要旨
膜を通る溶質の液では、浸透圧濃度が等しくても細胞は縮まずに膨らみ続ける(論文973)。そこでは、溶質が水の流れに引かれる分(反射係数)を入れず、溶質は水の通り道を通らないと置いた。本稿は、973 の体積の式に反射係数 σ と、水の流れが溶質を運ぶ分を入れ、食塩水に通る溶質を足した液と、通る溶質だけの液で、体積がどう動くかを出す。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、反射係数が小さいほど、一時の縮みは浅い。食塩水+通る溶質の液で、溶質の通りやすさの比 ω=0.1 の最小の体積は、σ=1・$0.9$・$0.75$・$0.5$・$0.25$・$0$ に $\mathbf{0.732948}$・$0.743511$・$0.764875$・$0.817668$・$0.895605$・$1.000000$ だった。σ=1 は論文973 の値である(第2節)。
第二に、縮みの深さは反射係数に比例するより深い。縮みの深さを σ=1 の深さで割ると、σ=0.5 で ω=0.1・$1$・$10$ に $\mathbf{0.682758}$・$0.598414$・$0.523943$ で、12 の組のどれでも σ より大きかった(第2節)。
第三に、通る溶質だけの液では、反射係数が小さいほど速く膨らむ。体積が 1.6 倍に届く時間は、ω=0.1 で σ=1 の $10.4680$ から σ=0 の $\mathbf{0.9000}$、ω=10 で $1.0470$ から $0.9000$ に縮んだ(第3節)。
第四に、反射係数 0 の溶質は、細胞から見て無いのと同じだった。σ=0 では三つの ω のどれでも食塩水+通る溶質で縮まず(最小 $1.000000$)、通る溶質だけの液では水の式の $0.9$ と $2\times10^{-3}$ 以内で 1.6 倍に届いた。通る溶質の無い食塩水(σ=0.5・ω=1 で解いた)では、体積は動かなかった(第4節)。
第五に、分離子は、溶質が水と別の道を通るか、水の流れに乗って通るか。σ=1 では溶質は水を引く浸透圧を全部持ち、σ=0 では水と同じ道を一緒に通って水を引かない。その間では、縮みの深さの比が σ と一致せず、ω が大きいほど σ に近かった(第5節)。
キーワード:反射係数、浸透、細胞の体積、膜の輸送、溶質の引きずり、浸透圧濃度。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。膜を通る溶質の浸透の効きを反射係数で表すこと、水の流れが溶質を運ぶ分を入れた膜の流れの式(ケデムとカチャルスキー)、反射係数が 0 の溶質は浸透で水を引かないことは、いずれも膜の輸送の理論で既知である。置いた値である。動かない割合 $b=0.4$、液の組、溶質の通りやすさの比 ω=0.1・$1$・$10$ は論文973 の模型の値で、反射係数 $0$〜$1$ は本稿で置いた。どの細胞、膜、溶質にも対応しない。式を単純にした。水が運ぶ溶質の濃さは中と外の相加平均と置き、膜の張り、細胞が体積を戻す働き、溶血、面積の変化は入れない。医療の使い方を述べない。どの液をいつ使うべきかは扱わない。既刊との関係:論文973 の射程注記は、溶質と水の結びつきを入れず、溶質が水の流れに引かれる分(反射係数)、膜の張り、細胞が体積を戻す働き、溶血そのものは入れないと書いた。本稿はそのうち反射係数の席に座る(先客なし)。論文973 は、膜を通る溶質の液では浸透圧濃度が等しくても細胞は縮まずに膨らみ続けることを示した。ここでは、その溶質が水の流れに引かれて通る分を入れると、縮みと膨らみがどう変わるかを数える。加えたのは、三つの通りやすさと六つの反射係数で最小の体積と 1.6 倍に届く時間を出したこと、反射係数 1 で論文973 の値を再現したこと、縮みの深さが反射係数に比例するより深いことを測ったこと、反射係数 0 が水と同じになると確かめたこと、分離子を「水と別の道か、水の流れに乗るか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:論文973 と同じく、体積をもとの体積との比 $x$、浸透で動かない割合 $b=0.4$、中の通らない溶質 $1-b$、中の通る溶質 $m$、外の通らない溶質 $r_i$、通る溶質 $r_p$(290 mOsm を単位)とする。反射係数 $\sigma$ を入れ、水が運ぶ溶質の濃さを中と外の相加平均と置くと
$$\frac{dx}{dt}=\frac{1-b}{x-b}-r_i+\sigma\Bigl(\frac{m}{x-b}-r_p\Bigr),\qquad \frac{dm}{dt}=\omega\Bigl(r_p-\frac{m}{x-b}\Bigr)+(1-\sigma)\,\frac{1}{2}\Bigl(\frac{m}{x-b}+r_p\Bigr)\frac{dx}{dt}$$
である。$\sigma=1$ で論文973 の式に戻る。$\omega=0.1$・$1$・$10$、$\sigma=1$・$0.9$・$0.75$・$0.5$・$0.25$・$0$ とし、刻み $0.001$ の四次のルンゲ・クッタで解いた($\omega=1$・$\sigma=0.5$ で刻みを半分にしても最小の体積 $0.901286$ は同じ)。液は食塩水+通る溶質($r_i=1$・$r_p=1$、時間 60 まで)と、通る溶質だけ($r_i=0$・$r_p=1$、1.6 倍に届くまで、時間 200 まで)である。
