要旨
燃料を使えば、その分だけ得をすると思われている。本稿が示すのは、同じ燃料でも、燃やす場所でエネルギーが $\mathbf{3.90}$ 倍違うことである。燃料の側の式には、場所が入っていない。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$\Delta v=1$ km/s に要る燃料の分率は $\mathbf{0.283469}$ で、閉じた式 $1-e^{-\Delta v/v_{e}}$ に一致する(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。同じ燃料なのに、得られる比エネルギーは $v=3$ km/s と $v=10$ km/s で $\mathbf{3.000000}$ 倍違う(第2節)。
第三に、その比は閉じた式 $(v_{2}+\Delta v/2)/(v_{1}+\Delta v/2)$ に一致する(第2節)。
第四に、静止から燃やすと得は $\Delta v^{2}/2$ だけで、これが下限である(第2節)。
第五に、離心率 $0.6$ の軌道では、近点と遠点で $\mathbf{3.9025}$ 倍ひらく。離心率を $0.01$ にすると $\mathbf{1.019865}$ 倍まで縮む(第3節)。
第六に、分離子は「足しているのが速度か、エネルギーか」である(第4節)。
キーワード:オーベルト効果、ツィオルコフスキーの式、宇宙飛行、軌道力学、推進剤。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。オーベルト効果もツィオルコフスキーの式も標準的である。飛行計画を作らない。実際の軌道設計、重力アシスト、有限時間の噴射は主題ではない。瞬間的な増速だけを扱う。エネルギー保存を疑わない。推進剤が持ち去るエネルギーを含めれば全体は保存する。本稿が数えているのは、機体に残る分だけである。排気速度を一つに固定する。$v_{e}=3$ km/s とし、比推力の選択は扱わない。相対論を扱わない。速度は光速に比べて十分小さいとする。既刊との関係:論文483 は二つの力が同じ指数を持つから半径が消えると示した。こちらは逆に、場所が消えずに残る場合である。論文505 は「勢力圏」が三つあると示した。同じ軌道力学の場で、こちらは一つの量が場所に依る。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。速度の増分とエネルギーの増分は別根である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、燃料の分率を $0.283469$ と出し閉じた式と突き合わせたこと、同じ燃料で $3.000000$ 倍の差が出ることを示したこと、比が閉じた式に一致することを確かめたこと、近点と遠点で $3.9025$ 倍を出したこと、離心率を下げると $1.019865$ 倍まで縮むことを示したことである。
1. 記法と問い
設定:速さ $v$ で進む機体に、瞬間的に $\Delta v$ を足す。単位質量あたりのエネルギーの増分は
$$\Delta E=\frac{1}{2}(v+\Delta v)^{2}-\frac{1}{2}v^{2}
=v\,\Delta v+\frac{\Delta v^{2}}{2}$$
である。一方、$\Delta v$ に要る燃料はツィオルコフスキーの式 $\Delta v=v_{e}\ln(m_{0}/m_{1})$ で決まり、$v$ を含まない。以下 $\Delta v=1$ km/s、$v_{e}=3$ km/s とする。
観察 1.1 燃料を使えば、その分だけ得をすると思われている。同じ燃料なら同じ得、帳簿が一つある、という像である。
観察 1.2 だが上の式には $v$ が入っている。$v \Delta v$ という項、燃料の式には入っていないのに、エネルギーの式には入っている。
問い:同じ燃料で、得はどれだけ変わるのか。
2. 燃料は同じで、得られるものが違う
計算 2.1:$\Delta v=1$ km/s を、三つの速さで足す。
| そのときの速さ $v$ | 比エネルギーの増分 |
|---|---|
| $3$ km/s | $3.500000\times10^{6}$ J/kg |
| $10$ km/s | $\mathbf{1.050000\times10^{7}}$ J/kg |
| $30$ km/s | $3.050000\times10^{7}$ J/kg |
観察 2.2 要る燃料はどれも同じである。分率 $\mathbf{0.283469}$、閉じた式 $1-e^{-\Delta v/v_{e}}=0.283468689426$ に一致し、$v$ はどこにも入っていない。
観察 2.3 それでも得は $3.000000$ 倍違う。$1.050000\times10^{7}$ 対 $3.500000\times10^{6}$、同じ燃料を、違う場所で燃やしただけである。
観察 2.4 比が閉じた式に一致する。$3.000000000$ 対 $(v_{2}+\Delta v/2)/(v_{1}+\Delta v/2)=3.000000000$、独立な確認である。
観察 2.5 静止から燃やすと、得は $\Delta v^{2}/2$ だけになる。$5.000000\times10^{5}$ J/kg、これが下限で、$v=0$ でも得はゼロではない。
観察 2.6 速いほど、その下限の項は相対的に小さくなる。$v=30$ km/s で $0.016393$、$1.6$ パーセントしか占めず、ほとんどが $v \Delta v$ の項である。
