要旨
曲がったものの面積は、細かい平面で近似すれば求まると思われている。本稿が示すのは、同じ円柱の面積が刻み方で三通りになることである。長さのほうは、どう刻んでも一つに決まる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$m=n$ と刻めば $\mathbf{6.283288695}$ で、正しい $2\pi rh=6.283185307$ に収束する。$n$ を $4$ 倍にすると誤差が $\mathbf{15.9960}$ 分の $1$ になる(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$m=n^{2}$ と刻めば $\mathbf{31.636371400}$ に落ちる。閉じた式 $2\pi\sqrt{1+\pi^{4}/4}=31.636491765$ と一致する(第3節)。
第三に、同じ操作で誤差が $\mathbf{0.9999}$ 倍にしかならない。正しい値へは近づいていない(第3節)。
第四に、$m=n^{3}$ と刻めば発散する。$n$ を $4$ 倍にすると $\mathbf{4.000229}$ 倍になる(第3節)。
第五に、同じ円柱に内接する多角形の周長は $\mathbf{6.283169158}$ に収束する。長さのほうは刻み方に依らない(第4節)。
第六に、分離子は「近似の誤差が一次で消えるか、法線の向きが揃うか」である(第5節)。
キーワード:シュワルツの提灯、曲面積、多面体近似、幾何学的測度論。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。シュワルツの提灯も、面積が内接多面体の極限で定義できないことも標準的である。面積の定義を作らない。ハウスドルフ測度、可展面、幾何学的測度論には立ち入らない。反例を数で出すところまでである。一つの曲面しか扱わない。円柱だけを見る。一般の曲面で何が起きるかは扱わない。収束の証明を書かない。$m=n^{2}$ の極限が閉じた式に一致することは数値で確かめるにとどめ、証明はしない。数値の桁を主張しない。$n=800$ までしか取っておらず、$m=n^{2}$ の値は閉じた式と $4$ 桁目で違う。既刊との関係:論文154 は順序を書かない極限は量ではないと示した。本稿は、順序ではなく比率が答を変える例である。論文245 は二つの極限が順序を書くまで答を持たないと示した。ここでは二つの極限が同時に走り、その比が答を決める。論文488 は要求が形を決める場合を示した。本稿は逆に、要求が答を決めない場合である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、三つの刻み方を同じ表に置いたこと、$m=n$ の収束を次数 $15.9960$ で確かめたこと、$m=n^{2}$ の極限を閉じた式と突き合わせたこと、$m=n^{3}$ の発散を $4.000229$ 倍で示したこと、長さの側が収束することを対照として出したことである。
1. 記法と問い
設定:半径 $r=1$、高さ $h=1$ の円柱を考える。側面を高さ方向に $m$ 段、円周方向に $n$ 分割し、頂点をすべて円柱上に取って三角形で張る。その面積は
$$A(m,n)=2mn\,r\sin\frac{\pi}{n}
\sqrt{\left(\frac{h}{m}\right)^{2}
+\left(r\left(1-\cos\frac{\pi}{n}\right)\right)^{2}}$$
である。正しい側面積は $2\pi rh=6.283185307$ である。$m$ と $n$ をどう一緒に大きくするかで、$A$ の行き先を見る。
観察 1.1 曲がったものの面積は、細かい平面で近似すれば求まると思われている。三角形で張って足す。細かくすれば正しい値に近づく、という像である。
観察 1.2 長さではそれが正しい。内接多角形の周長は円周に収束する。刻み方を気にする必要が無い。
問い:面積でも同じことが言えるのか。
2. $m=n$ と刻めば、正しい値に行く
計算 2.1:$m=n$ として $n$ を大きくする。
| $n$ | $A(n,n)$ | 正しい値との誤差 |
|---|---|---|
| $50$ | $6.309539658$ | 、 |
| $200$ | $6.284839099$ | $1.654\times10^{-3}$ |
| $800$ | $\mathbf{6.283288695}$ | $\mathbf{1.034\times10^{-4}}$ |
観察 2.2 正しい値へ近づく。$6.283288695$ 対 $6.283185307$、$4$ 桁まで合っている。
観察 2.3 収束は二次である。$n$ を $4$ 倍にすると誤差が $15.9960$ 分の $1$、$16$ に一致し、ある一点で小さいというだけの検査ではない。
観察 2.4 ここまでは素朴な期待どおりである。細かくすれば近づく。この刻み方だけを見ていれば、面積は近似で定義できるように見える。
3. $m=n^{2}$ と刻めば、別の値に行く
計算 3.1:段数を $m=n^{2}$、さらに $m=n^{3}$ として同じことをする。
| $n$ | $m=n^{2}$ のとき | $m=n^{3}$ のとき |
|---|---|---|
| $50$ | $31.605690398$ | $1.548797\times10^{3}$ |
| $200$ | $31.634565972$ | $6.200876\times10^{3}$ |
| $800$ | $\mathbf{31.636371400}$ | $\mathbf{2.480493\times10^{4}}$ |