問い:溶質が水の流れに引かれて膜を通ると、浸透圧濃度の等しい液で細胞の体積はどう動くか。
2. 食塩水+通る溶質での縮み
計算 2.1:最小の体積(かっこ内はその時刻)。
| $\sigma$ | $\omega=0.1$ | $\omega=1$ | $\omega=10$ |
|---|---|---|---|
| $1$ | $\mathbf{0.732948}$($0.7290$) | $0.835040$($0.4110$) | $0.956697$($0.1400$) |
| $0.9$ | $0.743511$($0.7760$) | $0.845489$($0.4280$) | $0.960593$($0.1410$) |
| $0.75$ | $0.764875$($0.8580$) | $0.863759$($0.4540$) | $0.966663$($0.1440$) |
| $0.5$ | $0.817668$($1.0320$) | $0.901286$($0.5010$) | $0.977312$($0.1470$) |
| $0.25$ | $0.895605$($1.2590$) | $0.947255$($0.5510$) | $0.988487$($0.1510$) |
| $0$ | $1.000000$ | $1.000000$ | $1.000000$ |
$\sigma=1$・$\omega=0.1$ は論文973 の最小 $0.732948$ を再現した。$\omega=0.1$ の時間 60 の体積は $\sigma=1$ で $0.998592$、$\sigma=0.25$ で $0.999989$ だった。
計算 2.2:縮みの深さ($1-$ 最小の体積)を $\sigma=1$ の深さで割った比。
| $\sigma$ | $\omega=0.1$ | $\omega=1$ | $\omega=10$ |
|---|---|---|---|
| $0.9$ | $0.960448$ | $0.936659$ | $0.910031$ |
| $0.75$ | $0.880446$ | $0.825901$ | $0.769856$ |
| $0.5$ | $\mathbf{0.682758}$ | $0.598414$ | $0.523943$ |
| $0.25$ | $0.390917$ | $0.319746$ | $0.265882$ |
| $0$ | $0.000000$ | $0.000000$ | $0.000000$ |
観察 2.3 縮みの深さは反射係数に比例するより深く、$\omega$ が大きいほど比例に近い。三つの $\omega$ と四つの $\sigma$($0.9$〜$0.25$)の 12 の組のどれでも、深さの比は $\sigma$ より大きかった。$\sigma=0.5$ で $\omega=0.1$ の $0.682758$ から $\omega=10$ の $0.523943$ に下がった。最小に達する時刻は $\sigma$ が小さいほど遅かった。
3. 通る溶質だけの液での膨らみ
計算 3.1:体積が 1.6 倍に届く時間。
| $\sigma$ | $\omega=0.1$ | $\omega=1$ | $\omega=10$ |
|---|---|---|---|
| $1$ | $10.4680$ | $2.1330$ | $1.0470$ |
| $0.9$ | $8.5110$ | $1.9530$ | $1.0260$ |
| $0.75$ | $5.7750$ | $1.7090$ | $0.9960$ |
| $0.5$ | $2.4180$ | $1.3640$ | $0.9550$ |
| $0.25$ | $1.3020$ | $1.0960$ | $0.9230$ |
| $0$ | $\mathbf{0.9000}$ | $0.9000$ | $0.9000$ |
観察 3.2 反射係数が小さいほど速く膨らむ。三つの $\omega$ のどれでも、$\sigma$ を小さくすると 1.6 倍に届く時間は縮んだ。$\omega=0.1$ では $10.4680$ から $0.9000$ まで、$\omega=10$ では $1.0470$ から $0.9000$ まで縮み、$\omega$ が小さいほど $\sigma$ の効きが大きかった。
4. 反射係数 0
計算 4.1:$\sigma=0$ では $dx/dt=(1-b)/(x-b)-r_i$ で $m$ が消える。通る溶質だけの液($r_i=0$)では $(x-b)^2=(1-b)^2+2(1-b)t$ で、1.6 倍に届く時間は $0.9$ である。三つの $\omega$ で解いた時間はこれと $2\times10^{-3}$ 以内で一致し、食塩水+通る溶質では最小の体積が $1$ だった。比べとして、通る溶質の無い食塩水($\sigma=0.5$・$\omega=1$)で解くと最小の体積は $1.000000000$ で、体積は動かなかった。
