【論文435】どの順位でも一定なのに、合計は決まらない

要旨

「順位と頻度の積が一定である」という言い方がある。本稿が示すのは、その「一定」が全体を決めないことである。どの順位でも一定なのに、合計は $N$ とともに増え続ける。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、指数 $1$ のとき、順位 $\times$ 頻度は $1$ 位でも $10000$ 位でもちょうど $\mathbf{1.000000}$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。どの順位でも一定なのに、総和は $\mathbf{9.787606}$ で頭打ちしない。$N$ を増やせば増え続ける(第2節)。

第三に、その総和は $\ln N+\gamma=\mathbf{9.787556}$ と差 $\mathbf{0.000050}$ で一致する(第2節)。

第四に、指数 $1.0$ では上位 $1$ パーセントが全体の $\mathbf{52.9995}$ パーセントを占める(第3節)。

第五に、指数を $0.8$ から $1.2$ へ動かすと、その占有率は $0.300046$ から $0.750766$ へ $\mathbf{2.5022}$ 倍変わる(第3節)。

第六に、分離子は「一つの順位を見るか、全体を見るか」である(第4節)。

キーワード:ジップの法則、冪則、調和級数、順位と頻度、裾の重い分布。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ジップの法則、調和級数の発散、冪則の裾はすべて既知である。実データを当てない。どの分野で指数がいくつかという調査は主題ではない。指数は与えられた数として扱う。機構を説明しない。なぜ冪則が現れるのかという議論(優先的選択、最適化、最大エントロピー)は主題ではない。当てはめの手法を論じない。推定量の選び方、裾の切り方、検定は主題ではない。有限の系を無限として扱わない。実際の集合は有限なので総和は必ず有限である。本稿が言うのは「$N$ を増やすと増え続ける」ことであって、無限になるとは言わない。離散と連続を混ぜない。順位は整数であり、積分による近似は $\ln N+\gamma$ の照合にだけ使う。既刊との関係:論文434 は安くしているのが時間でなく累積であることを示した。そこでも冪則が主役だった。ここでは冪の値そのものが全体像を決める。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「各項が一定」と「合計が決まる」は、その基準で別根である。論文417 は段数の上限が生き物の都合でないことを示した。そこでは等比数列で合計が収束した。ここでは収束しない。論文424 は割ると分母の動きが分子の出来事になることを示した。ここでも、占有率という割合が二つの和の商である。加えたのは、五つの順位で積が一定であることを数に出したこと、総和を $\ln N+\gamma$ と照合したこと、$N$ を増やすと総和が増えることを確かめたこと、三つの指数で上位 $1$ パーセントの占有率を出したこと、占有率の比を $2.5022$ 倍と出したこと、分離子を「一つの順位か、全体か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:順位 $k$ の要素の頻度を次で書く。

$$f(k)\propto\frac{1}{k^{\alpha}}$$

$\alpha=1$ のとき、順位と頻度の積 $k f(k)$ は $k$ に依らず一定になる。 以下 $N=10000$ とし、比例定数を $1$ に取る。

観察 1.1 「順位 $\times$ 頻度が一定」は、強い規則性に聞こえる。どの順位を見ても同じ数が出る。全体が把握できたように感じる。

観察 1.2 だが「一定」は各項についての言明である。一つの $k$ を選んだときの値の話、全部を足したときの値については、何も言っていない。

問い:各項が一定なら、合計は決まるのか。

2. どの順位でも一定で、合計は増え続ける

計算 2.1:$\alpha=1$ として、五つの順位で頻度と積を出す。

順位 頻度 順位 $\times$ 頻度
$1$ $1.00000000$ $\mathbf{1.000000}$
$10$ $0.10000000$ $\mathbf{1.000000}$
$100$ $0.01000000$ $\mathbf{1.000000}$
$1000$ $0.00100000$ $\mathbf{1.000000}$
$10000$ $0.00010000$ $\mathbf{1.000000}$

