【論文939】一回の分裂で得られる割合の式は、落ちてくる粒子がそこまで届くかを問わない

要旨

回るブラックホールのエルゴ球の中で粒子を二つに割り、一方を負のエネルギーで落とすと、もう一方は落とした粒子より多くのエネルギーを持って出てくる。本稿は、赤道面で遠くから静止して落ちた粒子がその折り返しの点で二つの光子に割れる場合について、保存則と光子の条件だけで決まる得の最大と、その粒子が実際にそこまで届く分裂に限った最大を、五つの回転で数値で比べる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、その場の条件だけなら、得の最大は地平面の半径で決まる式に一致する。回転 $a=0.5$・$0.9$・$0.99$・$0.999$ で地平面のすぐ外(百万分の一だけ外)で割ると、得の割合の最大は $0.017638$・$0.090098$・$0.161956$・$0.191810$ で式と一致し、$a=1$ では $0.207012$ で式の $0.207107$ と千分の一以内だった(第2節)。

第二に、その最大に要る粒子は、回転が極限でなければ遠くから届かない。その分裂に要る角運動量を持つ粒子は、$a<1$ の四つでは分裂の点より外に折り返しの点があった。$a=1$ だけが届いた(第2節)。

第三に、届く粒子に限ると、得は式より小さい。半径を探して届く分裂だけを残すと、最大は $a=0.9$ で $0.037231$(式の $\mathbf{0.413223}$ 倍)、$0.99$ で $0.142926$($0.882498$ 倍)、$0.999$ で $0.185693$($0.968106$ 倍)、$a=1$ で $0.207109$($1.000012$ 倍)だった。$a=0.5$ ではこの探し方で見つからなかった(第3節)。

第四に、地平面から離れて割るほど得は減り、エルゴ球の外では得が無い。$a=1$ で割る半径を $1.01$・$1.1$・$1.3$・$1.6$・$1.9$ とすると得は $0.203598$・$0.174200$・$0.120174$・$0.059017$・$0.012989$、エルゴ球の外の $2.1$ では $-0.012050$ だった(第4節)。

第五に、分離子は、分裂の点より外に折り返しの点が有るかである。式はその場の保存則と光子の条件だけを見る。遠くから落ちてくる粒子が途中で押し返されるかは、式の外にある(第5節)。

キーワード:ペンローズ過程、カー・ブラックホール、エルゴ球、折り返しの点、エネルギーの取り出し、一般相対論。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ペンローズ過程、カーのブラックホールのエルゴ球、一回の分裂での得の上限が地平面の半径で決まる式、回転が極限の穴での最大が約 $0.207107$ であることは、いずれも一般相対論で既知である。単位を揃えた。重力定数と光の速さと穴の質量を $1$ とした。分裂の形を限る。赤道面の上で、遠くから静止して落ちた粒子が折り返しの点で二つの光子に割れる場合だけを扱う。投げ込んだ粒子、質量を持つ破片、赤道面の外、多段の分裂は扱わない。実在の天体を扱わない。ジェットや降着円盤の光の出どころとしての役割は論じない。既刊との関係:論文887 の射程注記は、一回の分裂の効率に入らず、一つの粒子を二つに割って取り出すときの効率の上限は扱わないと書いた。本稿はその席に座る(先客なし)。論文887 は、回るブラックホールから取り出せるエネルギーの総量が最大で穴の質量の $0.292893$ であることを示した。ここでは一回の分裂で、落とした粒子のエネルギーに対する得を数える。分母が違うので、二つの数の大小は比べない。加えたのは、その場の条件だけの最大を五つの回転で式と突き合わせたこと、その分裂の粒子が遠くから届くかを確かめたこと、届く分裂に限った最大と式に対する比を出したこと、割る半径とエルゴ球の外での得を並べたこと、分離子を「分裂の点より外に折り返しの点が有るか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:重力定数・光の速さ・穴の質量を $1$ とし、回転を $a$、地平面の半径を $r_+=1+\sqrt{1-a^2}$ とする。赤道面で、遠くから静止して落ちた粒子(エネルギー $E_0=1$・角運動量 $L_0$)が折り返しの点 $r$ で二つの光子に割れ、一方($E_1$)が落ち、もう一方($E_2$)が出ていく。

$$E_1+E_2=1,\qquad L_1+L_2=L_0,\qquad g^{\mu\nu}p_\mu p_\nu=0\ (\text{光子}),\qquad \eta=E_2-1$$

