要旨
衛生行政報告例(令和6年度)の第2表から、都道府県ごとの乳処理量を乳の種類・殺菌方法別に数え、第1表の収去試験と突き合わせた。
全国の乳処理量は3,569,411キロリットル。うち牛乳が3,177,500(89.02%)。
北海道が609,649キロリットルで全国の17.1%を処理している。北海道の人口は全国の4.0%だから、4.23倍である。
上と下で20,444倍ある。 北海道531,536キロリットル(牛乳)に対して、福井県26キロリットル。上位10都道府県で全国の58.8%を占める。
1人あたりでは、北海道122.0リットル/年に対して全国は28.8リットル。 処理量と人口の相関は r = +0.572、1人あたりと人口(対数)の相関は r = +0.097 でほとんど無い。乳は、飲む場所ではなく搾る場所で処理される。
牛乳の95.36%は瞬間殺菌(超高温)である。 低温長時間殺菌は1.18%で、瞬間殺菌の81分の1。低温長時間が0%の都道府県が7ある一方、山梨県は100%である。
特別牛乳は全国で52キロリットルしかない。うち無殺菌乳は8キロリットルで、全部が北海道である。
収去は2,593点、不適は6点(0.23%)。 処理量に対して1点あたり1,377キロリットルにあたる。
1. はじめに
I015 まで、衛生行政報告例で数えてきたのは施設の数だった。理容所107,995、美容所277,752、薬局63,203。
第2表は、量を数えている数少ない表である。 施設が何軒あるかではなく、そこで何キロリットルの乳を処理したかが載っている。
乳は、どこで処理されているのか。それは人口で決まるのか。
2. データ
| 乳処理量 | 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 第2表(乳肉衛生)。乳の種類・処理方法・都道府県別、令和6年度中、単位はキロリットル |
| 収去試験 | 同 第1表(乳の収去試験状況)。収去件数・不適検体数 |
| 人口 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の値とぴたり一致する(牛乳3,177,500、全体3,569,411、いずれも差0)。
乳の種類は、特別牛乳・牛乳・低脂肪牛乳・加工乳(乳脂肪分3%以上)・加工乳(同3%未満)・その他の乳の6つ。殺菌方法は、無殺菌・63〜65℃(低温長時間)・75℃以上(高温短時間)・瞬間(超高温)に分かれている。
3. 結果
3-1 乳処理量3,569,411キロリットル
| 乳の種類 | キロリットル | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 牛乳 | 3,177,500 | 89.02% |
| その他の乳 | 135,602 | 3.80% |
| 低脂肪牛乳 | 107,538 | 3.01% |
| 加工乳(乳脂肪分3%以上) | 87,061 | 2.44% |
| 加工乳(乳脂肪分3%未満) | 61,658 | 1.73% |
| 特別牛乳 | 52 | 0.00146% |
| 合計 | 3,569,411 |
乳の9割は牛乳である。
特別牛乳は全国で52キロリットルしかない。 全体の0.00146%で、扱っているのは3都道府県だけである(福岡31・神奈川13・北海道8)。
そのうち無殺菌乳は8キロリットルで、全部が北海道である。 47都道府県のうち、無殺菌の乳を処理しているのは北海道1つだけである。
3-2 上と下で20,444倍

図1 乳処理量と人口(47都道府県、令和6年度)。
灰色は都道府県、橙は北海道。どちらの軸も対数。
| 牛乳(キロリットル) | |
|---|---|
| 多い | 北海道531,536(16.7%)/神奈川214,363(6.7%)/茨城174,969(5.5%)/千葉161,214(5.1%)/栃木159,044(5.0%) |
| 少ない | 奈良156/山梨27/福井26 |
| 上と下 | 20,444倍、中央値42,983 |
処理量が0の都道府県は無い。 だが福井県26キロリットルは、北海道の2万分の1である。
| 集中のしかた | 全国に占める割合 |
|---|---|
| 上位3都道府県 | 29.0% |
| 上位5都道府県 | 39.1% |
| 上位10都道府県 | 58.8% |
低脂肪牛乳はもっと偏る。
| 低脂肪牛乳 | |
|---|---|
| 多い | 北海道50,177(46.7%)/東京10,409(9.7%)/兵庫8,023(7.5%) |
| 0の都道府県 | 26(47のうち) |
低脂肪牛乳の47%が北海道で処理され、半分以上の都道府県では1キロリットルも処理していない。
3-3 人口では決まらない
| 1人あたり(リットル/年) | |
|---|---|
| 全国 | 28.8 |
| 多い | 北海道122.0/栃木93.0/熊本79.2 |
