要旨
光の角運動量というと、普通は偏光を指す。本稿が示すのは、角運動量が二つあることである。そして片方には上限があり、片方には無い。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、スピン角運動量の状態数はちょうど $\mathbf{2}$ である。左右の円偏光しかない(第2節)。
第二に、軌道角運動量の状態数は $2L+1$ で、$|l|\le5$ なら $11$、$|l|\le50$ なら $\mathbf{101}$ である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。一光子あたりの情報量が、スピンでは常に $\mathbf{1}$ ビット、軌道では $|l|\le50$ で $\mathbf{6.6582}$ ビットになる(第3節)。
第四に、$L$ を $10$ 倍にしても情報量は $\mathbf{3.3090}$ ビットしか増えない。対数だからである(第3節)。
第五に、スピンは $L$ をどれだけ上げても $1$ ビットのままである。上限があるとはそういうことである(第3節)。
第六に、分離子は「次元が有限か無限か」である。同じ名前でも、状態空間の型が違う(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。光のスピン角運動量と軌道角運動量の分離、ラゲール=ガウスモードはどちらも既知である($1992$ 年以来)。分離の是非を論じない。スピンと軌道への分離がゲージ不変にできるかという議論には立ち入らない。本稿は近軸近似の範囲で標準的な扱いを使う。通信の性能を主張しない。実際の多重化では大気の乱れ、モード間の漏れ、検出器の限界が効き、$6.6582$ ビットがそのまま得られるとは言っていない。生成法を扱わない。らせん位相板、空間光変調器、$q$ 板は主題ではない。量子情報の議論をしない。高次元もつれ、鍵配送の安全性は主題ではない。電子や中性子の軌道角運動量を扱わない。光だけを扱う。既刊との関係:論文417 は段数の上限が生き物の都合ではないことを示した。そこでは上限が算術から出た。ここでは片方に上限が無い。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。スピンと軌道は、その基準で別根である。論文411 は何も保たない変換にも保存量があることを示した。そこでは保存量が一つ残った。ここでは保存量が二つに割れる。論文416 は積が同じでも結果が同じにならないことを示した。ここでも、同じ名前の下で別の性質が並んでいる。加えたのは、四つの $L$ で状態数を並べたこと、情報量をビットで出したこと、$L$ を $10$ 倍にしたときの増分を $3.3090$ ビットと出したこと、スピン側を対照として置いたこと、分離子を「次元が有限か無限か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:光の全角運動量は、スピン成分と軌道成分に分けられる。 スピンは円偏光の向きに対応し、光子あたり $\pm\hbar$ の二値をとる。 軌道はらせん状の波面に対応し、光子あたり $l\hbar$($l$ は整数)をとる。
$$N_{\mathrm{spin}}=2,\qquad N_{\mathrm{orb}}(L)=2L+1$$
状態数 $N$ の一光子が運べる情報量は $\log_2 N$ ビットである。
観察 1.1 「光の角運動量」というと偏光を指すことが多い。左回りか右回りか、二つしかないので、二値だと思われている。
観察 1.2 だがもう一つある。波面がらせんを描く自由度である。こちらは $l$ が整数なら何でもよい。
問い:同じ「角運動量」なのに、なぜ片方だけ上限が無いのか。
2. 状態数は 2 と 2L+1
計算 2.1:両者の状態数を並べる。
| 範囲 | スピンの状態数 | 軌道の状態数 |
|---|---|---|
| $|l|\le1$ | $2$ | $3$ |
| $|l|\le5$ | $2$ | $11$ |
| $|l|\le10$ | $2$ | $21$ |
| $|l|\le50$ | $2$ | $101$ |
観察 2.2 スピンの列は動かない。どの範囲でも $\mathbf{2}$ である。範囲を広げるという操作が、そもそも意味を持たない。
観察 2.3 軌道の列は $2L+1$ で伸びる。$|l|\le50$ で $\mathbf{101}$ 状態、$L$ を決めない限り、状態数は決まらない。
観察 2.4 $2L+1$ の $+1$ は $l=0$ の分である。らせんの無い平らな波面、だから状態数は必ず奇数になる。
3. 一光子あたりの情報量
計算 3.1:状態数を情報量に直す。
| $L$ | 軌道の状態数 | 情報量 [bit] | スピンとの差 [bit] |
|---|---|---|---|
| $1$ | $3$ | $1.5850$ | $0.5850$ |
| $5$ | $11$ | $3.4594$ | $2.4594$ |
| $50$ | $101$ | $6.6582$ | $5.6582$ |
| $500$ | $1001$ | $9.9672$ | $8.9672$ |
観察 3.2 スピンはちょうど $\mathbf{1.000000}$ ビットである。$\log_2 2=1$、そしてこの値は $L$ を動かしても変わらない。
観察 3.3 軌道は $|l|\le50$ で $\mathbf{6.6582}$ ビットになる。スピンの $6$ 倍以上、一光子で $6$ ビット以上を運ぶことになる。
計算 3.4:$L$ を $50$ から $500$ へ $10$ 倍にしたときの増分を出す。
$9.9672-6.6582=\mathbf{3.3090}$ ビットである。
観察 3.5 $10$ 倍にしても $3.3$ ビットしか増えない。$\log_2 10=3.3219$ だからである。情報量は状態数の対数なので、状態数を桁で増やしても情報量は桁では増えない。
観察 3.6 つまり「上限が無い」は「いくらでも得をする」ではない。上限は無いが、伸びは対数である。両方を言わないと、どちらも誤解になる。
4. 分離子
分離子:状態空間の次元が有限か、無限か。
観察 4.1 スピンの状態空間は二次元である。光子がスピン $1$ の粒子で、質量がゼロなので縦成分が無い。$2$ という数は、そこから決まっている。
観察 4.2 軌道の状態空間は無限次元である。$l$ が任意の整数をとれる。方位角まわりの位相の巻き数だからで、巻き数に上限は無い。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも角運動量だが、由来が違う。一方は場の内部自由度、一方は空間の形である。
観察 4.4 だから「光の角運動量は二値だ」は、半分だけ正しい。スピンについては正しい。軌道については、範囲を言わなければ状態数すら決まらない。
観察 4.5 そして無限次元のほうは、実際には有限で切る。装置の開口が大きな $l$ を通さない。$L$ は物理ではなく装置が決める。この点で論文417 の「必要量が上限を決める」と同じ形である。
観察 4.6 正直に言えば、$6.6582$ ビットは状態数から出した上限であり、実際に運べる量ではない。大気の乱れ、モード間の漏れ、検出の誤りが引く。本稿は通信の性能を主張していない。
