【論文495】期待値と中央値を分けている量は、伊藤の二階の項そのものである

要旨

ブラック=ショールズの $-\sigma^{2}/2$ は、割引や危険回避の補正だと読まれることがある。本稿が示すのは、それが伊藤の二階の項そのものであり、期待値と中央値の隔たりとして直に測れることである。比は $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致する。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、期待値は $\mathbf{110.517091808}$、中央値は $\mathbf{108.328706767}$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。比 $\mathbf{1.020201340}$ が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致する(第2節)。

第三に、対数の期待値の伸びは $\mathbf{0.080000000000}$ で、$\mu-\sigma^{2}/2$ にちょうど等しい(第2節)。

第四に、隔たりは $\sigma$ の二次である。$\sigma$ を $2$ 倍にすると $\mathbf{4.122849}$ 倍になる(第3節)。

第五に、期待値そのものは $\sigma$ に依らない。$\sigma=0$ でも $110.517091808$ である(第3節)。

第六に、分離子は「$E[S]$ を見ているか、$E[\ln S]$ を見ているか」である(第4節)。

キーワード:伊藤の補題、幾何ブラウン運動、対数正規分布、期待値と中央値、ブラック=ショールズ式。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。伊藤の補題も、幾何ブラウン運動の対数正規分布も、ブラック=ショールズ式も標準的である。価格式を導かない。オプションの評価式、危険中立測度、複製ポートフォリオは主題ではない。基礎資産の分布だけを見る。伊藤の $2$ を導き直さない。その内訳は論文132 が扱っており、本稿は結果を借りて金融側の帰結を測る。推定を扱わない。$\mu$ と $\sigma$ は与えられたものとし、推定誤差、ボラティリティの時間変動、跳びは入れない。投資を勧めない。どちらの量を見るべきかは主題ではない。二つが違うことを数で示すだけである。既刊との関係:論文132 は伊藤の $2$ が次元ではないと示した。本稿はその $2$ が価格の分布のどこに出るかを測る。論文292 は足せるのが対数だけだと示した。中央値が対数の側の量である理由がそこにある。論文484 は期待値を最大にする賭け方が破産すると示した。そこで効いていた $\sigma^{2}/2$ と同じ量である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、期待値と中央値を $110.517091808$ と $108.328706767$ で出したこと、比が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致することを確かめたこと、対数の伸びが $0.080000000000$ であることを逆算で確かめたこと、$\sigma$ を $2$ 倍にした $4.122849$ 倍を出したこと、期待値が $\sigma$ に依らないことを確かめたことである。

1. 記法と問い

設定:価格 $S_{t}$ が幾何ブラウン運動 $dS=\mu S dt+\sigma S dB$ に従うとする。伊藤の補題を $\ln S$ に当てると

$$d(\ln S)=\left(\mu-\frac{\sigma^{2}}{2}\right)dt+\sigma\,dB$$

になる。$-\sigma^{2}/2$ は、$\ln$ の二階微分と $(dB)^{2}=dt$ から出た項である。以下 $S_{0}=100$、$\mu=0.10$、$\sigma=0.20$、$T=1$ とする。

観察 1.1 $-\sigma^{2}/2$ は補正だと読まれることがある。危険を嫌う分だけ割り引く。選好や割引率の話に見える、という読み方である。

観察 1.2 だがこの項は選好を一切含んでいない。$\ln$ の二階微分と $(dB)^{2}=dt$ だけから出る。論文132 が示したとおり、$2$ は次元ではなく、二階で止まることの帰結である。

問い:その項は、価格の分布のどこに現れるのか。

2. 期待値と中央値の隔たりとして現れる

計算 2.1:$T=1$ での分布から三つの量を出す。

量 値
期待値 $E[S_{T}]=S_{0}e^{\mu T}$ $\mathbf{110.517091808}$
中央値 $S_{0}e^{(\mu-\sigma^{2}/2)T}$ $\mathbf{108.328706767}$
比 $\mathbf{1.020201340}$
$\exp(\sigma^{2}T/2)$ $\mathbf{1.020201340}$

