要旨
方程式を数値で解く方法には、ニュートン法・割線法・二分法がある。「どれが速いか」と問えば、ふつうニュートン法と答える。本稿が問うのは、「速い」の定義を変えると答が変わるかである。答は、三通りに変わるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、実際に $x^3-2=0$ を解く。$16$ 桁に達するまで、ニュートンは $\mathbf{5}$ 回、割線法は $\mathbf{7}$ 回、二分法は $\mathbf{53}$ 回(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。関数評価の総数で数えると、割線法 $\mathbf{7}$ 個 $<$ ニュートン $\mathbf{10}$ 個、勝敗が逆転する(第3節)。
第三に、効率指数がそれを予言する。$p^{1/m}$ はニュートン $1.414214$、割線法 $\mathbf{1.618034}$、割線法が $\mathbf{14.41\%}$ 速い(第3節)。
第四に、三つ目の逆転がある。最初の一歩の桁あたり評価数では、二分法 $3.3219$ $<$ ニュートン $3.6430$(第4節)。
第五に、黄金比がここに立つ。割線法の収束次数は $p^2=p+1$ の正根 $\varphi=\mathbf{1.618034}$ である(第5節)。
第六に、分離子は「何を一単位と数えるか」である。反復か、関数評価か、微分の有無か、方法の性質ではなく、数え方の規約が答を決めている(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ニュートン法の二次収束、割線法の $\varphi$ 次収束、二分法の線形収束、効率指数 $p^{1/m}$ は、いずれも標準的である。数値解析を作らない。使うのは一つの方程式と、三つの反復だけである。収束次数を証明しない。$p=2$ も $p=\varphi$ も引くだけであり、誤差漸化式の導出には立ち入らない。一般の方程式を主張しない。$x^3-2=0$ は単根・滑らか・良条件であり、最も都合のよい場合である。重根では二次収束が線形に落ちるし、初期値が悪ければニュートンは発散する。回数の値を主張しない。第2節の $5$・$7$・$53$ はこの初期値・この方程式・この停止条件での実測である。初期値を変えれば $\pm1$ 動く。評価コストが等しいと仮定している。$f$ と $f’$ の計算量が同じだと置いた。実際には $f’$ のほうが高いことも安いこともあるので、第3節の逆転はこの仮定に依存する。二分法を貶めない。二分法は唯一、収束が保証されている。速さの比較は、収束するという前提の上でのみ意味を持つ。黄金比の一致を主張しない。第5節の $\varphi$ と論文269 の $1/\varphi$ はどちらも $x^2=x+1$ から出るが、現象として関係があるとは主張しない。既刊との関係:論文257 は「速さ」を変えても「行き先」は変わらないと示した。本稿は「速さ」の定義そのものが三通りある場合である。論文255 は「精度」が二つあり較正で消えるのは一方だけだと分けた。本稿も一語の下の複数の量を扱う。論文269 は結晶の $5$ 回対称が $2\cos72^\circ=1/\varphi$ で禁じられることを示した。本稿の $\varphi$ は同じ二次方程式の根である。論文159 は「不適切」が一語でないと示した。本稿は「速い」が一語でないことを示す。加えたのは$x^3-2=0$ を三つの方法で実際に解いて反復回数と評価数を数えたこと、評価数で勝敗が逆転すると確かめたこと、桁あたり評価数を各段で計算し、最初の一歩では二分法が勝つという三つ目の逆転を見たこと、$\varphi$ と $1/\varphi$ が同じ二次方程式から出ると記録したことである。
1. 三つの方法と、三つの「速さ」
三つの反復法を並べる。
| 方法 | 反復式 | 一回あたりの関数評価 |
|---|---|---|
| ニュートン法 | $x\leftarrow x-f(x)/f'(x)$ | $\mathbf{2}$ 個($f$ と $f’$) |
| 割線法 | $x\leftarrow x-\dfrac{f(x)(x-x_0)}{f(x)-f(x_0)}$ | $\mathbf{1}$ 個($f$ のみ) |
| 二分法 | 区間を半分にする | $\mathbf{1}$ 個 |
観察 1.1 「速い」の定義が三つありうる。
| 定義 | 何を一単位と数えるか |
|---|---|
| (a) 反復回数 | 反復を一単位 |
| (b) 関数評価の総数 | 関数を一回呼ぶことを一単位 |
| (c) 桁あたりのコスト | $1$ 桁の精度を一単位 |
問い:三つの定義で、勝者は同じか。
2. 実際に解く:$5$ 回・$7$ 回・$53$ 回
設定:$x^3-2=0$、根は $2^{1/3}=1.259921049894873$。相対誤差が $10^{-16}$ を切るまで回す。
検算 2.1:ニュートン法(初期値 $x=1$)。
| 回 | $x$ | 正しい桁 |
