【論文979】幅の違う二つの出口では、近いほうへ向かう決まりは人が多いほど遅れる

要旨

出口を広げて避難が速くなるのは人数が多いときだけで、少ないうちは歩く距離が時間を決める(論文895)。そこでは、人がどちらの出口へ向かうかという出口の選び方を入れなかった。本稿は、895 の歩く速さ 1.3 m/s と出口の流れ 1.3 人/(m s) で、長さ 100 m の通路の両端に出口を置き、近いほうの出口へ向かう決まりと、境の位置を最もよく選んだ決まりで、最後の人が出るまでの時間を比べる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、人が少なければ、二つの決まりの時間はほとんど変わらない。60 人では、人の並び 20 通りの平均で、最良の時間は近いほうへ向かう時間の $\mathbf{0.994959}$ 倍(幅 1 対 3)から $0.995980$ 倍(1 対 2)で、三つの幅の比でこの範囲に収まった(第3節)。

第二に、人が多いほど、近いほうへ向かう決まりは遅れる。幅 1 対 3 で、時間の比の平均は 60・200・600 人で $0.994959$・$0.674894$・$\mathbf{0.497270}$ だった(第3節)。

第三に、人が多いと、比は幅だけで決まる値に近づく。待ちだけが時間を決めるなら比は 2×狭い幅÷幅の和で、1 対 2 で $0.666667$、1 対 3 で $0.500000$。600 人の平均 $0.662493$・$0.497270$ との差は $-0.004173$・$-0.002730$ だった(第4節)。

第四に、人が多いと、最良の境は幅で分ける点に寄る。600 人で最良の境の平均は、1 対 2 で $\mathbf{33.398}$ m(幅で分ける点 $33.333$ m)、1 対 3 で $\mathbf{25.274}$ m($25.000$ m)だった。200 人・1 対 3 では $32.862$ m で、幅で分ける点と中ほどの間にあった(第4節)。

第五に、分離子は、人を距離で分けるか、出口の幅で分けるか。60 人では、歩く距離で分ける中ほどの境が最良とほぼ同じ時間だった。600 人では、出口の幅で分ける点から 1 m 以内の境が最良だった(第5節)。

キーワード:避難、出口の選び方、待ち行列、出口の幅、避難の時間、通路。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。避難の時間を歩く時間と出口を通る時間に分けること、人が近い出口に偏ると出口の前の待ちが長くなり全体が遅れること、出口の通せる人数に合わせて人を分けると避難が速くなることは、いずれも避難の計算で知られている。置いた値である。歩く速さ 1.3 m/s と出口の流れ 1.3 人/(m s) は論文895 の模型の値で、長さ 100 m の通路、両端の出口、一様に並んだ人、幅 1 m と 1・2・3 m、人数 60・200・600、並び 20 通りは本稿で置いた。どの建物や基準にも対応しない。人の動きを入れない。押し合い、煙による見えにくさ、歩き出すまでの時間、人が自分で出口を選ぶ振る舞い、途中で出口を変えることは入れない。境は外から決めた。掲示を勧めない。どの決まりを案内に使うべきかは扱わない。二つの決まりの時間だけを比べる。既刊との関係:論文895 の射程注記は、煙と人の動きを入れず、煙による見えにくさ、人の押し合い、出口の選び方、歩き出すまでの時間は入れないと書いた。本稿はそのうち出口の選び方の席に座る(先客なし)。論文895 は、出口を広げて避難が速くなるのは人数が多いときだけで、少ないうちは歩く距離が時間を決めることを示した。ここでは、幅の違う二つの出口に人をどう分けるかで時間がどれだけ変わるかを数える。加えたのは、三つの人数と三つの幅の比で二つの決まりの時間を並び 20 通りずつ比べたこと、待ちだけが決めるときの比を幅から出し 600 人と比べたこと、最良の境が幅で分ける点に寄ることを測ったこと、待ち行列の式を一人ずつ回す形と確かめたこと、分離子を「距離で分けるか、幅で分けるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:長さ $100$ m の通路の $0$ m と $100$ m に出口 A と B を置き、幅を $w_A=1$ m、$w_B=1,2,3$ m とする。人は通路に一様な乱数で並ぶ。歩く速さを $v=1.3$ m/s、出口の流れを幅 1 m あたり $q=1.3$ 人/s(論文895)とする。一つの出口に向かう $n$ 人の着く時刻を早い順に $a_1\le\cdots\le a_n$ とすると、最後の人が出る時刻は

