要旨
回転するブラックホールからは、回っている分だけエネルギーを取り出せる、と思いやすい。本稿は、取り出せるエネルギーの上限が回転の度合いとともにどう増えるかを、既約質量の式と地平面の面積の二通りで数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、取り出せる上限は、質量から既約質量を引いた分である。既約質量は質量の $\sqrt{(1+\sqrt{1-a^2})/2}$ 倍で、$a=0.5$ で $0.965926$、$a=1$ で $0.707107$ である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。最も速く回っていても、取り出せるのは質量の $0.292893$ までである。$a=1$ で取り出せる割合は $\mathbf{0.292893}$ で、$1-1/\sqrt{2}$ と差 $10^{-12}$ 未満で一致した(第2節)。
第三に、ゆっくり回るときは、回転の二乗で増え始める。取り出せる割合は $a=0.1$ で $0.001254$、$a^2/8$ との比は $\mathbf{1.003142}$ で、回転が速くなるほど比は大きくなり $a=1$ で $2.343146$ になる(第3節)。
第四に、半分の速さでは、ずっと少ない。$a=0.5$ で取り出せる割合は $0.034074$ で、$a=1$ の $\mathbf{8.595754}$ 分の $1$ しかない(第3節)。
第五に、既約質量は地平面の面積で決まる。地平面の面積から $\sqrt{A/16\pi}$ で出し直した既約質量は、八つの回転の度合いすべてで式と $10^{-12}$ 以内で一致した(第2節)。
第六に、分離子は、回転の速さを問うか、地平面の面積を問うかである。取り出せる上限を決めるのは、減ることのない地平面の面積である(第4節)。
キーワード:ペンローズ過程、カー・ブラックホール、既約質量、地平面の面積、回転のエネルギー。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。回転するブラックホールからエネルギーを取り出すペンローズ過程、既約質量の式、地平面の面積が古典的な過程で減らないことは、いずれも一般相対論で既知である。単位を揃えた。重力定数と光の速さを $1$ とし、回転の度合い $a$ は角運動量を質量の二乗で割った値とした。観測を主張しない。実在の天体がどれだけ回っているか、実際に取り出されているかは扱わない。一般相対論の外に入らない。量子の効果や、ほかの理論による修正は入れない。一回の分裂の効率に入らない。一つの粒子を二つに割って取り出すときの効率の上限は扱わない。ここで数えるのは、取り出せる総量の上限である。既刊との関係:論文73 は、ブラックホール・エントロピーの「$1/4$」を立体角 $4\pi$・オイラー標数・等分配で錨づけた。本稿はその隣に置く。あちらは地平面の面積をエントロピーとして読んだ。ここではその面積が減らないことが、取り出せるエネルギーの天井を決めることを数える。加えたのは、八つの回転の度合いで取り出せる割合を並べたこと、最も速い回転で $0.292893$ になると確かめたこと、ゆっくり回るときの $a^2/8$ との比と、半分の速さとの比 $8.595754$ を測ったこと、分離子を「回転の速さか、地平面の面積か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:質量 $M$、回転の度合い $a$($0\le a\le1$)のブラックホールを考える(重力定数と光の速さは $1$)。回転のエネルギーをすべて取り出しても残る質量を既約質量 $M_{\text{irr}}$ とし、地平面の半径を $r_+$、面積を $A$ とする。
$$\frac{M_{\text{irr}}}{M}=\sqrt{\frac{1+\sqrt{1-a^{2}}}{2}},\qquad
r_+=M\bigl(1+\sqrt{1-a^{2}}\bigr),\qquad
A=8\pi M r_+,\qquad
M_{\text{irr}}=\sqrt{\frac{A}{16\pi}}$$
取り出せる割合を $1-M_{\text{irr}}/M$ とする。既約質量は、回転の度合いの式と地平面の面積の式の二通りで出した。
問い:回転するブラックホールから、どれだけのエネルギーを取り出せるのか。
2. 取り出せる割合
計算 2.1:回転の度合いを変えて、既約質量と取り出せる割合を出した。
| $a$ | $M_{\text{irr}}/M$ | 取り出せる割合 | $a^2/8$ との比 |
|---|---|---|---|
| $0.1$ | $0.998746$ | $0.001254$ | $1.003142$ |
| $0.3$ | $0.988418$ | $0.011582$ | $1.029535$ |
| $0.5$ | $0.965926$ | $0.034074$ | $1.090374$ |
| $0.7$ | $0.925782$ | $0.074218$ | $1.211730$ |
| $0.9$ | $0.847316$ | $0.152684$ | $1.507987$ |
| $0.99$ | $0.755337$ | $0.244663$ | $1.997047$ |
| $0.998$ | $0.729114$ | $0.270886$ | $2.175784$ |
| $1$ | $0.707107$ | $0.292893$ | $2.343146$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。最も速く回っていても、取り出せるのは質量の $0.292893$ までである。$a=1$ で既約質量は $0.707107$ で、取り出せる割合 $0.292893$ は $1-1/\sqrt{2}$ と差 $10^{-12}$ 未満で一致した。残りの $0.707107$ は、どんな過程でも回転からは取り出せない。
観察 2.3 既約質量は地平面の面積で決まる。面積から $\sqrt{A/16\pi}$ で出し直した既約質量は、八つの回転の度合いすべてで式と $10^{-12}$ 以内で一致した。既約質量は面積の平方根に比例するので、面積が減らなければ既約質量も減らない。
3. 回転の度合いと取り出せる量
計算 3.1:取り出せる割合を $a^2/8$ と比べ、半分の速さと最も速い回転を比べた。
