【論文642】フェルマーの最終定理への道は道具で範囲が違い、降下とクンマーは 92 個の指数に届かない

要旨

$n\ge3$ のとき、$x^n+y^n=z^n$ に互いに素な正の整数の解は無い(フェルマーの最終定理。ワイルズが $1995$ 年に証明した)。本稿は証明をせず、この「解が無い」に届く道を並べ、それぞれがどの指数まで届くかを数える。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、無限降下の道は $n=4$ に届く。$x^4+y^4=z^2$ の解は $3000$ まで $1$ つも無く、同じ探し方で $x^2+y^2=z^2$ の互いに素な解は $534$ 個見つかった。指数が $4$ で割り切れれば、この道で済む(第3節)。

第二に、クンマーの道は正則な素数に届く。素数 $p$ が正則(ベルヌーイ数 $B_2,\ldots,B_{p-3}$ の分子を $p$ が割らない)なら、指数 $p$ で解は無い。$3$ 以上 $1000$ 未満の素数 $167$ 個のうち正則なのは $103$ 個(割合 $0.616766$)で、$100$ 未満で正則でないのは $37$・$59$・$67$ だけだった(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。二つの道を合わせても、届かない指数が残る。$4$ で割り切れず、正則な奇素数も因数に持たない指数は、$1000$ 以下に $\mathbf{92}$ 個あり、最小は $37$ だった。道具ごとに届く指数の範囲が違い、全部に届いたのはワイルズの道だけである(第5節)。

第四に、ABC 予想からの道は大きな指数に届く(条件付き)、反例があれば、その組の質 $\log z^n/\log\mathrm{rad}(xyz)$ は必ず $n/3$ を超える。$n\ge5$ なら $5/3$ を超え、論文641 で確かめた知られた最高 $1.629912$ を上回る。$c<10^6$ の $1268$ 組に $q>5/3$ は $1$ つも無かった。一方 $n=3$・$4$ の下限 $1$・$4/3$ を超える組はある(第6節)。

第五に、多項式の世界では一行で済み、近い組は解ではない。係数の小さい多項式の総当たりで、$n=2$ は $20$ 組見つかり、$n=3$・$4$ は $0$ だった(メイソン=ストザースの帰結)。整数では $9^3+10^3=12^3+1$ のように $1$ だけずれる組が $2000$ までに $18$ 組あるが、ぴったりの組は無い(第2節・第7節)。

キーワード:フェルマーの最終定理、無限降下法、正則素数、ベルヌーイ数、クンマー。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。最終定理とその証明(ワイルズ、テイラーとワイルズ、$1995$)、$n=4$ の無限降下(フェルマー)、正則素数についてのクンマーの定理($1850$ 年ごろ)、正則でない素数の一覧、正則な素数の割合が $e^{-1/2}$ に近いという予想(ジーゲル)、ABC 予想から大きな指数が除かれること(グランヴィルとタッカーの解説ほか)は、いずれも既知である。最終定理を証明しない。ワイルズの道(フライ曲線とモジュラー性)は、数で追えないので住所だけを書く。「別根」とは呼ばない。分かれているのは現象の源ではなく証明の道具なので、「別の道」と呼ぶ。同じ名前の別の定理に注意する。論文603 のフェルマーの判定(小定理)、論文608 のクンマーの定理(繰り上がり)は、本稿のフェルマー・クンマーとは別の定理である。既刊との関係:論文641 は、ABC 予想が多項式では定理で整数では予想であることを数え、多項式のフェルマーを一行の帰結として置いた。本稿はその多項式の道と ABC からの道を、整数の最終定理への道の点呼の中に置き直す。論文31 は、ラマヌジャンの級数の $\pi$ をモジュラー形式の周期と住所づけた。ワイルズの道もモジュラー形式を通る。加えたのは、正則素数を二つの道筋で $1000$ まで判定したこと、降下とクンマーのどちらでも届かない指数を数えたこと、反例の質の下限 $n/3$ を既知の組と突き合わせたこと、分離子を「道具ごとに届く指数の範囲」に置いたことである。

1. 記法と問い

最終定理:$n\ge3$ のとき、$x^n+y^n=z^n$ に互いに素な正の整数の解は無い。$n$ の約数 $d$ について、$x^n+y^n=z^n$ の解は $(x^{n/d})^d+(y^{n/d})^d=(z^{n/d})^d$ の解になる。$3$ 以上のどの $n$ も $4$ か奇素数で割り切れるので、$n=4$ と奇素数 $p$ について解が無いことを言えば足りる。

問い:この「解が無い」に、どの道具が、どの指数まで届くか。

2. 多項式の世界

計算 2.1:係数が $-2$ から $2$ の整数で次数 $2$ 以下の多項式 $124$ 個から、互いに素で定数でない組 $x(t)$・$y(t)$ を選び、$x^n+y^n$ が多項式の $n$ 乗になるものを探した($t=2$ から $8$ の値で絞り、因数分解で確かめた)。$n=2$ では $20$ 組見つかり($(2t)^2+(t^2-1)^2=(t^2+1)^2$ を含む)、$n=3$・$4$ では $1$ 組も無かった。

