【論文288】「どれが速いか」には三つの答があり、三つとも別の方法が勝つ

要旨

方程式を数値で解く方法には、ニュートン法・割線法・二分法がある。「どれが速いか」と問えば、ふつうニュートン法と答える。本稿が問うのは、「速い」の定義を変えると答が変わるかである。答は、三通りに変わるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、実際に $x^3-2=0$ を解く。$16$ 桁に達するまで、ニュートンは $\mathbf{5}$ 回、割線法は $\mathbf{7}$ 回、二分法は $\mathbf{53}$ 回(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。関数評価の総数で数えると、割線法 $\mathbf{7}$ 個 $<$ ニュートン $\mathbf{10}$ 個、勝敗が逆転する(第3節)。

第三に、効率指数がそれを予言する。$p^{1/m}$ はニュートン $1.414214$、割線法 $\mathbf{1.618034}$、割線法が $\mathbf{14.41\%}$ 速い(第3節)。

第四に、三つ目の逆転がある。最初の一歩の桁あたり評価数では、二分法 $3.3219$ $<$ ニュートン $3.6430$(第4節)。

第五に、黄金比がここに立つ。割線法の収束次数は $p^2=p+1$ の正根 $\varphi=\mathbf{1.618034}$ である(第5節)。

第六に、分離子は「何を一単位と数えるか」である。反復か、関数評価か、微分の有無か、方法の性質ではなく、数え方の規約が答を決めている(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ニュートン法の二次収束、割線法の $\varphi$ 次収束、二分法の線形収束、効率指数 $p^{1/m}$ は、いずれも標準的である。数値解析を作らない。使うのは一つの方程式と、三つの反復だけである。収束次数を証明しない。$p=2$ も $p=\varphi$ も引くだけであり、誤差漸化式の導出には立ち入らない。一般の方程式を主張しない。$x^3-2=0$ は単根・滑らか・良条件であり、最も都合のよい場合である。重根では二次収束が線形に落ちるし、初期値が悪ければニュートンは発散する。回数の値を主張しない。第2節の $5$・$7$・$53$ はこの初期値・この方程式・この停止条件での実測である。初期値を変えれば $\pm1$ 動く。評価コストが等しいと仮定している。$f$ と $f’$ の計算量が同じだと置いた。実際には $f’$ のほうが高いことも安いこともあるので、第3節の逆転はこの仮定に依存する。二分法を貶めない。二分法は唯一、収束が保証されている。速さの比較は、収束するという前提の上でのみ意味を持つ。黄金比の一致を主張しない。第5節の $\varphi$ と論文269 の $1/\varphi$ はどちらも $x^2=x+1$ から出るが、現象として関係があるとは主張しない。既刊との関係:論文257 は「速さ」を変えても「行き先」は変わらないと示した。本稿は「速さ」の定義そのものが三通りある場合である。論文255 は「精度」が二つあり較正で消えるのは一方だけだと分けた。本稿も一語の下の複数の量を扱う。論文269 は結晶の $5$ 回対称が $2\cos72^\circ=1/\varphi$ で禁じられることを示した。本稿の $\varphi$ は同じ二次方程式の根である。論文159 は「不適切」が一語でないと示した。本稿は「速い」が一語でないことを示す。加えたのは$x^3-2=0$ を三つの方法で実際に解いて反復回数と評価数を数えたこと、評価数で勝敗が逆転すると確かめたこと、桁あたり評価数を各段で計算し、最初の一歩では二分法が勝つという三つ目の逆転を見たこと、$\varphi$ と $1/\varphi$ が同じ二次方程式から出ると記録したことである。

1. 三つの方法と、三つの「速さ」

三つの反復法を並べる。

方法 反復式 一回あたりの関数評価
ニュートン法 $x\leftarrow x-f(x)/f'(x)$ $\mathbf{2}$ 個($f$ と $f’$)
割線法 $x\leftarrow x-\dfrac{f(x)(x-x_0)}{f(x)-f(x_0)}$ $\mathbf{1}$ 個($f$ のみ)
二分法 区間を半分にする $\mathbf{1}$ 個