観察 2.2 四桁にわたって、まったく同じ値である。ばらつきがゼロ、定義どおりであり、実装が正しいことを示す。

計算 2.3:全部の順位で足す。

総和は $\mathbf{9.787606}$ である。

観察 2.4 この値は $\ln N+\gamma$ と一致する。$\ln10000+0.5772156649=\mathbf{9.787556}$、差は $\mathbf{0.000050}$、独立な既知の近似との突合せである。

観察 2.5 $N$ を $100000$ にすると総和はさらに増える。頭打ちが無い。各項が一定でも、合計は決まらない。

観察 2.6 増え方は対数である。$N$ を $10$ 倍にして総和は $\ln10=2.30$ 増えるだけ、だから「発散する」と「速く増える」も別の話である。

3. 指数を動かすと、全体像が変わる

計算 3.1:指数 $\alpha$ を変えて、上位 $1$ パーセントが占める割合を出す。

指数 $\alpha$ 上位 $1$ % の占有率
$0.8$ $0.300046$
$1.0$ $\mathbf{0.529995}$
$1.2$ $0.750766$

観察 3.2 指数 $1.0$ で、上位 $1$ パーセントが半分を超える。$\mathbf{52.9995}$ パーセント、百分の一が半分を持っている。

観察 3.3 指数を $0.8$ から $1.2$ へ動かすと、占有率は $\mathbf{2.5022}$ 倍変わる。$0.30$ から $0.75$ へ、指数の $0.4$ の差が、全体像を作り替える。

観察 3.4 どの場合も「冪則である」ことに変わりは無い。形は同じで、指数だけが違う。だから「冪則が見つかった」だけでは、何も言ったことにならない。

観察 3.5 指数 $1$ は特別な位置にいる。$\alpha>1$ なら総和は収束し、$\alpha\le1$ なら発散する。ちょうど境目に立っている。

4. 分離子

分離子:一つの順位を見るか、全体を見るか。

観察 4.1 一つの順位を見れば、積は一定である。$k$ を選んで $kf(k)$ を計算する。何を選んでも同じ数が出る。

観察 4.2 全体を見れば、合計は $N$ に依る。どこまで数えたかで変わる。同じ規則から、二つの違う性格の量が出る。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「一定」という語で語られる。一方は各項の性質、一方は和の性質である。

観察 4.4 だから「順位 $\times$ 頻度が一定だから安定している」とは言えない。各項は安定していても、合計は数え方で動く。どこで切るかを決めなければ、総量が決まらない。

観察 4.5 占有率も同じである。上位 $1$ パーセントの占有率は、指数と $N$ の両方に依る。一つの数で「集中している」と言うには、二つを併記する必要がある。

観察 4.6 正直に言えば、実際の集合は有限なので、総和は必ず有限である。本稿が言うのは「$N$ を増やすと増え続ける」ことである。無限になるとは言っていない。

観察 4.7 最後に一つ、増え方が対数であることも大事である。$N$ を $10$ 倍にして $2.30$ しか増えない。「発散する」は「大きい」ではない。二つを混ぜると、どちらも誤解になる。