観察 2.7 燃料の側の検査が $\Delta v$ に反応する。$\Delta v$ を $2$ 倍にすると分率が $0.486583$ へ、$v$ には反応しないが $\Delta v$ には反応しており、式が正しく効いている。
3. 軌道の中で測る
計算 3.1:離心率 $0.6$ の軌道で、近点と遠点に同じ $\Delta v$ を足す。
| 位置 | 速さ | 比エネルギーの増分 |
|---|---|---|
| 近点 | $59.5694$ km/s | $\mathbf{6.006938\times10^{7}}$ J/kg |
| 遠点 | $14.8923$ km/s | $\mathbf{1.539235\times10^{7}}$ J/kg |
| 比 | $4.0000$ | $\mathbf{3.9025}$ |
観察 3.2 近点で燃やすほうが $3.9025$ 倍得である。同じ燃料、いつ燃やすかだけが違う。
観察 3.3 エネルギーの比は、速さの比より $1$ に近い。$3.9025$ 対 $4.0000$、$\Delta v^{2}/2$ の項が両側に等しく乗るので、比を薄めている。
計算 3.4:離心率を下げていく。
| 離心率 | 近点 | 遠点 | 比 |
|---|---|---|---|
| $0.60$ | $59.5694$ km/s | $14.8923$ km/s | $3.902549$ |
| $0.30$ | $40.5897$ km/s | $21.8560$ km/s | $1.837973$ |
| $0.10$ | $32.9282$ km/s | $26.9413$ km/s | $1.218173$ |
| $0.01$ | $30.0840$ km/s | $29.4883$ km/s | $\mathbf{1.019865}$ |
観察 3.5 離心率を下げると比が単調に $1$ へ寄る。$3.902549\to1.837973\to1.218173\to1.019865$、下がる段が一つも無い。
観察 3.6 離心率 $0.01$ でもまだ $1$ ではない。差 $1.987\times10^{-2}$、境目の反対側であり、円に近づけても効果は消えきらない。
観察 3.7 つまり効果の大きさは、軌道の形が決めている。離心率、燃料でも機体でもない。
4. 分離子
分離子:足しているのが速度か、エネルギーか。
観察 4.1 速度を足しているなら、場所は関係ない。$\Delta v$、ツィオルコフスキーの式に $v$ は入っていない。
観察 4.2 エネルギーを足しているなら、場所が効く。$v \Delta v+\Delta v^{2}/2$、$v$ が入っている。
観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「噴射で得たもの」と呼べる。一方は速度の増分、一方はエネルギーの増分で、単位すら違う。
観察 4.4 混同すると、エネルギーが湧いたように見える。同じ燃料で $3.9025$ 倍、実際には、推進剤が持ち去るエネルギーが場所で違うだけである。
観察 4.5 論文483 とは向きが逆である。あちらは二つの力の指数が揃って半径が消えた。こちらは、消えてほしい $v$ が消えずに残る。何が消えるかは、式のどこに入っているかで決まる。
観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「同じ燃料なのに結果が違う」という報告が来たとき、測定が悪いのか、比べている量が違うのかで、直す先が違う。
観察 4.7 正直に言えば、機体に残る分だけを数えている。推進剤が持ち去るエネルギーは勘定に入れていない。それを含めれば全体は保存しており、「得をした」のは機体の側だけである。エネルギーが湧いているわけではない。
5. 点呼と結び
- 燃料の分率 $0.283469$(観察 2.2):$v$ を含まない。
- 同じ燃料で $3.000000$ 倍(観察 2.3):本稿の芯。
- 比が閉じた式と一致(観察 2.4):独立な確認。
- 静止からでも $5.000000\times10^{5}$ J/kg(観察 2.5):下限。
- $v=30$ km/s で下限の項は $1.6$ パーセント(観察 2.6):ほとんどが $v\Delta v$。
- 近点と遠点で $3.9025$ 倍(計算 3.1):離心率 $0.6$。
- 速さの比より $1$ に近い(観察 3.3):$\Delta v^{2}/2$ が薄める。
- 離心率 $0.01$ で $1.019865$ 倍(計算 3.4):単調に寄る。
- 分離子は速度かエネルギーか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 機体の側だけを数えた(観察 4.7):全体は保存している。
結び:燃料を使えば、その分だけ得をすると思われている。同じ燃料なら同じ得、帳簿が一つあるという像である。だが $\Delta E=v \Delta v+\Delta v^{2}/2$ には $v$ が入っている。燃料の式には入っていないのに、エネルギーの式には入っている。燃料は同じで、得られるものが違う。$\Delta v=1$ km/s を足すと、比エネルギーの増分は $v=3$ km/s で $3.500000\times10^{6}$ J/kg、$v=10$ km/s で $\mathbf{1.050000\times10^{7}}$ J/kg、$v=30$ km/s で $3.050000\times10^{7}$ J/kg である。要る燃料はどれも同じで、分率 $\mathbf{0.283469}$ が閉じた式 $1-e^{-\Delta v/v_{e}}=0.283468689426$ に一致し、$v$ はどこにも入っていない。