要旨
ブラック=ショールズの $-\sigma^{2}/2$ は、割引や危険回避の補正だと読まれることがある。本稿が示すのは、それが伊藤の二階の項そのものであり、期待値と中央値の隔たりとして直に測れることである。比は $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致する。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、期待値は $\mathbf{110.517091808}$、中央値は $\mathbf{108.328706767}$ である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。比 $\mathbf{1.020201340}$ が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致する(第2節)。
第三に、対数の期待値の伸びは $\mathbf{0.080000000000}$ で、$\mu-\sigma^{2}/2$ にちょうど等しい(第2節)。
第四に、隔たりは $\sigma$ の二次である。$\sigma$ を $2$ 倍にすると $\mathbf{4.122849}$ 倍になる(第3節)。
第五に、期待値そのものは $\sigma$ に依らない。$\sigma=0$ でも $110.517091808$ である(第3節)。
第六に、分離子は「$E[S]$ を見ているか、$E[\ln S]$ を見ているか」である(第4節)。
キーワード:伊藤の補題、幾何ブラウン運動、対数正規分布、期待値と中央値、ブラック=ショールズ式。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。伊藤の補題も、幾何ブラウン運動の対数正規分布も、ブラック=ショールズ式も標準的である。価格式を導かない。オプションの評価式、危険中立測度、複製ポートフォリオは主題ではない。基礎資産の分布だけを見る。伊藤の $2$ を導き直さない。その内訳は論文132 が扱っており、本稿は結果を借りて金融側の帰結を測る。推定を扱わない。$\mu$ と $\sigma$ は与えられたものとし、推定誤差、ボラティリティの時間変動、跳びは入れない。投資を勧めない。どちらの量を見るべきかは主題ではない。二つが違うことを数で示すだけである。既刊との関係:論文132 は伊藤の $2$ が次元ではないと示した。本稿はその $2$ が価格の分布のどこに出るかを測る。論文292 は足せるのが対数だけだと示した。中央値が対数の側の量である理由がそこにある。論文484 は期待値を最大にする賭け方が破産すると示した。そこで効いていた $\sigma^{2}/2$ と同じ量である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、期待値と中央値を $110.517091808$ と $108.328706767$ で出したこと、比が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致することを確かめたこと、対数の伸びが $0.080000000000$ であることを逆算で確かめたこと、$\sigma$ を $2$ 倍にした $4.122849$ 倍を出したこと、期待値が $\sigma$ に依らないことを確かめたことである。
1. 記法と問い
設定:価格 $S_{t}$ が幾何ブラウン運動 $dS=\mu S dt+\sigma S dB$ に従うとする。伊藤の補題を $\ln S$ に当てると
$$d(\ln S)=\left(\mu-\frac{\sigma^{2}}{2}\right)dt+\sigma\,dB$$
になる。$-\sigma^{2}/2$ は、$\ln$ の二階微分と $(dB)^{2}=dt$ から出た項である。以下 $S_{0}=100$、$\mu=0.10$、$\sigma=0.20$、$T=1$ とする。
観察 1.1 $-\sigma^{2}/2$ は補正だと読まれることがある。危険を嫌う分だけ割り引く。選好や割引率の話に見える、という読み方である。
観察 1.2 だがこの項は選好を一切含んでいない。$\ln$ の二階微分と $(dB)^{2}=dt$ だけから出る。論文132 が示したとおり、$2$ は次元ではなく、二階で止まることの帰結である。
問い:その項は、価格の分布のどこに現れるのか。
2. 期待値と中央値の隔たりとして現れる
計算 2.1:$T=1$ での分布から三つの量を出す。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 期待値 $E[S_{T}]=S_{0}e^{\mu T}$ | $\mathbf{110.517091808}$ |
| 中央値 $S_{0}e^{(\mu-\sigma^{2}/2)T}$ | $\mathbf{108.328706767}$ |
| 比 | $\mathbf{1.020201340}$ |
| $\exp(\sigma^{2}T/2)$ | $\mathbf{1.020201340}$ |
観察 2.2 比が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に一致する。$1.020201340027$ 対 $1.020201340027$、$12$ 桁で、近いのではなく同じである。
