【論文641】ABC 予想は多項式では定理で、整数では予想である

要旨

互いに素な正の整数 $a+b=c$ について、$abc$ を割る相異なる素数の積を $\mathrm{rad}(abc)$ と書き、質を $q=\log c/\log\mathrm{rad}(abc)$ とする。ABC 予想は、どんな $\varepsilon>0$ についても $q>1+\varepsilon$ となる組は有限個しかない、と言う。多項式でも同じ問いが立ち、そこでは定理である。本稿は証明をせず、両方を数えて並べる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、整数では $q>1$ の組がある。$q>1$ の組は、$c<10^2$ で $6$ 組、$10^3$ で $31$ 組、$10^4$ で $120$ 組、$10^5$ で $418$ 組、$10^6$ で $1268$ 組だった。$c<10^3$ の互いに素な組 $151895$ 組のうちでは $31$ 組、割合 $0.000204$ である(第2節)。

第二に、$1$ を大きく超える組はまれである。$c<10^6$ の $1268$ 組のうち、$q>1.2$ は $102$ 組、$q>1.4$ は $11$ 組、$q>1.5$ は $2$ 組だけで、最高は $1+4374=4375$ の $1.567887$ である。質の最高として知られる $2+3^{10}\times109=23^5$ は $\mathbf{1.629912}$ だった。$1+(3^{2^k}-1)=3^{2^k}$ は $k=1$ から $6$ まで $q>1$ が続くが、$k=2$ の $1.292030$ から $k=6$ の $1.056393$ へと $1$ に近づく(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。多項式では、同じ不等式が一度も破れない。互いに素な多項式 $a+b=c$ では、$\max\deg$ が $abc$ の相異なる根の数 $-1$ を超えない(メイソン=ストザースの定理)。整数の $\log c\le\log\mathrm{rad}(abc)$ に当たるこの不等式は、重なった根を持つように作った $600$ 組で一度も破れず、$a=x^n$、$c=(x+1)^n$ の族では $n=2$ から $8$ まで等号になった(第4節)。

第四に、多項式の証明は微分を使い、整数にはその微分が無い。ロンスキアン $W=ab’-a’b$ は $0$ でなく、重さ $m$ で重なった根ごとに $m-1$ 回ずつ割り切れる。$600$ 組すべてで、$W$ は $abc/\mathrm{rad}(abc)$ で割り切れた。この一歩が多項式の不等式を生む。整数には $a’$ に当たるものが無く、この一歩が写らない(第5節)。

キーワード:ABC 予想、根基、メイソン=ストザーズの定理、多項式、ロンスキアン。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ABC 予想(マッサーとエステルレ、$1985$ 年ごろ)、多項式での定理(ストザース $1981$、メイソン $1984$)、質が最高として知られる $2+3^{10}\times109=23^5$、$q>1$ の組の数え上げは、いずれも既知である。ABC 予想を証明しない。$c<10^6$ までを数えただけで、数えることは証明にならない。望月氏による証明の主張($2012$ 年)の是非は論じない。数学界で広く受け入れられてはいない、とだけ記す。「微分があれば整数でも解ける」とは言わない。示すのは、多項式の証明のどの一歩が整数に写らないかだけである。既刊との関係:論文236 は、微分方程式の解の集まりの次元をロンスキアンで測った。ここでは同じロンスキアンが、多項式の重なった根の数を数える。論文640 は、偶数を二つの素数の和に表す仕方の数が小さな素数の割り算で決まる倍率を持つことを数え、数えることは証明にならないと書いた。ここでも足し算 $a+b=c$ と、掛け算の構造 $\mathrm{rad}(abc)$ の出会いを数える。加えたのは、整数の組を三段の数え方で突き合わせながら $10^6$ まで数えたこと、多項式の不等式とロンスキアンの割り切れを乱数の組で確かめたこと、分離子を「微分があるかどうか」に置いたことである。

1. 記法と問い

整数:互いに素な正の整数 $a<b$、$c=a+b$ について、$abc$ を割る相異なる素数の積を $\mathrm{rad}(abc)$ とし、質を

$$q=\frac{\log c}{\log\mathrm{rad}(abc)}$$

とする。$q>1$ は $c>\mathrm{rad}(abc)$ のことである。ABC 予想は、どんな $\varepsilon>0$ についても $q>1+\varepsilon$ となる組は有限個しかない、と言う。

多項式:互いに素な複素係数の多項式 $a+b=c$(すべてが定数ではない)について、$abc$ の相異なる根の数を $n_0(abc)$ とする。整数の $\log c$ に次数、$\log\mathrm{rad}(abc)$ に $n_0(abc)$ が当たる。

問い:同じ問いが、なぜ多項式では定理になり、整数では予想のままなのか。その違いを数で見る。

2. 整数の組を数える

計算 2.1:$c<2000$ は総当たりで、$c<10^5$ までは $\mathrm{rad}(a) \mathrm{rad}(b) \mathrm{rad}(c)<c$ を使って候補を絞る数え方で、$c<10^6$ までは同じ絞り方を速くした数え方で数え、段ごとに二つの数え方の組がまったく同じであることを確かめた。