観察 3.2 ゆっくり回るときは、回転の二乗で増え始める。$a=0.1$ で取り出せる割合と $a^2/8$ の比は $1.003142$ である。回転が速くなるほど比は $1.090374$、$1.507987$、$2.343146$ と大きくなり、二乗より速く増える。
観察 3.3 半分の速さでは、ずっと少ない。$a=0.5$ で取り出せる割合は $0.034074$ で、$a=1$ の $0.292893$ の $8.595754$ 分の $1$ である。回転の度合いを半分にすると、取り出せる量は半分ではなく $8.595754$ 分の $1$ まで減る。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、回転の速さを問うか、地平面の面積を問うかである。回転の速さを問えば、回っている分だけ取り出せるように見える。地平面の面積を問えば、取り出すあいだも面積は減らないので、既約質量より下には質量を減らせない。上限を決めているのは面積のほうである。
観察 4.2 論文73 の隣に置く。73 は、ブラックホール・エントロピーの「$1/4$」を地平面の面積に錨づけた。あちらは面積をエントロピーとして読んだ。ここでは同じ面積が減らないことを、取り出せるエネルギーの天井として数えた。
観察 4.3 言わないこと。実在の天体の回転や観測も、量子の効果も、一回の分裂で取り出す効率も扱わない。示したのは、取り出せる割合が回転の二乗で増え始め、最も速く回っても $0.292893$ までだということである。
5. 点呼と結び
- 既約質量の式(第1節):回転を使い切っても残る質量。
- $a=1$ で既約質量 $0.707107$(計算 2.1):$1/\sqrt2$。
- 取り出せる上限 $\mathbf{0.292893}$(観察 2.2):本稿の芯。
- 面積から出し直して一致(観察 2.3):$10^{-12}$ 以内。
- $a=0.1$ で $0.001254$(計算 2.1):ほとんど取り出せない。
- $a^2/8$ との比 $\mathbf{1.003142}$(観察 3.2):二乗で増え始める。
- $a=1$ で比 $2.343146$(計算 2.1):二乗より速い。
- $a=0.5$ で $0.034074$(計算 2.1):半分の速さ。
- $\mathbf{8.595754}$ 分の $1$(観察 3.3):最も速い回転と比べて。
- 回転の速さか、地平面の面積か(観察 4.1):分離子・論文73。
結び:回転するブラックホールから取り出せるエネルギーは回転の二乗で増え始め、最も速く回っていても質量の $0.292893$ までである。既約質量は質量の $\sqrt{(1+\sqrt{1-a^2})/2}$ 倍で、$a=1$ で $0.707107$ が残り、取り出せるのは $0.292893$ である。既約質量は地平面の面積の平方根に比例し、面積は取り出すあいだも減らないからである。ゆっくり回るときの割合は $a^2/8$ に近く($a=0.1$ で比 $1.003142$)、半分の速さの $a=0.5$ からは $a=1$ の $8.595754$ 分の $1$ しか取り出せない。回っている分だけ取り出せるのではなく、面積が決める天井の下でしか取り出せない。既刊との位置:論文73 が錨づけた地平面の面積の隣に、その面積が減らないことが取り出せる量の天井になることを置いた。正直に言えば、式はすべて一般相対論で既知で、実在の天体や量子の効果は扱っていない。
参考文献
- Christodoulou, D. (1970). Reversible and Irreversible Transformations in Black-Hole Physics. Physical Review Letters.
- Misner, C. W., Thorne, K. S., & Wheeler, J. A. (1973). Gravitation. W. H. Freeman.
- Penrose, R., & Floyd, R. M. (1971). Extraction of Rotational Energy from a Black Hole. Nature Physical Science.
- 山岸勇輝 (2026). 『ブラックホール・エントロピーの「$1/4$」』[論文73]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/73 ・ DOI: 10.5281/zenodo.21666086
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「回るブラックホールから取り出せるエネルギーは回転の二乗で増え始め、最大で質量の 0.292893」[論文887]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/887
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 回るブラックホールから取り出せるエネルギーは回転の二乗で増え始め、最大で質量の 0.292893 [論文887]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/887
Yamagishi, Y. (2026). Extractable Energy from a Rotating Black Hole Starts to Grow as the Square of the Spin and Reaches at Most 0.292893 of the Mass [Paper 887]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/887
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Extractable Energy from a Rotating Black Hole Starts to Grow as the Square of the Spin and Reaches at Most 0.292893 of the Mass},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/887},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
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