観察 2.2 比が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に一致する。$1.020201340027$ 対 $1.020201340027$、$12$ 桁で、近いのではなく同じである。

観察 2.3 対数の期待値の伸びが $\mu-\sigma^{2}/2$ に等しい。$0.080000000000$ 対 $0.080000000000$、逆算しても戻り、$\mu=0.10$ から $\sigma^{2}/2=0.02$ を引いた値である。

観察 2.4 つまり伊藤の項は、そのまま二つの代表値の隔たりである。式の中の $-\sigma^{2}/2$、分布の上では、期待値と中央値がどれだけ離れるかを決めている。

観察 2.5 隔たりは $2.020134$ パーセントである。$\sigma=0.20$、$T=1$ で、小さく見えるが、複利で積み上がる量である。

3. 隔たりは二次であり、期待値は $\sigma$ を見ない

計算 3.1:$\sigma$ を動かす。

$\sigma$ 隔たり 期待値
$0$ $0$ $110.517091808$
$0.20$ $\mathbf{2.020134}$ パーセント $110.517091808$
$0.40$ $\mathbf{4.122849}$ 倍 $110.517091808$

観察 3.2 $\sigma$ を $2$ 倍にすると隔たりが約 $4$ 倍になる。$4.122849$ 倍、二次であることの署名で、ちょうど $4$ でないのは指数の高次項による。

観察 3.3 $\sigma=0$ では隔たりが消える。境目の反対側、揺らぎが無ければ期待値と中央値は一致する。

観察 3.4 期待値そのものは $\sigma$ に依らない。$110.517091808$ のまま、動いているのは中央値のほうである。

観察 3.5 だから「揺らぎが大きいほど期待値が下がる」は誤りである。下がるのは中央値、期待値は一定で、分布が右に長い尾を伸ばしているだけである。

4. 分離子

分離子:見ているのが $E[S]$ か、$E[\ln S]$ か。

観察 4.1 $E[S]$ を見るなら、$\sigma$ は効かない。$110.517091808$、$\mu$ だけで決まる。

観察 4.2 $E[\ln S]$ を見るなら、$\sigma^{2}/2$ が引かれる。$0.080000000000$、伊藤の項がそのまま出る。

観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「期待される値」と呼べる。一方は価格の平均、一方は対数の平均で、平均を取る前に何を取ったかが違う。

観察 4.4 論文484 で効いていたのと同じ量である。期待値を最大にする賭け方が破産する話、そこでも $\sigma^{2}/2$ が、期待値の側と成長率の側を分けていた。

観察 4.5 論文292 が言ったとおり、足せるのは対数だけである。価格は掛け算で動く。だから足し算の平均を取ると、掛け算の側の代表値とずれる。

観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「予測した価格に届かない」という報告が来たとき、$\mu$ の見積もりが外れたのか、期待値と中央値を取り違えたのかで、直す先が違う。

観察 4.7 正直に言えば、分布を対数正規と置いている。幾何ブラウン運動の帰結として、実際の価格には跳びも、ボラティリティの時間変動もあり、そのとき $\exp(\sigma^{2}T/2)$ という閉じた形は保たれない。保たれるのは「掛け算の世界で足し算の平均を取るとずれる」という向きだけである。

5. 点呼と結び

  1. 期待値 $110.517091808$(計算 2.1):$\mu$ だけで決まる。
  2. 中央値 $108.328706767$(計算 2.1):$\sigma^{2}/2$ が引かれる。
  3. 比が $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致(観察 2.2):本稿の芯。
  4. 対数の伸び $0.080000000000$(観察 2.3):逆算でも戻る。
  5. 隔たりは $2.020134$ パーセント(観察 2.5):複利で積み上がる。
  6. $\sigma$ を $2$ 倍で $4.122849$ 倍(観察 3.2):二次の署名。
  7. $\sigma=0$ で消える(観察 3.3):境目の反対側。
  8. 期待値は $\sigma$ を見ない(観察 3.4):動くのは中央値。
  9. 分離子は $E[S]$ か $E[\ln S]$ か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. 対数正規と置いている(観察 4.7):跳びがあれば形は保たれない。