観察 2.2 多項式の世界では、どの $n\ge3$ にも一行で届く。論文641 のメイソン=ストザースの定理を当てると、$D$ を次数の最大として $nD\le3D-1$ となり、$n<3$ でなければならない。ただしこれは多項式の最終定理であって、整数の最終定理への道ではない。整数には、その証明が使う微分が無い。

3. 無限降下の道(n=4)

計算 3.1:$1\le x\le y\le3000$ で $x^4+y^4=z^2$ となる整数 $z$ を探すと、$1$ つも無かった。同じ探し方で、互いに素な $x^2+y^2=z^2$ の解は $534$ 個見つかった(探し方が働いていることの陽性対照)。

観察 3.2 フェルマー自身の道は、解があれば、より小さい解が作れることを示して、解の存在を否定する(無限降下)。$x^4+y^4=z^4$ は $x^4+y^4=(z^2)^2$ の特別な場合なので、$n=4$ はこれで済む、そして $4$ で割り切れる指数は、すべて $n=4$ に帰着する。

4. クンマーの道(正則な素数)

計算 4.1:奇素数 $p$ が正則とは、ベルヌーイ数 $B_2,B_4,\ldots,B_{p-3}$ の分子を $p$ が割らないことである。正確なベルヌーイ数を使う道筋と、$p$ で割った余りだけを漸化式で追う道筋の二つで判定し、$p<200$ のすべての素数で結果が一致した。そのうえで $p<1000$ まで判定した。

$3$ 以上 $1000$ 未満の素数 $167$ 個
正則 $103$ 個(割合 $0.616766$)
正則でない $64$ 個
$100$ 未満の正則でない素数 $37$・$59$・$67$

正則でない度合いが $2$ 以上の素数は $157$($k=62$・$110$)、$691$($k=12$・$200$)など $14$ 個、$491$・$617$・$647$ は $3$ だった。割合 $0.616766$ は、ジーゲルの予想の $e^{-1/2}=0.606531$ と $+0.010236$ の差である。

観察 4.2 クンマーの道は、正則な素数にだけ届く。そして正則でない素数が限りなくあることは知られているが、正則な素数が限りなくあるかは、まだ分かっていない。この道が届く範囲の広さそのものが、未解決の問いである。

5. 二つの道の届かない指数

計算 5.1:指数 $n=3$ から $1000$ のうち、$4$ で割り切れず、正則な奇素数も因数に持たないもの(無限降下にもクンマーの道にも帰着しないもの)を数えると、$92$ 個だった。小さい順に $37$・$59$・$67$・$74$・$101$・$103$・$118$・$131$・$134$・$149$ と続く。どれも、奇素因数がすべて正則でない素数で、$4$ で割り切れない。

観察 5.2 これが本稿の芯である。道具ごとに届く指数の範囲が違い、二つを合わせても $1000$ 以下に $92$ 個の穴が残る。無限降下は $4$ の倍数に、クンマーの道は正則な奇素数を因数に持つ指数に届く。$37$ のように正則でない素数そのものには、どちらも届かない。同じ「解が無い」でも、どの道で届いたかは指数ごとに違い、全部に届いたのはワイルズの道(フライ曲線とモジュラー性)だけである。

6. ABC 予想からの道(条件付き)

計算 6.1:互いに素な $x<y<z$ で $x^n+y^n=z^n$ なら、$\mathrm{rad}(x^ny^nz^n)=\mathrm{rad}(xyz)\le xyz<z^3$ なので、この組の質は

$$q=\frac{\log z^n}{\log\mathrm{rad}(xyz)}>\frac{n}{3}$$

を満たす。$n/3$ は $n=3$ で $1.000000$、$4$ で $1.333333$、$5$ で $1.666667$、$6$ で $2.000000$、$7$ で $2.333333$ である。

知られた最高の質($2+3^{10}\times109=23^5$、論文641) $1.629912$($5/3$ との差 $-0.036755$)
$c<10^6$ の $q>1$ の組 $1268$ 個(最高 $1.567887$)
そのうち $q>4/3$ $20$ 個
そのうち $q>5/3$ $0$ 個

観察 6.2 反例があれば、$n\ge5$ ではこれまでに見つかったどの組よりも質の高い組になる。ABC 予想が正しければ、質が $5/3$ を超える組は有限個しかないので、大きな指数の反例は限られる。一方 $n=3$・$4$ の下限 $1$・$4/3$ を超える組は $c<10^6$ にもあり、この道だけでは除けない。ABC からの道は大きな指数に届き、小さな指数は無限降下とクンマーの道が受け持つ。

