【論文502】有限だから転移しないのと、次元が足りないから転移しないのは、別である

要旨

相転移が無いのは系が有限だからだと言われる。本稿が示すのは、熱力学極限を取っても転移しない場合があることである。一次元イジングがそれで、跳びは $\mathbf{0.510568}$ にとどまる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$n=1024$ の自由エネルギーが閉じた式に $\mathbf{-1.626523375036}$ で一致する(第2節)。

第二に、$n=4$ ではまだ $7.782\times10^{-2}$ 離れている。検査が $n$ に反応する(第2節)。

第三に、有限の $n=64$ では二階微分が跳ばない。最大の跳びは $\mathbf{0.282856}$ である(第3節)。

第四に、これが本稿の芯である。熱力学極限でも跳ばない。$n\to\infty$ の閉じた式でも最大の跳びは $\mathbf{0.510568}$ である(第3節)。

第五に、同じ検査を折れ線に当てると $\mathbf{2.000\times10^{4}}$ 跳ぶ、検査は非解析性に反応している(第3節)。

第六に、分離子は「足りないのが大きさか、次元か」である(第4節)。

キーワード:相転移、一次元イジング模型、有限系、分配関数、リー・ヤンの定理。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。一次元イジングに相転移が無いことも、有限系の分配関数が解析的であることも標準的である。相転移の理論を書かない。臨界指数、くりこみ群、ヤン=リーの零点の分布は主題ではない。自由エネルギーの二階微分だけを見る。二次元を計算していない。オンサーガーの厳密解は使っておらず、二次元で跳ぶことは本稿の数では示していない。数値微分の精度を主張しない。刻み $10^{-4}$ の差分であり、真の二階微分ではない。比べているのは同じ刻みで測った値どうしである。折れ線は物理ではない。$-|\beta-1|$ は検査が反応することを見るための対照であって、模型ではない。既刊との関係:論文154 は「相転移は熱力学極限でだけ起きる」が二つの極限の非交換だと示した。本稿はその「だけ」が必要条件であって十分条件でないことを、数で示す。論文245 は二つの極限が順序を書くまで答を持たないと示した。ここでは順序を書いても、次元が足りなければ跳ばない。論文271 は平均場が次元を見ないと示した。本稿の側では、次元が答そのものを決めている。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、$n=4$ から $1024$ まで自由エネルギーを出したこと、有限の跳びを $0.282856$ と測ったこと、極限でも $0.510568$ にとどまることを示したこと、対照の折れ線で $2.000\times10^{4}$ を出したこと、分離子を大きさと次元に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:一次元イジング模型(周期境界・外場なし)の分配関数は、転送行列の固有値 $\lambda_{1}=2\cosh\beta$、$\lambda_{2}=2\sinh\beta$ を用いて $Z=\lambda_{1}^{n}+\lambda_{2}^{n}$ である。一サイトあたりの自由エネルギーを

$$f(n,\beta)=-\frac{1}{n\beta}\ln Z
=-\frac{1}{n\beta}\left[n\ln\lambda_{1}+\ln\left(1+(\lambda_{2}/\lambda_{1})^{n}\right)\right]$$

と書く。右の形で計算する。$\lambda^{n}$ を直に作ると桁があふれるからである。$n\to\infty$ では $f\to-\ln(2\cosh\beta)/\beta$ になる。

観察 1.1 相転移が無いのは系が有限だからだと言われる。有限個の項の和は多項式で、どこでも解析的、だから極限を取れば転移する、という像である。

観察 1.2 だが極限を取ることは、跳ぶことを保証しない。解析的でなくなりうる、というだけ、実際に跳ぶかは別の問題である。

問い:極限を取れば跳ぶのか。

2. 有限系を測る

計算 2.1:$f(n,\beta)$ を $n$ ごとに出す。

$n$ $\beta=0.5$ $\beta=2.0$
$4$ $-1.648821002$ $-1.086894756$
$16$ $-1.626523916$ $-1.022900335$
$64$ $-1.626523375$ $-1.009790254$
$\to\infty$(閉じた式) $\mathbf{-1.626523375}$ $\mathbf{-1.009074964}$

観察 2.2 $n$ を上げると閉じた式に寄る。$n=1024$、$\beta=0.5$ で $-1.626523375036$ 対 $-1.626523375036$、一致する。

