【論文387】いつ出るかは、その場所の中では決まらない

要旨

餌場をいつ出るべきかは、その餌場を見れば決まりそうに思える。本稿が示すのは餌場を一切変えずに、最適滞在時間を $\mathbf{3.2372}$ 倍動かせることである。動かしたのは、次の餌場までの移動時間だけである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、同じ獲得曲線 $g(t)=10(1-e^{-0.30t})$ に対し、移動時間 $T$ だけを $1$ から $20$ に変える(第2節)。

第二に、最適滞在時間は $2.2875$ から $\mathbf{7.4051}$ へ、$\mathbf{3.2372}$ 倍になる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。餌場の中身は五行とも完全に同一である。滞在時間を決めているのは、餌場の外にある量である(第3節)。

第四に、出るときの限界獲得率が、全体の平均獲得率と六桁まで一致する(第2節)。

第五に、$T=1$ では、餌場の最大の $\mathbf{50.35}$ パーセントを残して出るのが最適である(第3節)。

第六に、分離子は「餌場が変わったか、餌場のあいだが変わったか」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。限界価値定理(チャーノフ 1976)と、その接線による解法はすべて既知である。生態学を作らない。採餌行動の実証や種差には立ち入らない。一つの模型で、何が滞在時間を決めているかだけを見る。動物が最適化していると主張しない。本稿は最適解を計算するだけで、実際の動物がそう振る舞うかは主題ではない。確率を扱わない。餌場の当たり外れ、情報の不完全さ、危険は主題ではない。決定論的な獲得曲線だけを使う。餌場の分布を扱わない。餌場が均質であることを仮定する。異質な環境での学習は主題ではない。応用を主張しない。探索と活用、注意の配分、投資の引き際などへの転用は、形が同じであることを言うにとどめる。既刊との関係:論文367 は感度を下げると別のところで上がることを示した。ここでは外の量が中の判断を決める。論文386 は溶解度を動かさずに速さを $1000$ 倍動かせることを示した。ここでは餌場を動かさずに滞在を $3.2372$ 倍動かす。論文357 は最大出力と最大効率が別の点であることを示した。ここでは最大獲得量と最適滞在が別の点である。論文362 は石を持ち上げるのが律速でないことを示した。ここでは餌場の豊かさが律速ではない。加えたのは、五つの移動時間で滞在時間と獲得量を数に出したこと、滞在時間の変化幅 $3.2372$ 倍を求めたこと、接線条件が六桁まで成り立つことを確かめたこと、残して出る割合 $50.35$ パーセントを出したこと、分離子を「餌場か、餌場のあいだか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:一つの餌場に $t$ だけ留まると、累積獲得量が $g(t)$ になる。移動に $T$ かかる。

$$g(t)=G\left(1-e^{-\lambda t}\right),\qquad G=10,\ \lambda=0.30$$

長期の平均獲得率を最大にする滞在時間 $t^{*}$ を求める。

$$R(t)=\frac{g(t)}{T+t}\ \longrightarrow\ \max$$

観察 1.1 $g$ は上に凸で単調増加である。留まるほど増えるが、増え方は鈍る。「もう十分」という点が、$g$ の中には無い。

観察 1.2 $T$ は $g$ に一切入っていない。餌場の性質とは無関係、それでも $t^{*}$ を決める。

観察 1.3 最適条件は接線条件になる。$g'(t^{*})=R(t^{*})$、出る瞬間の限界獲得率が、全体の平均獲得率に等しい。

問い:いつ出るべきかは、どこを見れば分かるのか。

2. 餌場を変えずに、滞在が $3.2372$ 倍動く

計算 2.1:移動時間に対する最適滞在(本稿で計算)。

移動 $T$ 最適滞在 $t^{*}$ 獲得量 $g(t^{*})$ 平均率 $R$ 限界率 $g'(t^{*})$
$\mathbf{1.0}$ $\mathbf{2.2875}$ $4.965379$ $1.510386$ $1.510386$
$2.0$ $3.0902$ $6.042823$ $1.187153$ $1.187153$
$5.0$ $4.4913$ $7.400840$ $0.779748$ $0.779748$
$10.0$ $5.8301$ $8.260577$ $0.521827$ $0.521827$
$\mathbf{20.0}$ $\mathbf{7.4051}$ $8.915583$ $0.325325$ $0.325325$

観察 2.2 右の二列が五行とも六桁まで一致している。$1.510386$ と $1.510386$、$0.325325$ と $0.325325$、接線条件 $g'(t^{*})=R(t^{*})$ が、独立に計算した二つの量として確かめられた。