7. 近いが無い

計算 7.1:$2\le x\le y\le2000$ で、$x^3+y^3$ が立方数と $1$ だけずれる組は $18$ 組あった($z^3+1$ の側 $9$ 組、$z^3-1$ の側 $9$ 組)。小さい順に $6^3+8^3=9^3-1$、$9^3+10^3=12^3+1$($1729$)、$64^3+94^3=103^3+1$ である。$x^3+y^3=z^3$ の組は $1$ つも無かった。

観察 7.2 近い組があることは、解があることの手がかりにならない。$1$ だけずれる組は $2000$ までに $18$ 組あるが、ずれが $0$ の組は無い。「解が無い」は、近さの問題ではなく、ぴったり等しくなれない構造の問題である。

8. 分離子

観察 8.1 分離子は、道具ごとに届く指数の範囲である。無限降下は $4$ の倍数、クンマーの道は正則な素数、ABC からの道は(条件付きで)大きな指数、多項式の道は多項式の世界に届く。どれも一部で、$1000$ 以下に $92$ 個の穴が残る。同じ「解が無い」を、別々の道具がそれぞれの範囲で支え、全部を支えたのはワイルズの道だけである。

観察 8.2 論文641・論文31・論文603・論文608 と並べる。641 は多項式の道と ABC からの道の出どころで、31 はモジュラー形式に住所を書いた。603 のフェルマーの判定と 608 のクンマーの定理は、同じ人の別の定理である。名前が同じでも、指している定理が違えば道具も違う。

観察 8.3 言わないこと。最終定理を証明しない。ワイルズの道は住所だけを書いた。「別根」とも呼ばない。示したのは、四つの道がそれぞれどの指数まで届くか、そして届かない指数の数である。

9. 点呼と結び

  1. 多項式では $n=3$・$4$ の解が $0$(計算 2.1):$n=2$ は $20$ 組。
  2. 多項式の道は整数の道ではない(観察 2.2):微分が無い。
  3. $x^4+y^4=z^2$ は $3000$ まで $0$(計算 3.1):陽性対照は $534$。
  4. 正則な素数は $103/167$(計算 4.1):$0.616766$。
  5. $100$ 未満の正則でない素数は $37$・$59$・$67$(計算 4.1):二つの道筋が一致。
  6. 正則な素数が限りなくあるかは未解決(観察 4.2):道の広さが問い。
  7. 二つの道の届かない指数は $\mathbf{92}$ 個(計算 5.1):最小は $37$。
  8. 道具ごとに範囲が違う(観察 5.2):本稿の芯。
  9. 反例の質は $n/3$ 超え(計算 6.1):$n\ge5$ で既知の最高を上回る。
  10. $1$ だけずれる組は $18$、ぴったりは $0$(計算 7.1):近さは手がかりにならない。

結び:$n\ge3$ で $x^n+y^n=z^n$ に解が無いというフェルマーの最終定理に、無限降下は $n=4$ から、クンマーの道は正則な素数から届き、$1000$ 未満の奇素数の $0.616766$ が正則だった。二つを合わせても、$1000$ 以下の指数のうち $92$ 個(最小は $37$)には届かない。反例があればその質は $n/3$ を超えるので、ABC 予想からの道は条件付きで大きな指数に届くが、小さな指数には届かない。多項式の世界では一行で済み、整数の $1$ だけずれる組は解ではない。分離子は、道具ごとに届く指数の範囲である。既刊との位置、論文641 の多項式の道と ABC の道が、整数の最終定理への道の点呼の中に入る。正直に言えば、ワイルズの道には住所を書いただけで、最終定理の証明には入っていない。

参考文献

  1. Granville, A., & Tucker, T. J. (2002). It’s as easy as abc. Notices of the American Mathematical Society.
  2. Taylor, R., & Wiles, A. (1995). Ring-theoretic properties of certain Hecke algebras. Annals of Mathematics.
  3. Washington, L. C. (1997). Introduction to Cyclotomic Fields. Springer.
  4. Wiles, A. (1995). Modular elliptic curves and Fermat’s Last Theorem. Annals of Mathematics.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『次元を持たない $\pi$』[論文31]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090430
  6. 山岸勇輝 (2026). 『561 は、互いに素などの底で試しても、フェルマーの判定を通る』[論文603]. Zenodo.
  7. 山岸勇輝 (2026). 『パスカルの三角形の奇数は、行の番号を二進法で書いたときの 1 の数で決まる』[論文608]. Zenodo.
  8. 山岸勇輝 (2026). 『ABC 予想は多項式では定理で、整数では予想である。証明に要る微分が整数には無い』[論文641]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22805478

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「フェルマーの最終定理への道は道具で範囲が違い、降下とクンマーは 92 個の指数に届かない」[論文642]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22805604

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). フェルマーの最終定理への道は道具で範囲が違い、降下とクンマーは 92 個の指数に届かない [論文642]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/642 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22805604

Yamagishi, Y. (2026). The Roads to Fermat’s Last Theorem Reach Different Exponents, and Descent and Kummer Together Miss 92 Exponents up to 1000 [Paper 642]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/642; DOI: 10.5281/zenodo.22805604

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