【論文418】光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない

要旨

光の角運動量というと、普通は偏光を指す。本稿が示すのは、角運動量が二つあることである。そして片方には上限があり、片方には無い。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、スピン角運動量の状態数はちょうど $\mathbf{2}$ である。左右の円偏光しかない(第2節)。

第二に、軌道角運動量の状態数は $2L+1$ で、$|l|\le5$ なら $11$、$|l|\le50$ なら $\mathbf{101}$ である(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。一光子あたりの情報量が、スピンでは常に $\mathbf{1}$ ビット、軌道では $|l|\le50$ で $\mathbf{6.6582}$ ビットになる(第3節)。

第四に、$L$ を $10$ 倍にしても情報量は $\mathbf{3.3090}$ ビットしか増えない。対数だからである(第3節)。

第五に、スピンは $L$ をどれだけ上げても $1$ ビットのままである。上限があるとはそういうことである(第3節)。

第六に、分離子は「次元が有限か無限か」である。同じ名前でも、状態空間の型が違う(第4節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。光のスピン角運動量と軌道角運動量の分離、ラゲール=ガウスモードはどちらも既知である($1992$ 年以来)。分離の是非を論じない。スピンと軌道への分離がゲージ不変にできるかという議論には立ち入らない。本稿は近軸近似の範囲で標準的な扱いを使う。通信の性能を主張しない。実際の多重化では大気の乱れ、モード間の漏れ、検出器の限界が効き、$6.6582$ ビットがそのまま得られるとは言っていない。生成法を扱わない。らせん位相板、空間光変調器、$q$ 板は主題ではない。量子情報の議論をしない。高次元もつれ、鍵配送の安全性は主題ではない。電子や中性子の軌道角運動量を扱わない。光だけを扱う。既刊との関係:論文417 は段数の上限が生き物の都合ではないことを示した。そこでは上限が算術から出た。ここでは片方に上限が無い。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。スピンと軌道は、その基準で別根である。論文411 は何も保たない変換にも保存量があることを示した。そこでは保存量が一つ残った。ここでは保存量が二つに割れる。論文416 は積が同じでも結果が同じにならないことを示した。ここでも、同じ名前の下で別の性質が並んでいる。加えたのは、四つの $L$ で状態数を並べたこと、情報量をビットで出したこと、$L$ を $10$ 倍にしたときの増分を $3.3090$ ビットと出したこと、スピン側を対照として置いたこと、分離子を「次元が有限か無限か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:光の全角運動量は、スピン成分と軌道成分に分けられる。 スピンは円偏光の向きに対応し、光子あたり $\pm\hbar$ の二値をとる。 軌道はらせん状の波面に対応し、光子あたり $l\hbar$($l$ は整数)をとる。

$$N_{\mathrm{spin}}=2,\qquad N_{\mathrm{orb}}(L)=2L+1$$

状態数 $N$ の一光子が運べる情報量は $\log_2 N$ ビットである。

観察 1.1 「光の角運動量」というと偏光を指すことが多い。左回りか右回りか、二つしかないので、二値だと思われている。

観察 1.2 だがもう一つある。波面がらせんを描く自由度である。こちらは $l$ が整数なら何でもよい。

問い:同じ「角運動量」なのに、なぜ片方だけ上限が無いのか。

2. 状態数は 2 と 2L+1

計算 2.1:両者の状態数を並べる。

範囲 スピンの状態数 軌道の状態数
$|l|\le1$ $2$ $3$
$|l|\le5$ $2$ $11$
$|l|\le10$ $2$ $21$
$|l|\le50$ $2$ $101$

観察 2.2 スピンの列は動かない。どの範囲でも $\mathbf{2}$ である。範囲を広げるという操作が、そもそも意味を持たない。

観察 2.3 軌道の列は $2L+1$ で伸びる。$|l|\le50$ で $\mathbf{101}$ 状態、$L$ を決めない限り、状態数は決まらない。

観察 2.4 $2L+1$ の $+1$ は $l=0$ の分である。らせんの無い平らな波面、だから状態数は必ず奇数になる。

3. 一光子あたりの情報量

計算 3.1:状態数を情報量に直す。

$L$ 軌道の状態数 情報量 [bit] スピンとの差 [bit]
$1$ $3$ $1.5850$ $0.5850$
$5$ $11$ $3.4594$ $2.4594$
$50$ $101$ $6.6582$ $5.6582$
$500$ $1001$ $9.9672$ $8.9672$