観察 2.3 最適滞在は $2.2875$ から $7.4051$ へ $3.2372$ 倍になる。移動時間が $20$ 倍、滞在の伸びは対数的に鈍い。

観察 2.4 $g$ の定義には $T$ が一度も現れていない。$G=10$、$\lambda=0.30$ は五行とも同じ、餌場そのものは、まったく変わっていない。

観察 2.5 平均率は $1.510386$ から $0.325325$ へ $4.6427$ 分の $1$ になる。滞在の伸びより落ち方が大きい。長く留まっても、移動の損は取り返せない。

3. 半分残して出るのが最適である

計算 3.1:出るときに残っている割合(本稿で計算)。

移動 $T$ 取った割合 $g(t^{*})/G$ 残した割合
$\mathbf{1.0}$ $49.65$ % $\mathbf{50.35}$ %
$5.0$ $74.01$ % $25.99$ %
$\mathbf{20.0}$ $89.16$ % $\mathbf{10.84}$ %

観察 3.2 これが本稿の芯である。$T=1$ では、餌場の半分以上を残して出るのが最適である。餌場は空になっていないどころか、まだ半分ある。それでも出るのが正しい。

観察 3.3 「まだ餌がある」は、留まる理由にならない。$g$ は単調増加なので、いつ出ても餌は残っている。どれだけ残っているかを見ても、出る時刻は決まらない。

観察 3.4 同じ餌場が、環境によって「粘る場所」にも「さっと出る場所」にもなる。$2.2875$ と $7.4051$、餌場の側には、二つを区別する情報が一つも無い。

観察 3.5 論文386 と同じ形である。論文386 では溶解度を動かさずに速さが $1000$ 倍動いた。ここでは餌場を動かさずに滞在が $3.2372$ 倍動く。どちらも、動いていないほうに名前がついている。

観察 3.6 最大獲得量と最適滞在は別の点である。$g$ を最大にするなら $t\to\infty$、論文357 で最大出力と最大効率が別の点だったのと同じ構造である。

4. 接線条件が意味していること

観察 4.1 $g'(t^{*})=R(t^{*})$ は、二つの世界の橋である。左辺は餌場の中の量、右辺は環境全体の量、等号が、外の情報を中に持ち込んでいる。

観察 4.2 だから局所的な判断だけで最適化できる。環境の平均率さえ知っていれば、あとは自分の限界率と比べるだけ、全体を見渡す必要が無い。

観察 4.3 逆に、環境の平均率を知らなければ決められない。同じ餌場で同じ限界率でも、比べる相手が無い。

観察 4.4 形は他所にも現れる。探索と活用、注意の配分、投資の引き際、いずれも「いま得ている率」と「切り替えたときの率」の比較である。ただし本稿は形が同じであることを言うにとどめる。

観察 4.5 接線条件は、餌場が上に凸であることに依存している。$g$ が下に凸なら、最適は端点に飛ぶ、内点の解は、収穫逓減があってはじめて存在する。

5. 分離子:餌場が変わったか、餌場のあいだが変わったか

観察 5.1 分離子、獲得曲線 $g$ が動いたか、移動時間 $T$ が動いたか。

何が変わったか $g$ $T$ 滞在時間
餌場が痩せた 動く 不変 動く
餌場が遠くなった 不変 動く 動く

観察 5.2 滞在時間だけを見ても、二つは区別できない。どちらでも長くなる。結果からは原因が読めない。

観察 5.3 区別は獲得量に出る。餌場が痩せれば $g(t^{*})$ は下がる。遠くなっただけなら、$g(t^{*})$ は $4.965379$ から $8.915583$ へ上がる。

観察 5.4 つまり「長く留まって、たくさん取っている」は環境の悪化の徴候である。一見すると好調に見える。平均率は $4.6427$ 分の $1$ に落ちている。

観察 5.5 正直に言えば、$G=10$、$\lambda=0.30$ は模型の定数であって、測ったものではない。$3.2372$ 倍という数はこの $\lambda$ に依存する。動かないのは、接線条件が六桁まで成り立つことと、$T$ が $g$ に入っていないことである。

観察 5.6 最後に一つ、「まだ取れる」と「取り続けるべきだ」は別のことである。前者は餌場を見れば分かり、後者は餌場を見ても分からない。見る場所を間違えると、いつまでも出られない。