5. 点呼と結び

  1. 順位 $\times$ 頻度は四桁で $1.000000$(計算 2.1):ばらつきゼロ。
  2. 総和は $9.787606$(計算 2.3):各項一定でも決まらない。
  3. $\ln N+\gamma=9.787556$(観察 2.4):差 $0.000050$。
  4. $N$ を増やすと増え続ける(観察 2.5):頭打ちが無い。
  5. 増え方は対数(観察 2.6):$10$ 倍で $2.30$。
  6. 指数 $1.0$ で上位 $1$ % が $52.9995$ %(計算 3.1):半分超。
  7. 指数 $0.8$ では $30.0046$ %(計算 3.1):薄い。
  8. 指数 $1.2$ では $75.0766$ %(計算 3.1):濃い。
  9. 占有率の比は $2.5022$ 倍(観察 3.3):指数 $0.4$ の差で。
  10. 分離子は各項か全体か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:「順位 $\times$ 頻度が一定である」は、強い規則性に聞こえる。どの順位を見ても同じ数が出るので、全体が把握できたように感じる。だが「一定」は各項についての言明であって、全部を足したときの値については何も言っていない。実際、各項は一定で、合計は決まらない。指数 $1$ のとき順位 $\times$ 頻度は $1$ 位でも $10000$ 位でもちょうど $\mathbf{1.000000}$ で、四桁にわたってばらつきがゼロである。それでも総和は $\mathbf{9.787606}$ で、$\ln N+\gamma=\mathbf{9.787556}$ と差 $\mathbf{0.000050}$ で一致し、$N$ を増やせば増え続けて頭打ちが無い。ただし増え方は対数で、$N$ を $10$ 倍にして総和は $2.30$ 増えるだけである。「発散する」と「速く増える」も別の話である。そして指数を少し動かすと、全体像が作り替わる。上位 $1$ パーセントの占有率は、指数 $0.8$ で $0.300046$、$1.0$ で $\mathbf{0.529995}$、$1.2$ で $0.750766$ になる。指数 $1.0$ では百分の一が半分を超える量を持ち、$0.8$ から $1.2$ への $0.4$ の差が占有率を $\mathbf{2.5022}$ 倍動かす。どの場合も「冪則である」ことに変わりは無いので、「冪則が見つかった」だけでは何も言ったことにならない。指数 $1$ は特別な位置にいて、$\alpha>1$ なら総和は収束し、$\alpha\le1$ なら発散する。ちょうど境目に立っている。分けているものは一つ、一つの順位を見るか、全体を見るか。一つの順位を見れば積は一定で、何を選んでも同じ数が出る。全体を見れば合計は $N$ に依り、どこまで数えたかで変わる。論文300 の基準で別根であり、どちらも「一定」という語で語られるが、一方は各項の性質、一方は和の性質である。だから「順位 $\times$ 頻度が一定だから安定している」とは言えない。各項は安定していても、どこで切るかを決めなければ総量が決まらない。占有率も同じで、指数と $N$ の両方に依るので、一つの数で「集中している」と言うには二つを併記する必要がある。正直に言えば、実際の集合は有限なので総和は必ず有限である。本稿が言うのは「$N$ を増やすと増え続ける」ことであって、無限になるとは言っていない。最後に一つ、増え方が対数であることも大事である。$N$ を $10$ 倍にして $2.30$ しか増えないので、「発散する」は「大きい」ではない。二つを混ぜると、どちらも誤解になる。

参考文献

  1. Zipf, G. K. (1949). Human Behavior and the Principle of Least Effort. Cambridge, MA: Addison-Wesley.
  2. Newman, M. E. J. (2005). Power Laws, Pareto Distributions and Zipf’s Law. Contemporary Physics.
  3. Clauset, A., Shalizi, C. R., & Newman, M. E. J. (2009). Power-Law Distributions in Empirical Data. SIAM Review.
  4. Simon, H. A. (1955). On a Class of Skew Distribution Functions. Biometrika.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『食物連鎖の段数に上限があるのは、生き物の都合ではない』[論文417]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699882
  7. 山岸勇輝 (2026). 『割ると、分母の動きが分子の出来事になる』[論文424]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700141
  8. 山岸勇輝 (2026). 『安くしているのは、時間ではなく累積である』[論文434]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22708735

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「どの順位でも一定なのに、合計は決まらない」[論文435]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22709070

YOI 435第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). どの順位でも一定なのに、合計は決まらない [論文435]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/435 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22709070

Yamagishi, Y. (2026). Constant at Every Rank, and the Total Is Still Undetermined [Paper 435]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/435; DOI: 10.5281/zenodo.22709070

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