要旨
$0.9$ パーセントの食塩水は、血液と同じ浸透圧を持つ液として使われる。本稿は、その浸透圧濃度を溶けた粒の数で数えた場合と、浸透係数を掛けた場合とで血漿の代表値と比べ、凝固点降下でも確かめ、同じ濃さのブドウ糖と尿素の溶液と並べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、粒の数で数えると、食塩水は血漿より六パーセント濃い。$0.9$ w/v パーセントの NaCl は $0.153996$ mol/L で、ナトリウムと塩化物の二つの粒に分かれるとすると $\mathbf{307.9924}$ mOsm/L、血漿 $290$ mOsm/kg(代表値)の $\mathbf{1.062043}$ 倍だった(第2節)。
第二に、浸透係数を入れると、ほぼ等しくなる。NaCl の浸透係数 $0.93$(代表値)を掛けると $286.4329$ mOsm/L で、血漿の $\mathbf{0.987700}$ 倍だった(第2節)。
第三に、凝固点降下で見ても同じである。血漿の凝固点降下 $0.54$ K(代表値)を $1.86$ で割ると $0.290323$ Osm/kg、食塩水の凝固点降下は粒の数で $0.572866$ K、浸透係数つきで $0.532765$ K だった(第3節)。
第四に、同じ浸透圧濃度でも、膜を通る溶質は細胞の水を動かさない。$1.8$ パーセントの尿素は $299.7203$ mOsm/L で食塩水の粒の数の $0.973142$ 倍、$5$ パーセントのブドウ糖は $277.5372$ mOsm/L だが、膜を通る(取り込まれる)溶質として数えると、細胞の水を動かす分は $0$ である(第4節)。
第五に、分離子は、溶質を粒の数で数えるか、膜を通らずに水を動かす働きで数えるかである。粒の数は六パーセント多く数え、膜を通る溶質まで数える。水を動かす働きで数えると、食塩水は血漿とほぼ等しく、尿素は $0$ になる(第5節)。
キーワード:生理食塩水、浸透圧濃度、浸透係数、凝固点降下、等張、膜を通る溶質。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。浸透圧濃度、浸透係数、凝固点降下の式、膜を通る溶質が張りを作らないことは、いずれも標準的である。医療の使い方を述べない。どの液をいつ使うべきかは扱わない。値は代表値である。NaCl の浸透係数 $0.93$、血漿の浸透圧濃度 $290$ mOsm/kg、血漿の凝固点降下 $0.54$ K、水の凝固点降下定数 $1.86$ K kg/mol は代表値で、ブドウ糖と尿素の浸透係数は $1$ と置く。リットルあたりとキログラムあたりを分けない。薄い水溶液なので、mOsm/L と mOsm/kg の違いは入れない。細胞の体積の変化を計算しない。溶血の速さ、膜の透過の速さ、ブドウ糖が取り込まれるまでの時間は扱わない。尿素とブドウ糖は膜を通ると置いた前提で数える。既刊との関係:論文472 の射程注記は、活量係数を入れず理想溶液として扱うと書いた。本稿はその浸透係数の席に座る(先客なし)。論文333 は、浸透圧と凝固点降下の比が一定であることが測定ではなく仮定の帰結であることを示した。ここではその比を使い、凝固点降下で浸透係数の効きを確かめる。加えたのは、食塩水の浸透圧濃度を粒の数と浸透係数つきで血漿と比べたこと、凝固点降下で同じ比べ方をしたこと、同じ浸透圧濃度の尿素とブドウ糖を並べ、膜を通る溶質が細胞の水を動かさないことを数えたこと、分離子を「粒の数か、膜を通らずに水を動かす働きか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:質量濃度 $w$(g/L)・モル質量 $M$ の溶質が $i$ 個の粒に分かれるとき、粒の数で数えた浸透圧濃度と、浸透係数 $\phi$ を掛けた浸透圧濃度、凝固点降下は次のとおりである。
$$c_{\text{粒}}=\frac{i\,w}{M},\qquad c_{\text{働き}}=\phi\,c_{\text{粒}},\qquad \Delta T_f=K_f\,c$$
細胞の水を動かすのは、膜を通らない溶質の分だけである。検算では NaCl($i=2$)・ブドウ糖($i=1$)・尿素($i=1$)の三つを数えた。
問い:$0.9$ パーセントの食塩水は、何を数えると血漿と等しいのか。
2. 粒の数と浸透係数
計算 2.1:$0.9$ w/v パーセントの NaCl。
| 数え方 | 浸透圧濃度(mOsm/L) | 血漿 $290$ との比 |
|---|---|---|
| 粒の数($i=2$) | $307.9924$ | $1.062043$ |
| 浸透係数 $0.93$ つき | $286.4329$ | $0.987700$ |
モル濃度は $0.153996$ mol/L だった。
観察 2.2 粒の数で数えると六パーセント濃く、浸透係数を入れるとほぼ等しい。浸透係数 $0.93$ は、溶けた粒が水を動かす働きが粒の数どおりではなく、その $0.93$ 倍であることを表す。食塩水が血漿とほぼ等しいのは、粒の数ではなく、その働きで数えたときである。
3. 凝固点降下で確かめる
計算 3.1:血漿の凝固点降下 $0.54$ K(代表値)を $K_f=1.86$ で割ると $0.290323$ Osm/kg で、血漿の代表値 $290$ と合った。食塩水の凝固点降下は、粒の数で $0.572866$ K、浸透係数つきで $0.532765$ K だった。
観察 3.2 凝固点降下で見ても、浸透係数つきのほうが血漿に近い。粒の数の $0.572866$ K は血漿の $0.54$ K を上回り、浸透係数つきの $0.532765$ K は少し下回る。浸透圧と凝固点降下の比が一定であることを使えば、どちらで測っても同じ比べ方になる。
4. 膜を通る溶質
計算 4.1:同じ桁の浸透圧濃度を持つ三つの液(ブドウ糖と尿素は浸透係数 $1$)。
| 液 | 浸透圧濃度(mOsm/L) | 膜を通らない溶質の分 |
|---|---|---|
| $0.9$ パーセント NaCl(浸透係数つき) | $286.4329$ | $286.4329$ |
| $1.8$ パーセント尿素 | $299.7203$ | $0$ |