| 少ない | 奈良0.12/福井0.04/山梨0.03 |
| 中央値 | 21.7 |
| 上と下 | 3,591倍 |
| 相関(47都道府県) | r |
|---|---|
| 乳処理量(対数)× 人口(対数) | +0.572 |
| 1人あたり × 人口(対数) | +0.097 |
1人あたりの処理量は、人口とほとんど関係が無い(r = +0.097)。
乳は、飲む場所ではなく搾る場所で処理される。
3-4 牛乳の95%は瞬間殺菌
| 殺菌のしかた(牛乳) | キロリットル | 割合 |
|---|---|---|
| 瞬間(超高温) | 3,029,968 | 95.36% |
| 75℃以上(高温短時間) | 110,069 | 3.46% |
| 63〜65℃(低温長時間) | 37,463 | 1.18% |
瞬間殺菌は、低温長時間殺菌の81倍である。
| 低温長時間殺菌の割合 | |
|---|---|
| 高い | 山梨100.0%/和歌山81.2%/高知24.7% |
| 0%の都道府県 | 7 |
| 全国 | 1.18%、中央値0.31% |
山梨県の牛乳27キロリットルは、すべて低温長時間殺菌である。 量が小さいことと、殺菌のしかたが結びついている。
3-5 収去2,593点、不適6点
| 乳の種類 | 収去(点) | 不適(点) | 不適率 |
|---|---|---|---|
| 牛乳 | 1,275 | 4 | 0.31% |
| 生乳 | 1,201 | 0 | 0.00% |
| その他の乳 | 56 | 0 | 0.00% |
| 低脂肪牛乳 | 24 | 0 | 0.00% |
| 加工乳(乳脂肪分3%未満) | 24 | 0 | 0.00% |
| 加工乳(乳脂肪分3%以上) | 13 | 2 | 15.38% |
| 合わせて | 2,593 | 6 | 0.23% |
処理量3,569,411キロリットルに対して、収去は2,593点。1点あたり1,377キロリットルにあたる。
加工乳(乳脂肪分3%以上)だけ、13点中2点が不適である。 ただし分母が13点しかないので、この15.38%は1〜2点の増減で大きく動く。
北海道の収去は90点(全国の3.5%)、不適は0点である。
3-6 北海道
| 牛乳 | 531,536 kL(全国の16.7%、1位/47) |
| 低脂肪牛乳 | 50,177 kL(全国の46.7%、1位/47) |
| 乳ぜんぶ | 609,649 kL(全国の17.1%、1位/47) |
| 人口 | 4,996,492人(全国の4.0%) |
| 処理量の割合 ÷ 人口の割合 | 4.23倍 |
| 1人あたり | 122.0 L/年(1位/47。全国28.8 L) |
| 特別牛乳 | 8 kL(すべて無殺菌乳) |
| 低温長時間殺菌の牛乳 | 5,479 kL(牛乳の1.0%) |
北海道は3つとも1位である。
3-7 釧路総合振興局管内
衛生行政報告例に市区町村別の表は無いので、経済センサス(令和3年)で見る。
| 市町村 | 畜産農業 | 従業者 | 畜産食料品製造業 | 従業者 |
|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 17 | 161 | 6 | 133 |
| 釧路郡釧路町 | 4 | 25 | 1 | 8 |
| 厚岸町 | 3 | 19 | 2 | 18 |
| 浜中町 | 15 | 86 | 6 | 181 |
| 標茶町 | 31 | 261 | 3 | 111 |
| 弟子屈町 | 7 | 74 | 2 | 7 |
| 鶴居村 | 17 | 147 | 1 | 7 |
| 白糠町 | 6 | 61 | 6 | 42 |
| 管内の合計 | 100 |
管内の畜産農業は100事業所で、全国7,751の1.29%にあたる。
全国では、畜産農業は1事業所あたり9.23人、畜産食料品製造業は45.30人である(X001)。搾る側と処理する側で、1事業所あたりが4.91倍ちがう。
標茶町は畜産農業31事業所・261人で管内最多。 鶴居村は17事業所・147人である。
4. 考察
4-1 「人口で決まる商売」と「決まらない商売」
R001 は、市区町村にある産業小分類の数が人口の対数でほぼ決まること(R² = 0.925)を示した。X001 は、1事業所あたりが小さい商売ほど多くの市区町村にあることを示した。
乳の処理は、そのどちらとも違う。 1人あたりの処理量と人口(対数)の相関は +0.097 で、ほとんど無い。
I015 で見た理容所・美容所は、1,889市区町村のうち1,862・1,857にあった。どこにでもある商売と、どこにも無い商売がある。 乳の処理は後者で、福井県・山梨県・奈良県では実質的に行われていない。
この違いは、客がどこにいるかではなく、原料がどこにあるかで決まる。 髪は全国どこでも伸びるが、生乳は搾る場所でしか出ない。