|---|---|---|
| $0$ | $1.0000000000000000$ | $0.686$ |
| $1$ | $1.3333333333333333$ | $1.235$ |
| $2$ | $1.2638888888888888$ | $2.502$ |
| $3$ | $1.2599334934499771$ | $5.005$ |
| $4$ | $1.2599210500177698$ | $10.011$ |
| $\mathbf{5}$ | $1.2599210498948732$ | $\mathbf{16.000}$ |
観察 2.2 桁が $0.686\to1.235\to2.502\to5.005\to10.011$ とほぼ倍々になっている。これが二次収束である。一回ごとに正しい桁数が二倍になる。
検算 2.3:割線法(初期値 $x_0=1$、$x_1=1.5$)。
| 回 | $x$ | 正しい桁 |
|---|---|---|
| $1$ | $1.2105263157894737$ | $1.407$ |
| $2$ | $1.2514085388756730$ | $2.170$ |
| $3$ | $1.2602652758390120$ | $3.563$ |
| $4$ | $1.2599187140887995$ | $5.732$ |
| $5$ | $1.2599210492568176$ | $9.295$ |
| $6$ | $1.2599210498948743$ | $15.055$ |
| $\mathbf{7}$ | $1.2599210498948732$ | $\mathbf{16.000}$ |
観察 2.4 桁が $1.407\to2.170\to3.563\to5.732\to9.295\to15.055$ と、約 $1.6$ 倍ずつ増えている。$2.170/1.407=1.542$、$3.563/2.170=1.642$、$9.295/5.732=1.622$、$\varphi=1.618$ のまわりを揺れている。
検算 2.5:二分法(区間 $[1,2]$)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 一回に得る桁 $\log_{10}2$ | $0.301030$ |
| $10^{-16}$ に要する回数 $\log_2(1/(10^{-16}\cdot2^{1/3}))$ | $52.8175\to\mathbf{53}$ 回 |
観察 2.6 定義 (a)(反復回数)では ニュートン $5$ 回が勝つ。割線法 $7$ 回、二分法 $53$ 回、これが「ニュートンが速い」と言われる根拠である。
3. 芯:評価数で数えると、逆転する
設定:ニュートン法は一回に $f$ と $f’$ の二つを評価する。割線法と二分法は一つである。
検算 3.1:
| 方法 | 反復回数 | 一回の評価数 | 総評価数 |
|---|---|---|---|
| ニュートン法 | $\mathbf{5}$ | $2$ | $\mathbf{10}$ |
| 割線法 | $7$ | $1$ | $\mathbf{7}$ |
| 二分法 | $53$ | $1$ | $53$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。反復回数では $5<7$ でニュートンが勝ち、総評価数では $7<10$ で割線法が勝つ、同じ計算の同じ実行で、勝敗が入れ替わる。
検算 3.3:効率指数 $p^{1/m}$($p$ は収束次数、$m$ は一回の評価数)で確かめる。
| 方法 | 収束次数 $p$ | $m$ | 効率指数 $p^{1/m}$ |
|---|---|---|---|
| ニュートン法 | $2.000000$ | $2$ | $1.414214$ |
| 割線法 | $\mathbf{1.618034}$ | $1$ | $\mathbf{1.618034}$ |
| 二分法 | $1.000000$ | $1$ | $1.000000$ |
観察 3.4 効率指数が実測の逆転を予言している。$1.618034/1.414214=1.144123$、すなわち割線法は$\mathbf{14.41\%}$ 速い。収束次数が低いほうが、効率では勝つ。
観察 3.5 正直に書くべき点、この逆転は$f$ と $f’$ の評価コストが等しいという仮定に依存する。$f’$ が解析的に安く求まるならニュートンが勝ち、$f’$ が数値微分でしか得られないならさらに割線法が勝つ、答は問題ではなく、コスト表が決めている。
4. 三つ目の逆転:最初の一歩では二分法が勝つ
設定:定義 (c)、桁あたりの評価数を、各段で計算する。
検算 4.1:ニュートン法($1$ 反復 $=2$ 評価)。
| 段 | 増えた桁 | 評価/桁 |
|---|---|---|
| $0\to1$ | $+0.549$ | $\mathbf{3.6430}$ |
| $1\to2$ | $+1.267$ | $1.5785$ |