分裂の点では粒子の半径方向の運動量が $0$ になるように $L_0$ を選び、光子はどちらも未来向き(その場で回る観測者から見てエネルギーが正)とする。その場の条件だけで決まる得の最大は、地平面の半径で次の式になることが知られている。

$$\eta_{\max}=\frac{1}{2}\left(\sqrt{\frac{2}{r_+}}-1\right)$$

探し方:届く分裂は、半径を地平面 $+10^{-6}$ から $2.0$ まで $400$ 点(二乗で詰めて)探した。届くかは、分裂の点の外 $1000$ まで $4000$ 点で、半径方向の運動量の二乗が負にならないか(折り返しの点が無いか)で見た。

問い:式の最大は、遠くから落ちてくる粒子で実際に得られるか。

2. その場の条件だけの最大

計算 2.1:地平面から $10^{-6}$ だけ外で割る。

回転 $a$ 地平面 $r_+$ 式の最大 数値の最大 遠くから届くか
$0.5$ $1.866025$ $0.017638$ $0.017638$ 届かない
$0.9$ $1.435890$ $0.090098$ $0.090098$ 届かない
$0.99$ $1.141067$ $0.161956$ $0.161956$ 届かない
$0.999$ $1.044710$ $0.191810$ $0.191810$ 届かない
$1$ $1.000000$ $0.207107$ $0.207012$ 届く

観察 2.2 その場の条件だけなら式の最大に届くが、その分裂に要る粒子は、回転が極限でなければ遠くから届かない。五つの回転で数値の最大は式と $10^{-3}$ 以内で一致した。しかしその $L_0$ を持つ粒子は、$a<1$ の四つでは分裂の点より外に折り返しの点を持ち、途中で押し返される。$a=1$ の出る光子は $E_2=1.207012$、落ちる光子は $E_1=-0.207012$、粒子の角運動量は $L_0=2.000001$ だった。

3. 届く粒子に限った最大

計算 3.1:届く分裂だけを残して、半径を探した最大。

回転 $a$ 届く分裂の最大 そのときの半径 式の最大 式に対する比
$0.5$ 見つからなかった $0.017638$
$0.9$ $0.037231$ $1.732401$ $0.090098$ $\mathbf{0.413223}$
$0.99$ $0.142926$ $1.209616$ $0.161956$ $0.882498$
$0.999$ $0.185693$ $1.063435$ $0.191810$ $0.968106$
$1$ $0.207109$ $1.000007$ $0.207107$ $1.000012$

観察 3.2 届く粒子に限ると、得は式より小さく、回転が極限に近いほど式に近づく。$a=0.9$ では式の $0.413223$ 倍で、$0.99$・$0.999$ では $0.882498$ 倍・$0.968106$ 倍、$a=1$ では $10^{-3}$ 以内で式と一致した。届く分裂の最大は地平面に張り付かず、$a=0.9$ では半径 $1.732401$ で得られた。$a=0.5$ はこの探し方(折り返しの点で割る・半径 $2.0$ まで $400$ 点)では届く分裂が見つからなかった。無いとは言い切らない。

4. 割る半径とエルゴ球の外

計算 4.1:$a=1$ で割る半径を変えた得の最大(その場の条件だけ)。

半径 $r$ $1.01$ $1.1$ $1.3$ $1.6$ $1.9$
得の最大 $0.203598$ $0.174200$ $0.120174$ $0.059017$ $0.012989$