観察 2.3 対数の期待値の伸びが $\mu-\sigma^{2}/2$ に等しい。$0.080000000000$ 対 $0.080000000000$、逆算しても戻り、$\mu=0.10$ から $\sigma^{2}/2=0.02$ を引いた値である。
観察 2.4 つまり伊藤の項は、そのまま二つの代表値の隔たりである。式の中の $-\sigma^{2}/2$、分布の上では、期待値と中央値がどれだけ離れるかを決めている。
観察 2.5 隔たりは $2.020134$ パーセントである。$\sigma=0.20$、$T=1$ で、小さく見えるが、複利で積み上がる量である。
3. 隔たりは二次であり、期待値は $\sigma$ を見ない
計算 3.1:$\sigma$ を動かす。
| $\sigma$ | 隔たり | 期待値 |
|---|---|---|
| $0$ | $0$ | $110.517091808$ |
| $0.20$ | $\mathbf{2.020134}$ パーセント | $110.517091808$ |
| $0.40$ | $\mathbf{4.122849}$ 倍 | $110.517091808$ |
観察 3.2 $\sigma$ を $2$ 倍にすると隔たりが約 $4$ 倍になる。$4.122849$ 倍、二次であることの署名で、ちょうど $4$ でないのは指数の高次項による。
観察 3.3 $\sigma=0$ では隔たりが消える。境目の反対側、揺らぎが無ければ期待値と中央値は一致する。
観察 3.4 期待値そのものは $\sigma$ に依らない。$110.517091808$ のまま、動いているのは中央値のほうである。
観察 3.5 だから「揺らぎが大きいほど期待値が下がる」は誤りである。下がるのは中央値、期待値は一定で、分布が右に長い尾を伸ばしているだけである。
4. 分離子
分離子:見ているのが $E[S]$ か、$E[\ln S]$ か。
観察 4.1 $E[S]$ を見るなら、$\sigma$ は効かない。$110.517091808$、$\mu$ だけで決まる。
観察 4.2 $E[\ln S]$ を見るなら、$\sigma^{2}/2$ が引かれる。$0.080000000000$、伊藤の項がそのまま出る。
観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「期待される値」と呼べる。一方は価格の平均、一方は対数の平均で、平均を取る前に何を取ったかが違う。
観察 4.4 論文484 で効いていたのと同じ量である。期待値を最大にする賭け方が破産する話、そこでも $\sigma^{2}/2$ が、期待値の側と成長率の側を分けていた。
観察 4.5 論文292 が言ったとおり、足せるのは対数だけである。価格は掛け算で動く。だから足し算の平均を取ると、掛け算の側の代表値とずれる。
観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「予測した価格に届かない」という報告が来たとき、$\mu$ の見積もりが外れたのか、期待値と中央値を取り違えたのかで、直す先が違う。
観察 4.7 正直に言えば、分布を対数正規と置いている。幾何ブラウン運動の帰結として、実際の価格には跳びも、ボラティリティの時間変動もあり、そのとき $\exp(\sigma^{2}T/2)$ という閉じた形は保たれない。保たれるのは「掛け算の世界で足し算の平均を取るとずれる」という向きだけである。
5. 点呼と結び
- 期待値 $110.517091808$(計算 2.1):$\mu$ だけで決まる。
- 中央値 $108.328706767$(計算 2.1):$\sigma^{2}/2$ が引かれる。
- 比が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致(観察 2.2):本稿の芯。
- 対数の伸び $0.080000000000$(観察 2.3):逆算でも戻る。
- 隔たりは $2.020134$ パーセント(観察 2.5):複利で積み上がる。
- $\sigma$ を $2$ 倍で $4.122849$ 倍(観察 3.2):二次の署名。
- $\sigma=0$ で消える(観察 3.3):境目の反対側。
- 期待値は $\sigma$ を見ない(観察 3.4):動くのは中央値。
- 分離子は $E[S]$ か $E[\ln S]$ か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 対数正規と置いている(観察 4.7):跳びがあれば形は保たれない。
結び:ブラック=ショールズの $-\sigma^{2}/2$ は、危険を嫌う分だけ割り引く補正だと読まれることがある。選好や割引率の話に見えるという読み方である。だがこの項は選好を一切含まず、$\ln$ の二階微分と $(dB)^{2}=dt$ だけから出る。論文132 が示したとおり、$2$ は次元ではなく、二階で止まることの帰結である。期待値と中央値の隔たりとして現れる。$S_{0}=100$、$\mu=0.10$、$\sigma=0.20$、$T=1$ で、期待値は $\mathbf{110.517091808}$、中央値は $\mathbf{108.328706767}$、比は $\mathbf{1.020201340}$ である。その比は $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致し、近いのではなく同じである。