要旨
「受容体がこれだけあるから、これだけの匂いを嗅ぎ分けられる」と言われる。本稿は、その「これだけ」が受容体の数からは出てこないことを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、どの組合せでも別と数えると、数は途方もない。受容体 $400$ 種類で $2^{400}$、$\mathbf{120.411998}$ 桁である(第2節)。
第二に、働く個数を決めると、数は大きく縮む。ちょうど $5$ 個が働くと数えれば $\mathbf{10.920220}$ 桁、$1$ 個から $10$ 個なら $19.422809$ 桁である(第2節)。
第三に、いちばん強い一つだけを読むなら、受容体の数そのものになる。$400$ 通り、$2.602060$ 桁である(第2節)。
第四に、これが本稿の芯である。同じ $400$ から、$117$ 桁を超える開きが出る。広い約束と狭い約束の差は $\mathbf{117.809938}$ 桁である(第2節)。
第五に、受容体を増やしたときの効きも約束で違う。$800$ に倍にすると、どの組合せでもの約束では $120.411998$ 桁増え、ちょうど $5$ 個では $\mathbf{1.510609}$ 桁しか増えない(第3節)。
第六に、分離子は、受容体の数を問うか、読み方の約束を問うかである。区別できる数は受容体の側ではなく、読み取る側の約束の帰結である(第4節)。
キーワード:嗅覚受容体、組合せ符号化、二項係数、数え方の約束、桁、模型。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。嗅覚が多数の受容体の組合せで匂いを表すこと、部分集合の数が $2^{R}$、$k$ 個を選ぶ数が二項係数であること、嗅ぎ分けられる数の見積もりが置いた仮定で大きく変わることは、いずれも既知である。実在の値を主張しない。$400$ は比べるために置いた模型の数で、ある生物の受容体の数を主張しない。人の能力を述べない。人が実際に何種類嗅ぎ分けられるかは述べない。脳に入らない。脳での処理、学習、慣れは扱わない。化学に入らない。どの物質がどの受容体に結合するかは扱わない。既刊との関係:論文323 は三原色の「三」が光の性質ではないことを示した。本稿はその隣に置く。あちらは色の数が受け取る側の個数から来た。こちらは匂いの数が受け取る側の読み方の約束から来る。論文182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないことを示した。ここでも「何種類」という一つの問いに、約束ごとの答が立つ。加えたのは、同じ $400$ に四つの読み方を置いて桁を並べたこと、開きが $117.809938$ 桁あると測ったこと、受容体を倍にしたときの増えも約束で違うと測ったこと、分離子を「受容体の数か、読み方の約束か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:受容体の種類を $R$ とし、一つの匂いがどの受容体を働かせるかで匂いを区別する。何を「別の匂い」と数えるかの約束を四つ置く。
$$N_{\mathrm{all}}=2^{R},\qquad
N_{k}=\binom{R}{k},\qquad
N_{\le 10}=\sum_{k=1}^{10}\binom{R}{k},\qquad
N_{\max}=R$$
最後のものは、いちばん強く働いた受容体だけを読む約束である。本稿は $R=400$ で、数が大きいので桁(常用対数)で比べる。
問い:受容体の数が決まれば、区別できる数は決まるか。
2. 同じ $400$ から出る四つの数
計算 2.1:$R=400$ で、四つの約束の桁を出した。
| 約束 | 区別できる数の桁 |
|---|---|
| どの組合せでも別($2^{R}$) | $120.411998$ |
| $1$ 個から $10$ 個が働く | $19.422809$ |
| ちょうど $5$ 個が働く | $10.920220$ |
| いちばん強い一つだけを読む | $2.602060$ |
| 広い約束と狭い約束の差 | $117.809938$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。同じ $400$ から $117$ 桁を超える開きが出る。受容体の数は四つの約束で同じなのに、答は $2.602060$ 桁から $120.411998$ 桁まで広がる。数を決めているのは受容体ではなく、何を別と数えるかの約束である。
観察 2.3 狭い約束ほど数は小さい。働く個数を縛るほど、選び方が減る。「組合せで表す」と言っただけでは、どの組合せまでを許すかが決まっていない。
3. 受容体を増やしたときの効き
計算 3.1:受容体を $400$ から $800$ に倍にした。
| 約束 | $R=400$ | $R=800$ |
|---|---|---|
| どの組合せでも別 | $120.411998$ | $240.823997$ |
| ちょうど $5$ 個が働く | $10.920220$ | $12.430830$ |
観察 3.2 倍にしたときの増えも約束で違う。どの組合せでもの約束では桁が $120.411998$ 増え、ちょうど $5$ 個では $1.510609$ しか増えない。前者は受容体の数に比例して桁が増え、後者は数の $5$ 乗にしかならないからである。
観察 3.3 だから「受容体が多いほど嗅ぎ分けられる」の程度も、約束しだいである。同じ倍増が、ある約束では桁を倍にし、別の約束では $2$ 桁も足さない。受容体の数への感度そのものが、読み方の側で決まる。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、受容体の数を問うか、読み方の約束を問うかである。前者を固定しても後者で $117.809938$ 桁動く。区別できる数は受け取る側の個数ではなく、受け取った後の数え方の帰結である。
