要旨
長く測れば下がる雑音と、下がらない雑音は、別の雑音だと思われている。本稿が示すのは、それが一本の式の両端であり、切り替わる点が計算できることである。交点は $N^{*}=\sigma^{2}/b^{2}$ である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、偏りが無ければ、$N$ を $9$ 倍にすると二乗平均が $\mathbf{3.0152}$ 分の $1$ になる。次の $9$ 倍でも $\mathbf{2.9386}$ 分の $1$ である(第2節)。
第二に、偏りがあると、$N=8100$ で $\mathbf{0.014863576}$ に下げ止まる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。どちらも $\sqrt{b^{2}+\sigma^{2}/N}$ という一本の式で、実測との相対差は $0.0013$、$0.0130$、$\mathbf{0.0057}$ である(第3節)。
第四に、二つの項が等しくなる交点は $N^{*}=\mathbf{10^{4}}$ で、そこでの二乗平均は偏りの $\sqrt{2}$ 倍 $\mathbf{0.014142136}$ である(第4節)。
第五に、測った範囲 $N\le8100$ は交点の手前で、だから両方の項が効いていた(第4節)。
第六に、分離子は「雑音が二種類あるのか、一本の式のどちら側にいるのか」である(第5節)。
キーワード:雑音、平均化、偏り、アラン分散、大数の法則。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。独立な雑音が $1/\sqrt{N}$ で下がることも、偏りが平均で消えないことも標準的である。雑音の種類を数えない。熱雑音・ショット雑音・$1/f$ 雑音の分類は論文312 が扱っており、本稿は入らない。$1/f$ を扱わない。本稿の「下がらない」は定数の偏りであって、$1/f$ のような相関のある雑音ではない。両者は別物である。乱数生成器を評価しない。線形合同法とボックス=ミュラー法で作っており、擬似乱数の質そのものは主題ではない。偏りの起源を扱わない。$b$ は与えたものであり、なぜ偏るのかは扱わない。既刊との関係:論文312 は長く測れば下がる雑音と下がらない雑音があると示した。本稿はその二つが一本の式であることと、切り替わる点を出す。論文322 は同じセンサ誤差が位置には三つの別々の冪で届くと示した。同じく、一つの源が複数の顔を持つ場合である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。二つの項は同じ式の中にいる。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、$1/\sqrt{N}$ 則を $3.0152$ と $2.9386$ で確かめたこと、偏りのある側を $0.014863576$ と測ったこと、閉じた式との相対差を三点で出したこと、交点 $N^{*}=10^{4}$ と、そこでの $\sqrt{2}$ 倍を出したこと、測定範囲が交点の手前だったことを示したことである。
1. 記法と問い
設定:ばらつき $\sigma$ の独立な雑音に、一定の偏り $b$ が乗っているとする。$N$ 回平均した誤差の二乗平均は
$$\mathrm{RMS}(N)=\sqrt{b^{2}+\frac{\sigma^{2}}{N}}$$
である。以下 $\sigma=1$、$b=0.01$ とし、$N=100$、$900$、$8100$ で各 $400$ 本の種を取って測る。一本の実現値ではなく二乗平均を取る。$1/\sqrt{N}$ 則は平均についての言明であり、一本では確かめられないからである。
観察 1.1 長く測れば下がる雑音と、下がらない雑音は、別の雑音だと思われている。片方は平均で消え、片方は残る。二種類ある、という像である。
観察 1.2 だが上の式には項が二つしかない。$b^{2}$ と $\sigma^{2}/N$、雑音は一つで、どちらの項が大きいかだけが変わる。
問い:どこで切り替わるのか。
2. 両側を測る
計算 2.1:偏りの無い場合と、ある場合を測る。
| $N$ | 偏り $0$ | 偏り $0.01$ |
|---|---|---|
| $100$ | $0.100658455$ | $0.100632328$ |
| $900$ | $0.033383439$ | $0.034350201$ |
| $8100$ | $\mathbf{0.011360408}$ | $\mathbf{0.014863576}$ |
観察 2.2 偏りが無ければ $1/\sqrt{N}$ で下がる。$N$ を $9$ 倍にして $3.0152$ 分の $1$、次の $9$ 倍で $2.9386$ 分の $1$、どちらも $3$ に近く、一点合わせではない。
観察 2.3 偏りがあると下げ止まる。$N=8100$ で $0.014863576$、偏り $0.01$ より大きいが、同じ桁である。
観察 2.4 改善の比が違う。偏り無しで $2.9386$ 倍、偏りありで $2.3110$ 倍、偏りのある側のほうが、同じ操作で得るものが少ない。
観察 2.5 だが $N=100$ では二つがほとんど同じである。$0.100658455$ 対 $0.100632328$、小さい $N$ では、偏りがあるかどうかを見分けられない。
3. 一本の式である
計算 3.1:偏りのある側を、閉じた式 $\sqrt{b^{2}+\sigma^{2}/N}$ と比べる。
| $N$ | 実測 | 予測 | 相対差 |
|---|---|---|---|
| $100$ | $0.100632328$ | $0.100498756$ | $0.0013$ |
| $900$ | $0.034350201$ | $0.034801022$ | $0.0130$ |
| $8100$ | $\mathbf{0.014863576}$ | $\mathbf{0.014948471}$ | $\mathbf{0.0057}$ |
観察 3.2 三点とも $1.3$ パーセント以内で合う。$0.0013$、$0.0130$、$0.0057$、残りは種の数が有限であることによる推定の揺らぎである。