$$T=\max_{k}\Bigl(a_k+\frac{n-k+1}{q\,w}\Bigr)$$

で、一人ずつ待ち行列を回す形と、四つの乱数の組で $10^{-9}$ 以内で一致した。境 $x$ より左の人は A、右の人は B に向かうとし、全体の時間を二つの出口の $T$ の大きいほうとする。近いほうへ向かう決まりは $x=50$ m、最良の決まりは隣り合う人の中点と両端をすべて試して時間が最も短い $x$ である。人数 $60$・$200$・$600$ で、並びを 20 通り(乱数の種 97900〜97919)作った。

問い:近いほうへ向かう決まりは、最良の境と比べてどれだけ遅れ、それは人数と幅の比でどう変わるか。

2. 一つの並び

計算 2.1:最初に作った一つの並びで、近いほうへ向かう時間と最良の時間。

人数 幅 近いほう(s) 最良(s) 最良の境(m) 比
$60$ 1 対 3 $38.085$ $38.085$ $50.585$ $1.000000$
$200$ 1 対 1 $80.235$ $77.158$ $47.792$ $0.961651$
$200$ 1 対 2 $80.235$ $54.081$ $33.009$ $0.674035$
$200$ 1 対 3 $80.235$ $52.543$ $31.841$ $0.654861$
$600$ 1 対 1 $235.588$ $231.026$ $51.034$ $0.980637$
$600$ 1 対 2 $226.411$ $154.103$ $35.490$ $0.680635$
$600$ 1 対 3 $226.411$ $115.642$ $26.793$ $0.510760$

60 人は三つの幅の比のどれでも $38.085$ s で、二つの決まりが同じだった。中ほど $50$ m から出口まで歩くだけの時間 $38.462$ s より短かった。

3. 並び 20 通りの平均

計算 3.1:時間の比(最良÷近いほう)と最良の境。

人数 幅 比の平均 比の最小と最大 境の平均(m) 境の最小と最大(m)
$60$ 1 対 1 $\mathbf{0.995728}$ $0.963705$ と $1.000000$ $49.994$ $48.471$ と $51.169$
$60$ 1 対 2 $0.995980$ $0.962986$ と $1.000000$ $49.380$ $46.876$ と $50.974$
$60$ 1 対 3 $0.994959$ $0.962986$ と $1.000000$ $49.380$ $46.876$ と $50.974$
$200$ 1 対 1 $0.960589$ $0.870442$ と $1.000000$ $50.085$ $44.342$ と $56.267$
$200$ 1 対 2 $0.694901$ $0.638604$ と $0.789772$ $33.849$ $30.194$ と $40.109$
$200$ 1 対 3 $0.674894$ $0.625249$ と $0.740598$ $32.862$ $29.825$ と $37.235$
$600$ 1 対 1 $0.979916$ $0.943416$ と $1.000000$ $49.706$ $47.867$ と $52.444$
$600$ 1 対 2 $0.662493$ $0.629064$ と $0.694669$ $\mathbf{33.398}$ $30.826$ と $35.961$
$600$ 1 対 3 $\mathbf{0.497270}$ $0.472005$ と $0.521186$ $\mathbf{25.274}$ $22.465$ と $28.177$

観察 3.2 人が多いほど、近いほうへ向かう決まりは遅れる。幅 1 対 3 で比の平均は 60・200・600 人で $0.994959$・$0.674894$・$0.497270$ と下がった。60 人では幅の比を変えても比の平均は $0.994959$ から $0.995980$ の間にあった。60 人の境の平均は幅 1 対 2 と 1 対 3 で同じ $49.380$ m だった(時間が最も短い境が複数あるときは、いちばん小さい境を取った)。

観察 3.3 幅が同じでも、並びによって最良は近いほうより速い。幅 1 対 1 で比の平均は 200 人 $0.960589$、600 人 $0.979916$ だった。境を 50 m から動かした分で、最小は $0.870442$(200 人)だった。

