、次に進む。
検算 2.3:反例を置く。$\cos30^\circ$ は同じ多項式の根か(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| $\cos30^\circ$ | $0.8660254038$ |
| $8c^3-6c-1$ に代入した残差 | $\mathbf{1.000000}$ |
観察 2.4 残差が $1.000000$ で、根ではない。$8.882\times10^{-16}$ と $1.000000$ の差は $15$ 桁である。この多項式は $20^\circ$ に固有であって、どんな角でも根になるわけではない。検算が「何でも通る」形になっていないことの確認である。
観察 2.5 そしてこの多項式は、有理数の上で既約である。有理根定理で候補 $\pm1,\pm1/2,\pm1/4,\pm1/8$ を試しても、どれも根にならない。だから $\cos20^\circ$ の最小多項式は $3$ 次である。
3. 芯:定規とコンパスは、$2$ の冪次の拡大しか作れない
観察 3.1 定規とコンパスでできる操作は、二つの直線の交点、直線と円の交点、二つの円の交点だけである。どれも、連立させると$1$ 次か $2$ 次の方程式にしかならない。一手ごとに、体の拡大次数は $1$ 倍か $2$ 倍にしかならない。
観察 3.2 これが本稿の芯である。何手重ねても、到達できる数の拡大次数は $2$ の冪にしかならない。$2$、$4$、$8$、$16$、… であって、$3$ は現れない。
観察 3.3 $\cos20^\circ$ の最小多項式は $3$ 次である。$3$ は $2$ の冪ではない。だから到達できない。これがヴァンツェルの議論の骨格である。
観察 3.4 ここに図形の性質は一つも入っていない。角が特別に難しいのでも、$20^\circ$ が病的なのでもない。$3$ が $2$ の冪でない、という整数の事実だけで決まっている。
観察 3.5 だから同じ道具で三等分できる角もある。$90^\circ$ の三分の一は $30^\circ$ で、$\cos30^\circ=\sqrt{3}/2$ は $2$ 次である。「角の三等分は不可能」は正確には「一般の角については不可能」であり、特定の角では可能である。
観察 3.6 論文179 との対をなす。179 は「構成できない」にも別根があると書き、集合論の側で選択公理の有無が分けると示した。本稿は幾何の側で、道具の次数が分ける。同じ一語の下に、少なくとも二つの別根がある。
4. 折り紙は $3$ 次に届く
設定:紙を折る操作にも公理系がある(藤田の七公理)。そのうち第六公理は「二点をそれぞれ二直線の上に同時に載せる折り目」を許す。これが $3$ 次方程式を解く操作にあたる。
観察 4.1 だから折り紙は $\cos20^\circ$ に到達できる。同じ $8c^3-6c-1=0$ を、折り目一本で解く。定規とコンパスで不可能だったものが、紙で可能になる。
検算 4.2:立方体倍積でも同じことが起きる(本稿で計算)。
| 問題 | 到達すべき数 | 最小多項式の次数 |
|---|---|---|
| 角の三等分($60^\circ$) | $\cos20^\circ=0.9396926208$ | $\mathbf{3}$ |
| 立方体倍積 | $2^{1/3}=\mathbf{1.2599210499}$ | $\mathbf{3}$ |
観察 4.3 自己検査、$2^{1/3}$ の三乗は $2.000000000000$ である。独立に確かめられる関係で、値が正しいことを見てから使う。
観察 4.4 二つの古典的難問が、同じ理由で不可能だった。どちらも最小多項式が $3$ 次である。論文300 の基準に当てれば、三等分と倍積は同根である。別の見た目をした二つが、同じ一つの壁に当たっていた。
観察 4.5 そして同じ理由で、どちらも折り紙では可能になる。壁が同じなら、壁を越える道具も同じである。同根であることが、解法の共有として現れている。
観察 4.6 正直に書くべき点、折り紙でも円積問題は解けない。$\pi$ は超越数で、どんな有限次の代数拡大にも入らない。$3$ 次に届いても、超越数には届かない。道具を強くしても越えられない壁が、別にある。
5. 分離子:許す操作が $2$ 次までか、$3$ 次に届くか
観察 5.1 分離子、一手で解ける方程式の次数が、$2$ までか、$3$ に届くか。
| 道具 | 一手の次数 | 到達できる拡大次数 | 三等分・倍積 |
|---|---|---|---|
| 定規とコンパス | $2$ まで | $2$ の冪だけ | 不可能 |
| 折り紙(公理6) | $3$ に届く | $3$ を含む | 可能 |
観察 5.2 分離子は、問題の側にはない。同じ角、同じ紙、同じ数である。差を作っているのは、何を一手と認めるかだけである。
観察 5.3 だから「不可能」は、必ず道具を添えて言わねばならない。「角の三等分は不可能」は定規とコンパスについての言明であって、角についての言明ではない。主語を取り違えると、存在しない不可能性を信じることになる。
観察 5.4 分離子は動かせる。定規に目盛りを二つ入れるだけでも(ネウシス作図)$3$ 次に届く。アルキメデスはそれで三等分している。道具の側を一つ緩めれば、壁が消える。
観察 5.5 論文324 との位置関係。324 は万能の探索が無いことが問題の数え方の帰結だと書いた。そこでも不可能性は対象からではなく枠組みから出ていた。本稿では枠組みが道具である。
観察 5.6 最後に一つ、この問題が二千年ものあいだ解かれなかったのは、問いが難しかったからではない。答が「できない」であることと、その「できない」が道具の性質だと分かることは、別の理解である。ヴァンツェルがしたのは三等分を試すことではなく、道具のほうを測ることだった。
6. 点呼と結び
- $\cos20^\circ=0.9396926208$(検算2.1):$8c^3-6c-1$ の根。
- 残差 $8.882\times10^{-16}$(検算2.1):倍精度の丸めの範囲。
- ニュートン法の実根と差 $0$(検算2.1):独立な方法で一致。
- 三倍角の公式で $0.500000000000$(観察2.2):$\cos60^\circ$ と一致。
- $\cos30^\circ$ の残差は $1.000000$(検算2.3):何でも通る検算ではない。
- 定規とコンパスは $2$ の冪だけ(観察3.2):$3$ は現れない。
- 図形の性質は一つも入っていない(観察3.4):$3$ が $2$ の冪でないだけ。
- $90^\circ$ は三等分できる(観察3.5):「一般の角については」が正確。
- $2^{1/3}=1.2599210499$ も $3$ 次(検算4.2):二つの難問が同根。
- 折り紙でも円積は解けない(観察4.6):別の壁が残る。