観察 3.3 偏り $0$ の側も同じ式で書ける。$b=0$ と置けば $\sigma/\sqrt{N}$、$N=8100$ で $0.011360408$ 対 $0.011111111$ と合う。
観察 3.4 つまり二種類の雑音ではない。一本の式の、$b$ が $0$ か否か、分けているのは雑音の種類ではなく、パラメータの値である。
4. 交点は計算できる
計算 4.1:二つの項が等しくなる $N$ を解く。
$$b^{2}=\frac{\sigma^{2}}{N^{*}}\ \Longrightarrow\ N^{*}=\frac{\sigma^{2}}{b^{2}}=\mathbf{10^{4}}$$
そこでの二乗平均は $\sqrt{2} b=\mathbf{0.014142136}$ である。
観察 4.2 交点での値が偏りの $\sqrt{2}$ 倍になる。$0.014142136$ 対 $0.014142136$、二つの項が等しいので、和は $2b^{2}$ になる。
観察 4.3 測った範囲は交点の手前だった。$8100<10000$、だから $N=8100$ でも両方の項が効いており、下げ止まりがはっきり見えなかった。
観察 4.4 交点の $100$ 倍では、偏り項が $0.990099$ を占める。$N=10^{6}$、そこで初めて「下がらない雑音」に見える。
観察 4.5 交点の $100$ 分の $1$ では、揺らぎ項が同じ $0.990099$ を占める。$N=100$、境目の反対側であり、そこでは「下がる雑音」に見える。
観察 4.6 同じ雑音が、$N$ をまたいで二つの顔を見せる。$N=100$ と $N=10^{6}$、見えている顔は、雑音の性質ではなく測定の長さで決まる。
5. 分離子
分離子:雑音が二種類あるのか、一本の式のどちら側にいるのか。
観察 5.1 二種類なら、どちらかを取り除ける。別の機構、片方だけを対策できるはずである。
観察 5.2 一本の式なら、$N$ を変えるだけで顔が変わる。$b$ と $\sigma$ は同じまま、実際、同じ数列で両方の顔が出た。
観察 5.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも「下がらない雑音」と言える。一方は別の機構の存在、一方は同じ式の一方の項が勝っている状態である。
観察 5.4 論文312 は前者の側で二つを分けた。熱雑音・ショット雑音・$1/f$ 雑音、機構が違えば確かに別物である。本稿が示したのは、機構が一つでも二つの顔が出るということである。
観察 5.5 論文322 とも同じ形である。一つのセンサ誤差が三つの冪で届く。源が一つでも、届き方が複数ある。
観察 5.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「長く測っても下がらない」という報告が来たとき、別の雑音が混ざったのか、交点を越えただけなのかで、直す先が違う。
観察 5.7 正直に言えば、扱ったのは定数の偏りだけである。$1/f$ のような相関のある雑音は入っていない。そちらは平均しても下がらないが、理由が違う。相関があるとき $\sigma^{2}/N$ という項自体が成り立たず、本稿の式は使えない。「下がらない」の中身は、少なくとも二つある。
6. 点呼と結び
- 偏り無しで $3.0152$ 分の $1$(観察 2.2):次も $2.9386$。
- 偏りありで $0.014863576$(計算 2.1):下げ止まる。
- $N=100$ では見分けられない(観察 2.5):$0.100658$ 対 $0.100632$。
- 閉じた式と $1.3$ パーセント以内(計算 3.1):本稿の芯。
- 偏り $0$ 側も同じ式(観察 3.3):$b=0$ と置くだけ。
- 交点 $N^{*}=10^{4}$(計算 4.1):$\sigma^{2}/b^{2}$。
- 交点で $\sqrt{2}$ 倍 $0.014142136$(観察 4.2):二項が等しい。
- 測定範囲は交点の手前(観察 4.3):$8100<10000$。
- 分離子は二種類か一本の式か(観察 5.3):論文300 の基準で別根。
- $1/f$ は扱っていない(観察 5.7):「下がらない」は少なくとも二つ。
結び:長く測れば下がる雑音と、下がらない雑音は、別の雑音だと思われている。片方は平均で消え片方は残る、二種類ある、という像である。だが $\mathrm{RMS}(N)=\sqrt{b^{2}+\sigma^{2}/N}$ には項が二つしかない。雑音は一つで、どちらの項が大きいかだけが変わる。両側を測る。$\sigma=1$、$b=0.01$、種 $400$ 本で測ると、偏り無しでは $N=100$、$900$、$8100$ に対し $0.100658455$、$0.033383439$、$\mathbf{0.011360408}$、偏りありでは $0.100632328$、$0.034350201$、$\mathbf{0.014863576}$ である。偏りが無ければ $N$ を $9$ 倍にして $\mathbf{3.0152}$ 分の $1$、次の $9$ 倍で $\mathbf{2.9386}$ 分の $1$ と、どちらも $3$ に近い。偏りがあると $N=8100$ で $0.014863576$ に下げ止まり、改善の比も $2.3110$ 倍と、偏り無しの $2.9386$ 倍より小さい。だが $N=100$ では $0.100658455$ 対 $0.100632328$ とほとんど同じで、小さい $N$ では偏りの有無を見分けられない。一本の式である。偏りのある側を閉じた式と比べると、$N=100$、$900$、$8100$ で相対差 $0.0013$、$0.0130$、$\mathbf{0.0057}$ と、三点とも $1.3$ パーセント以内で合う。残りは種の数が有限であることによる推定の揺らぎである。偏り $0$ の側も $b=0$ と置くだけで同じ式になり、$N=8100$ で $0.011360408$ 対 $0.011111111$ と合う。つまり二種類の雑音ではなく、分けているのは雑音の種類ではなくパラメータの値である。交点は計算できる。