結び:ブラック=ショールズの $-\sigma^{2}/2$ は、危険を嫌う分だけ割り引く補正だと読まれることがある。選好や割引率の話に見えるという読み方である。だがこの項は選好を一切含まず、$\ln$ の二階微分と $(dB)^{2}=dt$ だけから出る。論文132 が示したとおり、$2$ は次元ではなく、二階で止まることの帰結である。期待値と中央値の隔たりとして現れる。$S_{0}=100$、$\mu=0.10$、$\sigma=0.20$、$T=1$ で、期待値は $\mathbf{110.517091808}$、中央値は $\mathbf{108.328706767}$、比は $\mathbf{1.020201340}$ である。その比は $\exp(\sigma^{2}T/2)$ に $12$ 桁一致し、近いのではなく同じである。対数の期待値の伸びは $\mathbf{0.080000000000}$ で、$\mu-\sigma^{2}/2$ にちょうど等しく、逆算しても戻る。つまり式の中の $-\sigma^{2}/2$ は、分布の上では期待値と中央値がどれだけ離れるかを決めている。隔たりは $2.020134$ パーセントで、小さく見えるが複利で積み上がる量である。隔たりは二次であり、期待値は $\sigma$ を見ない。$\sigma$ を $2$ 倍にすると隔たりは $\mathbf{4.122849}$ 倍になり、二次であることの署名になる。ちょうど $4$ でないのは指数の高次項による。$\sigma=0$ では隔たりが消え、揺らぎが無ければ期待値と中央値は一致する。期待値そのものは $\sigma$ に依らず $110.517091808$ のままで、動いているのは中央値のほうである。だから「揺らぎが大きいほど期待値が下がる」は誤りで、下がるのは中央値であり、期待値は一定のまま分布が右に長い尾を伸ばしているだけである。分けているものは一つ、見ているのが $E[S]$ か、$E[\ln S]$ か。$E[S]$ を見るなら $\sigma$ は効かず、$\mu$ だけで決まる。$E[\ln S]$ を見るなら $\sigma^{2}/2$ が引かれ、伊藤の項がそのまま出る。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「期待される値」と呼べるが、一方は価格の平均、一方は対数の平均で、平均を取る前に何を取ったかが違う。論文484 で効いていたのと同じ量で、期待値を最大にする賭け方が破産する話でも、$\sigma^{2}/2$ が期待値の側と成長率の側を分けていた。論文292 が言ったとおり足せるのは対数だけで、価格は掛け算で動くから、足し算の平均を取ると掛け算の側の代表値とずれる。これは論文481 でいう分離子の一本で、「予測した価格に届かない」という報告が来たとき、$\mu$ の見積もりが外れたのか、期待値と中央値を取り違えたのかで直す先が違う。正直に言えば、分布を対数正規と置いている。幾何ブラウン運動の帰結としてであり、実際の価格には跳びも、ボラティリティの時間変動もあって、そのとき $\exp(\sigma^{2}T/2)$ という閉じた形は保たれない。保たれるのは「掛け算の世界で足し算の平均を取るとずれる」という向きだけである。

参考文献

  1. Itô, K. (1951). On Stochastic Differential Equations. Memoirs of the American Mathematical Society.
  2. Black, F., & Scholes, M. (1973). The Pricing of Options and Corporate Liabilities. Journal of Political Economy.
  3. Merton, R. C. (1973). Theory of Rational Option Pricing. Bell Journal of Economics and Management Science.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『伊藤の $2$ は、次元ではない』[論文132]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22080358
  5. 山岸勇輝 (2026). 『足せるのは対数だけである』[論文292]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171519
  6. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
  8. 山岸勇輝 (2026). 『期待値を最大にする賭け方は、確率 $1$ で破産する』[論文484]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22759898

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「期待値と中央値を分けている量は、伊藤の二階の項そのものである」[論文495]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22760156

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 期待値と中央値を分けている量は、伊藤の二階の項そのものである [論文495]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/495 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22760156

Yamagishi, Y. (2026). What Separates the Mean from the Median Is Itô’s Second-Order Term Itself [Paper 495]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/495; DOI: 10.5281/zenodo.22760156

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