結び:角の三等分は作図できないと言われるが、「不可能」という言葉は二通りに読める。(a)この図形には三等分点が存在しない、(b)この道具ではその点に到達できない。正しいのは (b) である。$60^\circ$ の三分の一は $20^\circ$ であり、そこに点はある。三倍角の公式から、$\cos20^\circ$ は $8c^3-6c-1=0$ の根である。$\mathbf{0.9396926208}$ を代入した残差は $\mathbf{8.882\times10^{-16}}$ で、倍精度の丸めの範囲。独立にニュートン法で解いた実根とも桁の限りまで一致し、三倍角の公式に代入すると $0.500000000000$ になって $\cos60^\circ=1/2$ と合う。反例として $\cos30^\circ$ を代入すると残差 $1.000000$ で、この多項式は $20^\circ$ に固有である。そしてこの多項式は有理数の上で既約なので、最小多項式が $3$ 次である。一方、定規とコンパスでできるのは二直線・直線と円・二円の交点だけで、どれも $1$ 次か $2$ 次の方程式にしかならない。何手重ねても到達できる拡大次数は $2$ の冪にしかならず、$3$ は現れない。これがヴァンツェルの議論の骨格であり、ここに図形の性質は一つも入っていない。$3$ が $2$ の冪でないという整数の事実だけで決まっている。だから同じ道具で三等分できる角もある。$90^\circ$ の三分の一は $30^\circ$ で、$\cos30^\circ=\sqrt3/2$ は $2$ 次である。「角の三等分は不可能」は正確には「一般の角については不可能」である。折り紙は $3$ 次に届く。藤田の第六公理は二点をそれぞれ二直線の上に載せる折り目を許し、これが $3$ 次方程式を解く操作にあたる。同じ $8c^3-6c-1=0$ を折り目一本で解く。立方体倍積の $2^{1/3}=\mathbf{1.2599210499}$ も最小多項式が $3$ 次で、二つの古典的難問が同じ壁に当たっていた。論文300 の基準に当てれば同根であり、壁が同じなら越える道具も同じである。分けるものは一つ、一手で解ける方程式の次数が、$2$ までか、$3$ に届くか。分離子は問題の側にはない。同じ角、同じ紙、同じ数であり、差を作っているのは何を一手と認めるかだけである。だから「不可能」は必ず道具を添えて言わねばならない。「角の三等分は不可能」は定規とコンパスについての言明であって、角についての言明ではない。そして分離子は動かせる。定規に目盛りを二つ入れるだけでも $3$ 次に届き、アルキメデスはそれで三等分している。正直に書いておく。折り紙でも円積問題は解けない。$\pi$ は超越数で、どんな有限次の代数拡大にも入らない。$3$ 次に届いても超越数には届かず、道具を強くしても越えられない壁が別にある。最後に一つ、この問題が二千年ものあいだ解かれなかったのは、問いが難しかったからではない。答が「できない」であることと、その「できない」が道具の性質だと分かることは、別の理解である。ヴァンツェルがしたのは三等分を試すことではなく、道具のほうを測ることだった。
参考文献
- Wantzel, P. L. (1837). Recherches sur les moyens de reconnaître si un problème de géométrie peut se résoudre avec la règle et le compas. Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 2.
- Huzita, H. (1989). Axiomatic Development of Origami Geometry. Proceedings of the First International Meeting of Origami Science and Technology.
- Alperin, R. C. (2000). A Mathematical Theory of Origami Constructions and Numbers. New York Journal of Mathematics, 6.
- Lindemann, F. (1882). Über die Zahl $\pi$. Mathematische Annalen, 20.
- Hull, T. C. (2011). Solving Cubics with Creases: The Work of Beloch and Lill. American Mathematical Monthly, 118(4).
- 山岸勇輝 (2026). 「構成できない」にも別根がある [論文179]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22098419
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 万能の探索が無いことは、問題をどう数えるかの帰結である [論文324]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209395
- 山岸勇輝 (2026). 面積という連続量が、二種類の点を数えるだけで厳密に出る [論文331]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681503
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「作図できない」は図形の性質ではなく、道具の性質である」[論文347]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22682365
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「作図できない」は図形の性質ではなく、道具の性質である [論文347]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/347 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22682365
Yamagishi, Y. (2026). “Cannot Be Constructed” Is a Property of the Tools, Not of the Figure [Paper 347]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/347; DOI: 10.5281/zenodo.22682365
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