| $5$ パーセントブドウ糖 | $277.5372$ | $0$(取り込まれたあと) |
尿素の浸透圧濃度は食塩水の粒の数の $0.973142$ 倍だった。
観察 4.2 同じ浸透圧濃度でも、膜を通る溶質は細胞の水を動かさない。尿素は膜の両側で同じ濃さになるまで通り抜けるので、液の浸透圧濃度が血漿とほぼ同じでも、細胞の水を引く差は残らない。食塩水が張りを保つのは、ナトリウムと塩化物が膜を通らない溶質として働くからである。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、溶質を粒の数で数えるか、膜を通らずに水を動かす働きで数えるかである。粒の数は $307.9924$ mOsm/L で六パーセント多く、膜を通る尿素まで $299.7203$ として数える。水を動かす働きで数えると、食塩水は $286.4329$ mOsm/L で血漿の $0.987700$ 倍、尿素は $0$ になる。
観察 5.2 言わないこと。医療の使い方、溶血の速さ、細胞の体積の変化、個人の血漿の値は扱わない。示したのは、等しいかどうかが何を数えるかで変わり、粒の数では六パーセント濃く、働きで数えるとほぼ等しいことである。
6. 点呼と結び
- $c_{\text{粒}}=iw/M$・$c_{\text{働き}}=\phi c_{\text{粒}}$(第1節):二つの数え方。
- 粒の数 $\mathbf{307.9924}$ mOsm/L・比 $\mathbf{1.062043}$(計算 2.1):六パーセント濃い。
- 浸透係数つき $286.4329$・比 $\mathbf{0.987700}$(計算 2.1):ほぼ等しい。
- 凝固点降下 $0.572866$・$0.532765$ K(計算 3.1):血漿 $0.54$ K。
- 尿素 $299.7203$・細胞の水を動かす分 $0$(計算 4.1):膜を通る溶質。
- 粒の数か、働きか(観察 5.1):分離子・論文472 の射程注記・論文333。
結び:生理食塩水は粒を数えると六パーセント濃いが、浸透係数を入れると血漿とほぼ等しい。$0.9$ パーセントの食塩水は粒の数で $307.9924$ mOsm/L、血漿の $1.062043$ 倍だった。浸透係数を掛けると $286.4329$ mOsm/L で $0.987700$ 倍になり、凝固点降下でも浸透係数つきのほうが血漿に近かった。同じ浸透圧濃度に近い尿素は、膜を通るので細胞の水を動かさない。分離子は、溶質を粒の数で数えるか、膜を通らずに水を動かす働きで数えるかである。既刊との位置:論文472 が理想溶液として置いた浸透圧に浸透係数を入れ、論文333 の比を使って凝固点降下で確かめた。正直に言えば、どの液を使うべきかは言わない。何を数えると等しいか、そこまでである。
参考文献
- Atkins, P., & de Paula, J. (2006). Physical Chemistry. Oxford University Press.
- Robinson, R. A., & Stokes, R. H. (1959). Electrolyte Solutions. Butterworths.
- 山岸勇輝 (2026). 『浸透圧と凝固点降下の比が一定であることは、測定ではなく仮定の帰結である』[論文333]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/333 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22681740
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ体を保つのに、正反対の向きに働いている二つがある』[論文472]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/472 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733502
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「生理食塩水は粒を数えると六パーセント濃いが、浸透係数を入れると血漿とほぼ等しい」[論文922]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/922
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/922・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 生理食塩水は粒を数えると六パーセント濃いが、浸透係数を入れると血漿とほぼ等しい [論文922]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/922
Yamagishi, Y. (2026). Normal Saline Is Six Percent Too Concentrated by Particle Count, but Nearly Equal to Plasma Once the Osmotic Coefficient Is Included [Paper 922]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/922
@misc{yamagishi2026yoi922,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Normal Saline Is Six Percent Too Concentrated by Particle Count, but Nearly Equal to Plasma Once the Osmotic Coefficient Is Included},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/922},
note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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