観察 3.2 スピンはちょうど $\mathbf{1.000000}$ ビットである。$\log_2 2=1$、そしてこの値は $L$ を動かしても変わらない。

観察 3.3 軌道は $|l|\le50$ で $\mathbf{6.6582}$ ビットになる。スピンの $6$ 倍以上、一光子で $6$ ビット以上を運ぶことになる。

計算 3.4:$L$ を $50$ から $500$ へ $10$ 倍にしたときの増分を出す。

$9.9672-6.6582=\mathbf{3.3090}$ ビットである。

観察 3.5 $10$ 倍にしても $3.3$ ビットしか増えない。$\log_2 10=3.3219$ だからである。情報量は状態数の対数なので、状態数を桁で増やしても情報量は桁では増えない。

観察 3.6 つまり「上限が無い」は「いくらでも得をする」ではない。上限は無いが、伸びは対数である。両方を言わないと、どちらも誤解になる。

4. 分離子

分離子:状態空間の次元が有限か、無限か。

観察 4.1 スピンの状態空間は二次元である。光子がスピン $1$ の粒子で、質量がゼロなので縦成分が無い。$2$ という数は、そこから決まっている。

観察 4.2 軌道の状態空間は無限次元である。$l$ が任意の整数をとれる。方位角まわりの位相の巻き数だからで、巻き数に上限は無い。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも角運動量だが、由来が違う。一方は場の内部自由度、一方は空間の形である。

観察 4.4 だから「光の角運動量は二値だ」は、半分だけ正しい。スピンについては正しい。軌道については、範囲を言わなければ状態数すら決まらない。

観察 4.5 そして無限次元のほうは、実際には有限で切る。装置の開口が大きな $l$ を通さない。$L$ は物理ではなく装置が決める。この点で論文417 の「必要量が上限を決める」と同じ形である。

観察 4.6 正直に言えば、$6.6582$ ビットは状態数から出した上限であり、実際に運べる量ではない。大気の乱れ、モード間の漏れ、検出の誤りが引く。本稿は通信の性能を主張していない。

観察 4.7 最後に一つ、スピンと軌道への分離は、近軸近似の外では扱いが難しくなる。ゲージ不変な分離が可能かという議論がある。本稿は近軸の範囲で標準的な扱いを使っており、その外へは踏み出していない。