4. 幅だけで決まる値と最良の境

計算 4.1:待ちだけが時間を決めるとき、近いほうへ向かうと狭い出口 A に半分の人が向かい時間は $(N/2)/(q w_A)$、最良は二つの出口の待ちを揃えて $N/(q(w_A+w_B))$ なので、比は

$$\frac{2\,w_A}{w_A+w_B}$$

で、1 対 1・1 対 2・1 対 3 で $1.000000$・$0.666667$・$0.500000$ である。600 人の平均との差は $-0.020084$・$-0.004173$・$-0.002730$ だった。

観察 4.2 人が多いと、最良の境は幅で分ける点に寄る。幅で分ける点は $100 w_A/(w_A+w_B)$ m で、1 対 2 で $33.333$ m、1 対 3 で $25.000$ m:600 人の最良の境の平均は $33.398$ m と $25.274$ m で、どちらも 1 m 以内だった。200 人・1 対 3 の $32.862$ m は幅で分ける点 $25.000$ m と中ほど $50$ m の間にあった。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、人を距離で分けるか、出口の幅で分けるか。60 人では、最良の時間は、歩く距離を揃える中ほどの境の時間の平均 $0.994959$ 倍から $0.995980$ 倍だった。600 人では、人を幅に合わせて分ける点から 1 m 以内の境が最良になり、200 人・1 対 3 では境は二つの点の間に来た。$T$ の二つの項のうち、着く時刻 $a_k$ と待ちの項 $(n-k+1)/(q w)$ のどちらが大きいかは、本稿では項ごとに測っていない。

観察 5.2 言わないこと。押し合い、煙、歩き出すまでの時間、人が自分で出口を選ぶ振る舞い、途中で出口を変えること、どの決まりを案内に使うべきかは扱わない。示したのは、一つの通路の模型で、近いほうへ向かう決まりと最良の境の時間の比が人数と幅の比でどう変わるかである。

6. 点呼と結び

  1. 待ち行列の式(第1節):一人ずつ回す形と一致。
  2. 60 人で比の平均 $\mathbf{0.994959}$〜0.995980(計算 3.1):二つの決まりはほとんど同じ。
  3. 1 対 3 で 0.994959・0.674894・$\mathbf{0.497270}$(計算 3.1):人が多いほど遅れる。
  4. 比は 2×狭い幅÷幅の和に近づく(計算 4.1):600 人で差 $-0.002730$。
  5. 境 $\mathbf{33.398}$ m と $\mathbf{25.274}$ m(観察 4.2):幅で分ける点に寄る。
  6. 距離で分けるか、幅で分けるか(観察 5.1):分離子・論文895 の射程注記。

結び:幅の違う二つの出口では、近いほうへ向かう決まりは人が多いほど遅れる。895 の歩く速さと出口の流れで長さ 100 m の通路の両端に出口を置くと、60 人では最良の時間は近いほうへ向かう時間の平均 $0.994959$〜$0.995980$ 倍だったが、幅 1 対 3 で 200 人では $0.674894$ 倍、600 人では $0.497270$ 倍だった。600 人の比は待ちだけが決める値 2×狭い幅÷幅の和に近く、最良の境の平均は幅で分ける点から 1 m 以内($33.398$ m と $25.274$ m)だった。分離子は、人を距離で分けるか、出口の幅で分けるか。既刊との位置:論文895 が一つの出口で数えた歩く時間と待ちに、論文895 が入れなかった出口の選び方を足した。正直に言えば、押し合いも煙も無い一本の通路で、境を外から決めて時間だけを比べた。近いほうへ向かう決まりが人数と幅の比でどれだけ遅れるか、そこまでである。

参考文献

  1. 山岸勇輝 (2026). 『出口を広げて避難が速くなるのは人数が多いときだけで、少ないうちは歩く距離が時間を決める』[論文895]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/895

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「幅の違う二つの出口では、近いほうへ向かう決まりは人が多いほど遅れる」[論文979]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/979

YOI 979第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/979・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 幅の違う二つの出口では、近いほうへ向かう決まりは人が多いほど遅れる [論文979]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/979

Yamagishi, Y. (2026). With Two Exits of Different Widths, Heading for the Nearer One Loses More Time the More People There Are [Paper 979]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/979

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