それでも得は $\mathbf{3.000000}$ 倍違い、その比は $(v_{2}+\Delta v/2)/(v_{1}+\Delta v/2)$ に一致する。静止から燃やすと得は $\Delta v^{2}/2=5.000000\times10^{5}$ J/kg だけで、これが下限である。速いほどその下限の項は相対的に小さくなり、$v=30$ km/s では $1.6$ パーセントしか占めない。燃料の側の分率は $v$ に反応しないが $\Delta v$ には反応し、$2$ 倍にすると $0.486583$ へ動く。軌道の中で測る。離心率 $0.6$ の軌道では、近点 $59.5694$ km/s で $\mathbf{6.006938\times10^{7}}$ J/kg、遠点 $14.8923$ km/s で $\mathbf{1.539235\times10^{7}}$ J/kg、比は $\mathbf{3.9025}$ 倍である。同じ燃料で、いつ燃やすかだけが違う。エネルギーの比 $3.9025$ は速さの比 $4.0000$ より $1$ に近く、$\Delta v^{2}/2$ の項が両側に等しく乗って比を薄めている。離心率を $0.60$、$0.30$、$0.10$、$0.01$ と下げると比は $3.902549$、$1.837973$、$1.218173$、$\mathbf{1.019865}$ と単調に $1$ へ寄り、下がる段が一つも無い。それでも $0.01$ で差は $1.987\times10^{-2}$ 残り、円に近づけても効果は消えきらない。つまり効果の大きさを決めているのは軌道の形であって、燃料でも機体でもない。分けているものは一つ、足しているのが速度か、エネルギーか。速度を足しているなら場所は関係なく、ツィオルコフスキーの式に $v$ は入っていない。エネルギーを足しているなら場所が効き、$v \Delta v+\Delta v^{2}/2$ に $v$ が入っている。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「噴射で得たもの」と呼べるが、一方は速度の増分、一方はエネルギーの増分で、単位すら違う。混同すると、同じ燃料で $3.9025$ 倍というのがエネルギーが湧いたように見えるが、実際には推進剤が持ち去るエネルギーが場所で違うだけである。論文483 とは向きが逆で、あちらは二つの力の指数が揃って半径が消えたが、こちらは消えてほしい $v$ が消えずに残る。何が消えるかは、式のどこに入っているかで決まる。これは論文481 でいう分離子の一本で、「同じ燃料なのに結果が違う」という報告が来たとき、測定が悪いのか比べている量が違うのかで直す先が違う。正直に言えば、機体に残る分だけを数えている。推進剤が持ち去るエネルギーは勘定に入れておらず、それを含めれば全体は保存している。「得をした」のは機体の側だけであって、エネルギーが湧いているわけではない。
参考文献
- Battin, R. H. (1999). An Introduction to the Mathematics and Methods of Astrodynamics (rev. ed.). AIAA.
- Oberth, H. (1929). Wege zur Raumschiffahrt. R. Oldenbourg, München.
- Tsiolkovsky, K. E. (1903). Исследование мировых пространств реактивными приборами. Nauchnoe Obozrenie.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
- 山岸勇輝 (2026). 『限界に半径が無いのは、二つの力が同じ指数を持つからである』[論文483]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22759875
- 山岸勇輝 (2026). 『「勢力圏」は三つあり、質量比を $1000$ 分の $1$ にすると別々に縮む』[論文505]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22861782
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ燃料が、燃やす場所で 3.90 倍のエネルギーになる」[論文506]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22861840
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ燃料が、燃やす場所で 3.90 倍のエネルギーになる [論文506]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/506 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22861840
Yamagishi, Y. (2026). The Same Fuel Buys 3.90 Times the Energy Depending on Where It Is Burned [Paper 506]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/506; DOI: 10.5281/zenodo.22861840
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