4-2 20,444倍という数字の読み方
北海道531,536に対して福井県26。この20,444倍は、X002 で見た地価の87.4倍よりはるかに大きい。
| 上と下の比 | |
|---|---|
| 消費者物価(X002) | 1.081倍 |
| 最低賃金(X002) | 1.198倍 |
| 1人あたり課税対象所得(X002) | 1.85倍 |
| 商業地の地価(X002) | 87.4倍 |
| 乳処理量 | 20,444倍 |
ただし、これは同じ種類の数字ではない。 賃金や物価は「1単位あたりいくらか」で、乳処理量は「全部でどれだけか」である。人口で割っても3,591倍あるが、それでも量の分布と価格の分布は比べる性質が違う。
言えるのは、産業の立地は価格よりずっと偏るということである。
4-3 95%が瞬間殺菌であること
牛乳の95.36%が瞬間殺菌(超高温)で処理されている。低温長時間殺菌は1.18%しかない。
これは工程の選択であって、品質の順位ではない。 瞬間殺菌は短時間で大量に処理でき、日持ちする。低温長時間殺菌は時間がかかる。
注目すべきは、低温長時間の割合が高いのが、処理量の小さい県だという点である。 山梨県は27キロリットルで100%、和歌山県は81.2%。一方で北海道は1.0%である。
小さい工場ほど低温長時間を選び、大きい工場ほど瞬間殺菌を選ぶという向きになる。ただしこれは処理量と割合の関係を見ただけで、工場ごとの選択を確かめたものではない。
4-4 特別牛乳8キロリットル
無殺菌の特別牛乳は全国で8キロリットル、それが全部北海道である。
3,569,411キロリットルのうちの8である。 全体の0.00022%にあたる。
特別牛乳は特別牛乳搾取処理業の許可が要り、施設の条件も厳しい。「できるが、ほとんど行われていない」という形の規制である。
I009 の銭湯(公衆浴場23,668のうち一般公衆浴場2,730)、I011 の行商(10,408のうち2,187が宮崎県)と同じで、制度としては全国にあるが、実際には数県でしか動いていないものが、衛生行政の表には繰り返し出てくる。
4-5 搾る側と処理する側
釧路管内の畜産農業は100事業所。全国の畜産農業は1事業所あたり9.23人だが、畜産食料品製造業は45.30人である(X001)。4.91倍ちがう。
I015 で見たとおり、鶴居村の理容所は1軒・1人である。同じ村に、畜産農業が17事業所・147人ある。
ここで働いている人の数でいえば、鶴居村は理容の村ではなく畜産の村である。 ただし畜産農業は消費者と直接取引しないので、村の中の「店」としては数えられない。
R005 の計算では、釧路管内は8市町村すべてで2050年までに人口が3割以上減る。 人口が減ると、人口で決まる商売(理容・美容・小売)は減る。だが乳の処理量は人口では決まらない(r = +0.097)。減り方が同じになるとは限らない。 これは仮説であり、本稿では確かめていない。
4-6 収去2,593点の意味
処理量3,569,411キロリットルに対して収去2,593点。1点あたり1,377キロリットルである。
不適は6点(0.23%)で、うち4点が牛乳、2点が加工乳(乳脂肪分3%以上)だった。
この0.23%を「安全である」と読むことはできない。 I014 でも書いたとおり、収去件数を決めるのは行政の側であり、どれだけ調べたかが数字を作る。 北海道は全国の17.1%を処理しながら、収去は全国の3.5%(90点)である。
処理量あたりの検査密度は、都道府県によって違う。 少ないことは安全を意味しないし、多いことは危険を意味しない。
5. 限界
- 処理量であって、生産量(生乳の搾乳量)ではない。 都道府県をまたいで運ばれた分は、処理した側に入る
- 衛生行政報告例は令和6年度(年度中の処理量)、経済センサスは令和3年6月1日
- チーズ・バター・脱脂粉乳などの乳製品は、この表に入っていない
- 「その他の乳」には成分調整牛乳・乳飲料などが入る。内訳はこの表では分けられない
- 収去試験は行政が抜き取って調べた件数で、出荷されたすべてを調べたものではない
- 収去件数は都道府県が決める。 少ないことは安全を意味しないし、多いことは危険を意味しない
- 加工乳(乳脂肪分3%以上)の不適率15.38%は、分母が13点しかない
- 衛生行政報告例に市区町村別の表は無い。釧路管内は経済センサスで見ている
- 殺菌方法と処理量の関係は都道府県の集計で見たもので、工場ごとの選択を確かめていない
- 相関は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない
6. 再現の手順
- e-Stat で衛生行政報告例 令和6年度の第2表(乳肉衛生、乳処理量)を落とす(CP932)
- 全国の行と、北海道から沖縄県までの47行を取る(「指定都市(再掲)」より下は使わない)
- 乳の種類6つ(特別牛乳・牛乳・低脂肪牛乳・加工乳2種・その他の乳)の総数を足して合計を出す