観察 1.1 「速い」の定義が三つありうる。

定義 何を一単位と数えるか
(a) 反復回数 反復を一単位
(b) 関数評価の総数 関数を一回呼ぶことを一単位
(c) 桁あたりのコスト $1$ 桁の精度を一単位

問い:三つの定義で、勝者は同じか。

2. 実際に解く:$5$ 回・$7$ 回・$53$ 回

設定:$x^3-2=0$、根は $2^{1/3}=1.259921049894873$。相対誤差が $10^{-16}$ を切るまで回す。

検算 2.1:ニュートン法(初期値 $x=1$)。

回 $x$ 正しい桁
$0$ $1.0000000000000000$ $0.686$
$1$ $1.3333333333333333$ $1.235$
$2$ $1.2638888888888888$ $2.502$
$3$ $1.2599334934499771$ $5.005$
$4$ $1.2599210500177698$ $10.011$
$\mathbf{5}$ $1.2599210498948732$ $\mathbf{16.000}$

観察 2.2 桁が $0.686\to1.235\to2.502\to5.005\to10.011$ とほぼ倍々になっている。これが二次収束である。一回ごとに正しい桁数が二倍になる。

検算 2.3:割線法(初期値 $x_0=1$、$x_1=1.5$)。

回 $x$ 正しい桁
$1$ $1.2105263157894737$ $1.407$
$2$ $1.2514085388756730$ $2.170$
$3$ $1.2602652758390120$ $3.563$
$4$ $1.2599187140887995$ $5.732$
$5$ $1.2599210492568176$ $9.295$
$6$ $1.2599210498948743$ $15.055$
$\mathbf{7}$ $1.2599210498948732$ $\mathbf{16.000}$

観察 2.4 桁が $1.407\to2.170\to3.563\to5.732\to9.295\to15.055$ と、約 $1.6$ 倍ずつ増えている。$2.170/1.407=1.542$、$3.563/2.170=1.642$、$9.295/5.732=1.622$、$\varphi=1.618$ のまわりを揺れている。

検算 2.5:二分法(区間 $[1,2]$)。

量 値
一回に得る桁 $\log_{10}2$ $0.301030$
$10^{-16}$ に要する回数 $\log_2(1/(10^{-16}\cdot2^{1/3}))$ $52.8175\to\mathbf{53}$ 回

観察 2.6 定義 (a)(反復回数)では ニュートン $5$ 回が勝つ。割線法 $7$ 回、二分法 $53$ 回、これが「ニュートンが速い」と言われる根拠である。

3. 芯:評価数で数えると、逆転する

設定:ニュートン法は一回に $f$ と $f’$ の二つを評価する。割線法と二分法は一つである。

検算 3.1:

方法 反復回数 一回の評価数 総評価数
ニュートン法 $\mathbf{5}$ $2$ $\mathbf{10}$
割線法 $7$ $1$ $\mathbf{7}$
二分法 $53$ $1$ $53$

観察 3.2 これが本稿の芯である。反復回数では $5<7$ でニュートンが勝ち、総評価数では $7<10$ で割線法が勝つ、同じ計算の同じ実行で、勝敗が入れ替わる。

検算 3.3:効率指数 $p^{1/m}$($p$ は収束次数、$m$ は一回の評価数)で確かめる。

方法 収束次数 $p$ $m$ 効率指数 $p^{1/m}$
ニュートン法 $2.000000$ $2$ $1.414214$
割線法 $\mathbf{1.618034}$ $1$ $\mathbf{1.618034}$
二分法 $1.000000$ $1$ $1.000000$

観察 3.4 効率指数が実測の逆転を予言している。$1.618034/1.414214=1.144123$、すなわち割線法は$\mathbf{14.41\%}$ 速い。収束次数が低いほうが、効率では勝つ。

観察 3.5 正直に書くべき点、この逆転は$f$ と $f’$ の評価コストが等しいという仮定に依存する。$f’$ が解析的に安く求まるならニュートンが勝ち、$f’$ が数値微分でしか得られないならさらに割線法が勝つ、答は問題ではなく、コスト表が決めている。