5. 点呼と結び

  1. スピンの状態数はちょうど $2$(計算 2.1):どの範囲でも。
  2. 軌道は $|l|\le5$ で $11$ 状態(計算 2.1):$2L+1$。
  3. 軌道は $|l|\le50$ で $101$ 状態(計算 2.1):$L$ で決まる。
  4. 状態数は必ず奇数(観察 2.4):$l=0$ を含むから。
  5. スピンはちょうど $1.000000$ ビット(観察 3.2):$L$ に依らない。
  6. 軌道は $|l|\le50$ で $6.6582$ ビット(計算 3.1):$6$ 倍以上。
  7. $L=500$ で $9.9672$ ビット(計算 3.1):$1001$ 状態。
  8. $L$ を $10$ 倍で $3.3090$ ビット増(計算 3.4):対数だから。
  9. スピンは $L$ を上げても増えない(観察 3.2):上限がある側。
  10. 分離子は有限次元か無限次元か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:「光の角運動量」というと偏光を指すことが多く、左回りか右回りしかないので二値だと思われている。だが角運動量は二つあり、もう一つは波面がらせんを描く自由度である。そして片方だけ上限がない。スピンの状態数はどの範囲でもちょうど $\mathbf{2}$ で、範囲を広げるという操作がそもそも意味を持たない。軌道の状態数は $2L+1$ で伸び、$|l|\le5$ で $11$、$|l|\le50$ で $\mathbf{101}$ になる。$+1$ は $l=0$、らせんの無い平らな波面の分なので、状態数は必ず奇数である。情報量で見ると差がはっきりする。スピンはちょうど $\mathbf{1.000000}$ ビットで、$L$ をどれだけ上げても変わらない。軌道は $|l|\le50$ で $\mathbf{6.6582}$ ビット、スピンの $6$ 倍以上を一光子で運ぶ。ただし $L$ を $50$ から $500$ へ $10$ 倍にしても増分は $\mathbf{3.3090}$ ビットしかない。$\log_2 10=3.3219$ だからで、状態数を桁で増やしても情報量は桁では増えない。だから「上限が無い」は「いくらでも得をする」ではない。上限は無いが伸びは対数であり、両方を言わないとどちらも誤解になる。分けているものは一つ、状態空間の次元が有限か、無限か。スピンの空間が二次元なのは、光子がスピン $1$ の粒子で質量がゼロなので縦成分が無いからであり、$2$ という数はそこで決まっている。軌道の空間が無限次元なのは、$l$ が方位角まわりの位相の巻き数で、巻き数に上限が無いからである。論文300 の基準で別根であり、一方は場の内部自由度、一方は空間の形である。だから「光の角運動量は二値だ」は半分だけ正しい。スピンについては正しく、軌道については範囲を言わなければ状態数すら決まらない。そして無限次元のほうは実際には装置の開口が大きな $l$ を通さないので有限で切れる。$L$ は物理ではなく装置が決めるという点で、論文417 で必要量が上限を決めたのと同じ形である。正直に言えば、$6.6582$ ビットは状態数から出した上限であり、実際に運べる量ではない。大気の乱れ、モード間の漏れ、検出の誤りが引く。本稿は通信の性能を主張していない。最後に一つ、スピンと軌道への分離は近軸近似の外では扱いが難しくなり、ゲージ不変な分離が可能かという議論がある。本稿は近軸の範囲で標準的な扱いを使っており、その外へは踏み出していない。

参考文献

  1. Allen, L., Beijersbergen, M. W., Spreeuw, R. J. C., & Woerdman, J. P. (1992). Orbital Angular Momentum of Light and the Transformation of Laguerre-Gaussian Laser Modes. Physical Review A.
  2. Beth, R. A. (1936). Mechanical Detection and Measurement of the Angular Momentum of Light. Physical Review.
  3. Poynting, J. H. (1909). The Wave Motion of a Revolving Shaft, and a Suggestion as to the Angular Momentum in a Beam of Circularly Polarised Light. Proceedings of the Royal Society A.
  4. Yao, A. M., & Padgett, M. J. (2011). Orbital Angular Momentum: Origins, Behavior and Applications. Advances in Optics and Photonics.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『何も保たない変換にも、保たれる量がある』[論文411]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699656
  7. 山岸勇輝 (2026). 『積が同じでも、結果が同じにならない』[論文416]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699831
  8. 山岸勇輝 (2026). 『食物連鎖の段数に上限があるのは、生き物の都合ではない』[論文417]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699882

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない」[論文418]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699908

YOI 418第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/418・DOI 10.5281/zenodo.22699908・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 光の角運動量は二つあって、片方だけ上限がない [論文418]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/418 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699908

Yamagishi, Y. (2026). There Are Two of Them, and Only One Has a Ceiling [Paper 418]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/418; DOI: 10.5281/zenodo.22699908

@misc{yamagishi2026yoi418,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {There Are Two of Them, and Only One Has a Ceiling},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/418},
  doi = {10.5281/zenodo.22699908},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
90cad9f6b8d6fc0ce26486723b68f4673bafe57397bf7c1c7c74536d8813b8ab yamagishi_yoi418_v1_jp.pdf
1e05289bbb60f924c3b3c77d63549c2b5c0569641021c4418de2e4c6b434e5ef yamagishi_yoi418_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。