要旨
分子が数年で入れ替わるなら、足した分も数年で消える、と思いやすい。本稿は、二つの箱をつないだ模型で、分子が居る時間と余分が消える時間が別の量であることを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、一つの分子が大気に居る平均の時間は $4.000000$ 年である。大気から出ていく割合が毎年 $0.25$ なら、大気の量を出ていく流れで割った値がそれである(第1節)。
第二に、これが本稿の芯である。足した余分は、分子の滞在から見込むよりずっと長く残る。$20$ 年後に閉じた二つの箱で $\mathbf{0.250954}$ 残り、分子の滞在だけから見込む $6.737947\times10^{-3}$ の $\mathbf{37.244946}$ 倍である(第2節)。
第三に、釣り合いを超える分は分子の滞在より速く減るが、その先は減らない。余分は時定数 $3.000000$ 年で釣り合いの $0.250000$ に近づき、$100$ 年後も $0.250000$ である。相手の箱が満ちると、出ていった余分が戻ってくる(第3節)。
第四に、出口があっても、最後の減りは遅い。相手の箱から毎年 $0.002$ の割合で抜けると、$100$ 年後の余分は $\mathbf{0.217171}$ で、残りの減りの時定数は $\mathbf{667.671180}$ 年、分子の滞在の $\mathbf{166.917795}$ 倍である(第3節)。
第五に、数は二通りに出して突き合わせた。ルンゲ=クッタで回した数値は、閉じた箱では厳密な解と、出口つきでは固有値の解と、どれも差 $10^{-13}$ 未満で一致した(第2節・第3節)。
第六に、分離子は、分子の出入りを問うか、余分の行き先を問うかである。分子の出入りは出ていく割合だけで決まり、余分の行き先は相手の箱の大きさと出口で決まる(第4節)。
キーワード:滞留時間、箱モデル、釣り合い、時定数、固有値、模型。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。一次の速さでつないだ箱、滞在時間が量を流れで割った値であること、分子の滞在時間と足した余分が戻る時間が違うことは、いずれも大気の化学で知られた区別である。実在の値を主張しない。出ていく割合 $0.25$、相手の箱の大きさ $3$ 倍、出口 $0.002$ は模型の値で、どの気体にもどの大気や海にも対応しない。化学を入れない。反応による消失、温度や溶け方の変化は入れない。箱を増やさない。相手を一つの箱とし、その中の混ざり方は扱わない。気候を論じない。余分がどんな影響を持つか、どう減らすべきかは扱わない。既刊との関係:論文549 は、滞在時間が $5.8$ 倍変わっても「中にいる数 $=$ 到着率 $\times$ 滞在時間」は動かないことを示した。本稿はその隣に置く。分子の滞在 $4.000000$ 年はその関係から出るが、足した余分の減り方はその関係からは出ず、相手の箱が決める。加えたのは、分子の滞在と余分の残りを同じ模型で並べたこと、$20$ 年後に見込みの $37.244946$ 倍残ると測ったこと、出口つきの遅い時定数 $667.671180$ 年を固有値で出して数値と突き合わせたこと、分離子を「分子の出入りか、余分の行き先か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:大気の余分を $A$、相手の箱の余分を $O$ とする。大気から出ていく割合を $k_1$、相手の箱から戻る割合を $k_2$、相手の箱から抜ける出口の割合を $k_s$ として、次のようにつなぐ。
$$\frac{dA}{dt}=-k_1A+k_2O,\qquad
\frac{dO}{dt}=k_1A-(k_2+k_s)O,\qquad
\tau_{\text{分子}}=\frac{1}{k_1}$$
$k_1=0.25$ 毎年、$k_2=k_1/3$(釣り合いで相手の箱が大気の $3$ 倍を抱える)とし、出口は $k_s=0$(閉じた箱)と $k_s=0.002$ 毎年の二通りにした。はじめに大気へ余分 $1$ を足し、相手の箱は $0$ とした。数値はルンゲ=クッタ(刻み $0.001$ 年・合計 $248000$ 歩)で出した。
問い:分子が $4$ 年で入れ替わるなら、足した余分も $4$ 年ほどで消えるのか。
2. 分子の滞在と余分の残り
計算 2.1:大気に残る余分を、閉じた箱、出口つき、分子の滞在だけから見込む値 $e^{-k_1t}$ で比べた。
| 年 | 閉じた二つの箱 | 出口つき | 分子の滞在だけ |
|---|---|---|---|
| $4$ | $0.447698$ | $0.447460$ | $3.678794\times10^{-1}$ |
| $20$ | $0.250954$ | $0.245758$ | $6.737947\times10^{-3}$ |
| $100$ | $0.250000$ | $0.217171$ | $1.388794\times10^{-11}$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。足した余分は、分子の滞在から見込むよりずっと長く残る。$20$ 年後、閉じた箱の余分は $0.250954$ で、分子の滞在だけから見込む $6.737947\times10^{-3}$ の $37.244946$ 倍である。分子は $4$ 年で入れ替わっているが、出ていった余分の一部が相手の箱から戻ってくる。
観察 2.3 数値は厳密な解と合う。閉じた箱の余分は $1/4+(3/4)e^{-(k_1+k_2)t}$ と書け、数値との差は三つの時刻とも $10^{-13}$ 未満だった。二つの箱の合計は $1.000000$ のまま保たれた。
3. 釣り合いと時定数
計算 3.1:閉じた箱の釣り合いと時定数、出口つきの二つの時定数を出した。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 分子の滞在 $1/k_1$ | $4.000000$ 年 |
| 閉じた箱:釣り合いで大気に残る割合 | $0.250000$ |
| 閉じた箱:時定数 $1/(k_1+k_2)$ | $3.000000$ 年 |
| 出口つき:速い時定数 | $2.995486$ 年 |
| 出口つき:遅い時定数 | $667.671180$ 年 |
| 遅い時定数 $\div$ 分子の滞在 | $166.917795$ |
| 遅いほうの係数 | $0.252260$ |