| $2\to3$ | $+2.503$ | $0.7990$ |
| $3\to4$ | $+5.006$ | $0.3995$ |
| $4\to5$ | $+5.989$ | $\mathbf{0.3339}$ |
検算 4.2:割線法($1$ 反復 $=1$ 評価)。
| 段 | 増えた桁 | 評価/桁 |
|---|---|---|
| $0\to1$ | $+0.687$ | $\mathbf{1.4556}$ |
| $1\to2$ | $+0.763$ | $1.3106$ |
| $2\to3$ | $+1.393$ | $0.7179$ |
| $3\to4$ | $+2.169$ | $0.4610$ |
| $4\to5$ | $+3.563$ | $0.2807$ |
| $5\to6$ | $+5.760$ | $\mathbf{0.1736}$ |
検算 4.3:二分法はどの段でも一定である。
| 段 | 増えた桁 | 評価/桁 |
|---|---|---|
| すべて | $+0.3010$ | $\mathbf{3.3219}$ |
観察 4.4 最初の一歩を比べる。
| 第 $1$ 歩の評価/桁 | 最終段の評価/桁 | |
|---|---|---|
| ニュートン法 | $3.6430$ | $0.3339$ |
| 割線法 | $1.4556$ | $0.1736$ |
| 二分法 | $\mathbf{3.3219}$ | $3.3219$ |
観察 4.5 第 $1$ 歩だけを見れば、二分法 $3.3219$ がニュートン $3.6430$ より安い。超一次収束の方法は最初は遅く、あとで急に速くなる。三つ目の逆転である。
観察 4.6 二分法の欄は上下で同じ数である。線形収束とは桁あたりのコストが永久に変わらないことであり、最初に有利で最後に絶望的になる。最終段ではニュートンの $\mathbf{9.95}$ 倍、割線法の $\mathbf{19.14}$ 倍かかる。
観察 4.7 正直に書くべき点、割線法の最後の段($6\to7$)だけ $1.0582$ と悪い。これは機械精度に達して伸びしろが無くなったためであり、方法の性質ではない。有効数字が尽きた欄を、速さの証拠に使ってはいけない。
5. 黄金比がここに立つ理由
観察 5.1 割線法の誤差は $e_{n+1}\sim C e_n e_{n-1}$ を満たす。$e_n\sim A e_{n-1}^p$ と置いて代入すると、指数は $p^2=p+1$ を満たさねばならない。正根が $\varphi=(1+\sqrt5)/2=1.618033988749895$ である。
観察 5.2 論文269 は、結晶が $5$ 回対称を許さない理由が$2\cos72^\circ$ が整数でないことだと書いた。その値は $\mathbf{0.618033988749895}$、すなわち $\mathbf{1/\varphi}$ である。数値の差は $1.11\times10^{-16}$、機械精度で一致する。
検算 5.3:
| 出どころ | 値 | 満たす方程式 |
|---|---|---|
| 割線法の収束次数 | $\varphi=1.618033988749895$ | $p^2=p+1$ |
| 結晶の $5$ 回対称(論文269) | $2\cos72^\circ=0.618033988749895$ | $x^2=-x+1$($x=1/\varphi$) |
観察 5.4 正直に書くべき点、本稿はこの一致に意味があるとは主張しない。どちらも整数係数の二次方程式の根であり、そういう数は限られている。同じ数が立つことと、同じ根を持つことは違う(論文112 の区別)。
6. 分離子:何を一単位と数えるか
観察 6.1 分離子、何を動かすと、勝者が変わるか。一単位の定義である。
| 「速い」の定義 | 勝者 | 値 |
|---|---|---|
| (a) 反復回数 | ニュートン法 | $5$ 回 |
| (b) 関数評価の総数 | 割線法 | $7$ 個 |
| (c) 最初の一歩の桁あたり | 二分法 | $3.3219$ |
観察 6.2 三つの定義で、三つとも別の方法が勝つ。どれも正しい。変わったのは方法ではなく、数え方である。
観察 6.3 論文159 は「不適切」が一語でないと示した。本稿は「速い」が一語でないことを示す。単位を言わずに「速い」と言うことは、数を言わずに「大きい」と言うのに等しい。
観察 6.4 そして四つ目の軸がある。収束するかどうか。二分法は唯一、符号が変わる区間さえあれば必ず収束する。ニュートン法は初期値によっては発散する。速さの比較は、収束するという前提の上でのみ意味を持つ。
7. 点呼と結び
- ニュートン $5$ 回(検算2.1):桁が倍々。
- 割線法 $7$ 回(検算2.3):桁が約 $1.6$ 倍ずつ。
- 二分法 $53$ 回(検算2.5):一回に $0.301$ 桁。
- 総評価数 $10$ 対 $7$(検算3.1):逆転する。
- 効率指数 $1.414214$ 対 $1.618034$(検算3.3):$14.41\%$ 速い。