観察 4.2 反射係数 0 の溶質は、細胞の体積から見て無いのと同じだった。食塩水+通る溶質は食塩水と、通る溶質だけの液は水と、同じ体積の動きになった。溶質はそれでも膜を通って中に入るが、水を引かない。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、溶質が水と別の道を通るか、水の流れに乗って通るか。$\sigma=1$ では溶質は水の通り道を通らず、中と外の濃さの差が全部水を引く。$\sigma=0$ では溶質は水と同じ道を一緒に通り、水を引かない。その間では、縮みの深さの比は $\sigma$ と一致せず($\sigma=0.5$ で $0.523943$〜$0.682758$)、$\omega$ が大きいほど $\sigma$ に近かった。深さの比が $\sigma$ より大きくなる理由は、本稿では項ごとに分けて測っていない。
観察 5.2 言わないこと。実在の膜や溶質の反射係数、水が運ぶ溶質の濃さの別の置き方(対数平均など)、膜の張り、細胞が体積を戻す働き、溶血、医療の使い方は扱わない。示したのは、論文973 の模型に反射係数を入れると、一時の縮みと膨らむ速さがどう変わるかである。
6. 点呼と結び
- 反射係数と溶質の引きずりを入れた式(第1節):$\sigma=1$ で論文973 に戻る。
- 最小の体積 $\mathbf{0.732948}$ → $1.000000$(計算 2.1):反射係数が小さいほど浅い。
- 深さの比 $\mathbf{0.682758}$($\sigma=0.5$)(計算 2.2):比例するより深い。
- 1.6 倍に届く時間 10.4680 → $\mathbf{0.9000}$(計算 3.1):速く膨らむ。
- $\sigma=0$ は水の式と一致(計算 4.1):溶質は無いのと同じ。
- 水と別の道か、水の流れに乗るか(観察 5.1):分離子・論文973 の射程注記。
結び:反射係数が小さい溶質ほど細胞の縮みは浅く、通る溶質だけの液では速く膨らむ。973 の体積の式に反射係数と溶質の引きずりを入れると、食塩水+通る溶質での最小の体積は ω=0.1 で σ=1 の $0.732948$ から σ=0 の $1.000000$ まで上がり、縮みの深さの比は 12 の組のどれでも σ より大きかった。通る溶質だけの液で 1.6 倍に届く時間は $10.4680$ から $0.9000$ に縮み、σ=0 では水の式と一致した。分離子は、溶質が水と別の道を通るか、水の流れに乗って通るか。既刊との位置:論文973 が溶質は水の道を通らないと置いて数えた体積の動きに、論文973 が入れなかった反射係数を足した。正直に言えば、水が運ぶ溶質の濃さを相加平均と置いた一つの式で、体積の動きを数えた。反射係数で縮みと膨らみがどう変わるか、そこまでである。
参考文献
- Kedem, O., & Katchalsky, A. (1958). Thermodynamic analysis of the permeability of biological membranes to non-electrolytes. Biochimica et Biophysica Acta.
- 山岸勇輝 (2026). 『膜を通る溶質の液では、浸透圧濃度が等しくても細胞は縮まずに膨らみ続ける』[論文973]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/973
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「反射係数が小さい溶質ほど細胞の縮みは浅く、通る溶質だけの液では速く膨らむ」[論文986]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/986
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/986・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 反射係数が小さい溶質ほど細胞の縮みは浅く、通る溶質だけの液では速く膨らむ [論文986]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/986
Yamagishi, Y. (2026). The Smaller a Solute’s Reflection Coefficient, the Shallower a Cell Shrinks and the Faster It Swells in That Solute Alone [Paper 986]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/986
@misc{yamagishi2026yoi986,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Smaller a Solute's Reflection Coefficient, the Shallower a Cell Shrinks and the Faster It Swells in That Solute Alone},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/986},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
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