観察 2.3 $n=4$ ではまだ離れている。差 $7.782\times10^{-2}$、検査が $n$ に反応しており、収束を見ていることの確認になる。

観察 2.4 寄り方は $\beta$ に依る。$\beta=0.5$ では $n=16$ で $6$ 桁合うが、$\beta=2.0$ では $n=64$ でも $3$ 桁、低温側のほうが遅い。

3. 極限を取っても、跳ばない

計算 3.1:$\beta$ について二階の差分を取る(刻み $10^{-4}$)。

対象 二階差分($\beta=0.90$ から $1.10$)
$n=64$ $-1.661210, -1.378354, -1.150643, -0.965664, -0.814208$
$n\to\infty$ $-1.661210, -1.150642, -0.814202$
折れ線 $-|\beta-1|$ $0, -2.000\times10^{4}, 0$

観察 3.2 有限の $n=64$ では跳ばない。最大の跳び $0.282856$、値そのものと同じ桁で、滑らかである。

観察 3.3 熱力学極限でも跳ばない。最大の跳び $0.510568$、$n$ を無限にしたのに、有限のときと同じ桁のままである。

観察 3.4 同じ検査が、折れ線には反応する。$2.000\times10^{4}$、一次元イジングの $0.510568$ より $4$ 桁大きい。検査は非解析性を拾う。

観察 3.5 だから「有限だから跳ばない」は、この場合の理由ではない。極限を取っても跳ばない。理由は別のところにある。

観察 3.6 その別のところが次元である。一次元では、有限の温度で秩序が立たない。境界一つを作る代価が有限なので、いくらでも入る。

4. 分離子

分離子:足りないのが系の大きさか、空間の次元か。

観察 4.1 大きさが足りないなら、極限で跳ぶはずである。$n\to\infty$、だが $0.510568$ にとどまった。

観察 4.2 次元が足りないなら、極限でも跳ばない。一次元、実際に跳ばなかった。

観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「相転移が無い」と言える。一方は極限を取れば消える理由、一方は取っても消えない理由である。

観察 4.4 論文154 が言ったのは前者の側である。相転移は熱力学極限でだけ起きる。これは必要条件であって、十分条件ではない。本稿はその差を数で出した。

観察 4.5 論文245 とも隣り合う。二つの極限は順序を書くまで答を持たない。ここでは順序を書いても、次元が足りなければ答は「跳ばない」である。

観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「模型に相転移が出ない」という報告が来たとき、系が小さいのか、次元が足りないのか、相互作用が短距離すぎるのかで、直す先が違う。

観察 4.7 正直に言えば、二次元を計算していない。一次元で跳ばないことは示したが、二次元で跳ぶことは示していない。オンサーガーの厳密解を使えば示せるはずだが、本稿の数には入っていない。だから「次元が上がれば跳ぶ」までは、ここでは主張していない。

5. 点呼と結び

  1. $n=1024$ が閉じた式と一致(観察 2.2):$-1.626523375036$。
  2. $n=4$ では差 $7.782\times10^{-2}$(観察 2.3):検査が $n$ に反応。
  3. 寄り方は $\beta$ に依る(観察 2.4):低温側が遅い。
  4. $n=64$ の最大の跳び $0.282856$(計算 3.1):滑らか。
  5. 極限でも $0.510568$(観察 3.3):本稿の芯。
  6. 折れ線では $2.000\times10^{4}$(観察 3.4):$4$ 桁大きい。
  7. 「有限だから」ではない(観察 3.5):理由は別。
  8. 理由は次元である(観察 3.6):境界の代価が有限。
  9. 分離子は大きさか次元か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. 二次元は計算していない(観察 4.7):跳ぶとは主張しない。