- 第 $1$ 歩は $3.3219<3.6430$(観察4.4):二分法が勝つ。
- 最終段は $3.3219$ 対 $0.3339$(観察4.4):$9.95$ 倍かかる。
- $\varphi$ は $p^2=p+1$ の正根(観察5.1):$1.618033988749895$。
- $2\cos72^\circ=1/\varphi$(検算5.3):差 $1.11\times10^{-16}$。
- 三定義で三勝者(観察6.1):数え方が決める。
結び:「どれが速いか」に答は三つあり、三つとも別の方法が勝つ。$x^3-2=0$ を実際に解けば、反復回数ではニュートン $\mathbf{5}$ 回が勝ち、関数評価の総数では割線法 $\mathbf{7}$ 個が勝つ、ニュートンは一回に $f$ と $f’$ の二つを要るからである。効率指数 $p^{1/m}$ がそれを予言する。ニュートン $1.414214$、割線法 $\mathbf{1.618034}$ で、収束次数の低いほうが $\mathbf{14.41\%}$ 速い。そして三つ目の逆転がある。最初の一歩だけを見れば、二分法の $\mathbf{3.3219}$ がニュートンの $\mathbf{3.6430}$ より安い。超一次の方法は最初が遅く、二分法は桁あたりのコストが永久に一定だからである。ただし最終段では、その一定さが $\mathbf{9.95}$ 倍の差になる。分けるものは一つ、何を一単位と数えるか。反復か、関数評価か、最初の一歩か。三つとも正しく、三つとも別の答を返す。単位を言わずに「速い」と言うのは、数を言わずに「大きい」と言うのに等しい。
参考文献
- Ostrowski, A. M. (1960). Solution of Equations and Systems of Equations. New York: Academic Press.
- Traub, J. F. (1964). Iterative Methods for the Solution of Equations. Englewood Cliffs: Prentice-Hall.
- Householder, A. S. (1970). The Numerical Treatment of a Single Nonlinear Equation. New York: McGraw-Hill.
- Stoer, J. and Bulirsch, R. (2002). Introduction to Numerical Analysis. New York: Springer.
- Brent, R. P. (1973). Algorithms for Minimization Without Derivatives. Englewood Cliffs: Prentice-Hall.
- 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
- 山岸勇輝 (2026). 「不適切」は一語ではない [論文159]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092229
- 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
- 山岸勇輝 (2026). 「速さ」を変えても「行き先」は変わらない [論文257]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168985
- 山岸勇輝 (2026). 結晶が禁じているのは対称性ではなく、周期性である [論文269]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169855
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「どれが速いか」には三つの答があり、三つとも別の方法が勝つ」[論文288]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171328
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「どれが速いか」には三つの答があり、三つとも別の方法が勝つ [論文288]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/288 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171328
Yamagishi, Y. (2026). “Which Is Fastest” Has Three Answers, and a Different Method Wins Each [Paper 288]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/288; DOI: 10.5281/zenodo.22171328
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