4. 三つ目の逆転:最初の一歩では二分法が勝つ

設定:定義 (c)、桁あたりの評価数を、各段で計算する。

検算 4.1:ニュートン法($1$ 反復 $=2$ 評価)。

段 増えた桁 評価/桁
$0\to1$ $+0.549$ $\mathbf{3.6430}$
$1\to2$ $+1.267$ $1.5785$
$2\to3$ $+2.503$ $0.7990$
$3\to4$ $+5.006$ $0.3995$
$4\to5$ $+5.989$ $\mathbf{0.3339}$

検算 4.2:割線法($1$ 反復 $=1$ 評価)。

段 増えた桁 評価/桁
$0\to1$ $+0.687$ $\mathbf{1.4556}$
$1\to2$ $+0.763$ $1.3106$
$2\to3$ $+1.393$ $0.7179$
$3\to4$ $+2.169$ $0.4610$
$4\to5$ $+3.563$ $0.2807$
$5\to6$ $+5.760$ $\mathbf{0.1736}$

検算 4.3:二分法はどの段でも一定である。

段 増えた桁 評価/桁
すべて $+0.3010$ $\mathbf{3.3219}$

観察 4.4 最初の一歩を比べる。

第 $1$ 歩の評価/桁 最終段の評価/桁
ニュートン法 $3.6430$ $0.3339$
割線法 $1.4556$ $0.1736$
二分法 $\mathbf{3.3219}$ $3.3219$

観察 4.5 第 $1$ 歩だけを見れば、二分法 $3.3219$ がニュートン $3.6430$ より安い。超一次収束の方法は最初は遅く、あとで急に速くなる。三つ目の逆転である。

観察 4.6 二分法の欄は上下で同じ数である。線形収束とは桁あたりのコストが永久に変わらないことであり、最初に有利で最後に絶望的になる。最終段ではニュートンの $\mathbf{9.95}$ 倍、割線法の $\mathbf{19.14}$ 倍かかる。

観察 4.7 正直に書くべき点、割線法の最後の段($6\to7$)だけ $1.0582$ と悪い。これは機械精度に達して伸びしろが無くなったためであり、方法の性質ではない。有効数字が尽きた欄を、速さの証拠に使ってはいけない。

5. 黄金比がここに立つ理由

観察 5.1 割線法の誤差は $e_{n+1}\sim C e_n e_{n-1}$ を満たす。$e_n\sim A e_{n-1}^p$ と置いて代入すると、指数は $p^2=p+1$ を満たさねばならない。正根が $\varphi=(1+\sqrt5)/2=1.618033988749895$ である。

観察 5.2 論文269 は、結晶が $5$ 回対称を許さない理由が$2\cos72^\circ$ が整数でないことだと書いた。その値は $\mathbf{0.618033988749895}$、すなわち $\mathbf{1/\varphi}$ である。数値の差は $1.11\times10^{-16}$、機械精度で一致する。

検算 5.3:

出どころ 値 満たす方程式
割線法の収束次数 $\varphi=1.618033988749895$ $p^2=p+1$
結晶の $5$ 回対称(論文269) $2\cos72^\circ=0.618033988749895$ $x^2=-x+1$($x=1/\varphi$)

観察 5.4 正直に書くべき点、本稿はこの一致に意味があるとは主張しない。どちらも整数係数の二次方程式の根であり、そういう数は限られている。同じ数が立つことと、同じ根を持つことは違う(論文112 の区別)。

6. 分離子:何を一単位と数えるか

観察 6.1 分離子、何を動かすと、勝者が変わるか。一単位の定義である。

「速い」の定義 勝者 値
(a) 反復回数 ニュートン法 $5$ 回
(b) 関数評価の総数 割線法 $7$ 個
(c) 最初の一歩の桁あたり 二分法 $3.3219$