観察 3.2 $m=n^{2}$ は別の有限値に落ち着く。$31.636371400$ 対 閉じた式 $2\pi\sqrt{1+\pi^{4}/4}=31.636491765$、独立に出した式と一致する。
観察 3.3 その値は正しい面積の $5$ 倍以上ある。$31.636492$ 対 $6.283185$、近似が失敗しているというより、別の量に収束している。
観察 3.4 同じ操作で誤差が減らない。$n$ を $4$ 倍にして $0.9999$ 倍、$m=n$ では $15.9960$ 分の $1$ になった操作である。正しい値へは近づいていない。
観察 3.5 $m=n^{3}$ では発散する。$n$ を $4$ 倍にすると $4.000229$ 倍、頭打ちが無く、いくらでも大きくなる。
観察 3.6 つまり刻み方を指定しなければ、答が決まらない。収束・別の値・発散、同じ「内接多面体で近似する」という言葉が、三つの答を持つ。
4. 長さの側は、どう刻んでも一つに決まる
計算 4.1:同じ円に内接する多角形の周長を出す。
| $n$ | 周長 |
|---|---|
| $50$ | $6.279051953$ |
| $800$ | $\mathbf{6.283169158}$ |
| 正しい値 $2\pi r$ | $6.283185307$ |
観察 4.2 刻み方を選ぶ余地が無い。分割数は $n$ 一つ、比を作る相手がいないので、行き先が一つに決まる。
観察 4.3 面積の側との差は大きい。$m=n$ と $m=n^{2}$ の差が $25.353083$、長さでは、そもそもこの差が作れない。
観察 4.4 理由は、面の向きにある。折れ線は接線に揃うが、三角形の法線は揃わなくてよい。段を細かくしすぎると、面が円柱に対して斜めに立ち、面積が水増しされる。
観察 4.5 頂点が全部曲面上にあっても、それは防げない。どの刻み方でも頂点は円柱上、「曲面に十分近い」ことは「面積が近い」ことを意味しない。
5. 分離子
分離子:近似の誤差が一次で消えるか、法線の向きが揃うか。
観察 5.1 長さは、位置が近ければ足りる。折れ線の向きは自動的に接線へ寄る。だから収束する。
観察 5.2 面積は、向きも近くなければならない。位置だけでは足りない。提灯は位置を近づけながら向きを狂わせている。
観察 5.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「内接する図形の極限」、一方は位置だけで決まり、一方は向きにも依る。
観察 5.4 論文154 が言ったのは、順序を書かない極限は量ではないということだった。本稿では順序ではなく比率である。$m$ と $n$ は同時に大きくなり、決めているのは $m/n^{2}$ の行き先である。「順序」の隣に「比率」がある。
観察 5.5 論文245 とも隣り合う。二つの極限は順序を書くまで答を持たない。ここでは順序を書いても足りず、速さの比まで書かなければ答が決まらない。
観察 5.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「数値積分が正しい面積に収束しない」という報告が来たとき、刻みが粗いのか、刻み方の比が悪いのかで、直す先が違う。
観察 5.7 正直に言えば、$m=n^{2}$ の極限は $4$ 桁目で閉じた式と違う。$31.636371400$ 対 $31.636491765$、$n=800$ までしか取っていないためで、収束の速さそのものは調べていない。一致していると言えるのは $4$ 桁までである。
6. 点呼と結び
- $m=n$ で $6.283288695$(計算 2.1):正しい値へ。
- 誤差が $15.9960$ 分の $1$(観察 2.3):二次収束。
- $m=n^{2}$ で $31.636371400$(計算 3.1):本稿の芯。
- 閉じた式 $31.636491765$ と一致(観察 3.2):独立な確認。
- 同じ操作で誤差が $0.9999$ 倍(観察 3.4):近づいていない。
- $m=n^{3}$ で $4.000229$ 倍(観察 3.5):発散する。
- 周長は $6.283169158$(計算 4.1):一つに決まる。
- 理由は法線の向き(観察 4.4):位置だけでは足りない。
- 分離子は位置か向きか(観察 5.3):論文300 の基準で別根。
- $4$ 桁までしか言えない(観察 5.7):$n=800$ が上限。
結び:曲がったものの面積は、細かい平面で近似すれば求まると思われている。三角形で張って足し、細かくすれば正しい値に近づく、という像である。長さではそれが正しく、内接多角形の周長は円周に収束し、刻み方を気にする必要が無い。$m=n$ と刻めば、正しい値に行く。円柱を高さ方向に $m$ 段、円周方向に $n$ 分割して三角形で張ると、$m=n$ のとき $n=800$ で $\mathbf{6.283288695}$ となり、正しい $2\pi rh=6.283185307$ と $4$ 桁まで合う。収束は二次で、$n$ を $4$ 倍にすると誤差が $\mathbf{15.9960}$ 分の $1$ になる。$16$ に一致し、ある一点で小さいというだけの検査ではない。ここまでは素朴な期待どおりで、この刻み方だけを見ていれば、面積は近似で定義できるように見える。$m=n^{2}$ と刻めば、別の値に行く。段数を $m=n^{2}$ にすると $n=800$ で $\mathbf{31.636371400}$ となり、閉じた式 $2\pi\sqrt{1+\pi^{4}/4}=31.636491765$ と一致する。