観察 4.7 最後に一つ、スピンと軌道への分離は、近軸近似の外では扱いが難しくなる。ゲージ不変な分離が可能かという議論がある。本稿は近軸の範囲で標準的な扱いを使っており、その外へは踏み出していない。
5. 点呼と結び
- スピンの状態数はちょうど $2$(計算 2.1):どの範囲でも。
- 軌道は $|l|\le5$ で $11$ 状態(計算 2.1):$2L+1$。
- 軌道は $|l|\le50$ で $101$ 状態(計算 2.1):$L$ で決まる。
- 状態数は必ず奇数(観察 2.4):$l=0$ を含むから。
- スピンはちょうど $1.000000$ ビット(観察 3.2):$L$ に依らない。
- 軌道は $|l|\le50$ で $6.6582$ ビット(計算 3.1):$6$ 倍以上。
- $L=500$ で $9.9672$ ビット(計算 3.1):$1001$ 状態。
- $L$ を $10$ 倍で $3.3090$ ビット増(計算 3.4):対数だから。
- スピンは $L$ を上げても増えない(観察 3.2):上限がある側。
- 分離子は有限次元か無限次元か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:「光の角運動量」というと偏光を指すことが多く、左回りか右回りしかないので二値だと思われている。だが角運動量は二つあり、もう一つは波面がらせんを描く自由度である。そして片方だけ上限がない。スピンの状態数はどの範囲でもちょうど $\mathbf{2}$ で、範囲を広げるという操作がそもそも意味を持たない。軌道の状態数は $2L+1$ で伸び、$|l|\le5$ で $11$、$|l|\le50$ で $\mathbf{101}$ になる。$+1$ は $l=0$、らせんの無い平らな波面の分なので、状態数は必ず奇数である。情報量で見ると差がはっきりする。スピンはちょうど $\mathbf{1.000000}$ ビットで、$L$ をどれだけ上げても変わらない。軌道は $|l|\le50$ で $\mathbf{6.6582}$ ビット、スピンの $6$ 倍以上を一光子で運ぶ。ただし $L$ を $50$ から $500$ へ $10$ 倍にしても増分は $\mathbf{3.3090}$ ビットしかない。$\log_2 10=3.3219$ だからで、状態数を桁で増やしても情報量は桁では増えない。だから「上限が無い」は「いくらでも得をする」ではない。上限は無いが伸びは対数であり、両方を言わないとどちらも誤解になる。分けているものは一つ、状態空間の次元が有限か、無限か。スピンの空間が二次元なのは、光子がスピン $1$ の粒子で質量がゼロなので縦成分が無いからであり、$2$ という数はそこで決まっている。軌道の空間が無限次元なのは、$l$ が方位角まわりの位相の巻き数で、巻き数に上限が無いからである。論文300 の基準で別根であり、一方は場の内部自由度、一方は空間の形である。だから「光の角運動量は二値だ」は半分だけ正しい。スピンについては正しく、軌道については範囲を言わなければ状態数すら決まらない。そして無限次元のほうは実際には装置の開口が大きな $l$ を通さないので有限で切れる。$L$ は物理ではなく装置が決めるという点で、論文417 で必要量が上限を決めたのと同じ形である。正直に言えば、$6.6582$ ビットは状態数から出した上限であり、実際に運べる量ではない。大気の乱れ、モード間の漏れ、検出の誤りが引く。本稿は通信の性能を主張していない。最後に一つ、スピンと軌道への分離は近軸近似の外では扱いが難しくなり、ゲージ不変な分離が可能かという議論がある。本稿は近軸の範囲で標準的な扱いを使っており、その外へは踏み出していない。
参考文献
- Allen, L., Beijersbergen, M. W., Spreeuw, R. J. C., & Woerdman, J. P. (1992). Orbital Angular Momentum of Light and the Transformation of Laguerre-Gaussian Laser Modes. Physical Review A.
- Beth, R. A. (1936). Mechanical Detection and Measurement of the Angular Momentum of Light. Physical Review.
- Poynting, J. H. (1909). The Wave Motion of a Revolving Shaft, and a Suggestion as to the Angular Momentum in a Beam of Circularly Polarised Light. Proceedings of the Royal Society A.
- Yao, A. M., & Padgett, M. J. (2011). Orbital Angular Momentum: Origins, Behavior and Applications. Advances in Optics and Photonics.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『何も保たない変換にも、保たれる量がある』[論文411]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699656
- 山岸勇輝 (2026). 『積が同じでも、結果が同じにならない』[論文416]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699831
- 山岸勇輝 (2026). 『食物連鎖の段数に上限があるのは、生き物の都合ではない』[論文417]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699882
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない」[論文418]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699908
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない [論文418]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/418 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699908
Yamagishi, Y. (2026). There Are Two of Them, and Only One Has a Ceiling [Paper 418]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/418; DOI: 10.5281/zenodo.22699908
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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