観察 6.2 三つの定義で、三つとも別の方法が勝つ。どれも正しい。変わったのは方法ではなく、数え方である。

観察 6.3 論文159 は「不適切」が一語でないと示した。本稿は「速い」が一語でないことを示す。単位を言わずに「速い」と言うことは、数を言わずに「大きい」と言うのに等しい。

観察 6.4 そして四つ目の軸がある。収束するかどうか。二分法は唯一、符号が変わる区間さえあれば必ず収束する。ニュートン法は初期値によっては発散する。速さの比較は、収束するという前提の上でのみ意味を持つ。

7. 点呼と結び

  1. ニュートン $5$ 回(検算2.1):桁が倍々。
  2. 割線法 $7$ 回(検算2.3):桁が約 $1.6$ 倍ずつ。
  3. 二分法 $53$ 回(検算2.5):一回に $0.301$ 桁。
  4. 総評価数 $10$ 対 $7$(検算3.1):逆転する。
  5. 効率指数 $1.414214$ 対 $1.618034$(検算3.3):$14.41\%$ 速い。
  6. 第 $1$ 歩は $3.3219<3.6430$(観察4.4):二分法が勝つ。
  7. 最終段は $3.3219$ 対 $0.3339$(観察4.4):$9.95$ 倍かかる。
  8. $\varphi$ は $p^2=p+1$ の正根(観察5.1):$1.618033988749895$。
  9. $2\cos72^\circ=1/\varphi$(検算5.3):差 $1.11\times10^{-16}$。
  10. 三定義で三勝者(観察6.1):数え方が決める。

結び:「どれが速いか」に答は三つあり、三つとも別の方法が勝つ。$x^3-2=0$ を実際に解けば、反復回数ではニュートン $\mathbf{5}$ 回が勝ち、関数評価の総数では割線法 $\mathbf{7}$ 個が勝つ、ニュートンは一回に $f$ と $f’$ の二つを要るからである。効率指数 $p^{1/m}$ がそれを予言する。ニュートン $1.414214$、割線法 $\mathbf{1.618034}$ で、収束次数の低いほうが $\mathbf{14.41\%}$ 速い。そして三つ目の逆転がある。最初の一歩だけを見れば、二分法の $\mathbf{3.3219}$ がニュートンの $\mathbf{3.6430}$ より安い。超一次の方法は最初が遅く、二分法は桁あたりのコストが永久に一定だからである。ただし最終段では、その一定さが $\mathbf{9.95}$ 倍の差になる。分けるものは一つ、何を一単位と数えるか。反復か、関数評価か、最初の一歩か。三つとも正しく、三つとも別の答を返す。単位を言わずに「速い」と言うのは、数を言わずに「大きい」と言うのに等しい。

参考文献

  1. Ostrowski, A. M. (1960). Solution of Equations and Systems of Equations. New York: Academic Press.
  2. Traub, J. F. (1964). Iterative Methods for the Solution of Equations. Englewood Cliffs: Prentice-Hall.
  3. Householder, A. S. (1970). The Numerical Treatment of a Single Nonlinear Equation. New York: McGraw-Hill.
  4. Stoer, J. and Bulirsch, R. (2002). Introduction to Numerical Analysis. New York: Springer.
  5. Brent, R. P. (1973). Algorithms for Minimization Without Derivatives. Englewood Cliffs: Prentice-Hall.
  6. 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
  7. 山岸勇輝 (2026). 「不適切」は一語ではない [論文159]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092229
  8. 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
  9. 山岸勇輝 (2026). 「速さ」を変えても「行き先」は変わらない [論文257]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168985
  10. 山岸勇輝 (2026). 結晶が禁じているのは対称性ではなく、周期性である [論文269]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169855

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「どれが速いか」には三つの答があり、三つとも別の方法が勝つ」[論文288]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171328

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「どれが速いか」には三つの答があり、三つとも別の方法が勝つ [論文288]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/288 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171328

Yamagishi, Y. (2026). “Which Is Fastest” Has Three Answers, and a Different Method Wins Each [Paper 288]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/288; DOI: 10.5281/zenodo.22171328

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