その値は正しい面積の $5$ 倍以上あり、近似が失敗しているというより、別の量に収束している。同じ操作で誤差は $\mathbf{0.9999}$ 倍にしかならず、$m=n$ では $15.9960$ 分の $1$ になった操作である。正しい値へは近づいていない。$m=n^{3}$ にすると $n$ を $4$ 倍にして $\mathbf{4.000229}$ 倍、頭打ちが無くいくらでも大きくなる。つまり刻み方を指定しなければ答が決まらず、同じ「内接多面体で近似する」という言葉が、収束・別の値・発散という三つの答を持つ。長さの側は、どう刻んでも一つに決まる。同じ円に内接する多角形の周長は $n=800$ で $\mathbf{6.283169158}$、正しい $2\pi r=6.283185307$ に収束する。分割数は $n$ 一つで、比を作る相手がいないので行き先が一つに決まる。面積の側では $m=n$ と $m=n^{2}$ の差が $25.353083$ もあり、長さではそもそもこの差が作れない。理由は面の向きにあり、折れ線は接線に揃うが三角形の法線は揃わなくてよい。段を細かくしすぎると面が円柱に対して斜めに立ち、面積が水増しされる。頂点が全部曲面上にあってもそれは防げず、「曲面に十分近い」ことは「面積が近い」ことを意味しない。分けているものは一つ、近似の誤差が一次で消えるか、法線の向きが揃うか。長さは位置が近ければ足り、折れ線の向きは自動的に接線へ寄るので収束する。面積は向きも近くなければならず、位置だけでは足りない。提灯は位置を近づけながら向きを狂わせている。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「内接する図形の極限」だが、一方は位置だけで決まり、一方は向きにも依る。論文154 が言ったのは順序を書かない極限は量ではないということだったが、本稿では順序ではなく比率である。$m$ と $n$ は同時に大きくなり、決めているのは $m/n^{2}$ の行き先で、「順序」の隣に「比率」がある。論文245 とも隣り合い、あちらでは二つの極限が順序を書くまで答を持たなかったが、ここでは順序を書いても足りず、速さの比まで書かなければ答が決まらない。これは論文481 でいう分離子の一本で、「数値積分が正しい面積に収束しない」という報告が来たとき、刻みが粗いのか刻み方の比が悪いのかで直す先が違う。正直に言えば、$m=n^{2}$ の極限は $4$ 桁目で閉じた式と違う。$31.636371400$ 対 $31.636491765$ で、$n=800$ までしか取っていないためであり、収束の速さそのものは調べていない。一致していると言えるのは $4$ 桁までである。
参考文献
- Schwarz, H. A. (1890). Sur une définition erronée de l’aire d’une surface courbe. In Gesammelte Mathematische Abhandlungen, Springer.
- Peano, G. (1890). Sulla definizione dell’area d’una superficie. Atti della Reale Accademia dei Lincei, Rendiconti.
- Federer, H. (1969). Geometric Measure Theory. Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 『順序を書かない極限は、量ではない』[論文154]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22084647
- 山岸勇輝 (2026). 『二つの極限は、順序を書くまで答を持たない』[論文245]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22159739
- 山岸勇輝 (2026). 『等時であることから曲線を逆に決めると、残るのは一つだけである』[論文488]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22760000
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「長さは折れ線の極限で定義できるが、面積は多面体の極限で定義できない」[論文493]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22760108
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 長さは折れ線の極限で定義できるが、面積は多面体の極限で定義できない [論文493]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/493 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22760108
Yamagishi, Y. (2026). Length Is Definable as a Limit of Polylines; Area Is Not Definable as a Limit of Polyhedra [Paper 493]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/493; DOI: 10.5281/zenodo.22760108
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