計算 4.2:赤道面の $g_{tt}$ は $r=1.999$・$2$・$2.001$ で $0.000500$・$0$・$-0.000500$ で、$r=2$ がエルゴ球の外縁である。その外の $r=2.1$ では、得の最大は $a=0.9$ でも $a=1$ でも $-0.012050$ だった。

観察 4.3 地平面から離れて割るほど得は減り、エルゴ球の外では得が無い。負のエネルギーの光子がエルゴ球の中でしか作れないことは既知で、数値でも得は外縁に向かって減り、外では負だった。$a=1$ の地平面のすぐ近くは数値が敏感で、$r=1.000001$ では $0.207012$、届く分裂の探索では $r=1.000007$ で $0.207109$ だった。ここでは式との一致を $10^{-3}$ の幅でだけ言う。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、分裂の点より外に折り返しの点が有るかである。式は、分裂の点での保存則と光子の条件と未来向きの条件だけを見る。同じ $L_0$ の粒子が遠くからその点まで来られるかは、分裂の点より外の半径すべてで半径方向の運動量を見なければ分からない。$a=0.9$ ではそれを見ると得が式の $0.413223$ 倍になった。

観察 5.2 言わないこと。投げ込んだ粒子、質量を持つ破片、赤道面の外、多段の分裂、実在の天体は扱わない。示したのは、遠くから静止して落ち折り返しの点で割る形では、その場の式の最大に回転が極限の穴でしか届かなかったことである。

6. 点呼と結び

  1. 保存則・光子の条件・得の割合(第1節):その場の条件。
  2. 五つの回転で数値の最大が式と一致(計算 2.1):その場の条件だけなら届く。
  3. $a<1$ では遠くから届かない(観察 2.2):外に折り返しの点。
  4. $a=0.9$ で式の $\mathbf{0.413223}$ 倍(計算 3.1):届く粒子に限った最大。
  5. 割る半径で減り、$r=2.1$ で $-0.012050$(計算 4.1・4.2):エルゴ球の外では得が無い。
  6. 外に折り返しの点が有るか(観察 5.1):分離子・論文887 の射程注記。

結び:一回の分裂で得られる割合の式は、落ちてくる粒子がそこまで届くかを問わない。その場の保存則と光子の条件だけなら、五つの回転で得の最大は地平面の半径で決まる式と一致した。しかしその分裂に要る粒子は、回転が極限でない四つでは遠くから届かず、届く分裂に限ると $a=0.9$ で得は式の $0.413223$ 倍、$0.99$ で $0.882498$ 倍、$0.999$ で $0.968106$ 倍だった。分離子は、分裂の点より外に折り返しの点が有るかである。既刊との位置:論文887 が数えた取り出せる総量とは分母が違う、一回の分裂の得を、届くかどうかで分けて数えた。正直に言えば、投げ込む粒子や多段の分裂では答が変わりうる。遠くから静止して落ち折り返しの点で割る形で、式と届く分裂がどれだけ離れるか、そこまでである。

参考文献

  1. Bardeen, J. M., Press, W. H., & Teukolsky, S. A. (1972). Rotating black holes: locally nonrotating frames, energy extraction, and scalar synchrotron radiation. The Astrophysical Journal.
  2. Chandrasekhar, S. (1983). The Mathematical Theory of Black Holes. Oxford University Press.
  3. Penrose, R., & Floyd, R. M. (1971). Extraction of rotational energy from a black hole. Nature Physical Science.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『回るブラックホールから取り出せるエネルギーは回転の二乗で増え始め、最大で質量の 0.292893』[論文887]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/887

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「一回の分裂で得られる割合の式は、落ちてくる粒子がそこまで届くかを問わない」[論文939]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/939

YOI 939第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 一回の分裂で得られる割合の式は、落ちてくる粒子がそこまで届くかを問わない [論文939]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/939

Yamagishi, Y. (2026). The Formula for the Gain in One Split Does Not Ask Whether the Falling Particle Can Get There [Paper 939]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/939

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