- 牛乳について、63〜65℃・75℃以上・瞬間の内訳の割合を出す
- 人口で割って1人あたりを出し、人口(対数)との相関を取る
- 第1表から、乳の種類ごとの収去件数と不適検体数を取る
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_207)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。衛生行政報告例の第2表と第1表を数えただけである。乳処理量が上と下で20,444倍開くこと、人口4.0%の北海道が17.1%を処理すること、1人あたりの処理量が人口とほとんど関係しないこと(r = +0.097)、牛乳の95.36%が瞬間殺菌であること、特別牛乳が全国52キロリットルで無殺菌8キロリットルはすべて北海道であることを示した。処理量であって生産量ではない。相関は示したが、原因と結果の向きは示していない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度、第2表・第1表(乳肉衛生)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年、第9-1A表・第9-1B表
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「「公衆浴場」23,668のうち、銭湯は2,730」(I009)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876425
- 山岸勇輝「届出を要する食品営業は865,122」(I011)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876599
- 山岸勇輝「薬をネットで売る店は11,910(12.8%)」(I014)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877337
- 山岸勇輝「理容所107,995、美容所277,752」(I015)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22878037
- 山岸勇輝「その商売は、1事業所あたり何人か」(X001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877856
- 山岸勇輝「賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍」(X002)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877924
- 山岸勇輝「2050年、その町から何分類が消えるか」(R005)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877595
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-22 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「乳の処理量は、上と下で20,444倍、人口4.0%の北海道が17.1%を処理する [I016]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879076
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「乳の処理量は、上と下で20,444倍」[I016]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22879076
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 乳の処理量は、上と下で20,444倍 [I016]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I016 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22879076
Yamagishi, Y. (2026). Milk Processed Differs 20,444-fold Top to Bottom: Hokkaido, with 4.0% of the Population, Processes 17.1% [I016]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I016; DOI: 10.5281/zenodo.22879076
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