$c$ の範囲 $<10^2$ $<10^3$ $<10^4$ $<10^5$ $<10^6$
$q>1$ の組 $6$ $31$ $120$ $418$ $1268$

$c<100$ の $6$ 組は、$1+8=9$、$1+48=49$、$1+63=64$、$1+80=81$、$5+27=32$、$32+49=81$ である。$c<100$ の互いに素な組は全部で $1501$ 組、そのうち $q>1$ は $6$ 組(割合 $0.003997$)、$c<10^3$ では $151895$ 組のうち $31$ 組(割合 $0.000204$)だった。

観察 2.2 $q>1$ の組は、ある。しかしまれである。どの組も、$a$・$b$・$c$ のどれかが同じ素数を何度も含む、$c$ が $\mathrm{rad}(abc)$ を超えるには、素数の重なりが要る。

3. 質の高い組

計算 3.1:$c<10^6$ の $1268$ 組を質の高い順に並べた。

組 $\mathrm{rad}(abc)$ $q$
$1+4374=4375$ $210$ $1.567887$
$343+59049=59392$ $1218$ $1.547075$
$121+255879=256000$ $4290$ $1.488865$
$37+32768=32805$ $1110$ $1.482910$
$1+2400=2401$ $210$ $1.455673$

$q$ が $1.1$・$1.2$・$1.3$・$1.4$・$1.5$ を超える組は、それぞれ $379$・$102$・$29$・$11$・$2$ 組だった。

計算 3.2:質の最高として知られる $2+3^{10}\times109=23^5$($2+6436341=6436343$)を確かめた。互いに素で、$\mathrm{rad}(abc)=15042$、$\log c=15.677471$、$\log\mathrm{rad}(abc)=9.618602$ で、$q=\mathbf{1.629912}$ である。

計算 3.3:$1+(3^{2^k}-1)=3^{2^k}$ では、$3^{2^k}-1$ が $2^{k+2}$ で割り切れるので、$\mathrm{rad}(abc)$ が $c$ より小さくなる。$3^{2^{k+1}}-1=(3^{2^k}-1)(3^{2^k}+1)$ で後ろの因子が偶数なので、$2$ の冪は $k$ が一つ進むごとに一つ以上増え、この族は限りなく続く。$k=1$ から $6$ まで割り切れることを確かめた。

$k$ $1$ $2$ $3$ $4$ $5$ $6$
$q$ $1.226294$ $1.292030$ $1.235303$ $1.155623$ $1.095349$ $1.056393$

観察 3.4 $q>1$ の組は限りなくあるが、この族の質は $1$ に近づいていく。ABC 予想が有限個と言うのは $q>1+\varepsilon$ の組であって、$q>1$ の組ではない。予想の中身は、$1$ を超えることではなく、$1$ から一定の幅を超え続けることが無い、という点にある。

4. 多項式

計算 4.1:重なった根を持つように、小さな多項式の冪を掛けて $a$・$b$ を作り、$c=a+b$ とした互いに素な組を乱数で $600$ 組作った。すべての組で $\max\deg\le n_0(abc)-1$ が成り立ち、$(n_0(abc)-1)-\max\deg$ の最小は $1$、$\max\deg/(n_0(abc)-1)$ の最大は $0.875000$ だった。

計算 4.2:$a=x^n$、$c=(x+1)^n$、$b=c-a$ では、$n=2$ から $8$ まで $n_0(abc)=n+1$ で、$\max\deg=n_0(abc)-1$ の等号になった。

観察 4.3 これが本稿の芯である。多項式では、整数で破れる不等式が一度も破れない。整数では $\log c\le\log\mathrm{rad}(abc)$ が $c<10^6$ で $1268$ 回破れた。多項式の同じ不等式 $\max\deg\le n_0(abc)-1$ は、$600$ 組で一度も破れず、等号には届いても越えない。整数で予想として残っているものが、多項式では $\varepsilon$ の余裕すら要らない定理になっている。

5. 証明の要:ロンスキアン

観察 5.1 多項式の証明は、ロンスキアン

$$W=ab’-a’b=ac’-a’c$$

を使う($c=a+b$ なので二つの形は等しい)。$a$ が根 $x_0$ を重さ $m$ で持てば、$a$ と $a’$ はどちらも $(x-x_0)^{m-1}$ で割り切れるので、$W$ も割り切れる。$b$ の根は一つ目の形から、$c$ の根は二つ目の形から同じことが言える。互いに素なので、$W$ は $abc/\mathrm{rad}(abc)$ で割り切れる。一方 $W$ の次数は $\deg a+\deg b-1$ 以下なので、

$$\deg(abc)-n_0(abc)\le\deg a+\deg b-1$$

となり、$\deg c\le n_0(abc)-1$ が出る(ほかの二つも同じ)。

計算 5.2:計算 4.1 の $600$ 組すべてで、$W$ は $0$ でなく、$abc/\mathrm{rad}(abc)$ で割り切れた。

観察 5.3 整数には、$a’$ に当たるものが無い。多項式では、重なった根が微分によって $W$ の中に「一つ少なく」写り、次数の上限と突き合わせられる。整数では、同じ素数の重なりを一つ減らして別の数に写す操作が、足し算とかみ合う形では手元に無い。多項式の証明の一歩が整数に写らない場所は、ここである。