6. 点呼と結び

  1. $g$ に $T$ は入っていない(観察 2.4):$G=10$、$\lambda=0.30$ は五行とも同じ。
  2. 最適滞在は $2.2875$ から $7.4051$(計算 2.1):$3.2372$ 倍。
  3. 接線条件が六桁まで一致(観察 2.2):独立に計算した二量。
  4. 平均率は $4.6427$ 分の $1$(観察 2.5):滞在の伸びより落ち方が大きい。
  5. $T=1$ で $50.35$ % を残して出る(計算 3.1):半分以上残っている。
  6. 「まだ餌がある」は理由にならない(観察 3.3):いつ出ても残っている。
  7. 餌場の側に区別する情報が無い(観察 3.4):$2.2875$ と $7.4051$。
  8. 接線条件は二つの世界の橋(観察 4.1):外の情報を中に持ち込む。
  9. 上に凸でなければ端点に飛ぶ(観察 4.5):収穫逓減が要る。
  10. 長く留まって多く取るのは悪化の徴候(観察 5.4):平均率で見る。

結び:餌場をいつ出るべきかは、その餌場を見れば決まりそうに思える。だが決めているのは、餌場の外にある量である。獲得曲線 $g(t)=10(1-e^{-0.30t})$ を固定したまま、移動時間 $T$ だけを $1$ から $20$ に変える。最適滞在は $2.2875$ から $\mathbf{7.4051}$ へ $\mathbf{3.2372}$ 倍になる。$g$ の定義には $T$ が一度も現れず、$G=10$ と $\lambda=0.30$ は五行とも同じで、餌場そのものはまったく変わっていない。最適条件は接線条件 $g'(t^{*})=R(t^{*})$ である。五行とも、独立に計算した限界獲得率と平均獲得率が六桁まで一致した($1.510386$ と $1.510386$、$0.325325$ と $0.325325$)。左辺は餌場の中の量、右辺は環境全体の量であり、等号が外の情報を中に持ち込んでいる。だから局所的な判断だけで最適化でき、逆に環境の平均率を知らなければ決められない。そして、半分残して出るのが最適である。$T=1$ では 餌場の最大の $\mathbf{50.35}$ パーセントを残して出るのが正しい。$g$ は単調増加なので、いつ出ても餌は残っており、どれだけ残っているかを見ても出る時刻は決まらない。「まだ餌がある」は、留まる理由にならない。同じ餌場が、環境によって「粘る場所」にも「さっと出る場所」にもなり、餌場の側には二つを区別する情報が一つも無い。分けているものは一つ、獲得曲線が動いたか、移動時間が動いたか。滞在時間だけを見ればどちらでも長くなり、結果からは原因が読めない。区別は獲得量に出る。餌場が痩せれば $g(t^{*})$ は下がるが、遠くなっただけなら $4.965379$ から $8.915583$ へ上がる。つまり「長く留まって、たくさん取っている」は一見好調に見えて、環境の悪化の徴候である。平均率は $4.6427$ 分の $1$ に落ちている。正直に言えば、$G=10$ と $\lambda=0.30$ は模型の定数であって測ったものではなく、$3.2372$ 倍という数はこの $\lambda$ に依存する。動かないのは、接線条件が六桁まで成り立つことと、$T$ が $g$ に入っていないことである。また接線条件は $g$ が上に凸であることに依存しており、下に凸なら最適は端点に飛ぶ、内点の解は収穫逓減があってはじめて存在する。最後に一つ、「まだ取れる」と「取り続けるべきだ」は別のことである。前者は餌場を見れば分かり、後者は餌場を見ても分からない。見る場所を間違えると、いつまでも出られない。

参考文献

  1. Charnov, E. L. (1976). Optimal foraging, the marginal value theorem. Theoretical Population Biology.
  2. Stephens, D. W., Krebs, J. R. (1986). Foraging Theory. Princeton: Princeton University Press.
  3. Nonacs, P. (2001). State dependent behavior and the marginal value theorem. Behavioral Ecology.
  4. Hayden, B. Y., Pearson, J. M., Platt, M. L. (2011). Neuronal basis of sequential foraging decisions in a patchy environment. Nature Neuroscience.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『最大出力と最大効率は、同じ点ではない』[論文357]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697180
  6. 山岸勇輝 (2026). 『石を持ち上げるのは、律速ではない』[論文362]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697498
  7. 山岸勇輝 (2026). 『感度を下げると、別のところで上がる』[論文367]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697709
  8. 山岸勇輝 (2026). 『溶解度は一つも動いていないのに、溶ける速さが 1000 倍になる』[論文386]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699119

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「いつ出るかは、その場所の中では決まらない」[論文387]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699131

YOI 387第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). いつ出るかは、その場所の中では決まらない [論文387]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/387 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699131

Yamagishi, Y. (2026). When to Leave Is Not Decided Inside the Patch [Paper 387]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/387; DOI: 10.5281/zenodo.22699131

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