観察 3.2 釣り合いを超える分は分子の滞在より速く減るが、その先は減らない。時定数 $3.000000$ 年は分子の滞在 $4.000000$ 年より短い。だが減るのは釣り合いを超える分だけで、閉じた箱の余分は $0.250000$ を割らない。遅いほうの固有値は出口を $0$ にすると $0$ になり、余分は消えない。
観察 3.3 出口があっても、最後の減りは遅い。相手の箱から毎年 $0.002$ 抜けると、余分のうち係数 $0.252260$ の分が時定数 $667.671180$ 年で減る。分子の滞在の $166.917795$ 倍である。固有値から書いた解と数値の差は三つの時刻とも $2\times10^{-15}$ 未満で、$100$ 年後の余分は $0.217171$ だった。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、分子の出入りを問うか、余分の行き先を問うかである。分子の出入りは大気から出ていく割合 $k_1$ だけで決まる。余分の行き先は、相手の箱がどれだけ抱えられるか($k_2$)と、そこからどれだけ抜けるか($k_s$)で決まる。交換は分子を入れ替えるが、余分を消さない。
観察 4.2 論文549 の隣に置く。549 は、滞在時間が $5.8$ 倍変わっても「中にいる数 $=$ 到着率 $\times$ 滞在時間」が動かないことを示した。分子の滞在 $4.000000$ 年は、その関係で大気の量を出ていく流れで割った値である。足した余分の減り方はその関係からは出ず、戻ってくる流れを持つ相手の箱が決める。
観察 4.3 言わないこと。実在の気体、大気、海の値も、化学反応や温度による変化も、余分の影響や減らし方も扱わない。示したのは、分子が居る時間と足した余分が消える時間が、同じ模型の中で別の量だということである。
5. 点呼と結び
- 分子の滞在 $1/k_1=4.000000$ 年(計算 3.1):量を流れで割った値。
- $20$ 年後の余分 $\mathbf{0.250954}$(計算 2.1):閉じた箱。
- 見込みの $\mathbf{37.244946}$ 倍(観察 2.2):本稿の芯。
- 時定数 $3.000000$ 年(計算 3.1):分子の滞在より短い。
- 釣り合いの $0.250000$ を割らない(観察 3.2):戻ってくる。
- 出口つきで $100$ 年後 $\mathbf{0.217171}$(計算 2.1):出口 $0.002$。
- 遅い時定数 $\mathbf{667.671180}$ 年(計算 3.1):固有値で出した。
- 分子の滞在の $\mathbf{166.917795}$ 倍(観察 3.3):最後の減り。
- 数値と解の差 $10^{-13}$ 未満(観察 2.3・3.3):別々に出した。
- 分子の出入りか、余分の行き先か(観察 4.1):分離子・論文549。
結び:一つの分子が空に居る時間と、足した分が消える時間は別である。大気から毎年 $0.25$ の割合で出ていくとき、一つの分子が居る平均の時間は $4.000000$ 年だが、足した余分は $20$ 年後も $0.250954$ 残り、分子の滞在だけから見込む値の $37.244946$ 倍である。出ていった余分の一部が、満ちた相手の箱から戻ってくるからである。余分は時定数 $3.000000$ 年で釣り合いの $0.250000$ に近づき、出口が無ければそこから減らない。出口 $0.002$ を付けても、残りの減りの時定数は $667.671180$ 年で、分子の滞在の $166.917795$ 倍である。既刊との位置:論文549 の「中にいる数 $=$ 到着率 $\times$ 滞在時間」から出る分子の滞在の隣に、その関係からは出ない余分の減り方を置いた。正直に言えば、割合と箱の大きさは模型の値で、化学反応や温度による変化、箱の中の混ざり方は入れていない。
参考文献
- Jacob, D. J. (1999). Introduction to Atmospheric Chemistry. Princeton University Press.
- Seinfeld, J. H., & Pandis, S. N. (2006). Atmospheric Chemistry and Physics: From Air Pollution to Climate Change (2nd ed.). Wiley.
- 山岸勇輝 (2026). 『滞在時間が $5.8$ 倍変わっても、掛け算の関係は動かない』[論文549]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/549 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014185
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「一つの分子が空に居る時間と、足した分が消える時間は別である」[論文865]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/865
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 一つの分子が空に居る時間と、足した分が消える時間は別である [論文865]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/865
Yamagishi, Y. (2026). The Time One Molecule Spends in the Air Is Not the Time an Added Excess Takes to Vanish [Paper 865]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/865
@misc{yamagishi2026yoi865,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Time One Molecule Spends in the Air Is Not the Time an Added Excess Takes to Vanish},
year = {2026},
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note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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