6. 多項式のフェルマー

計算 6.1:$n=2$ では、$(1-t^2)^2+(2t)^2=(1+t^2)^2$ が互いに素な多項式の解である。

観察 6.2 $n\ge3$ では、互いに素な多項式の解は無い。$x^n+y^n=z^n$ にメイソン=ストザースを当て、$D$ を $x$・$y$・$z$ の次数の最大とすると、$nD\le n_0(xyz)-1\le3D-1$ となる。$D\ge1$ なら $n<3$ でなければならない。多項式のフェルマーは一行で出る。整数のフェルマーは、ワイルズの証明($1995$)まで三百年余りかかった。

7. 分離子

観察 7.1 分離子は、微分があるかどうかである。多項式には微分があり、ロンスキアンが重なった根を数えて、不等式を定理にする。整数には同じ役目の微分が無く、不等式は $1268$ 回破れ、$\varepsilon$ の余裕をつけた予想として残る。同じ「足し算と重なりの出会い」が、微分の有無で定理と予想に分かれる。

観察 7.2 論文236 と論文640 と並べる。236 では、ロンスキアンが微分方程式の解の集まりの次元を測った。640 では、偶数を二つの素数の和に表す仕方の数が、割り算の余りで決まる倍率を持った。ここでは同じロンスキアンが多項式の重なった根を数え、足し算 $a+b=c$ と掛け算の構造 $\mathrm{rad}(abc)$ の出会いを測る。そして 640 と同じく、整数の側は数えても証明にならない。

観察 7.3 言わないこと。ABC 予想を証明しない。望月氏による証明の主張の是非は論じない。「微分があれば整数でも解ける」とも言わない。示したのは、整数の組の数え上げ、多項式の不等式とロンスキアンの確かめ、そして多項式の証明のどの一歩が整数に写らないかである。

8. 点呼と結び

  1. $q>1$ の組は $c<10^6$ に $1268$(計算 2.1):三段の数え方が一致。
  2. $c<10^3$ では $151895$ 組のうち $31$(計算 2.1):まれである。
  3. $q>1.5$ は $c<10^6$ に $2$ 組(計算 3.1):最高は $1.567887$。
  4. $2+3^{10}\times109=23^5$ は $\mathbf{1.629912}$(計算 3.2):知られた最高。
  5. 族の質は $1$ に近づく(計算 3.3):$1.292030$ から $1.056393$。
  6. 予想の中身は $\varepsilon$ の幅(観察 3.4):$1$ を超えることではない。
  7. 多項式の不等式は $600$ 組で破れず(計算 4.1):等号の族もある。
  8. 整数で破れる不等式が多項式では定理(観察 4.3):本稿の芯。
  9. $W$ が $abc/\mathrm{rad}(abc)$ で割り切れる(計算 5.2):証明の要。
  10. 整数には $a’$ が無い(観察 5.3):論文236・論文640。

結び:互いに素な $a+b=c$ で、質 $q=\log c/\log\mathrm{rad}(abc)$ が $1$ を超える組は、$c<10^6$ に $1268$ 組あり、$1.5$ を超えるのは $2$ 組、知られた最高の $2+3^{10}\times109=23^5$ は $1.629912$ だった。多項式では、同じ不等式 $\max\deg\le n_0(abc)-1$ が一度も破れない(メイソン=ストザースの定理)、その証明は、ロンスキアン $ab’-a’b$ が重なった根の分で割り切れることを使い、整数にはその微分が無い。分離子は、微分があるかどうかである。既刊との位置、論文236 で解の次元を測ったロンスキアンが、ここでは重なった根を数える。正直に言えば、ABC 予想の証明にも、望月氏の主張の是非にも入っておらず、数えたのは $c<10^6$ までである。

参考文献

  1. Granville, A., & Tucker, T. J. (2002). It’s as easy as abc. Notices of the American Mathematical Society.
  2. Mason, R. C. (1984). Diophantine Equations over Function Fields. Cambridge University Press.
  3. Stothers, W. W. (1981). Polynomial identities and Hauptmoduln. The Quarterly Journal of Mathematics.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『同じ「=0」でも、解の集まりは五つの別の種類のものである』[論文236]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22129043
  5. 山岸勇輝 (2026). 『偶数を二つの素数の和に表す仕方の数は、3 で割り切れるかでおよそ 2 倍違う』[論文640]. Zenodo.

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「ABC 予想は多項式では定理で、整数では予想である」[論文641]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22805478

YOI 641第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). ABC 予想は多項式では定理で、整数では予想である:証明に要る微分が整数には無い [論文641]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/641 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22805478

Yamagishi, Y. (2026). The ABC Conjecture Is a Theorem for Polynomials and a Conjecture for Integers: Integers Lack the Derivative [Paper 641]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/641; DOI: 10.5281/zenodo.22805478

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