結び:相転移が無いのは系が有限だからだと言われる。有限個の項の和は多項式でどこでも解析的だから、極限を取れば転移する、という像である。だが極限を取ることは跳ぶことを保証しない。解析的でなくなりうるというだけで、実際に跳ぶかは別の問題である。有限系を測る。一次元イジングの一サイトあたり自由エネルギーは、$\beta=0.5$ で $n=4$ が $-1.648821002$、$n=16$ が $-1.626523916$、$n=64$ が $-1.626523375$、閉じた式が $\mathbf{-1.626523375}$ である。$n=1024$ では $-1.626523375036$ 対 $-1.626523375036$ で一致する。$n=4$ ではまだ $7.782\times10^{-2}$ 離れており、検査が $n$ に反応していることの確認になる。寄り方は $\beta$ に依り、$\beta=0.5$ では $n=16$ で $6$ 桁合うのに、$\beta=2.0$ では $n=64$ でも $3$ 桁である。極限を取っても、跳ばない。$\beta$ について刻み $10^{-4}$ の二階差分を取ると、$n=64$ では $\beta=0.90$ から $1.10$ にかけて $-1.661210$ から $-0.814208$ へ、最大の跳びは $\mathbf{0.282856}$ で滑らかである。熱力学極限の閉じた式でも $-1.661210$ から $-0.814202$ へ、最大の跳びは $\mathbf{0.510568}$、$n$ を無限にしたのに、有限のときと同じ桁のままである。同じ検査を折れ線 $-|\beta-1|$ に当てると $\mathbf{2.000\times10^{4}}$ 跳ぶ。一次元イジングの $0.510568$ より $4$ 桁大きく、検査は非解析性を拾っている。だから「有限だから跳ばない」は、この場合の理由ではない。その別のところが次元で、一次元では境界一つを作る代価が有限なので、いくらでも入り、有限の温度で秩序が立たない。分けているものは一つ、足りないのが系の大きさか、空間の次元か。大きさが足りないなら極限で跳ぶはずだが、$0.510568$ にとどまった。次元が足りないなら極限でも跳ばず、実際に跳ばなかった。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「相転移が無い」と言えるが、一方は極限を取れば消える理由、一方は取っても消えない理由である。論文154 が言ったのは前者の側で、相転移は熱力学極限でだけ起きるという言明である。これは必要条件であって十分条件ではなく、本稿はその差を数で出した。論文245 とも隣り合い、二つの極限は順序を書くまで答を持たないが、ここでは順序を書いても、次元が足りなければ答は「跳ばない」である。これは論文481 でいう分離子の一本で、「模型に相転移が出ない」という報告が来たとき、系が小さいのか、次元が足りないのか、相互作用が短距離すぎるのかで直す先が違う。正直に言えば、二次元を計算していない。一次元で跳ばないことは示したが、二次元で跳ぶことは示しておらず、オンサーガーの厳密解を使えば示せるはずだが本稿の数には入っていない。だから「次元が上がれば跳ぶ」までは、ここでは主張していない。

参考文献

  1. Ising, E. (1925). Beitrag zur Theorie des Ferromagnetismus. Zeitschrift für Physik.
  2. Onsager, L. (1944). Crystal Statistics. I. A Two-Dimensional Model with an Order-Disorder Transition. Physical Review.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『順序を書かない極限は、量ではない』[論文154]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22084647
  4. 山岸勇輝 (2026). 『二つの極限は、順序を書くまで答を持たない』[論文245]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22159739
  5. 山岸勇輝 (2026). 『平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる』[論文271]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169925
  6. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
  8. Yang, C. N., & Lee, T. D. (1952). Statistical Theory of Equations of State and Phase Transitions. I. Physical Review.

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「有限だから転移しないのと、次元が足りないから転移しないのは、別である」[論文502]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22861634

YOI 502第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/502・DOI 10.5281/zenodo.22861634・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 有限だから転移しないのと、次元が足りないから転移しないのは、別である [論文502]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/502 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22861634

Yamagishi, Y. (2026). Failing to Have a Transition for Want of Size Is Not the Same as Failing for Want of Dimension [Paper 502]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/502; DOI: 10.5281/zenodo.22861634

@misc{yamagishi2026yoi502,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Failing to Have a Transition for Want of Size Is Not the Same as Failing for Want of Dimension},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/502},
  doi = {10.5281/zenodo.22861634},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
8180fc400f3dffc2abfab116076c72a89ac6e26bebc4f72aeed44d10ed425b60 yamagishi_yoi502_v1_jp.pdf
3b0c79c7911ffbc45389728ad0ec8feb9c48f8a9ac805b4d9756338051f4760a yamagishi_yoi502_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。