二つの項が等しくなる $N$ は $N^{*}=\sigma^{2}/b^{2}=\mathbf{10^{4}}$ で、そこでの二乗平均は $\sqrt{2} b=\mathbf{0.014142136}$ である。二つの項が等しいので和が $2b^{2}$ になり、$\sqrt{2}$ 倍が出る。測った範囲 $N\le8100$ は交点の手前で、だから $N=8100$ でも両方の項が効いており、下げ止まりがはっきり見えなかった。交点の $100$ 倍にあたる $N=10^{6}$ では偏り項が $\mathbf{0.990099}$ を占め、そこで初めて「下がらない雑音」に見える。交点の $100$ 分の $1$ にあたる $N=100$ では揺らぎ項が同じ $0.990099$ を占め、そこでは「下がる雑音」に見える。同じ雑音が $N$ をまたいで二つの顔を見せ、見えている顔は雑音の性質ではなく測定の長さで決まる。分けているものは一つ、雑音が二種類あるのか、一本の式のどちら側にいるのか。二種類なら別の機構なので、片方だけを対策できるはずである。一本の式なら、$b$ と $\sigma$ を変えずに $N$ を変えるだけで顔が変わる。実際、同じ数列で両方の顔が出た。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも「下がらない雑音」と言えるが、一方は別の機構の存在、一方は同じ式の一方の項が勝っている状態である。論文312 は前者の側で二つを分けた。熱雑音・ショット雑音・$1/f$ 雑音は機構が違えば確かに別物である。本稿が示したのは、機構が一つでも二つの顔が出るということである。論文322 とも同じ形で、一つのセンサ誤差が三つの冪で届くように、源が一つでも届き方が複数ある。これは論文481 でいう分離子の一本で、「長く測っても下がらない」という報告が来たとき、別の雑音が混ざったのか交点を越えただけなのかで直す先が違う。正直に言えば、扱ったのは定数の偏りだけである。$1/f$ のような相関のある雑音は入っておらず、そちらは平均しても下がらないが理由が違う。相関があるとき $\sigma^{2}/N$ という項自体が成り立たず、本稿の式は使えない。「下がらない」の中身は、少なくとも二つある。
参考文献
- Allan, D. W. (1966). Statistics of Atomic Frequency Standards. Proceedings of the IEEE.
- Birkhoff, G. D. (1931). Proof of the Ergodic Theorem. Proceedings of the National Academy of Sciences.
- Box, G. E. P., & Muller, M. E. (1958). A Note on the Generation of Random Normal Deviates. Annals of Mathematical Statistics.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『長く測れば下がる雑音と、下がらない雑音がある』[論文312]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174709
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ一つのセンサ誤差が、位置には三つの別々の冪で届く』[論文322]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209240
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「下がる雑音と下がらない雑音は二つではなく、一つの式の両端である」[論文504]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22861737
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/504・DOI 10.5281/zenodo.22861737・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 下がる雑音と下がらない雑音は二つではなく、一つの式の両端である [論文504]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/504 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22861737
Yamagishi, Y. (2026). Falling Noise and Non-Falling Noise Are Not Two Noises but Two Ends of One Expression [Paper 504]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/504; DOI: 10.5281/zenodo.22861737
@misc{yamagishi2026yoi504,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Falling Noise and Non-Falling Noise Are Not Two Noises but Two Ends of One Expression},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/504},
doi = {10.5281/zenodo.22861737},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
f95a328ee8dc247c75b2e5e8195bd9f3a7307030f630bb7cbc707c3267ed7a23 yamagishi_yoi504_v1_jp.pdfc783ef56823bc6743b98228b7bd21a099b5e40dc6a5a25342ad456303b40041d yamagishi_yoi504_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。