観察 4.2 論文323 の隣に置く。323 は三原色の「三」が光の性質ではないことを示した。あちらは色の数が受け取る側の個数から来た。こちらは同じ個数からでも、読み方で数がまるで変わる。個数の一段先に、約束の段がある。論文182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないことを示した。ここでも一つの問いに、約束ごとの答が立つ。
観察 4.3 言わないこと。実在の受容体の数も、人の嗅ぎ分ける能力も、脳での処理も、匂い物質の化学も扱わない。示したのは、「何種類」が約束を決めないと一つの数にならないということである。
5. 点呼と結び
- 受容体は $400$ 種類と置いた(第1節):模型の数。
- どの組合せでも $\mathbf{120.411998}$ 桁(計算 2.1):いちばん広い。
- $1$ 個から $10$ 個で $19.422809$ 桁(計算 2.1):縛ると縮む。
- ちょうど $5$ 個で $\mathbf{10.920220}$ 桁(計算 2.1):さらに縮む。
- いちばん強い一つで $2.602060$ 桁(計算 2.1):受容体の数そのもの。
- 開きは $\mathbf{117.809938}$ 桁(計算 2.1):本稿の芯。
- 倍にして $120.411998$ 桁増える(計算 3.1):広い約束。
- 倍にして $\mathbf{1.510609}$ 桁(計算 3.1):狭い約束。
- 増やしたときの感度も約束しだい(観察 3.3):読み方の側。
- 受容体の数か、読み方の約束か(観察 4.1):分離子・論文323・182。
結び:嗅ぎ分けられる数は、受容体の数ではなく読み方の約束で決まる。受容体を $400$ 種類と置いても、どの組合せでも別と数えれば $120.411998$ 桁、ちょうど $5$ 個が働くと数えれば $10.920220$ 桁、いちばん強い一つだけを読めば $2.602060$ 桁で、開きは $117.809938$ 桁ある。受容体の数は四つとも同じで、変えたのは何を別と数えるかだけだからである。受容体を $800$ に倍にしたときの増えも、広い約束では $120.411998$ 桁、ちょうど $5$ 個では $1.510609$ 桁と違う。前者は数に比例して桁が増え、後者は数の $5$ 乗にしかならないからである。だから「受容体が多いほど嗅ぎ分けられる」も、その程度は読み方の側で決まる。既刊との位置:論文323 の「数は受け取る側の個数から来る」の隣に、個数の一段先の約束の段として置き、論文182 の型で一つの問いに約束ごとの答が立つことを数えた。正直に言えば、$400$ は模型の数で、人が実際に何種類嗅ぎ分けられるかは何も言っていない。
参考文献
- Buck, L., & Axel, R. (1991). A novel multigene family may encode odorant receptors: a molecular basis for odor recognition. Cell.
- 山岸勇輝 (2026). 『「次元の呪い」は一つの呪いではない』[論文182]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/182 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22104170
- 山岸勇輝 (2026). 『三原色の「三」は、光の性質ではない』[論文323]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/323 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22209319
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「嗅ぎ分けられる数は、受容体の数ではなく読み方の約束で決まる」[論文851]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/851
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 嗅ぎ分けられる数は、受容体の数ではなく読み方の約束で決まる [論文851]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/851
Yamagishi, Y. (2026). How Many Odours Can Be Told Apart Is Set Not by the Number of Receptors but by the Rule for Reading Them [Paper 851]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/851
@misc{yamagishi2026yoi851,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {How Many Odours Can Be Told Apart Is Set Not by the Number of Receptors but by the Rule for Reading Them},
year = {2026},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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