対数の期待値の伸びは $\mathbf{0.080000000000}$ で、$\mu-\sigma^{2}/2$ にちょうど等しく、逆算しても戻る。つまり式の中の $-\sigma^{2}/2$ は、分布の上では期待値と中央値がどれだけ離れるかを決めている。隔たりは $2.020134$ パーセントで、小さく見えるが複利で積み上がる量である。隔たりは二次であり、期待値は $\sigma$ を見ない。$\sigma$ を $2$ 倍にすると隔たりは $\mathbf{4.122849}$ 倍になり、二次であることの署名になる。ちょうど $4$ でないのは指数の高次項による。$\sigma=0$ では隔たりが消え、揺らぎが無ければ期待値と中央値は一致する。期待値そのものは $\sigma$ に依らず $110.517091808$ のままで、動いているのは中央値のほうである。だから「揺らぎが大きいほど期待値が下がる」は誤りで、下がるのは中央値であり、期待値は一定のまま分布が右に長い尾を伸ばしているだけである。分けているものは一つ、見ているのが $E[S]$ か、$E[\ln S]$ か。$E[S]$ を見るなら $\sigma$ は効かず、$\mu$ だけで決まる。$E[\ln S]$ を見るなら $\sigma^{2}/2$ が引かれ、伊藤の項がそのまま出る。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「期待される値」と呼べるが、一方は価格の平均、一方は対数の平均で、平均を取る前に何を取ったかが違う。論文484 で効いていたのと同じ量で、期待値を最大にする賭け方が破産する話でも、$\sigma^{2}/2$ が期待値の側と成長率の側を分けていた。論文292 が言ったとおり足せるのは対数だけで、価格は掛け算で動くから、足し算の平均を取ると掛け算の側の代表値とずれる。これは論文481 でいう分離子の一本で、「予測した価格に届かない」という報告が来たとき、$\mu$ の見積もりが外れたのか、期待値と中央値を取り違えたのかで直す先が違う。正直に言えば、分布を対数正規と置いている。幾何ブラウン運動の帰結としてであり、実際の価格には跳びも、ボラティリティの時間変動もあって、そのとき $\exp(\sigma^{2}T/2)$ という閉じた形は保たれない。保たれるのは「掛け算の世界で足し算の平均を取るとずれる」という向きだけである。
参考文献
- Itô, K. (1951). On Stochastic Differential Equations. Memoirs of the American Mathematical Society.
- Black, F., & Scholes, M. (1973). The Pricing of Options and Corporate Liabilities. Journal of Political Economy.
- Merton, R. C. (1973). Theory of Rational Option Pricing. Bell Journal of Economics and Management Science.
- 山岸勇輝 (2026). 『伊藤の $2$ は、次元ではない』[論文132]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22080358
- 山岸勇輝 (2026). 『足せるのは対数だけである』[論文292]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171519
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
- 山岸勇輝 (2026). 『期待値を最大にする賭け方は、確率 $1$ で破産する』[論文484]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22759898
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「期待値と中央値を分けている量は、伊藤の二階の項そのものである」[論文495]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22760156
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 期待値と中央値を分けている量は、伊藤の二階の項そのものである [論文495]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/495 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22760156
Yamagishi, Y. (2026). What Separates the Mean from the Median Is Itô’s Second-Order Term Itself [Paper 495]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/495; DOI: 10.5281/zenodo.22760156
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